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池田参考人 私は大体
石炭掘りでございまして、今御質問のございました
石炭化学工業というものと
大分縁が遠いのでございます。
ちようど今から三十年ほど前ですが、
石炭を掘りながらこれを燃やしてしまうことはもつたいないということから、二十年前に
石炭化学工業に転向いたしましたが、
終戦後は
仕事を離れて遊んでおりますので、
自然皆様の御期待にも沿い得ないと思いますが、大体
日本の
石炭化学工業を顧みますと、
昭和九年ごろ
人造石油製造事業法案が出ました。それに引続きまして一番最初やりましたのが、私
ども樺太で
ルルギーの
石炭の
低温乾溜をやりまして、なお
封鎖炭田の内
渕炭田におきまして
相当大げさにやることにな
つたのであります。それと同時にやはり
高温高圧の
IG法あるいは常圧の
フイツシヤー法といつたものが同時に着手されました。しかしこれとても
戦争の
末期まで十分その効力の発揮はできなか
つたのであります。ただいまの海軍の第一、第二
燃料廠等もその残骸であるわけであります。
なおそのほかに
平和産業といたしまして、
石炭化学工業は
水素源といたしまして、水の
電気分解法によるもの、またこれに並行いたします
石炭法によるアンモニアすなわち
硫安工業、これはおもに
外国技術、フランス、イタリア、
ドイツそのほかの
技術によつたものでございます。現在すでに
硫安でも二百十万トンくらい
生産高を持つようにな
つたのでございます。その後
戦争末期から
終戦後にかけまして、ほとんど
化学工業の
進歩というものはなかつたかのように思われます。
そこで
日本産業の原動力になります
石炭鉱業はどうかといいますと、大体百四十八億くらいの
鉱量と想像されております。私が
石炭に
関係いたしましてから約四十何年かなりますけれ
ども、その間に約一割くらいの
採掘をや
つております。
この
石炭鉱業でございますが、大体
日本は非常に
石炭の
値段が高いと言われております。確かに
国際価格からいたしますと、これは最高級の
原料炭でございますけれ
ども、
アメリカの
石炭に比べますと約三倍、
イギリスに比べると二倍、
ドイツと比較しますと一・二倍、
ベルギーに比較しまして二倍、大体このくらいの
値段に
なつているということは、これを
原料にします
石炭化学工業を
考える場合には、私
ども相当考慮を要する点だろうと思います。そんなことからいたしまして、
一つは
石炭が高い、
朝鮮ブームが起きて
石炭が不足するというようなことからいたしまして、
外国炭あるいは
石油の輸入が非常に多くなりまして、結局これも両方から挾撃されまして、昨今では
石炭も値下りをいたしました。
生産も減りました。まことに、
石炭鉱業が危機に突入したと
言つてもよろしかろう、こう思うのであります。
従つて原料にする炭価が何としても高いということは、
石炭化学工業を
考える場合でも大きな悪い
条件になりますから、これを引下げるために万全の措置が必要かと思うのであります。その点では
政府におかれましても、
探鉱費を補助しますとか、あるいは金利、
税等電源開発並あるいはそれ以上の援助を与えてしかるべきじやないかと私は
考えております。ただしかしまた一方
石炭の
需要者側からいいますと、この程度の
石炭を
利用して高度の
利用を
考えなければいかぬということが義務づけられておるわけであります。それでただいまからは
石炭よりさらに
附加価値をずつと高くした
製品をつくることに
観点を置かなければいかぬのじやないか、そんなふうに思うわけであります。
そんなことからしまして、一応
石炭を
化学工業の
原料とした――ただ
石炭といつてもわかりにくいですが、低
品位炭もあれば、形の上では
塊炭もあれば
粉炭もあり、あるいは高級な
石炭もあるわけであります。そこで第一に
石炭の
上級炭はどういうふうに
化学工業の
原料にするかということが
考えられると思うのでございますが、
石炭の
乾溜をいたします。これは前からもあつた
方法でございますが、これは御
承知の
通り一応はコークスにする、さらにいろいろの
