○二階堂
参考人 問題が非常に大きな上に、急な
お話でありましたので、まとま
つたお話ができないと思いますが、どうぞお許しを願います。
有機合成化学の
振興と
石炭資源の利用についてということだろうと思いましたので、その
お話を今から申し上げたいと思います。御
承知のように有機化合物は
芳香族と
脂肪族が
原料と
なつておりまして、その構成要素から言いますと、ちようど車の両輪のようなもので、両方ともに適度なバランスがなければなりません。
芳香族と申しますのは、先ほどから
お話もありましたが、
石炭の高温
工業、
従つて製鉄
工業と
関係が非常に多いのであります。また現在
日本では都市
ガス工業とも関連があります。というのは、主として
ベンゾール、
トリオール、いわゆる亀の甲と普通言
つておりますが、既存
工業でその回収率をよくするとか合理的にすれば、多少は増産ができるが、これをつくる
原料の
石炭は割合良質の粘結炭でなければいけないのであります。もし増産の要があるなら、
石油の方から行きますけれども、
石炭を直接
原料とする直接法も最近できたのであります。これは
戦前からドイツでや
つておりましたが、最近特に
アメリカで、直接
石炭から
芳香族をたくさんつくる方法が完成しまして、その発表があ
つたのであります。でありますけれども、
現状では製鉄を高炉製鉄法でやります
関係がありまして、高炉を使用しない方式も将来近く出て来るだろうと予想されますが、そのときに直接
石炭から
芳香族をたくさんつくる方法が、物を言うときが出て来るだろうと思うのであります。
芳香族のことにつきましてはこれくらいにいたします。
次に
脂肪族でありますが、これは天然には
石油、それから動植物油脂が直接
原料となりますことは御
承知の通りであります。わが国では
石油は非常に少い、また油脂もはなはだ欠乏いたしておりまして、
石油も油脂もともに
相当輸入しておる
現状でございます。
従つてその
輸入のために非常に外貨を
使つておるわけであります。しかしこれを
石炭で補うことができるように
なつておるのであります。その事情はちようどドイツとまさに同じ
状態でございます。しからばどんな方法があるかということでありますれば、それを今から考えてみたいと思うのであります。
石炭を
原料として今の
脂肪族製品をつくりますのに、カーバイドを
石炭からつくりまして、
アセチレン、それからいろいろな方法によりまして
製品をつくる方法があります。それから
石炭を直接
水素添加してやるいわゆるベルギウス法があります。それから
石炭を一度
ガス化しましてそれを合成しまして、そして
脂肪族の化合物をつくりますいわゆるフイシヤー法というのがあるのであります。今私はその中の最後の、
石炭を一度
ガス化いたしまして、それから合成をいたしますそのことを述べたいと思うのであります。
戦前には、この方法が人造
石油工業として大いに発展したのでありますが、合成法は
石油がほんとうの目的ではなくて、
脂肪族の
原料で有機
化学工業の資源
工業であるのであります。この点につきましては、
あとで時間があれば申し上げたいと思いますが、フイツシヤー法がドイツで戦後禁止されましたときに、ドイツのデカベル、すなわち
石炭鉱業指導協会でありますが、そのデカベルが炭鉱業と
化学工業との国策的立場から、連合軍に解禁の要請をしたことがあるのです。それが一九五一年に解禁とな
つたのであります。そのいきさつについて、私は幸いにしてその
資料を入手しましたから、それは
あとでお配りして御了解を得たいと思います。ドイツでは直接の天然資源がないので、
石炭を
原料とするフイツシヤー法が、有機
化学工業の
脂肪族の根幹資源を提供する方法と
なつているのであります。しかも
石炭は適質適所に使用し、
従つてすそもの、すなわち低品位炭ができます。それを
原料とすることを
技術的に戦後完成して、いろいろな方法ができているのであります。たとえばアツシユで七〇%あるいはそれ以上を含んでおりますボタでも、あるいは泥炭であろうと、カロリーは二千キロカロリーくらいの、あるいはそれ以下でもいいのですが、そうい
