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井上委員 問題は、吉田内閣が対日援助の問題について、債務と心得ておるという方針を
決定したことに問題があろうと思います。今山本さんからもお話がありましたように、これはアメリカを中心とする連合国が、日本は占領政策の必要からとられた政策であります。当時日本の占領下にあ
つて、日本自身主権を持
つていない。日本が主権のない占領下に置かれて、一切の生殺与奪の権が連合軍に握られておる状態において行われたことなんです。だが日本国民としては、当時の物資
不足その他の
関係から、このアメリカの多大な援助に関して、あなたは当時おりませんでしたけれ
ども、
国会ではたびたび感謝決議をいたしまして、この援助に対して道義的な感謝の意を表しておるのであります。また単に
国会のみならず、民間の各種の公共団体においても、それぞれの機関においてたびたび感謝決議をいたし、アメリカ軍当局にその会場までわざわざ出向いてもら
つて、感謝状まで渡しておる、こういうことでありましたけれ
ども、国民は、これは単にお恵みのあるものとして、ただでもら
つておりません。全部金を支払
つておるのであります。金を支払
つておりますが、ただ問題は、今日
政府でこれを債務と心得て、アメリカ側との間において今後交渉の上である一定額が債権として取立てられるということになりますと、国民は二重に支払わなければならぬことになる。すでに一ぺん代金を払
つておるのに、再び
政府が
予算の中から債務を支払うということになれば、国民は二重の
負担をしなければならぬことになる、そういう問題が
一つ起
つて来る。
それからいま
一つは、二十六年の七月以来対日援助は打切られておる、その後日本が独立し、今日まですでに三年になろうとするのに、
政府はこの問題に対して何らアメリカ側と折衝もしていないということは、はなはだしくこれは怠慢ではないかと思う。それほどあなた方はアメリカの援助に対して、債務と心得るというほどアメリカに義理を尽さなければならぬのなら、進んで、
一体あれはどのくらいの
程度に負けてくれるかとか、どの
程度にいつ話を進めたらいいかとかいうことを、すみやかに話をすべきなんです。それを何ら話をせずに、そのうちにちようど再軍備問題と一緒に、知らず知らずの簡単備はどんどん進められて行くという
行き方と一緒に、表向きやれば国民はぐずぐず言うから、どこか陰で、知らぬようなところでこそこそと相談をまとめて、それでどうしてもこれだけ払わなければならぬことに
なつたというところへ持
つて行くような気配がしてしかたがないのです。それだから、あなた方の当然
法的根拠に基く債務と心得るというその
考え方自身にあやまちがありませんか。これは
国会の論議でありますから、このことはただちに対外的にも影響する問題であります。二十一億ドルという金額は、日本の一箇年間の
予算に匹敵する厖大な金額であります。日本の一年間の
予算に匹敵する厖大な金額が、
政府のいわゆる
考え方一つによ
つて債務となるかどうかという重大な問題にな
つている。今の日本の
財政経済の
実情は、あなたみずから
御存じの
通りでありまして、国民に耐乏さえ要求せなければならぬ
実情にある。そういうときに、こういう問題を軽率に債務と心得るなんということを一方的に言われても、われわれはそれをそのままのむわけには参りませんぞ。これはもう少し内閣としては慎重にお
考え願いたい。現にアメリカから援助を受けたイタリーは、これを全部棒引きにしてもら
つておる。ドイツは日本よりはるかに多くの援助を受けたために、その一部分を
負担することにな
つておりますけれ
ども、アメリカの第一線基地として、アメリカみずからが日本に駐屯軍を置かなければならぬというこの国際的な
立場から、日本に負わされたアメリカ側のいろいろな任務というものは有形無形に日本国民にいろいろな
負担をかけておるのです。この事実から
考えて、占領当時から今日まで参りました援助は、当然アメリカがそれを
負担すべきものであ
つて、日本のようにやせ細
つたこの国に、一年間の
予算に匹敵するような厖大な負債を要求する
一体何の権利がアメリカにありますか。そういう点からお
考えになり、もつと強い腰でも
つてこの問題は交渉してもらわなければならぬ。私はそういう
考え方を持
つておるが、あなたが債務と心得るというのは
一体どういうところから来ているのですか。徳義的な上における問題ならば、山本さんがおつしやるように、われわれはそれは困
つたときに助けられておりますから、当然その恩義は
考えます。また日本がそれだけの
財政的余裕ができましたならば、アメリカに対してそれだけの恩義をまたわれわれも返すときが来ましよう。しかしわが国の置かれておる現状は、この狭い国に八千数百万の国民をかかえて、どうして生きて行くかという重大な段階に立
つておるのです。そういうときに、この問題をそのままいいかげんにされて、しかもこれが何か再軍備の問題と交換条件のようなことで話が重ねられておるように
考えられる。これはまことに国民としては心外でなりません。せつかくのアメリカの好意が、逆に反米的なものの
考え方に転化する危険さえ起
つて来ますぞ。そういう点をあなた方はどうお
考えになりますか。一国の大蔵大臣としてひとつ真剣にこの問題をお
考え願いたい。この点に関するあなたのほんとうの心境をお聞かせ願いたい。