原料ガスに使うということが
一つでございます。それから
乾溜によ
つて得ました
ガスの中には、エチレンがあり、これを
原料としてグリコール、
アルコール、エーテル、
人造ゴムがつくられるわけであります。そのほか
ベンゾール、グリセリン、アセトン、こんなものがつくれるのであります。そのほかタールから、
ベンゾールやトルオールなどができることは皆さん御
承知の
通りであります。なおこういつた
乾溜以外に
溶解抽出の
技術でございますが、この点は
日本独特のものとしまして、ただいま
資源技術研究試験所において
研究されました膨潤化の
方法がございます。これは
高温高圧による無
灰炭、これは
アルミニウム電解用の電極に使われます。そのほかにこれは粘
結性を増す上に役立ちますし、また
れん炭の粘
結材等に使われる、これは経済的にも成立いたすものではないかと
考えられるわけであります。そのほかこの
石炭を水素化する、これが非常に大きな問題でございまして、私
ども前に
考えたときは――世界でもそうだ
つたのでございますけれ
ども、大体においてこの
水素添加法によりまして
液体燃料をつくるということがおもな
目的にされたのであります。しかしこれは今日では、ことに
日本の場合は、こういう
観点からの
研究ではいけないと思うのでありまして、先ほど申し上げましたように、もつと
附加価値を高めました高級な
製品をねらう必要があるだろう、こう思うのであります。もう
一つ石炭を炭素化した場合、これはすでに
アメリカあるいは
日本でもそういうことに着手されておりますけれ
ども、
アメリカあるいは
ドイツ等でいろいろな
商品名でつくられております。これは
化学薬品とかあるいは
機械工業といつたものに大いに有望視されておるのであります。
製品といたしましては、
耐酸性あるいは
耐アルカリ性あるいは
温度に耐える、こういうような面からいたしまして、ただいま、はつきりはいたしませんですけれ
ども、
原子炉等におきましても、それは場合によれば
炭素材として使えるのではないかというふうに
考えられるわけであります。こんなことからいたしまして、さらに最近の
進歩でございますが、先ほ
ども申し上げましたように、もつ
ぱら石炭の
化学工業ということになりますと、とかく
液体燃料ということをおもな
目的に
考えられますけれ
ども、昨今では、これもでありますか、
ドイツの
コツパース炉とは全然違いまして、たとえば
割合に
粗悪炭も
利用できるように
なつております。
日本ではどんなところに
利用しているかということになりますれば、
宇部地区でありますとか、
常磐地区でございますとかいつたような、どちらかといいますと低
品位の
石炭を
原料にいたしまして高級化した
製品をつくるということであります。たとえばこれを
水素ガスにしますと、従来や
つて参りました
水性ガスにいたしますと、一
立方メーターが十一円五十銭ぐらい、これが私
ども最初使いましたウインクラーにしまして七円八十銭ぐらい、それから今度新しい
コツパース炉、これは前の炉とは全然違つたものでございまして、
立炉に
なつておりますが、これで六円七十銭ぐらい、大体こんな見当に
なつております。こういうものを使いますと、
硫安の
原料に使いましても、そのほかの
化学工業の
原料といたしましても、十分ペイし得るのじやないかと思います。その次はこれまた
ドイツの最近の
進歩でございますけれ
ども、
ドイツの方では先ほど申しました
高温高圧の
IG法あるいは
フイツシヤー法、こういうものが
考えられております。最近ではこれが改良されまして、新しい
フイツシヤ一法が生れまた
オキソ法も実施されておりますが、こういうものをつくりますと、先ほど申しましたような単に
燃料というよりもずつと高級な、たとえば
合成樹脂の
可塑剤あるいは今はや
つております
界面活性剤でございますとか、そのほか油脂を
原料としない石けん、各種の
高級アルコール、
高級航空潤滑油というようなものに
利用されておるのでございます。これはおそらく十分な採算をしてみないとわかりませんですけれ
ども、
アメリカ式の
石油化学製品と
