○首藤
委員 私は今長官並びに
繊維局長の答弁を承
つて、非常に失望を禁じ得ない。特に
繊維局長は
原糸の
価格を安定させることに主力を注いでおる。そうしてそれによ
つて中小企業の機屋が安定するであろうという考え方を持
つておる。おそらくこれほど皮相の考え方はないと私は率直に申し上げたい。
原糸の相場を安定させるというが、
原糸は何によ
つて相場が動いておるか。これは世界の
情勢あるいは原材料の
情勢、すべて大勢で動いておるのでありまして、それを
日本政府は単に力によ
つて安定させるということは、おそらくこれは一時的に効果があるかもしれませんけれ
ども、永久にそのような安定ができることは実際上困難であることは、これはおそらく経済人の一考するまでもなく、判断できることだと私
たちは考えておるのであります。かりにそれができるといたしましても、現在の
業者が行き詰ま
つておりまするのに、
原糸の安定でなくして、
金融難によるところの、過剰
生産、これが原価を割
つた出血販売になり、そして投げになり、そうして、六十日なり九十日前の高いときに出した
手形を落さなければならぬ。それを落すためには、
価格が下
つておるから、そのときよりもたくさんの量をつく
つて行かなければいけない。これがだんだん重な
つて行くところに過剰
生産の度はますます深刻にな
つて来る。そうして、それにつれて値段が安くなる、私らの考えておるのはこれであります。だからこれを切り離して、根本的に切開しなければ、どんな方法をも
つてしても
業界の安定は期待できない。こういう結論に到達するのであります。これはひとり絹、
人絹だけじやない。あらゆる
中小企業の
業界がこういう
状態に置かれておる。そこで私は現在の物価引下げの方法として
金融の引締めの手段をと
つておる。あるいはこれを
金融独走と言います。私に当初からこれに対しては徹底的な反対論者で、予算の編成当時、あるいはその後においても今日まで終始これに反対して参
つた。なぜ反対して参
つたかといいますると、物価の引下げは、貿易の促進によ
つて国際収支を改善する。どうしてもこれは国家の要請としてやらなければならぬ大きな目的であります。けれ
ども金融だけによ
つて目的を達成すると考えるならば、これほどはなはだしい錯覚はないと思う。
ほんとうに物価を引下げるならば、労銀、金利、原材料、これらに下る余地のあるような政治をやることである。しかるに
戦前におきましては、自由競争の結果、自分のところの
製品を非常に安く売らなければならぬ。それでそれ以上安くするためには、どうしても労働者と話合いをして、苦しい間だけは居残りの時間を無給で働く、あるいは賃金を下げるとかいう話合いができた。今日は労働法規という強硬な法律があるために、ま
つたくのコンクリートみたいな
状態にな
つておる。
戦前の労銀には弾力性があ
つたけれ
ども、今日は弾力性が
一つもない、コンクリートである。もしそれにもかかわらず労銀の引下げを交渉すれば、表には赤旗が待
つておる。
従つてかんじんの大きな物価引下げのフアクターであるところの労銀は
一つも引下げる余地はない。
残るところは原材料でありまするが、この原材料は、外貨の事情があり、まさに生命線に達するような減り方をしておる。もしこれ以上外貨が減
つたならば、
日本は
たちどころに悪性インフレに突入する。そういう点から見ましても、輸入は抑制しなければならぬ。抑制するならば、その輸入品は高くなる。そういう点から見て、原材料は高くな
つても安くなる見込みはないのじやないか。
もう
一つは金利であります。およそ現在の物価は、
戦前に比較して三百倍ないし五百倍にな
つておる。しかるに各
企業家の自己
資本がこれにマツチしておるかどうか。私
たちの見るところによりますれば、一番大きいのが百倍に自己
資本をふやしておる。その他おおむね五十倍程度が高い方で、すべては二、三十倍程度である。そうすると百倍にしても四百倍の
アンバランス、もし五十倍にすれば四百五十倍の
アンバランスが、要するに
金融難の一番大きな
原因にな
つておる。そこで今度の緊縮政策に対して、オーバー・ローンを解消するということも
一つの目的にな
つておるが、私はこういうことを申し上げる。オーバー・ローンを解消することはけつこうであるが、一体オーバー・ローンがどうしてできたか。結局物価高と自己
資本の
