○橋本(登)
委員 本
委員会に付託されました
日本放送協会の収支
予算に対し、自由党を代表して賛成の
意見を申し述べます。本収支
予算については、受信料の
値上げを基礎として収支
予算が組まれております。世上各
方面におきまして、緊縮を必要とする国家財政及び
国民経済の
現状から、たとい一箇月十七円というわずかな受信料の
値上げにいたしましても、不穏当ではないかという
意見があるわけでありまして、わが党といたしましても、慎重に
内容について
検討を加えたのであります。従
つて賛成討論をするにあたりまして、自由党といたしましては、その賛成の根拠をこの際明らかにいたしたいと存ずるわけであります。
第一は
現状の
日本放送協会の赤字は、はたして
経営合理化等によ
つて節減の
余地があるかないか、従
つて二十八
年度の収支状況について
政府当局並びに
協会当局を招致して
調査をし、次のごとき事実を明らかにしたのであります。二十八
年度における収支面では
予算に対して、
ラジオ関係では約五億円並びにテレビジヨン
関係では約七千二百万円の赤字が出る計算にな
つております。そのうち赤字のおもなものといたしましては、
ラジオ関係の費用を見ますと、
放送費すなわち
放送番組編成費で二億二千六百万円、
業務費で一億二千万円、管理費で一億一千八百万円等であります。しかもこの赤字の原因の一つには、昨年
値上げしました
電信電話料金等の公定
料金の
値上げが一つの原因でもあります。受信料が改訂されましたのは
昭和二十六年四月一日からでありまして、その後今日まで
値上げはしておらないわけであります。この間に鉄道、郵便、電信、電話、電力、水道等の公定
料金は、一回ないし二回に
値上げを
実施しております。この公定
料金の平均
値上げを見ますと八割一分とな
つております。卸売価格の値上りは六割一分の
値上げとな
つておるわけであります。また同じ業態である
民間放送事業の電波
料金を見ますと、七割九分の
値上げにな
つておるわけであります。この間においてが二十六年四月一日からの受信料改訂によ
つての
料金の収支余力とまた受信者数の増加、こういうものを中心にして、かつまた機構改正によるところの
合理化等の
経費で、今日まで辛うじてや
つておつたと見るような
状態であります。しかしながらそういう
状態でや
つて参りましたが、昨年八月の
電信電話料金等の
値上げによ
つて、この
経営合理化あるいは節約等によ
つてや
つて参つた面というものは、とうてい回復できないような状況にな
つて、
昭和二十八
年度においては相当多額の赤字を見ておるわけであ
つて、これを別の
立場から見ますれば、当然二十七
年度の上半期か、あるいは二十八
年度において受信料の改訂を
行つてこれを合理的に解決すべきであつたと
考えるわけである。しかし
NHK当局では、民放の出現によ
つて、一方の
民間ラジオが無料で聞けるという状況から見て、この際
値上げをするということは世間の非難を受けるであろうということを考慮して、すなわち了解的な考慮によ
つて料金の改訂を行わなかつたわけである。その反面において、減価償却の面を
実施しない、あるいは老朽施設の改善を中止する、あるいは物件費等の節約、こういうようなやり方によ
つて一時を切抜けて来たのでありますが、これが
昭和二十八
年度に至りますと、悪性的な影響とな
つて現われておるのであります。従
つて二十八
年度の決算状況から見ると、二十八
年度の
収入状況をもづて二十カ
年度に推し及ぼすということは、実際上できないような
状態にあるということが明らかに
なつたのであります。
第二の点は、よく
放送番組に金がかか
つておるのではないか、あるいは娯楽
番組等に金を使い過ぎてはいないか、こういうような非難があり、また議論があるわけであります。そこで
NHKの
放送時間を
調査してみますと、時間は一日これを延べで
考えますと、二千八百九十八時間三十分という時間になります。またこれのローカル
放送の時間を調べますと、四十八局で百四十四時間、合計で一日の延べ
放送時間量は三千四十二時間三十分ということにな
つております。これを
NHKの二十八
年度の総
予算をも
つてみますと、六十三億円でありますから、一時間当りの計算額を出してみますと、一日当りの
放送に対する総
経費といたしましては五千八百円ということになります。これを
民間放送十局の
経費と対比して