十分競争に耐え得るのではないかということに、私
ども最も
関心を持つ点でございます。なおそのほかに
原料ガスをつくるための
コツパース炉といつたようなもの、そのほか先ほど私が
樺太で
ルルギーの
石炭の
低温乾溜をやつたということを申しましたが、最近ではこの
ルルギーの
ガス炉もそうでございますけれ
ども、
石炭の
ガス化が非常に
進歩いたしまして、これまた私
どもは
注目に値するものと思
つております。たまたま私、前にこの
技術を買いましたときに、
日本に参りました人が、ただいま
ルルギーの社長に
なつております。一昨日私の事務所に参られまして、最近における、
ドイツの
石炭化学工業の
進歩の話を聞きました。この
ルルギーもずいぶんかわりまして、ただいまこれによ
つて、南アフリカでは二十万トンの
人造石油をつくるのに
利用されることに
なつているようでございます。そのほかパキスタン、オーストラリアでやはりこの
ガス炉を使いまして、もつ
ぱら硫安と
人造石油に
利用されることに
なつております。これらもやはり前にはどちらかといいますと、
高級炭を使つたものでございます。大体三八%から四〇%くらいの悪い灰分のある
石炭を使いまして、こういつたような高級な
りつぱな化学製品をつくり得るというふうなことがあるのであります。要するに今日わが国の
石炭化学工業を
考える場合に、以前に私
ども考えたころから見ると、ずつと
進歩しました、今申しましたようなもつともつと
附加価値の高い
化学製品をつくるということにねらいを置かなければならぬのではないかと
考えております。
なおつけ加えて申し上げますと、現在の
石炭鉱業を見ますと、とかく
終戦後の
状態からいいますとやむを得ない事情かと思いますけれ
ども、
石炭を掘る方にだけ努力されておりますが、やはり
石炭を掘ります坑内よりは、もう少し
坑外の方の
合理化に力を尽すべきじやないか、こう
考えるわけであります。また私
ども事業者としての立場からいたしましても、この点に大いに
関心を持ち、また協力をしなければいかぬだろうと
考えておるのであります。たとえば
石炭層から出ます
ガス抜き、これも
大分ドイツそのほかにおいて
進歩いたしましたか、この出ました
ガス、抜いた
ガスをやはり
発電所の
燃料にいたしますとか、ことに最近は
ガスタービンが非常に
進歩いたしましたから、その
ガス・
タービンの
燃料に使うとか、あるいは先ほど申しました
宇部炭等もまた
化学工業用の
原料として使うというようなことが
考えられると思います。これは
ドイツ、
イギリス、
ベルギーにも実際に工業化された例があるのでございます。そのほか今捨てております微
粉炭、これは
石炭局の計算によりますと二百四十万トンから二百五十万トンぐらいと推定されておりますけれ
ども、これらをキヤツチいたしまして、
れん炭原料に使うとか、あるいは
ガス燃料の
原料に使うとかいうようなことが
考えられると思います。そのほかに硬炭の
利用がございます。これは大体二千カロリーから二千五百カロリーくらいまで
利用していいのじやないかというふうに
考えられるわけであります。ただこういうものを
考えますときに、
日本の
炭田は大体どちらかといいますと貧弱
といつてよろしかろうと思います。しかも
亜炭のあるところには
石炭がない、
石炭のあるところには
亜炭がないというふうに都合よくその点は分布されておりますけれ
ども、鉱区が非常に狭いのでありまして、しかも火山の影響を受けてカーボニゼーシヨンが進んでおりますので、
割合質がよく
なつておる場合も多いのでありますが、
断層等も多いために
採掘条件といたしましてはあまりよろしいとは言われないのじやないか、こういうふうに
考えられます。それだのに、なおその上に
炭鉱会社そのもの、あるいは
炭鉱そのものか非常に小さく散在しておりますので、これが今後
日本の
石炭をほんとうに有効に
利用して行く面において
研究を要する点じやないか。これは
産業の
構造とかあるいは
組織、
系列の上からも
考えなくちやならぬ問題じやないか。こう
考えますと、先ほど申しました低
品位炭、あるいは
ガスそのほかに
利用する面でも、どうしても今のような分散した
