○金子
参考人 私は、今回
法案として
提案されました
企業資本充実のための
資産再
評価等の
特別措置法案の趣意に対しましては、
賛成であることを申し上げたいと思います。
ただこの
法案が再
評価の
強制を伴うという
意味におきまして、一、二
意見があるのでございます。この
資産の再
評価という問題は、理論的に考えて正しいと思うことも、それを実際の
企業経営に適用する場合にその
通り考えてよいかどうかということは、おのずから別個の問題であると思うのであります。従
つて本案を考える場合に、的にはよろしいと考えられても、それが
企業の
実情に合うかどうか、また日本の
経済事情に即するかどうかということをあわせて考えないと、この
法律をほんとうに生かして行くことはできないのではないかと思うのであります。特にこの
資産の再
評価の
強制という言葉だけで言うならば、シヤウプ勧告においても
強制が指示されておりますので、当初からこれを
強制すべきか、あるいは任意にすべきかということは、今日まで論議されていたのであります。ただ注意しなければならないのは、
資産再
評価という言葉に狭義と広義があるのであります。狭く解釈いたしますれば、今回の
強制措置のように、帳簿価格を再
評価いたしまして、
反対勘定として再
評価積立金を設けること、これが一応
資産の再
評価といわれておりますが、当初われわれが
資産の再
評価というのは、単にこれにとどまらず、
減価償却をそれに
従つて増大し、この名目利益を
修正し、これにかか
つていた税金を排除し、
資本の食いつぶしを是正するという処置、並びに再
評価積立金を
資本に組み入れるという処置、この二つをも含めた
意味の再
評価の
強制が考えられていたのであります。
従つてこれらが全面的に実施できるかどうかということは、
企業の
実情を勘案しなければならぬのであります。今日までは、全面的の今申し上げたような再
評価の
強制は無理であるということで、簿価の再
評価に今回はとどまつたわけであります。昨年同友会におきまして再
評価の
強制ということを取上げたのも、やはり
資本の組み入れ等を
強制の考え方の中に含めたものでありまして、それらについて割切
つて行かないと問題が混乱すると思うのであります。
そこでこれらの
資産の再
評価、言いかえてみれば、狭義であろうと広義であろうと、これが実施できるかできないかということは
企業の収益力が正常であるかどうかにかか
つているのであります。日本の各会社の収益力、また経営
状態というものが正常であるならば、こういう問題は、どんなに
強制いたそうと
支障なくできなければならないわけなのであります。しかし遺憾ながら現在の
わが国の
企業の
実情は、
減価償却費を増大し、あるいは再
評価積立金を
資本に組み入れるということになりますと、りくつではこれが合理的な
措置であるとして認められても、実際は行い得ないのであります。ここに、今回の再
評価の
強制ということが帳簿価格を再
評価するという経理上の処置によ
つてなされる
程度にとどまつたということが言えるのでございます。ただこれだけでも非常に意義がありますので、今後は各会社が
企業の収益力とにらみ合せて、そうして
減価償却費を増そう、あるいは再
評価積立金を
資本に組み入れようと考えたら、随時これがなし得るという態勢に置かれたことだけでも大きな意義があると思いまして、この点におきましては全面的に
賛成する次第でございます。しかしながらここに問題となりましたのは、これだけでは
企業に何ら実質的の影響をもたらさないということで、何とかしてこの
減価償却費を増して
資本の食いつぶしを防がせよう。または再
評価積立金を
資本に組み入れて、
資本に対するところの利益率、
配当率を適正にさせようということが、
強制はできないが、
配当制限を条件といたしまして
促進させようという当局の意向も、またおのずからわかるのであります。ただこれらがはたして現在の
企業の
実情に合うかどうかということは、すでに他の
参考人からも述べられておりますが、この点についてもひとしく私見を述べてみたいと思うのであります。しかし、まずこの問題について考えます前に、一、二
法案の箇条に
従つて気のついたことを申し上げてみたいと思います。
この再
評価の対象となります
資産という中に、土地が取残されているということは、これでよろしいかどうかということであります。従来は土地が