つたようなごく劣悪な炭、普通ではほんとうに使用できないような
原料を使用し得ることが完成いたしたのであります。しかもその安い低品位炭を
ガス化いたしまして、そのフイツシヤー法によりまして、先ほどからたびたび言葉が出ましたが、オレフインの豊富な炭化
水素を合成しまして、これをオキソ法と名づけますが、それをドイツで完成しました。このオキソ法を応用してアルデハイドというものをつくります。それを
水素添加いたしまして
アルコールにすることが、
戦時中ドイツで完成しているのであります。ここで
アルコールと申しますのは、先ほどから
お話のありました
アルコールももちろん含まれておりますが、そのほか非常に高級な
アルコールであります――高級と申しますのは、カーボンの数がたくさんある
アルコールであります。そういうものができる
工業が完成いたしたのであります。それと、フイツシヤー法自体も、戦後非常に改良されまして、
有機合成工業に必要なるオレフインの豊富なものができまして、これが
中間体となりまして、種々な有機
製品ができることになりました。でありますから、オキソ反応が採用されますれば、オレフインさえあれば、必要な各種の
アルコールをつくることができるのであります。
それで
有機合成化学工業の中で問題に
なつております
合成繊維とか
合成樹脂、そうい
つたような
有機合成化学工業の
製品に必要な溶剤とか可塑剤、界面活性剤、合成洗剤に
原料として必要なる各種の
アルコールが
石炭からできるのでございます。今もしこの方法によらないときには、油脂からか、あるいは
アセチレンからか、あるいは
醗酵工業によらなければなりませんが、みなそれらは
相当な工程を経なければなりませんし、
原料的にも
相当値段が張ることと思います。すでに御
承知の通り、油脂は、二十九年度の目標は四十万トンを越しているのでありますが、国産はそのうちわずか十五万六千トンぐらいで、
輸入を二十万トンくらいしなくてはならないような
現状であります。そのうち
工業用に使われる目標に、国産品が四万六千数百トン、
輸入が十八万五千トンくらい、価格にして百五十億をちよつと越すのでありますが、その
輸入を見込まなくてはならないような
現状に
なつております。そのうち
相当量を今の
石炭、しかも使えない、捨てなくてはならない、そうい
つた未利用
石炭を利用することによりまして、これがまかなえることが確実に
なつて来ているのであります。現在フイツシヤー法によりまして、これは
石炭が安くならなければなりませんが、安くさえあれば、
ガソリンを目標としてもペイするのでございます。
日本ではまだ今のところそこまでは行かぬといたしましても、すでに実例がありますのですが、これは
あとで申し上げたいと思います。まず
石炭から戦後ドイツでも
つて改良されました改良フイツシヤー法によりしまて、オレフイン合成を行います。そして今のオキソ法を事業化する
計画を現在われわれは進めておるのであります。これなどは至急実現させたいつもりでありますが、この方法を至急実現するためには、今のところドイツの
技術を導入することになるでしようが、
有機合成化学振興の実を結ぶために、このオキソ法を至急採用し得るように御助成を願いたいと思います。
改良フイツシヤー法とオキソ法の将来について述べたいと思いますけれども、今日は時間がございませんから、概要だけをちよつと述べさせていただきたいと思います。フイツシヤー法とオキソ法を組み合せることによりまして
アルコールができますが、これは天然にもまだ見つからないような
アルコールを合成することができるのでありまして、いろいろな新しい
製品が開拓されておるのであります。戦後連合軍
技術調査団がドイツでオキソ法の完成を見まして非常に驚きまして、各国が競
つてその追試研究を始めまして、一時は英、米、仏十五箇所くらいで研究を始めまして、主としてPBレポートに基きまして、現にイギリス、
アメリカでは主として
原料を
石油に仰いで、オキソ法をや
つて新
製品を
相当出しておる
現状であります。オキソ法は必ずしも
