○岡村
参考人 本日は鉄鋼業の
立場から、
総合燃料対策のことにつきまして、私どもの日ごろ存じおりますること、あるいはお願い申し上げたい事柄を申し上げる機会を与えられましたことを衷心より御礼申し上げたいと存じます。
鉄鋼業も
燃料の
消費の面では、
石炭及び
石油につきましては大手筋でございます。
まず
石炭につきましては、今
年度の鉄鋼の
生産は、普通鋼鋼材といたしまして、実績は約五百四十万トン弱にのぼるであろうと存ぜられまするが、この鉄鋼を
生産いたしまするに必要な
石炭の量は、通産省の御計画では六百三十万トン
程度でございまして、この六百三十万トンがちようど半分ずつ、
国内炭と
輸入炭ということに相な
つておりまして、おそらく実績におきましてもほぼその比率を示すものだろうと存ずるのであります。この原料炭は、溶鉱炉の製銑に使いまするコークスを製造いたしまする原料でございますが、このほかに
石炭ガスをとりますための発生炉用
石炭もございまするし、また雑用炭、一般炭もございますので、これらを全部総合いたしますと、
年間の
需要は
国内炭、
輸入炭合せまして七百万トンになんなんとするものではないかと考えられるのでございます、従いまして
石炭が鉄鋼業に円滑に、かつ安定した価格で与えられるということが、
石炭の
生産を左右する重大な問題に相な
つて来るわけでございます。申すまでもないことでございますが銑鉄を
生産いたしまする場合の
石炭の重要性は、各種の原料のうちで最高位を占めるものでございまして、このきわめてラフなコストを申し上げてみますならば、銑鉄単位当りのコストのうちで約五〇%は
石炭でございます。四五%が鉱石代、かように申してよろしいかと思うのであります。そのほか種々の副原料がございまして、合せまして一一〇%くらいになりますが、同時に副成物が一〇%くらいございますので、これを差引きまして、ちようど一〇〇%、こういろ計算にな
つて来るわけでございます。かような
情勢でございますから、
石炭が円滑に供給されるということが、不可欠の要件であります。のみならずその価格が安定をし、かつできるだけ低いことが必要に相な
つて参るわけであります。
日本の現在の炭は、これを外国に比較をいたしますると、米炭が最上のものでございまするが、この米炭が今CIFで
日本に参
つておりまする価格が十八ドルでございます。このうち約十ドルが海上運賃でございまするから、FOB価格は八ドル
程度だとおぼしめしてけつこうだと存じます。しかるに
国内の
石炭はどうかと申しますると、これをメリツト計算で計算をいたしまするならば、つまりその
石炭に含まれておりまする固定炭素分でございまするとか、あるいは揮発分でございまするとか、あるいは灰分その他の不純物等をフアクターにいたしましたメリツト計算をいたしてみまするならば、三十五ドル五十セント、こういう数字が出て参るのでございます。米炭、これはアメリカの東海岸からはるばる四十日の船路をパナマ運河を
通りまして
日本に到着をいたすのでございまするが、かような米炭の方が、
国内でできまする
石炭よりもはるかに安いという事実は、ほとんど、信じがたいばかりでございます。この大きな負担が、結局銑鉄の
生産の面にも
影響をいたすのでございます。アメリカは今申し上げましたように、大体八ドル
程度の原料炭を使
つております。それから
日本の鉄鋼輸出の面で大きな強敵に相なりつつありまするところの
西欧諸国、これは昨年の春から欧州
石炭鉄鋼共同体を組織いたして、プール市場ができ上
つておるのでございますが、この六箇国で使
つておりまする
石炭は、これは共同体の最高機関において決定をいたしておるのでございまするが、大体十一ドルないし十三ドルでございます。またイギリスは、この共同体のらち外ではございまするが、イギリスの鉄鋼業の使
つておりまする
石炭は四千七百円
程度で、やはり欧州の方とほぼその軌を同じゆういたしておるのでございます。かような比較をしてみますると、
日本の鉄鋼業がいかに高い
石炭価格に悩まされておるかということを端的におくみとりをいただけるであろう、かように存ずるのでございます。鉄鋼業のコストをできるだけ下げて、安い価格で輸出の増進をはかり、また
国内産業に対しまして必要な鉄鋼を供給するという使命をわれわれが背負
つておりまする以上は、この使命を完遂せしめるためのこの高
炭価問題の解決が何よりも急務に相な
つて参るわけでございます。
次に
重油の問題でございまするが、
重油は
石炭と相並びまして、車の両輪のごとく、鉄鋼業の運営を支える重要な原料でございます。もともと
日本の鉄鋼業の発祥以来、種々の制約から
重油の
使用がきわめて有利であるということは重々わか
つてお
つたのでございまするが、それが許されないために、戦前、
戦時中を通じまして、大体加熱用の
燃料といたしましては
石炭を使
つてお
つたのでございます。この