考えることは、あるいは妥当ではないかもしれませんが、一応
民間放送の十局の
放送経費と
比較してみますと、
民間放送は十局で一日に延べ三百九十時間を
放送しております。これは
民間放送十局の昨年上半期の
収入が大体二十二億円というそうでありますから、一箇年間には約四十五億円の
収入になりますが、これを一日当りの
経費に
考えてみますと、大体三万七、八千円ということになるわけであります。これはもちろん全局を中継
番組として扱
つておる
NHKと、民放の自主
番組の多いという点から
考えますと、必ずしも正確な
比較にはなりませんけれ
ども、一応の参考資料になるわけで懸ります、従
つてNHKの
放送番組に要する費用はむだがあり、あるいはあまり高いというような非難は当らないのでありまして、
放送謝礼金等の
比較から
考えましても、この間に冗費があるようには
考えられないのであります。たとえば具体的な例として、人気
番組の編成費を
謝礼金を含めて
調査しますと、歌謡曲の今週の明星、この製作、作曲、編集費が六千円、歌手四人で一万円、著作権料が二千円、合計製作費は一万八千円であります。また午後八時半の、ふろ屋がからになる、あるいは水道の出が悪くなると非常に騒がれますところの君の名はという人気
番組について見ますと、脚本原稿料で三万四千円、出演者十五人でその
謝礼金が四万五千円、合計製作費が七万九千円を要しておるわけでございます。これを
民間放送の製作費について見ますと、今週の明星のような種類のものであ
つて五、六万円から七、八万円かかる。君の名はというのに似たような
番組を
考えると、大体十万円から十二、三万円の製作費を必要としておるようであります。従
つてNHKの製作費は、一部の非難があるように特に高い製作費を使
つておるというよりは、あるいは安いという非難の方が当
つておるのではないかというような結果が明らかにな
つております。この
意味からも
番組製作費の軽減をはかることは困難な事態のように
考えられます。しかもその後民放が出現いたしまして、
謝礼金を従来のごとくに車代にも及ばないような薄謝を一方的に押しつけることもできない
状態にな
つておるのみならず、従来
謝礼金を支払わなくても済んでおつた大相撲の中継とか、あるいは野球等の現場中継に対しても、最近においては相当の
謝礼金を払わなければならぬというような事情から
考えましても、この製作費と節約して
収入を得ることは不可能な
状態であると
考えられるわけであります。
第三には、旅費あるいは物件費の面において節約の
余地がないかということを
検討いたしましたが、一応これを参考といたしまして
郵政省あるいは運輸省との旅費の
予算を
比較いたしますと、
郵政省においては、本省でありますが、一人当りで六千九百四十六円にな
つておる。運輸省の場合においては、
地方も合せて六千四百六十四円、これに対して
NHKは一人当りが、管理部門でありますが六千五百五円ということにな
つております。これは
業務状態が違
つておりますので、はたして旅費の面においてせいたくが行われておるかどうかという判定はしにくいのでありますけれ
ども、
数字の上から見て大差のない点から
考えましても、その間に特別のむだがあるということは
考えられないのであります。しかし
昭和二十九
年度の
予算において見ますと、旅費、物品費の面においては、一億一千百万円の増加にな
つております。この
予算増は相当多額であり、今後各位の努力によ
つては多少の節約ができるのではないか、こういう点が一応
考えられろわけであります。
第四には、非常に
NHKは人間が多い、過剰人員を多くかかえておる、こういうような一部の非難があります。これについて定員数を調べますと、なるほど
NHKは
ラジオ関係において八千三百五十人、テレビ
関係で二百四十七人ということであります。非常に多い
数字ではありますがこれに従事しておる局は百六十四局でありまして一局平均いたしますと大体五十名であります。具体的に
民間放送局と
比較してみますと、
NHKは第一、第二の二重
放送をしております大阪中央
放送局では、
放送人員は百四十五名、技術百八名、普及三十九名、管理百六十名、合計四百五十二名であります。これに対して民放の東京の五十キロ
民間放送会社を調べますと、
放送人員において二百六十名、技術九十四名、総務百五十六名、営業四十七名でありまして、五百五十七名であります。また