アルコールにまでしなくても他の有用
製品が非常に誘導されまして、
有機化学の
製品の発展の資源となるものであります。表もきよう持
つて参りましたから
あとで御一覧願いたいと思います。フイツシヤー法の改良は
戦前のものでもできましたが、特にオレフインが非常にたくさんできる、そういう点が特徴でありまして、そのために非常によい潤滑油の
原料となるのであります。これはすでに
戦前からも旧式の――旧式というとおかしいのですけれども、旧フイツシヤー法でつく
つてもこれができたのでありますが、一般に認められておるものでありまして、
戦前に
アメリカのスタンダードとか、テキサコ、ケログなども昔のフイツシヤー法でありましたけれども、その当時ライセンスを買
つたのであります。それは主として高級の
航空潤滑油製造に関心を寄せたことが大なる原因と思われております。これはアメリアの調べでありますが、ドイツでは航空機用の特殊潤滑油を
石油から約三万四千九百八十トン、それから今のオレフインから約三万五千トン、それからエステル型の合成品が約四千七百七十トン、合計七万四千七百五十トン
戦時中の一九四二年につく
つておりますが、このエステル型の合成品といいますのは、ドイツで
戦時中に
工業化した最もすぐれた潤滑油でありまして、これは高級
アルコールと二塩基性酸の化合エスナルで、目下問題のジエツト航空機用に欠くことのできないものであります。これは天然の鉱油や、いろいろの
製品からは知恵をしぼ
つてや
つても、このジエツト航空機を運転するに必要な、安定度の低いところから高いところの幅の非常に広いものは、まだどうしてもできないのであります。このエステル型の合成、これは高級
アルコールと先ほどの二塩基性酸の化合物でありますが、これが今役に立つのであります。当時ドイツでもまだジエツト機なんかないときでありましたから、そんなことに使われなか
つたのでありますが、これがジエツト航空機に不可欠のものでございます。そのジエツト航空機用の潤滑油をつくります
原料は、オキソ法によ
つてつくるのであります。今
日本でジエツト機をつくる態勢はできたように承
つておりますが、ジエツト機エンジンをつく
つても、また
燃料は割にたやすくできるそうでありますけれども、できましても潤滑油がなければ飛ぶことが絶対にできない。
世界各国ともに、今ジエツト航空機の潤滑油は秘密にしてや
つております。辛うじて用を足しておる
程度のように、いろいろ乏しい
資料でありますけれどもうかがわれておるのであります。
これは余談でありますけれども、この二塩基性酸といいますのは、今のところではひまし油の中の一成分でありまして、ひまし油の一成分と高級
アルコールとの化合物でありますから、このひまし油の獲得で英米ともに非常な努力をし暗躍をして、ブラジル、インドは
アメリカが買い占めております。しかたがないのでイギリスがニカラガに今栽培を奨励してひまし油の獲得をしておるというような報道にも接しておるくらいに、非常に重要な問題でありまして、その
原料は、オキソ法で高級
アルコールをつくることによ
つて一つの
原料ができるのであります。その片方の相手は今のところひまし油でありますけれども、これもたとえばレツペ法なりいろいろな方法を研究いたしますれば、ひまし油
程度のものでなくても、それに近いものができることは事実であります。これはレツペ博士がせんだ
つても
お話になりましたが、そうい
つたようなもの、それからドイツではタールの一成分から出た
原料を
使つてや
つたのでありますが、その当時の品物それ自体は現在のジエツト機エンジンの潤滑油としては性能が少し落ちると思いますけれども、その相手方のひまし油からと
つた原料を使いますれば、高級
アルコールと合成して十分潤滑油の性能が得られる品物ができるのであります。高級
アルコールというものはこんな
重要性が現在あるのでございます。
そのフイツシヤー法とオキソ法とを組み合せます
工業を実現させるには、その
主原料の
石炭資源活用の点から、どうしても今の