減価償却の対象にならないということで、特別扱いを受け付けたことは明らかでありますけれども、今回のごとく会社の
資本構成を是正するために、再
評価積立金を自己
資本として計上させるということになりますと、土地だけが昔の低い価格で残
つていてよいのかどうか、この点は一応指摘しておきたいところであります。ただ土地には六%の再
評価税がかか
つておりますので、これを取除くことが、土地の譲渡をいたしました場合の譲渡所得との
関連もあ
つてできがたいというのであるならば、これは個人の場合のように、譲渡の必要が起つたとき、そのときに課税すればよろしいと思うのでありまして、そういう
措置が講ぜられるならば、土地の再
評価も、一応
強制しないまでも、できるように、任意にさせることがよろしいのではないか。現在もちろん土地の再
評価は任意にはな
つておりますが、六%の税がかか
つているからには、実質的にはこれはなし得ないのでありまして、これを妨げていることを認識いたさなければならないと思います。
次は、陳腐化
資産の問題であります。陳腐化
資産の問題は、今回の再
評価の
強制をするにあた
つて一番がんにな
つている問題と思います。何となれば、再
評価を
強制するとい
つても、陳腐化
資産であるとい
つて、この最低限度額をやらないで、これがのがれてしまうというおそれがもしもあるならば、この
強制ということはある
意味において骨抜きになるおそれがあります。しかしこれは
企業といたしましておそらくそのようなことはいたさないにいたしましても、逆に当局からこれは陳腐化でないと考えられて、ここに論争が起る心配があるのであります。何となれば、陳腐化
資産というのはまことに客観性が薄いのであります。
従つてこれらの論争が起らないように、当局も
企業の
実情を理解してやるべきでありましようが、
法律においても、でき得る限りこれらに対する
措置が適正に講ぜられることを希望いたす次第であります。
それから次に問題になりますのは、先ほどから
西野並びに小池
参考人から申し上げました問題で、この再
評価積立金の四割を
資本に組み入れることが一割五分の
配当制限とからみ合
つていることでございます。ここに私はこの問題について指摘いたしたいのは、再
評価積立金の四割、これだけでは
意味をなさないということであります。何となれば、この再
評価積立金の四割が
資本とどういう
割合にあるかということを考えなければならない。
資本金が少くて、再
評価積立金が多い会社は、この四割を組み入れますと、
資本の数倍増資をしなければならないことになるおそれがあるからであります。また
資本が比較的大きく、再
評価積立金の少い会社は、一対一の増資によ
つてこの問題が片づく場合もありましよう。かかる場合においては、この会社において無償株交付を一対一で一回いたしますれば、あるいはこの問題を
解決できるかもわかりません。かかるように、この
資本金対再
評価積立金の四割というものを考えないで、軽々に四割だからよかろうということでこの問題を取上げることは危険だと思うのであります。しかしながらこれは
西野参考人も申された
通り、私自身としても、今日
資本金に再
評価積立金を全額たとい組み入れても、会社といたしましてはこれに対して適正な
配当がつき、そうして
資本が適正化すという利益が受けられるというような経営
状態で本来ならあるべきだろうと思います。しかし遺憾ながら現在の日本
企業の大部分は、これらのものに耐え得るような事情にないのであります。これらは冒頭に申し上げました
通り、理論的には望ましいことであ
つても、この問題は現在としてはむずかしいのであります。特に本年度から今後一、二年の間を想像いたしますのに、増資すらも、あのように一割までは非課税だというような優遇を受けながら、実際は行えないのでございます。それからまた現在この上無償株を三年の間に交付するといいましても、無償株を交付すれば、その会社がそれによ
つて適応するようなりつぱな収益力があるならば問題はないのでありますが、この問題が伴わないと、比較的悪い影響が起
つて参るのであります。そこで問題となり、もう
一つ考えなければなりませんのは、この再
評価の積立金を
資本に組み入れて
資本金を増すというと、必ず
配当率が下る。またこれが
目的であるように聞いております。しかしこれがおのずと増配になるということはあまり多く問題にされてない。これは私はぜひ申し上げておきたい。つまり
配当というものが増配であるか減配であるかということは、率などをも
