○寺尾
参考人 ただいま御
指名をいただきました寺尾進でございます。
それでは、これより、われわれ
石油業に携わる者の所信を申し述べまして御
参考に供することにいたしたいと思います。
まず第一に、
石油の重要性について申し上げます。現代をも
つて石油の時代と呼ぶことは、決して不当ではありません。か
つて石炭の時代があり、また将来は原子力の時代が来るでありましようが、現代はまさに
石油の時代と言えるのであります。それは近代
産業の要求する迅速性、合理性、能率性、精密性等が、
石油を利用することによ
つて、最も十分に満たされる
からであります。すなわち航空機、自動車による迅速な輸送、
重油ボイラーによる熱エネルギーの合理的使用、
ガスタービン発電による
動力エネルギーの高能率利用、
機械潤滑の進歩による能率化と精密化等は、いずれも
石油のすぐれた特性を活用して、初めて達成されるのであります。また、
石油ストーブや
石油コンロは生活の近代化、合理化を最も容易にもたらすものであります。さらに、近年の欧米における
石油化学工業の発達は、薬品、
肥料、溶剤、合成ゴム、合成樹脂、合成繊維等の多極多量の
生産物をもたらし、現代の
産業界に巨大な
地位を占め、人類文化に多大の貢献をなすに至
つております。
従
つて、世界各国における
石油の利用は最近著しく高まり、世界
石油消費量は一九四一年の二億八千万トン
から十年後の一九五〇年には五億四千万トンに倍増しております。この
傾向は、
米国のように
石油資源を豊富に有する国のみにとどまらず、英、仏、伊のごとく
石油資源に乏しい国においても、特に顕著であります。すなわち主要諸国の利用エネルギー中に
石油の占める比率を見ますと、
米国が一九二九年に
石油と天然
ガスを合せて二六%、一九四九年に五七%とな
つているのを別といたしましても、この間に英国は五%
から一〇%に、フランスは三%
から一〇%に、イタリアは四%
から一一%、これに天然
ガスを含めると一三%というように、おのおの二、三倍の
増加を示しており、この
傾向は今後ますます継続して、欧州経済協力機構事務局の
予想によれば、一九七五年には、西欧全体として三二%に達するものと見られております。これに対して
わが国は、この間に五%
から四%弱に低落し、一九五二年においてようやく八O%強となりましたが、この比率は今後さらに高めらるべきものであります。
すなわち、これら欧米諸国は、戦後の経済復興の基盤として、
石油を中心としたエネルギー
政策を確立し、それに基き、多額の資金を投じて
石油精製設備の拡充をはかり、乏しき
外貨をもさいて
原油の
輸入を確保し、それによ
つてエネルギー
需要の増大に対応すると同時に、
産業の近代化、合理化達成の有力な
手段としているのであります。しかも英・独・仏のごとく
石炭資源に恵まれた諸国においてすら、このような
石油への依存
傾向が著しいことは、特に注目を引くのであります。この事実こそ、最も雄弁に
石油のすぐれたる特性、近代
産業に占める重要性を物語るものであり、また
産業の近代化、合理化が
石油の利用増大によ
つてのみ促進され、かつ解決されていることを実証するものであります。
第二に、
わが国石油消費の現状について申し上げます。
以上のような世界的趨勢の中にあ
つて、
わが国もまた好むと好まざるとにかかわらず、戦後の経済復興の進展に伴うエネルギー
需要の増大に対応して、
石油消費量は逐年増大しております。すなわち昭和二十年の二十六万キロリツターを底として、次第に
上昇し、特に二十七年度は統制撤廃、精製設備の一応の整備によ
つて著しく増大して五百九十九万キロリツターとなり、さらに二十八年度は九百二十万キロリツターに達する見込みであります。なおこの趨勢は今後とも続くものと見られます。また
わが国経済発展のためには、当然そうあるべきものであると思います。しかもこれらの
石油は各
方面において、それぞれきわめて、重要な役割を果しているのでありますが、その実情を昭和二十八年度の
需要見込みによ
つて各種
石油製品別に申し上げれば、次の通りであります。
揮発油については、二十八年度二百十四万キロリツターのうち、自動車用が二百万キロリツターで九三%を占め、しかもその七二%はトラツク、バス等の
産業上、交通上、不可欠な用途に使われております。従
つて都会における高級乗用車の
増加を見て、ただちに
石油消費を奢侈的とするがごときは、軽率のそしりを免れないのであります。
次に灯油は、二十八年度四十七万キロリツターのうち、煖厨房用に八〇%、農林、
