○飛鳥田
委員 私は日本社会党を代表いたしまして、ただいま上程されております
行政機関職員定員法の一部を
改正する
法律案に対し反対の意を表さんとするものであります。
まずその第一の理由といたしましては、本法案が日本の急速な軍事体制を確立しようとする吉田
政府の
行政整理だということであります。すなわち吉田
政府は、昨年までは再軍備はいたしません、自衛力は経済の許す範囲でいたしますと、ばかの一つ覚えのように繰返して来たのでありますけれ
ども、昨年秋以来、アメリカ側からの防衛軍
要請に対し、遂にその口頭禅をなげうたなければならなく
なつたのであります。すなわち池田特使をワシントンに派遣し、MSA交渉を進め、これを事前に国会に諮ることなく締結したのであります。あらためて申し上げるまでもなく、MSA協定は戦力を放棄し、平和を誓つた日本国憲法を蹂躙し、再び軍国日本をつくろうとするものでありまして、国是の方向転換であり、国民の
意思を無視し、国会を軽視して行うべきものでないことは申し上げるまでもありません。防衛力を増強するためには、いわゆる耐乏
予算、ここに耐乏
予算から生活諸物資の騰貴にもかかわらず、公務員の給与の
引上げを犠牲にし、あまつさえ首切りを行わなくてはならない根拠が発生して参つたのであります。吉田
政府の対米イエス・マン外交の当然の帰結でありましよう。すなわちこの法案はかかる米国の安全保障のための一環としての日本の軍国主義化の過程に立つものとして、これを観察することができるのでありまして、われわれはこの法案に断じて賛成することができないのであります。
第二の点といたしましては、われわれ勤労者は、今まで常に重税に苦しめられて参りました。
政府の口にする減税は、単なる税法上の減税にすぎず、現実には年々国民一人当りの税負担はふえるばかりであつたのであります。賃金や所得は物価の上昇に追いつくことができない。今や国民はほんとうに食うや食わずの
状態であります。ところが保守党の
諸君は、この点は少しも省みることなく、国民の食うべきものを食わずして納入した税金は、造船疑獄を初めとして、
政府高官のふところに流れ込み、湯水のごとく使われている
現状であります。今やこの
現状に対し、国民は保守と革新とを問わず、はげしい怒りを爆発させている。
政府はこの素朴なる国民の怒りに対し、
定員法を
改正して、公務員の
整理を断行し、これにこたえようとするつもりなのでありましよう。私たちはこんなに自粛してや
つております、こういうふうに御主張になりたいのでありましよう。しかしそれならば、なぜ
政府はもつと大きな国民の声に耳をかさないのか。戦争はごめんだ、再軍備は反対だと言
つて、ビキニの死の灰に恐れおののいている国民の声に全然耳をかさない。歳出
予算額の四分の一にも当る防衛
関係費を計上して、国民生活の向上に資する
経費を実質的に削減しているのはなぜか。その上——これはあとで詳しく述べるつもりでありますが、今回の
定員法の
改正は、一口に言えば下級官吏のみの
整理であり、第一線官吏の
労働強化でありまして、自己の浪費、自己の失政を再び
労働者の上に転嫁し、も
つて一般善良なる国民を欺瞞せんとするものであります。結局するところ、かかる吉田
政府の
行政整理こそ化けそこねたたぬきとまつたく同様のものでありまして、むしろ国民の真意に反するものといわなければならぬのであります。その証拠として、今一つの事実をあげましよう。すなわち
行政整理を真に誠実に行わんと欲すれば、それは必ず徹底した行政
機構改革を伴わなければならぬということであります。このことは、本案
審議の過程において保守党の皆さん方すらが主張せられたところでありまして、あらためて論証する必要はないと信じます。官僚のセクト主義、なわ張り主義、封建主義がいたずらに
行政機構を厖大化させておる事実、これは吉田さんも先刻御承知のはずであります。
政府がもし日本国民の真の公僕としての心構えで
行政整理に携わ
つておられるのならば、なぜこの根元にメスを加えようとせられないのか、なすべきことはたくさんあります。なぜ
各省の
機構を再
検討し局部課の
整理をしないのか、複雑化する法令を
整理して認可許可事項を簡素にしないのか、なぜ行政事務が二者以上にわたるものを再
検討しないのか、事務の重複をなぜ避けないのか。それとも吉田内閣は自己のいすを保存し、子分をつくることのために、局部
課長のいすが多い方が便利とせられるのでありますか。すなわち今回の
行政整理が
行政機構の
改革を伴わぬところに、この
整理が真に国民の素朴なる要求に沿つたものではない証拠があるのであります。化けそこ
なつたたぬきのしつぽはここに歴然と現われておるのであります。このような意味で、私たちは本案に断じて賛成することはできないのであります。
第三点といたしましては、私たちもはこの法案の
内容を少しく
検討してみなければならないと考えます。しかしその一々について私たちが個々に当りますことは、時間をとりますので省略をいたしますが、ただここでお考えをいただきたいことは、他の
委員会、すなわち大蔵
委員会、電通
委員会、
郵政委員会、
厚生委員会等あらゆる
委員会から、いろいろな申入れがや
つて来ておるということであります。これはすなわち、現実の事実をよく直視せられたこれらの
委員会が、本
行政整理がいかに無理なものであり、いかに下級官吏の
労働強化を伴うものであり、
サービスを低下せしめるおそれがあるかということを承知せられておるその証拠であります。これらの各
委員会は、保守党の方々も含めて全会一致でこの申入れをして来られたのであります。(「その
通り」)この申入れを拝見いたしますと、私たちは、本
委員会においてこの
行政整理に賛成をせられておる皆さん方と、この
行政整理に反対をしておられる保守党の皆さん方と、いずれをと