日本といたしましては使えない悪い低品位炭、しかも安いものを利用開拓、選定することが一番大事な点であります。これは経済上、採算の面からも大切なことであることは申すに及びません。これには
石炭業者がこの
工業に直接関与する態勢をとるようにし向けるべきであると考えます。ドイツでは、
石炭そのままによる利潤は、常識的には二%ぐらいです。しかし
石炭の有効利用によりまして五%から一二%の利潤を上げて、優良炭としての
工業の主食たるべき
石炭は、一定の合理的限度の価格を維持させているようであります。まさに
石炭政策、
化学工業の行き方はかくあるべきではないかと私は信じます。
この点につきまして、フイツシヤー法の解禁になりましたときのドイツの業界の主張と、連合軍との質疑応答の中に、実に施政者として、また業者としても感じさせられることが非常にたくさん検討されております。幸いにしてその
資料を入手いたしましたので、その訳文がありますから、ごらん願いたいと思います。
石炭鉱業と
石炭を使う
化学工業との結びつき、それによる
石炭の有効利用、
石炭の原価、
石炭の価格、未利用資源の開発とい
つたような線を、もう少し掘り下げて検討する必要があると信じますけれども、今日はこれくらいにして一応
お話をとどめたいと思いますが、ここに
資料を持
つて参りました。いろいろ用意ができれば、もつととりそろえますけれども、ありあわせのものだけ持
つて参りました。
先ほど申し上げたように、
石炭が安くさえあれば、
ガソリンを目標としたフイツシヤー法が
工業的に成り立つという実例がございます。それはアフリカのトランスバールに――あそこは七百億トンの
石炭の埋蔵量があ
つて、これは
戦前すでにフイツシヤー法のライセンスを買
つたところでありますが、検討の結果、戦後に
なつてその
工業を始めたのであります。資本金は
日本の金にして三百億円。非常に
石炭が安く掘れて、
コストは一トン六シルというのですから、三百円ぐらい。これはほとんど手間だけだと考えられますが、そういうふうに
石炭の価格をきめて、
工業をその上に伸ばすならば、
石炭を資源として非常にたくさん出る恵まれた
石油が、天然
石油と対抗することができるということが確立いたしましたので、三百億の資本をも
つて、アフリカのトランスバールで今年の終りに一部運転を初め、来春早々には
石油その他いろいろな
副産物が出るのであります。
将来はアフリカにおいて
化学工業の中心をイギリスの勢力範囲においてつくるという目標で国策としてや
つている。必ず成功すると私は信じます。またアフリカのベルギー領コンゴも同じように安い
石炭が得られるわけで、そこもフイツシヤー法を採用することに大体今きま
つております。そうい
つたことの目標、資源、
考え方につきまして、お
手元に差上げましたサソールと書いてあります――これはサウス・アフリカン・コール・オイル・アンド・
ガス・コーポレーシヨンの略でございますが、それをトランスバールの商業
会議所の機関雑誌に出たものを概訳したものであります。原本は私
一つ持
つておりますが、おそらく外務省にも訳していると思います。それにはもう少し詳しく写真も入
つております。この点につきましては、せんだ
つてドイツから来ましたルルギの社長が講演をしたことがございます。それからD・K・B・Lのフイツシヤー法を解禁するために主張した論旨――連合軍の非常に鋭い質問が出ておりますから、それを一々反駁して、どうしてもフイツシヤー法はただ
石油を目的にするのではなくて、
有機合成化学の
原料をつくる
工業である。それをぱつととめられた
石油鉱業が成り立たぬ。
石炭屋も炭鉱業も成り立たぬから、ぜひドイツとしてはフイツシヤー法を早く解禁してもらわなければならぬ、そうい
つたようなことでありますので、御判読を願いたいと思います。
石炭を
原料とする
化学合成
工業は、
日本としてはいろいろ環境のあれもございましようけれども、
原料的にはもちろん
石油も必要でありますが、油脂も必要でありますが、それと競合しない
程度において、ともに栄えるようなことと、もう
一つは炭鉱業者のあり方について
化学工業との結びつきを将来もう少し掘り下げて御検討願いたいと思います。