アンバランスがあまりひどいために、こういうことが出ておるのではないか。もしオーバー・ローンを解消しようとするならば、この際
デフレ政策でなくインフレ政策をや
つて、そうして各会社に相当高い配当をさせて、プレミアムが相当ついて、増資が幾らでもできるような態勢をとる、そうしたら、ほ
つて置いてもオーバー・ローンはもちろん解消できる。しかるにそれをほ
つて置いて、反対の政策、ことに
金融引締めの政策をとれば、今まで配当できてお
つても無配当になる、あるいは配当が減る、プレミアムがどんどん落ちて来る、あるいに額面を割るかもしれない。この際増資ができるか。増資ができないのにオーバー・ローンの解消ができるかどうか。こういう面に深く思いをいたしていただきたい。しかもそれがためには、
戦前は金利の負担というものは、多くても各会社の経常費の一割くらいであ
つた。今日は三割ないし四割にな
つておる。いわんや金利は二銭七厘あるいは二銭五厘の
戦前並みであるけれ
ども、五百倍の金利をと
つておる。要するに五百倍の物価に応じたところの金利を実際においてはと
つておるわけです。いわんや
戦前においては、
銀行は十円札の兌換券を使
つていたが、今日は百倍の、千円の兌換券を使
つておる
銀行の金利の原価を、どうしてそういう高いものにするのか、この点発明しなければならぬ。先般も植村甲午郎氏その他経済人の代表者に来てもら
つて、いろいろ経済政策に対する
意見を聞いたのであるが、ま
つたく月並である。私はこの際なぜあなた方は金利引下げの声を大にしないのかということを強く主張した。金利が今日物価高の一番大きなものであり、しかもやり方によ
つたら引下げる余地があるじやないか、それをあなた方がやらずにいて、ほかの月並のことに頭を使
つていることは不可解だということを私は申し上げた。ところが経済人は、要するにみずから金利のことを強く主張すれば、翌日から
金融業からいじめられやせぬかという不安があるから、むしろ遠慮しているのじやないかという気持がいたしたのであります。そこで金利が高い、そうして労銀が引下げられない、それから原材料も下げる余地がない。それで一体どこに物価引下げの余地があるか。先般も愛知大臣と論争したのでありまするが、そのとき愛知君は、もうすでに物価はぼつぼつ下り出した、私
たちは五月でないと下らぬと思
つていたが、三月ごろから下り出したと言
つておりましたが、これを正常の物価が下
つたこととあなたはお考えになりますが、われわれから見ればそれは投げ相場です。
金融難から来た投げ相場だ。それが物価引下けにな
つておるのであ
つて、これをあなた方は正常の物価が下
つたと考えてこの方針を貫徹するならば、半年後には
企業家はあるいは三分の一あるいは半分になるかもしれない。その次に来るものは縮小
生産、その結果は悪性インフレだ。そこでそうい
つた誤
つた政策を一日も早く変更すべきであるということを私は強く主張したのであります。その結果が先ほど申したように、植村甲午郎氏その他財界人の代表に来てもら
つて御
意見を聞いた。ところがいずれも私の考えとは相反しており、ま
つたく月並的であ
つたことに私は失望したのであります。しかし大
企業家は現在でもやはり相当引下げの余地があるのではないかという気持が私はいたしたのであります。
ところが
中小企業は現在はま
つたくどこにも物価引下げの余地はない。もしこれ以上
金融政策を強行すれば、倒産あるのみだというところまで来ておると私は思うのであります。それで
繊維局長が、
原糸の安定ということをこの際やるのだと言われるけれ
ども、
原糸の安定で
業界が安定するような時機はもうとうの昔に過ぎ去
つてしま
つて、現在はさようなことでは絶対安定しないというところまで到達しているというふうに私は見ているものであります。そこでもう少し
繊維局長も原価計算、あるいは受取り
手形がどういうふうにな
つているか、あるいはその
手形の期日か何日間か、それの日歩を計算して、それが原価にどういう影響をしているか、あるいは
不渡りがどのくらいあるか、あるいは
不渡りにならなくても、
手形の支払期の延期がどのくらいにな
つているかという点を詳細に調査されて、そうして現在の
業界がいかに行き詰ま
つているか、そこで結論的には、
安定法を適用する以外にないということが、私は必ずはつきりして来ると思うのでありますから、この際急速に、そういうつつ込んだ底の底まで一ぺん調査されることを、私は希望として申し上げておきたいと思います。