つてよろしいやら迷わざるを得ないのであります。こういう点は本
委員会の
質疑の中にも十分現われて参つたのでありますから、詳述は避けます。ただ一、二の例をあげてみますならば、大
整理によ
つて最も出血の多いものの一つは
郵政省であります。すなわち同省の
定員は、昭和二十八
年度において二十五万五千二百五十五名、それが本法案によりますと、二十五万二千百十一名、差引三千百四十四名の減員とな
つておるのでありますが、これに反して事務量は、内国引受け第一種郵便物だけを例にと
つてみましても、昨
年度は四千三百六十三万四千通の増加とな
つておるのであります。また東京
中央郵便局は
定員数約二千五百名、常時雇上げの非常勤
職員約百名で業務を遂行しておりますが、郵便物の増加は、昭和二十六
年度から昭和二十八
年度までに約五割の増加を来しております。一方
定員の面はというと、すでに数百名を減らされている始末であります。その上にまた大
行政整理案がや
つて来ようとするのであります。一体これで事務の処理が完全に行えるというのでありましようか。郵便配達員は午前七時半に出勤をいたしまして、自己の受持区域を配達完了して帰局いたしますのは普通午後五時半から七時ごろにな
つているのであります。何と驚くなかれ一日平均十時間ないし十一時間の勤務を行
つている。それも一日だけというのならばいざ知らず、毎日々々そのような勤務を繰返しているのであります。その上に本法案が通過いたしましたならば、一体この
人たちはどういう
事態に落ち込むでありましようか。郵便物の日曜配達停止などということは当然起
つて来るでありましよう。国民の声にこたえるはずの本法案が、国民に対する
サービスの低下とな
つて現われて来るのであります。また大蔵省
財務局を見てみましても、同局の
整理人員は五百七十五人とな
つております。ところがこの
財務局の事務はどうな
つておるか。この場合にも、驚くなかれ同局は、いまだに税として物納された財産四万件のうち、約半分しか処理し終
つていないのであります。税として物納された財産は国家のものであり、一刻も早く処分して、これを有効に使用すべきことはもちろんでありますが、
定員を増して処理するどころか、逆に減員とな
つているのであります。さらに国税庁の一千九百五十二名の減員については、もういまさら申し上げません。納得のいく納税どころか、ますます国民の
意思に反した押しつけ納税がや
つて参りますことは当然であります。
以上私は数例をあげたにすぎないのでありますが、本法案は、その
内容においてかくのごときものを含んでいるのでありまして、私たちはとうていこれに賛成をすべき筋合いではないのであります。
次に第四点といたしまして、私は本法案が行政
職員の
労働強化をもたらすものであるということを
指摘しておかなければなりません。すなわち、各行政機関の事務量の増加は何人も争うことのできない事実でありまして、さすがに
政府もこの事実を認めつつ、事務の
簡素化、
合理化によ
つて能率をあげると
説明をせざるを得なかつたのであります。しかし
簡素化、
合理化にも限度があります。先刻申し上げましたように、
機構改革を伴わない
簡素化、
合理化というものは、一体何を意味するでありましようか。帰するところ、それは
労働者の
労働強化あるいは
定員を定時的に配置される非常勤労務者に振りかえること以外には意味がないのであります。現にこの
委員会において自由党の山本正一
委員の、事務
簡素化、
合理化の具体策を示せ、こういう質問に対し当局は、何ら答うるところを知らなかつたという事実がこれを証明いたしております。また
郵政省職員の年次休暇保有日数がすでに四十数日に及んでいるという事実も、これを端的に示すものであります。結核罹病率の増加等々をあげて参りますれば切りがありません。むしろこの際、
定員を増加することこそ賢明な策ではないでありましようか。汚職に流れる金、再軍備に使われる金、それらこそ、今国民に対する
サービスに使わるべきであります。また公務員と何らかわらない
仕事に従事しながら、何ら公務員としての恩典に浴しておらない非常勤労務者の
定員化に使わるべきでありましよう。その定期的に配置される非常勤などという複雑怪奇な用語、物件費や需品費から給与が支払われるなどという非人間的な
制度こそ一刻も早く解消せられるべきものであるにもかかわらず、今回の
改正法は、逆にかかる旧時代的な官僚
機構を強化し、
労働者の非人間的な搾取を強化しようといたしておるのでありまして、何で私たちがこのような、表に国民の素朴な声にこたえているかのごとく装いつつ、実は逆に官僚
機構を強め、フアツシヨ化への道を纂進する本法案に賛成することができるでありましようか。
以上数点のきわめて基本的な反対理由をあげましたが、これを要しまするに、本法案の真の目的とするところは、日本の再軍備を強行的に推し進め、伝統ある日本民族を対米隷属に陥れるため、ほんのわずか国民の声に阿片的にこたえようとするもの、すなわち、日本国民を愚弄すること最もはなはだしいものがあるといわなければならないのであります。同時に、それはまた国民に対して複雑な
行政機構を押しつけ、最も不親切にして横暴なる官僚支配を強めようとするものでさえあります。そして民主主義に逆行し、主権在民の憲法の基本的精神に反するものであります。同時にこのことは、吉田自由党内閣の強さを示すのではなくして、汚職と疑獄に明け暮れしておる吉田内閣とその与党が、かかる不均衡にして複雑怪奇な
行政機構なしにはその存在を維持することが不可能にな
つて来たことを示すものであり、おぼれんとするものの最後のあがきの表現であると私たちは信じておるのであります。ゆえにかかる法案は、やがて国民の厳正なる批判の前に立たされるであろうことを私は付言をいたしまして、反対の討論を終るものであります。