NHKの仙台十キロ
放送局では、合計で百九十五名、地元の
民間放送会社は百十四名、また五百ワットの
NHKの福井
放送局が、もちろん第一、第二でありますが、定員五十名、地元の
民間放送会社は六十八名とな
つております。もちろん正確な
比較は困難でありますが、大体においてその人員の数においても大差は見ないのであります。かつまた
NHKの
従業員の超過勤務状況を調べますと、一人当り一箇月の超過勤務時間量は、
放送部門が五十五時間、技術部門で同じく五十五時間、普及部門で二十八時間、加入部門で二十時間、技術
研究部門で十五時間、管理部門で二十時間とな
つております。すなわち
放送番組関係では毎日平均して二時間余の超過勤務を
行つており、管理部門については約一時間の超過勤務をせざるを得ないような人員の状況であるということが明らかにな
つております。従
つて組合側の
意見を徴してみますと、勤務の性質によ
つて一部の
従業員が過労にな
つておるということを言うておるのであります。こういうような消極的な面から
検討いたしましても、そこに節約の
措置が非常に困難である。
次には今回二十九
年度予算の増加の面からこれを
考えてみると、すなわち二十八
年度の受信
料金五十円の
予算では節約の
余地がないのでありますから、そこでこの
料金を六十七円に改訂された、いわゆる増額された
予算で、はたしてこれが必要なる増加であるかどうかを
検討したわけであります。第一に、本
年度の
予算においては減価償却が非常にふえておるわけであります。どうしてこれ喜はど、倍以上の減価償却が必要に
なつたであろうか、こういう点でありますが、
昭和二十五
年度以来二十八
年度までに、百パーセントの減価償却を行つたのは
昭和二十六
年度だけでありまして、二十五
年度が七二%、二十七
年度が八〇%、二十八
年度が七五%であります。これによ
つて二億円の償却不足額が出ておるわけであります。この無理な減価償却のやり方は結果においては、これは二十七
年度、二十八
年度の節約のしわ寄せがこの面にも出て来ておる。こういうことは今後長く続けておけない
状態に本
年度においてはなりつつある。たとえば
一般事業会社と
比較いたしましても、大体
一般事業会社においては今回は三回目の資産評価をなすことにな
つておりますが、
NHKは従来一回だけしか再評価をや
つておらない。今度の二十九
年度の
予算において第二回目の再評価を行うことにな
つておるわけであります。近代
設備を必要とし、かつまた電波
事業のごとき日進月歩の
設備を持
つておるものにおいては、減価償却を十分に行うべきであ
つて、従来のごとく償却資産を食いつふしながら
事業経営に当る、こういう
経営方針については、この際厳重に警告せざるを得ないのであります。二十九
年度の
予算においては
一般償却を百パーセントに行い、なおかつ減価償却として従来不足額であつたところの二億円をこの際一挙に回復して、そこで近代
設備の充実をはかるために五億四千三百万円というものを計上しておるのでありますが、これらは当然の
措置であると
考えるものであります。たとえば昨年発足いたしました国際
電信電話会社のごときは、五箇年間をも
つて全
設備を更新するという
考え方のもとに、年一億三千万円以上の減価償却を計上しておるのであります。これらは、そもそも電波施設を行うものにと
つては当然の
措置であり、また
一般産業会社とは違つた
意味での減価償却が行われるということについても、当然の方針であると
考えるものであります。特に
NHK協会の施設等の資本は、法律によ
つて国民の財産に帰属されておるのでありますから、施設を荒廃は帰するような経 営を行うことは、
国民の財産を食いつぶすものでありまして、その
責任を果さないというような非難をこうむ
つても、
協会当局は弁解の
余地がないであろうと思うのでありますからして、減価償却の点については十分なる
措置をとるべきであると思うのであります。従
つて将来におきましても、万やむを得ない場合を除いては、あくまで完全なる減価償却及び老朽施設の改善、こういうことを実行すべきであると
考えるのであります。
第二には
番組費の増加の問題であります。本
年度においては大体において約十一億円の増加が見られております。
昭和二十八
年度における
NHKの一時間当りの
放送費というものは、これを総
経費で計算することは無理でありますが、これを総