水産、船舶、鉱工業の
産業部門に一四%で、特に煖厨房用の最近における
増加は著しく、生活の改善、森林資源の愛護に大きな役割を果しております。
また軽油につきましては、二十八年度五十四万キロリツターの五五%はデイーゼル自動車用、三三%は
水産、鉱工、農林用と見込まれており、いずれも
国民経済上にきわめて重要な用途であります。
重油につきましては、二十八年度
需要見込は五百五十万キロリツターであり、その六七%は鉱工部門用、二七%は船舶、
水産用、その他が鉄道、農林部門等でありまして、いずれの部門においても
石油のエネルギー源としての優秀性を発揮して、ますます
生産の増強に貢献しております。
以上のほか、二十八年度には三十三万キロリツターの潤滑油、十二万トンのアスフアルト等の
需要が見込まれ、これらも
国民経済上、社会生活上、大きな貢献をするものと思われるのであります。
以上のように、
わが国の
石油消費も最近著しく増大し、各
方面でそれぞれ重要な役割を果しておりますが、しかしこれを世界各国の
消費量と比較しますと、まだまだきわめて低い段階にあると申すほかありません。
すなわち人口について正確な資料の得られる一九五一年について、各
国民一人当りの年間
石油消費量を算出してみますと、
米国の一六・六三バーレル、カナダの一〇・七二バーレルは別としても、英国の二・九三バーレル、フランスの二・一二バーレル等に比して
日本は実に〇・二五バーレル、全世界平均一・九バーレルの八分の一強にすぎず、一九五三年にはかなり
増加しましたが、なお〇・六一バーレルの低位にあります。
第三に、
石油利用分野の拡大について申し上げます。以上申し上げました通り、近代
機械文明の発達は、
石油のすぐれた特性を利用することによ
つてのみ可能とな
つていると言い得るのでありますが、しかも
石油の新しい利用範囲はますます拡大してやまず、従
つて今後さらに
消費量の増大が
予想されるのであります。この間の事情を若干の具体的事例をあげて御紹介いたします。
航空機の発達についてはいまさら贅言を要しませんが、一例として航空旅客輸送の近況を見ますと、一九五二年、大西洋横断旅客の半数以上が空路により、また
日本に来た外国旅客の約三分の二が東京空港を利用しているのであります。
さらに自動車輸送は最近署しく普及し、
わが国においてもトラツクによる貨物輸送は年々増大して、昭和二十八年には実に四億三千五百万トンに達しました、これは
国内の海陸貨物総輸送量の六一%であり、鉄道輸送の二億九百万トン、二九%をはかるに凌駕しております。また船舶輸送部門においては、一九五〇年世界船舶総トン数の八〇%が
石油を
燃料とするに至
つております。これらは
石油を利用する輸送機関の発達が迅速、確実、経済的という要請に最もよく適応し得ることを物語
つているのであります。さらに最近では鉄道のデイーゼル化、さらにデイーゼル電気化が著しく進み、一例として
米国の一九五一年の
国内用機関車発注台数を見ますと、総数四千百七台のうち四千七十一台がデイーゼル電気機関車であります。このような
傾向は欧州でも顕著となりつつあり、
わが国でも今後さらに
石油の鉄道部門における
需要増加が期待されす。また最近の
ガス・タービン機関の発達は、機関軍用、船舶用、発電用等に高能率を発揮し、広汎な利用を見るに至
つております。
農業部門においても、
石油の利用は広汎に進んでおります。すなわち
米国の農業用トラクター使用台数は一九四五年の二百七万台
から、五一年には四百二十七万台に倍増しており、
わが国においても規模はま
つたく異なりますが、農業
機械化
計画の推進に伴
つて、脱穀・耕耘等のため農家の所有する
石油発動機の数は年々
増加し、昭和二十二年八月の約三十一万台
から二十六年二月には三十八万台となり、その後もさらに
増加を続けております。
水産部門もまた
石油の重要な
需要部門であり、昭和二十七年度には全国総計約十三万隻の
漁船が約七十八万キロリツターの
燃料油を
使つておりますがこれにより多大に食糧の確保、
外貨の獲得がなされたわけであります。
また
家庭における
石油コンロの普及は最近の
わが国に見られた著しい現象の
一つでありますが、現在約百三十万戸が利用しており、これによ
つて家庭の経済化、合理化がは
かられるとともに、年間千三百万石の木材
消費が節減され、森林資源の愛護、治山治水の改善に寄与しております。従
つてこの
傾向は、国土全方策の一環としても、大いに促進さるべきものと信じます。
