○辻(政)
委員 そこに重大な認識の錯誤があります。これは根本問題です。逐次
質問いたしますが、
自衛隊法案の第八条に、長官は総理の指揮監督を受け、
自衛隊の隊務を統括する。但し陸、海、空
自衛隊に対する長官の指揮監督は、それぞれ当該幕僚長を通じて行う、こうあるのであります。そこで長官は今おつしや
つたように、幕僚であり、指揮官であると
お答えにな
つておる。問題は幕僚と指揮官についてでありますが、幕僚というものは指揮官の意思の決定を補佐するのが幕僚であります。指揮官というのは自己の意思を決定して部下に命令する、これであります。従いまして幕僚というものは非常に広い視野に立
つて、何でも
意見をずばずば言えるが、指揮官というものは冷厳な命令のもとに、一糸乱れないような統率をやらなければならない。これを簡単に申しますと、幕僚は一家の女房であり、指揮官は亭主であります。女房というものは内助の功をやり、亭主は外で働く。女房は亭主を兼ねることはできないのであります。ところがこの防衛
法案は、完全に至るところにおいて女房が亭主を兼ねておる。あるいは女房が亭主をしりにしいておるということが言える。でありますから私は最初に、これは軍隊なりや、あるいは軍隊でないならば、それでも通
つて参りますが、軍隊的性格を
前提として立案する以上、それは許されないことであります。もつ
とつつ込んで申しますと、この原案におきましては、陸上幕僚長、
海上幕僚長、航空幕僚長というものが、一面において長官の
軍事に関する最高幕僚であるとともに、他面において陸、海、空の
自衛隊の指揮官であります。命令を執行する者は指揮官であります。ここにも重大な過失が同じように犯されております。アメリカとはま
つたく違
つております。アメリカでは陸、海、空の長官があります。そしてそのもとに陸、海、空の参謀総長がある。統合幕僚機関はその幕僚長たる参謀総長を集めて構成しておるのであ
つて、陸、海、空軍の司令長官を集めては構成していない。明らかに幕僚と指揮官を区別しておる。原案を採用した場合に起る最大の欠点は何か。これは武権が文権を圧迫するということになるのであります。昨日の東京新聞に「強引の林幕僚長に増原次長腰くだけ」という記事が出ております。これは的確に表現しておりますが、多分お読みにな
つたと思う。こういうふうにな
つた根本原因は、林幕僚長は陸上
自衛隊の総指揮官として実力を背景に持
つておる。この人が幕僚の
立場において
木村長官に発言することは、これは何としても重大な威圧を長官がお受けになる。武権というものが文権を圧迫する危険な制度がそこにあるのであります。そのことをお伺いいたします。
いま
一つは、事が起
つた場合、たとえば北海道が侵された、そうすると、陸上
自衛隊の総指揮官は北海道の近くに
行つて、現地の
部隊の戦場指揮をやらなければならない。そうなりますと、東京にお
つて長官の女房役ができない。外へ出て亭主として働かなければならぬのであります。そこに指揮官と幕僚というものが事が起
つた場合において収拾できないような混乱が起る。そういう観点からみると、この防衛
法案を根本的に修正なさる必要がある。それは陸海空
自衛隊には専任の長官を置くことにするのであります。そのもとにそれぞれの幕僚部を設けて、その幕僚長が統合幕僚
会議を構成する。幕僚と指揮官というものをはつきりと区別をなさ
つて、統幕
議長は陸海空の幕僚長を通じて内面的に長官の補佐をする。こうすれば女房と亭主というものがはつきりして参る。そうでもしない限り、事がないときはよろしゆうございますが、いやしくも軍隊的性格を持
つておるとして、事が起
つた場合には収拾できないような混乱状態になる。そうして長官が信条とされている文権優位の
原則を、力を持
つた者が幕僚として威圧を加えて来るという結果になるのであります。これを根本的に改められる御意思があるかどうか、私は改めなければならぬものと信ずるのであります。御見解を承りたい。