石炭をガス発生炉によりましてガス化をいたしまして、これを平炉の製鋼作業、あるいは加熱炉、均熱炉その他の熱処理に使うという形が普遍的にとられてお
つたのでございます。しかしながら鉄鋼業における
重油の
使用は、単にコストが多少安くなるとか、あるいはその
輸入が容易であるとか、困難であるとか、さような比較考量のみから来るのではないのでございまして、
重油の
使用は、その品質の面におきましても大きく
影響をいたすのでございます。アメリカでは
石炭ももちろん使
つておりまするが、大部分は天然ガスと
重油でございます。欧州の諸製鉄国におきましても、ほぼその軌を同じくいたします。フランスは比較的
石炭を
燃料源に
使用する率が多いのでありますが、その他の諸国ではおしなべて
重油をおもに
消費いたしているのであります。なぜかと申しますならば、コストの面におきまして
使用の原単位が非常に低いのであります。鋼塊一
トン当りの
燃料の
使用量は、
重油でございますと百七十リツトル、
石炭でございますと三百四十キログラムになります。鋼塊
トン当りの
消費熱量は、発熱量を
重油一万キロカロリー、
石炭二千八百キロカロリーといたしますならば、概算
重油の
消費熱量は百六十万キロカロリー、
石炭の
消費熱量は二百三十一万キロカロリーということになりまして、
石炭の方が七十一万キロカロリー多いのであります。大体
トン当り百キログラム
石炭を余分に要するということになるのであります。また価格の面におきましても、現在の
炭価から割出しますならば、
重油の方が三%ないし一一%安いということが申せるのであります。のみならず
石炭は積卸しあるいは横持ち作業等におきまする目減り、欠斤が相当生じますが、
重油はタンクに受入れました後はパイプの輸送によりまして何らさような欠斤がございませんので、一層有利に相な
つて参るわけであります。それから作業費が非常に節減をされるのでありまするが、
石炭は
重油に比較をいたしますると、平炉一基あたりの労務者三人以上を多く必要といたすのであります。のみならず燃焼自動調節であるとか貯蔵等
間接部門を含め、三交代作業をいたすといたしまするならば、一基あたり十名以上労務者が少くて済むということに相なるのであります。また製鋼時間が短縮されるという点も大きな利益に相なるのでございます。
石炭の場合でございますると、灰の処理費を相当必要といたしまするが、
重油の場合にはまつたくこれが不要に相な
つて参ります。またカロリーの
使用効率も比較にならぬくらい
重油の方が高いということが申せます。また
石炭は貯蔵のために相当の置き場が必要でございます。また長時間貯蔵いたしますると、風化いたしましてメリツトが下るという欠陥があるのに対しまして、
重油はさような欠陥がございません。
次に技術上の
特質でございまするが、設備の面では
石炭を
使用いたしまする場合には、非常に複雑で金のかかりまする設備を必要といたすのでございまするが、
重油の場合にはこれはきわめて簡単な設備で間に合うのであります。
従つて作業
人員もはるかに少くて済むということが申せるのであります。それから平炉の炉体につきまして、発生炉ガスを使う場合には、これまたガスと空気の変更弁を一つずつ使うことを要しまするが、
重油の場合には一つでそれが済むという面から、相当コストの面にこれが
影響をして参るわけでございます。但し炉体の、つまり平炉の中に張りつめてございまする耐火れんがの損傷度は、
重油の場合の方がやや高い、これは
重油使用に伴いまするきわめて少い不利益の一つであろうかと存ぜられるのでございます。
かように
重油と
石炭とは、その技術の面におきましても、またコストの面におきましても、相当逕庭がございます。少しでも鉄鋼のコストを下げなければならぬ今日におきましては、この
重油の
使用が不可欠の要件にな
つて参るわけでございます。さような
見地から、戦争後急激に復興いたしました鉄鋼業におきましては、
石炭を
重油に転換をする傾向がとみに濃化いたしまして、現在のところでございますると、大体稼働しておりまする平炉が百二十基ぐらいございます。そのうち五十二基は
重油の専焼設備を持
つております。それから同じく五十二基が
重油と
石炭ガスの混焼装置を持
つております。残り十五基が
石炭だけを専焼いたしまする設備に相な
つておるのでございます。しからば
重油に転換いたしまするためにどのくらいの経費を要したかということを、大手筋のメーカーについて
調査をいたしてみたのであります。これはなかなか計算が困難でありまするが、一応提出された資料を総合いたしました数字が、約十億円に達しておるのでございます。これを今日、
石炭の
事情、あるいは
輸入外貨削限の
見地から、再び
石炭に転換することが可能であるかどうかという点をしさいに検討いたしてみたのでございまするが、
結論から申し上げますると、もちろん不可能ではございませんけれども、不可能に近い困難を伴うということが判然といたしたのであります。大手筋の六社の十工場だけを取上げてみましても、この設備を