以上のような幾つかの事例が示す通り、
石油は多
方面にわた
つて重要性を増大しつつあり、従
つてその
需要は今後ますます
増加せざるを得ないのであります。
第四は
石油の有利性、経済性であります。
石油がそのすぐれた特性によ
つて、利用分野を押し広げつつあることは以上のごとくでありますが、さらに従来
わが国では統制によ
つて使用を抑圧されていた鉱工業の部門においても、その有利性、経済性のゆえに、著しい進出を示しております。これは最近の
わが国において、
重油転換の問題として注目を浴びておりますが、すでに同様の問題は一九二〇年代の
米国において、また戦後の西欧諸国においても提起され、
石油の優越のうちに解決されたところのものであり、
わが国が現在この問題に直面しているのは、むしろおそきに失するとさえ言えるのであります。そして、これはとりもなおさず、
わが国経済の復興の遅滞、国際経済水準への到達の立ち遅れを表現するものとも見られるのであります。
わが国における
産業用エネルギー源の
石炭より
重油への
転換は、昭和二十六年末ごろ
から活発となりこれに基く
重油の新規
需要増加は二十六年度二十九万キロリツター、二十七年度百十八万キロリツター、二十八年度百七十六万キロリツターと推定されております。しかも
石油の
供給さえ確保されるならば、この趨勢は今後ますます著しくなるものと
予想されます。これはま
つたく
石油のエネルギー源としての有利性、経済性によるものであり、従
つて、水の低きにつくがごとくに自然の勢いなのであります。今この間の事情を若干の数字をあげて示せば次の通りであります。
まず直接
燃料費のみを見れば、
石炭六千五百カロリーのもの一トン六千五百円、
重油は一万五百カロリーのもの一キロリツター一万二千円とし、燃焼効率を
石炭六〇、
重油七五といたしますと、利用カロリー当りの
価格比は
石炭一〇〇に対し
重油八八になります。しかもこれは電油の発
熱量と燃焼効率をかなり内輪に押えた場合であります。さらに
重油を利用する場合は、輸送、貯蔵が容易なこと、調節、後処理等の手数が省けること、品質が一定であること、
ガス発生炉
装置、微粉炭
装置等の施設が不要となること等の大きな利点があり、これらによ
つて、あるいは人件費の面で、あるいは輸送費、設備費等の面で、多大の経費節減が行われ得るのであります。従
つてこれらをも含めた
燃料費全体としての有利性はきわめて大きく、これについては具体的に次のような事例があげられております。
軽工業
関係でボイラーを
重油たきに
転換した場合の実例では、数工場を通じて、
転換部分の
石炭トン当り約一千六百円の
燃料費節減となり、従
つて転換施設はわずか一・八箇月で償却し得ることとなります。
鉄鋼業では平炉、加熱炉の
転換が多く見られますが、この場合にもトン当り一千三百二十円の節減となり、二箇月で設備償却が可能ということになります。
火力発電の一例におきましては、わずかに二三%の
重油混焼によ
つて、トン当り百九十円の節減が実現し、設備費は十七箇月で償却されることとなります。従
つて混焼率の引上げ、専焼の
増加は当然に考慮されるわけであります。
以上のように、
重油の利用によ
つて、各
産業部門において
相当のコ
スト切下げが可能となるばかりでなく、特に金属精錬、金属圧延、ガラス、陶磁器、セメント
製造等の部門においては、
製品の品質向上により、絶大な効果を上げております。
なお、
燃料の各
産業の
原価構成に占める比率はきわめて区々であり、従
つて重油によるコ
スト切下げの効果も業種により、企業により千差万別でありますが、これら各企業に直接的にもたらされる個別的な利益のみによ
つて、
石油の有利性、経済性を判断することはきわめて不十分であり、かつ正当な判断を誤らしめるものであります。けだし、これらの企業が利用する原材料、設備、
資材、
動力等もまた、
石油の利用によ
つてコ
スト切下げがなされるのであり、これは各企業間、各
事業場間における原材料、
資材、
製品等の輸送が
石油の利用によ
つてのみ容易かつ経済的たり得ることと相ま
つて、相互的、累積的にきわめて大きな利益となる
からであります。さらにこれらの利益の累積によ
つて、
国民経済全体の総合的な活
動力、競争力は、いわば相乗的に強められるわけであり、この意味
から石油の各
産業部門における利用は、
わが国経済の自立と発展のために、ぜひとも促進さるべきものと信ずるのであります。
第五に