炭鉱、あるいは小さく割れた
炭鉱それぞれでは
考えられぬことでございまして、今申しました
構造なり
組織なり
系列の上におきましても十分考慮する必要があるのじやないかと思います。なお
ガスタービンについて、先ほ
どもちよつと申し上げたのでありますが、これはあまり
温度が高いことはむしろきらわれるのであります。その点からいいますと、比較的悪質の
ガスでも
ガス・
タービンとしては
利用できるということが最近の
注目に値する問題じやないか、こういうふうに
考えられるのであります。
そこで、時間も超過したようでございますから、大体私の
意見をつけ加えて申し上げますと、この間こちらで決議されたものを大体伺つたわけでありますけれ
ども、
電力なり
石炭なり油というものをただ
エネルギーとして
考えるということは、今日といたしましてはどうだろうかというふうに私は
考えておるのであります。むしろ
化学工業の
原料としての
電力あるいは
石炭、油というふうに
考えることが
日本としては今後重要な問題じやないだろうかと思います。それにはたとえば
石油の問題を
考えましても、最近御
承知の
通りペトロ・ケミカルズが問題に
なつております。ところが
日本は、最初は
太平洋沿岸には
石油の
精製工場は許されなか
つたのでございますが、それが許されましてから点々とあちらこちらに小さな
精製所ができたのであります。それで
外国、
といつてもおそらくこれはカルテルをはずしてのことになると思いますけれ
ども、
製品を輸入する方が、むしろ原油を輸入してこれを精製するよりは安くなるという場合もあり得るのじやないかというふうに
考えるわけでありますけれ
ども、それはやはりスケールの点が違うので、
コストが割安のためにそういうことになるのじやないかと思います。ただいまのところではおそらく一番大きくて一万五千バーレルぐらいじやないかと思います。これまたずいぶん小さなものが散在しておるのでありまして、これは大きく
ペトロ・ケミカルズを
考える場合に、三万あるいは五万、十万、二十万というものを
考えます場合に、やはり
国際競争から
考えるときに、これはまた
相当考慮を要する問題じやないか。やはりこれも
石油といつた場合に、これをただ
燃料として使うという以上に、
化学工業という面に
重点をもつと置くのがいいのじやないかと思います。
電力にしましても私
ども化学工業に
関係しておる者から見ますと同じように
考えられます。ただそれをパワーとして使う、
エネルギーとして使うというだけではなくて、これは現在でもそうなんでございますけれ
ども、
化学工業原料としての
電力というものをもつと
考える必要があるのだろうと思います。それから
石炭は、これまた先ほど申しましたように
条件もよくございませんし、
コストも高いのでありますから、ただ
採掘面だけの努力によ
つてやるということじやございませんで、さらに使う方も
石炭ともつと密接な
関係を持ちまして、これを高度の
製品として使
つて行くという面に大きく
重点を置くことが必要じやないだろうか、こう
考えられるのでございます。
そういふうにだんだん
考えて参りますと、結局は、やはりこれは総合的にだれかどこかで
考えることが最も重要なことでございまして、この点は最近原子力の問題とか、あるいは
航空機研究の問題といろいろ
関係がありまして、その都度思いついたように問題にされておりますけれ
ども、私
どもはかねてから問題にしてお
つたのでございます。ひとつ何かまとめてこういうものを
調査研究並びに企画するところの機関が必要じやないかということを
考えてお
つたのでございます。自由党でもあるいは野党の方でも
技術企画庁の問題が取上げられて、結局は問題がなかなか進まぬようでございますけれ
ども、私は今日の情勢から言いますと、ぜひこういうものが一日も早く成立いたしまして、こういつたような
総合燃料エネルギーの問題を超越いたしました、さらに
化学工業原料という見地からいたしまして、こういう問題の解決が容易にはかれるような仕組みになることを希望いたす次第でございます。
大分時間を超過いたしましたが、以上をも
つて終ります。