経費にとりましても、昨年までは五千八百円にすぎないのでありますが、
昭和二十九
年度の
予算の上から
考えますと一時間当り八千三百十円ということになり、相当の増額であります。
予算の上におきましては、金額において十一億二千万円の増加ということになります。これはもちろん
民間放送会社の
放送費と
比較いたしますれば、なお相当の差がありますけれ
ども、今回の受信料
値上げによる増加分の約四割をこの
放送費増加に加えておる。これは従来の
NHKの製作費が
比較的安かつたことも原因ではありますが、同時にわれわれがご乞た画期的な増加を認めました
理由は、今日、日本が財産的に緊縮を要請されており、
国民耐乏が
要望せられておるわけでありますけれ
ども、文化日本として、また常に文化の向上をはかる使命を持
つておる
NHKといたしましては、耐乏生活の中にも健全娯楽あるいは教養文化を充実して
国民生活に寄与する、こういう積極的な面を
NHKに与えることが妥当であるという趣旨からして、こういうような画期的な増額を認めるに至つたわけであります。従
つて放送費の使用にあたりましては、常に
国民文化の向上、産業振興に役立つように心がくべきでありまして、いやしくもぜいたくに流れるごとき
番組編成あるいは製作にならざるように、厳に
注意せられたいのであります。
第三の点は、
従業員の
給与のことであります。
従業員の基準
給与は、
昭和二十八年四月に改訂されましたが、その際における
従業員の基準
給与は一万五千八百四十七円ということになりますが、この基準は
公務員の基準
給与と大体同額であります。しかし
NHKの場合には大学、
専門学校のが平均三八%、平均年齢が三十四歳、勤務年限が九年強という特別の経歴等が多いのであります。かつまた新聞、
民間放送事業等の
従業員と
比較いたしまして、なお相当に劣るものがあります。今回、の
予算において特別手当の一部を増額せられ、かつまた基準
給与額の引上げ等によ
つて、合せて二一%の
予算増加
措置がとられておるわけであります。
番組の向上は、一方においてこれら従事する
職員の待遇を改善し、生活上の不安を除くことにあるわけでありまして、組合の要求にはなおほど遠いのではありますが、
協会当局並びに
従業員十組合との間において、納得のできる妥結を見られるであろうところの
予算的
措置が一応講ぜられたのでありますから、両者協力の精神をも
つて円満なる妥結を見られんことを期待しておるのであります。
以上、問題となるべきおもなる点について、わが党においては慎重に
検討を軍ねました結果、かつまた本
委員会においてわが党といたしまして数次にわた
つての
質疑をいたしました結果、必要やむを得ざる
値上げであり、この
予算もまた必要やむを得ざるものとしての結論に達したのであります。もちろん
国民経済生活に重大な悪影響を与えるような
値上げでありますればどうかと
考えますけれ
ども、今回の
値上げの与える影響は、御
承知のように受信料は物価で言いかえますれば最終価格であるところの小売価格に課せられたものと同様であります。また
国民生活に対するはね返りの点から
考えますれば、電力
料金とは本質的に異な
つておりまして、またはね返り率というものも数千分の一というような
程度である点から
考えましても、いわゆるわが党のいうところの緊縮政策には相反するものではないという見解からして
承認に賛成の意を表するものであります。最後に
要望事項といたしまして、第一に緊縮財政の趣旨にのつと
つて、今後とも
経営合理化の徹底、諸
経費の節約等を実行すべきであります。第二は、
番組の
内容等については一部より非難がありますが、
ラジオ・コードの倫理
規定を十分に厳守し、社会不安を醸成することのないように努力していただきたい。第三に、
従業員の
給与については、本
予算の
内容の算定基礎にとらわれるごとなく、
予算の総額の
範囲内において改善の実を上げるように努力して、
従業員各位においても、公共
放送に従事しているという
責任感に徹して、円満なる
措置を講ぜられんごとを希望するものであります。第四には、生活保護法による被保護者及び恩給法による不具廃疾者に対しては、受信料の減免等の
措置をとり、も
つて不幸なる者に対する慰安の道を講ぜられるよう、積極的に善処せられんことを要請する次第であります。以上をも
つて自由党の賛成討論を終る次第であります。