石油確保の必要性について申し上げます。以上述べました通り、私
どもは
わが国経済の自立と発展のためには、世界の大勢に従
つて、
石油の利用増大をはかることが刻下の急務であると信ずるのであります。しかしながら、
わが国の
石油資源はきわめて貧弱であり、現在は
国内消費量のわずかに五%内外を充足し得るにすぎず、これが
相当に育成強化されましても、おそらく一〇%を越えることは困難かと思われます。従
つて大部分の
原油は海外よりの
輸入に依存するほかありませんが、この点は食糧、綿花、羊毛、鉄鉱石等と事情はま
つたく同一なのであります。しかも世界の実情を見ますと、
石油はきわめて豊富かつ安定した
供給を約束されており、
わが国が自由諸国と友好
関係を続ける限り、その
供給にはま
つたく不安がないと言い得るのであります。ただ問題となりますのは、この
石油の
輸入に必要な
外貨の点でありますが、
わが国の
輸入貿易額に占める
石油の比率は、邦貨払いの運賃を含めても、昭和二十七年には七%、昭和二十八年には八%にすぎないのであります。
しかるに最近、
石油外貨の削減、
石油消費の抑制をは
からんとするがごとき
意見が一部にありますが、これはきわめて皮相的な見解といわざるを得ません。われわれは貿易の逆調、保有
外貨の減少のみに目を奪われて、世界の大勢に逆行し、
わが国経済の自立と発展の基盤を喪失し、悔いを後世に残すの愚を冒してはならないと思います。この重大な時期において、大局の判断を誤り、いたずらに消極に傾き、いわばじり貧の苦境に陥
つてはなりません。何はともあれ、
産業の合理化、健全化をはかり、国際競争力を強め、積極的に自立と発展とに立ち向うべきであります。それにはまず必要なだけの
石油を確保することが、第一要件だと信ずるのであります。また上述のごとき
石油の重要性が広く認識されますならば、これを達成することは、決して困難ではないと思うのであります。
もちろんこの
外貨の使用に関しては、
石油の
輸入に
原油輸入、
国内精製の根本方針を貫き、また邦船タンカーを増強して、運賃による
外貨消費を可及的に節減し、それにより
石油のために割愛される
外貨を最も有効に活用することは当然の要請となるのであり、われわれもまたこの線に沿
つて努力しているのであります。
しかも
石油のために
消費される
外貨は、
日本経済全般の合理化、能率化を促進することによ
つて、必ず
輸出の増大となり、新しい
外貨の獲得とな
つて、より大きく補われるものであります。また
石油業といたしましても、かかる重大なる国家的任務を十分に
担当するに足る責任と覚悟を持
つております。しかもこのようにして
日本の
石油業が確立されますならば、
石油製品の東南アジア市場への
輸出によ
つて、直接に
外貨を獲得することも期待され、また遠
からずして、
わが国にも
石油化学工業が樹立されて、その
生産する化学
原料、
肥料、合成繊維等によ
つて、
外貨獲得の上にも一層大きな力を発揮し得るに至ることを信じます。
以上、
石油の問題について種々お話申し上げて参りましたが、世界の大勢と国家の将来とを広く考慮し、また各エネルギー資源の特性及び需給
状態等を深く検討し、
石油の重要性に対する十分なる認識を基礎とする総合エネルギー
政策が確立されることを強く要望するものであります。われわれは
石炭業が、
わが国の基幹
産業の
一つとして重要なる
地位を占め、その消長が、
わが国の社会問題としても大きな意味を有することを十分に認識しております。また
わが国の自然的条件
からして、水力発電が重要なエネルギー源の
一つであることを当然と
考えております。これらのエネルギー源につきましても、国家的見地に立
つて、それぞれに適切な対策が講ぜられることは、当然かつ不可欠であると信じます。
しかしながら、それと同時に、一時の困難、一部の支障のために、世界の趨勢に逆行して、
石油の
消費を抑制し、進展しつつある
産業の合理化の芽をつみとるがごとき
政策は、絶対に避けるべきであると確信いたします。いなむしろ、いやしくも
わが国が
生産の増大、能率の向上、
輸出の増進をは
からんとする限り、その基盤たるエネルギー源の増強確保のため、
石油の利用を増大せしめることが、唯一の合理的解決策なのであります。
この際、
石油の重要性に対する十分なる認識の上に立
つて、最も合理的、積極的なる総合エネルギー
政策が強力に推進さるべきことを繰返し要望いたしますとともに、
各位の公正にして強力なる御支援を期待するものであります。