石炭に再転換いたしまするために所要いたしまする経費は、およそ十六億二千万円に相なるのであります。これは単に経費だけの問題ではございませんので、相当の間炉を休ませる必要がございまするから、よ
つて生ずる減産分ももちろん御
考慮いただかなければ相ならぬかと思います。また
石炭に再び転換をいたした場合には、コストの面で、どのくらい
影響するかと申しますると、鋼塊の
トン当りで二千円ないし三千円割高になるということが申せるかと思います。極言いたしまするならば、コストの面だけから申せば、
石炭をただでいただいて、ようやくとんとんになる、こういうことに相なるのでございます。従いまして、この
重油の
石炭転換の問題は、ほかの
産業におかれましても、同様きわめて重大な
危機をはらんでおられると存じまするが、鉄鋼についても同様でございます。二十八
年度の
使用実績は、おそらく七十七万キロリツター
程度ではないかと存ぜられまするが、その後
重油転換の傾向が一層顕著にな
つておりまするために、自然の
消費を見積りまするならば、二十九
年度におきましては、九十三万五千キロリツター
程度を必要とするのではないか、これを供給の衝に当られまする
石油業の方からごらんになりますると、百三万キロリツター
程度の
重油を必要とするであろう、かようなお見積りができておるのでございます。もちろん今日のきゆうくつな
外貨事情は重重
承知をいたしておりまするし、またその制約から生れて参りまする
重油の
輸入削限もやむを得ない御措置とは存ずるのでありまするが、鉄鋼業においては、
重油がいつの間にかきわめて重大な
燃料である
立場を占めておる
現状に御着目いただきまして、今後の
総合燃料対策の面におかれまして、何分御検討をいただきたいと存ずるのでございます。かように
石炭、
重油ともに、
基礎産業でございます鉄鋼業を支える上において、最も必要な原料に相な
つておるのでございます。業界といたしましても、今日の
情勢を勘案いたしまして、できるだけ
国内炭で間に合う
努力をいたすつもりでございます。現に通産省で現在お考えにな
つておりまする御計画によりますれば、二十八年までは、原料炭の
使用割合を五〇対五〇、ちようど半分ずつの実績を示しておりまするし、この比率が最も適当なコークスをつくるのに必要な割合でございますが、この
外国炭の
使用割合を五%方
引下げまして四五対五五の比率に持
つて行こう、こういう御指導方針なるやに伺うのであります。これは原料炭の面で、
国内炭を約四十万トンよけい使うことになるのであります。たかが四十万トンと思召すかもしれないのでございますが、
国内炭は、御
承知のように非常にアツシユが高うございまして、これを混用いたします率が上れば、ただちに熔鉱炉の作業にあらゆる面で
影響いたすのであります。業界といたしましては、お役所の御指導に従いまして、この比率による
石炭の
消費に遺憾なきを期す予定でございます。また
重油も、今日の
情勢において、私どもの欲する量が百パーセント与えられるということも困難な
情勢は
承知をいたしておりますが、これもただいま申し上げましたような
事情によりまして、そう簡単に
石炭から
重油へ、
重油から再び
石炭にというふうな転換は、事実上困難で、むしろ不可能に近い
情勢でございます。この辺をおくみとりをいただきたいと存ずるのであります。
従つて鉄鋼業の
立場から見ますならば、
総合燃料対策といたしましては、何よりも
国内炭の面において、できるだけそのコストを
引下げて、
需要者に供給せられる価格を安くしていただきたいということが唯一無二の私どもの希望にな
つて参るのであります。おそらく製鉄国数数多しといえども、
日本のごとくかように苛烈な条件によ
つて鉄鋼を
生産しておる国はないと思うのであります。現在鉄鋼価格が高いという御指摘を頻繁にちようだいをいたしまして、でき得る限りコストの
引下げにあらゆる
努力を傾注はいたしておりますが、何分にも鉄鋼業と申すものは、その原料の占める割合が圧倒的に多いために、原料費が安くならなければ、いかように
企業内で
努力を尽しましても、その実を上げることは困難であります。かような面で、ぜひ
国内炭の価格をでき得る限り下げるということが、今後の
燃料対策として御展開をいただくべき焦点に相なるべきでないかと存ずるのであります。と同時に、
重油も、これは
輸入品ではございますが、現実の問題としては、もはや不可欠の製鉄製鋼用の原料にな
つておりますので、これも所要の
生産を完遂いたしますために、必要な限度の供給の確保をお願い申し上げます。これが鉄鋼業界の現況から推しまして、ぜひこの機会においてお願いを申し上げたい要点であるかと存じます。
きわめて簡単な口述でございまして、おくみとりいただけたかどうか疑問でございますが、また何かお尋ねをちようだいいたしますれば、お答えを申し上げたいと思います。