つて考えては非常にこれは矛盾を来すのであります。利益のどのくらいの
割合を
配当にまわすかということが、
配当の
割合を決定する問題でございます。それを率が少くなるから
配当する
割合が減
つたのだ、こうお考えになるのはおかしいのでありまして、現在三割
配当しておる会社が一対一で無償株の交付をして、再
評価積立金を
資本に組み入れますれば、一割五分に
配当が下るというなら問題はないでしようが、多くの会社は三割から一割五分にはいたしません。二割という
配当にとどまりますならば、これだけ会社といたしましては
配当にまわる金額が多くなりまして、そうしてそれだけ増配という問題を起すのであります。かかる問題は、本来会社の収益率が適正ならば、これも合理的な
措置と思うのでありますけれども、現状ではむしろ
資本蓄積を慫慂すべき時期でありますので、これらの
措置も矛盾を来すのではないかと思います。こう考えて参りますと、このような
措置は理論的には正しいけれども、実際は現状にはあまり適しないのではないか、
従つて資本の四割を組み入れを急がせるということがこの現在の
経済界の
実情と沿わないということになれば、この問題については再
検討する必要があるという点であります。しかし
法律はそのような事情がわか
つておるから、一割五分に
配当を制限して
強制しないのだというところにこの問題が考えられるのでありますが、しかしこれは、私は
西野参考人の申したことについてなるほどと考えさせられるのは、一割五分という中途半端の問題を取上げておることでございます。これをほんとうに理論
通り資本に組み入れた方がよろしい、またそうすることが日本全体の
立場からい
つてよいということにきまるならば、また
実情がこれを許すならば、私は
配当制限というものをもつと低目に持
つてい
つてもむしろいいくらいであります。いなまたそういう
配当制限ということをとらないで、何らかの形においてこれを
強制してもいいと思う。しかし現状はそれを許さないことは明らかであります。そうなれば小池
参考人が言われたように、一割五分の
配当という制限を、何らか株価の上におきまして、また株の利まわり採算の点から見ても、むしろいつそのこと二割
程度に引上げて
調整することが
実情に合
つていいのではないかという感が深いのでございます。それは現在でも、一割五分の
配当をしている会社は総会社数の四割だと聞いております。それならばこのような
経済事情のもとにおいては、三年後においてはおそらくその間に増資もありましよう。また経営
状態もなかなか困難にな
つて参りますので、おのずと一割五分の
配当に大部分のものが入るのではないかということも考えられます。しかし中には、
企業努力によ
つてせめて二割
程度まで
配当したいという
企業があ
つてもよろしいのではないでありましようか。またそれらの希望があることが、株式市場に非常によい影響をもたらすものと私は思います。一割五分で、これ以上はなかなか
配当が容易でないということを言われるよりも、ほんとうに力は一割五分でも、努力すれば二割になり得るのだという余地を残すことが必要であります。こうなるならば、現在の
資本組み入れを
強制するような、
促進するような感じのある問題は、
実情に遺憾ながらあまり合わないとするならば、その
配当を一割五分に条件をつけることの方が悪い影響があるとするならば、この際これをむしろ緩和して、この問題を
調整した方がよろしい。将来
わが国の
企業の収益力が増大し、そうしてこれらの
資本を組み入れても、無償株を発行しても
企業の経営にあまり影響がないという時期が来たら、あらためてこの問題の再
検討をされることがよろしいのではないか、このように考える次第でございます。
従つてこの
資本組み入れの問題につきましては、理論的に考える面ばかりでなく、
経済の
実情とよくにらみ合せて、できる限りそこに
調整をとられんことを希望してやまない次第でございます。
なお
減価償却費の励行につきましては、これは九〇%とは言いながら、
強制の線から行きますれば、八割に対する九〇%でありますので、七割二分であります。
従つてこれに対しては、ある
程度まで
企業といたしまして、実際的にこれだけの
減価償却費をやらないで、高率
配当をするのはどうかということを言われてもやむを得ませんので、この問題は第二次的にいたしまして、原案に賛意を表してもよいと私は考えております。
以上であります。