○
横山参考人 私は
横山です。この
事件につきましては、大体経過はすでに御存じだと思いますが、ごく簡単に申し上げまして、それからいろいろ
損害等のことに及んで行きたい、こう考えます。
三月一日に
マーシャル群島の
東南側にあります
ビキニ局におきまして、強力な
原爆の
実験が行われました。距離の算定の仕方はいろいろありますが、たまたまその東方大体百マイル近くと私は考えておるのでありますが、そこにおりました基地を
焼津に持
つております第五
福龍丸が、その
原爆によ
つて降
つて来た灰をかぶ
つたのであります。当時
乗組員は、これが有害なものとは考えておりませんので、そのまま漁が終
つたものでありますから、片つけまして
焼津港に帰
つて来ました。それが十四日、
ちようど二週間目に帰
つて来られた。漁のしまいの方の日であ
つたものでありますから、ほとんど大
部分はいつものようにと
つたものをきれいにしまして、硫酸紙で包んで念を入れてつく
つてありますところの
漁倉、いわゆる
冷蔵庫でありますが、その
冷蔵庫たる
漁倉の中に氷と
一緒につめて格納してお
つたのであります。この
漁獲につきましては多少の
まぐろがあ
つたようでありますけれ
ども、さめが大
部分でありまして、そのさめは御承知のように今非常に値が安いのでありまして、船腹の
関係もありまして、
ひれと
肝臓をとりまして、
あとはみな廃棄しておるのであります。この
肝臓はやはり
冷蔵庫の方に入れますが、
ひれは
デッキの上につるしてほすのであります。この
ひれには相当の灰がくつついておるのでありまして、これを結果的に
検査してみますと、その
ひれは一番有害であるということになるのであります。その他の魚は、もちろん
原爆の直撃を受けたわけではありませんので、灰が多少皮膚についておるというような現象であ
つたのであります。そして陸揚げされました総量は大体二千四百貫足らずであ
つたのであります。この中にどうして反能のあ
つた魚が現われたかにつきましてはいまだに判然しないのでありますが、私
どもの判定によりますと、おそらく
デッキにまだあ
つた灰が若干くつついたのではなかろうか、こういうふうな感じをいたしております。これらが十六日に
出荷地に着くような状態で、かなり広く出荷しておるのであります。ところが
従業員がどうも顔なんかがおかしいというようなことで、船主の注意で
医者にみてもら
つた。初めのうちは
医者は、それほど重要視しておりませんでしたが、どうも容態が普通のできものなんかと違うというので、県の衛生の方や何かと相談をいたしました結果、
原爆灰の
被害だということがわかりまして、
出荷地に対して県の方から
指示いたしまして、
漁獲物については注意してもらいたいというような通知を出し、その結果、
東京都といたしましては、
今市場長が説明されたような
処置をと
つたのであります。こういうケースは
日本では初めてでありますから、
出荷先ではかなりいろいろな形が現われまして、私
どもが全面的に
納得の行かないようなところも多々あるようでありますが、とにかく疑われるところの
漁獲物の処理はもうされて
しまつた、こういうふうに私
どもは信ずるのであります。しかるにこの
報道が時節柄きわめてニュース・バリューがあるために、いろいろ貸出しや何かでもって、かなり興味を引くような形で現われて来たのでありまして、
国民に異常な
恐怖感を与えまして、それが遂に
まぐろはもちろん他の魚にまで及びまして、大きな旋風がここに起りまして、
関係者が今多大の
損害を受けつつある途上であるのであります。私
どもは当のかつお・
まぐろ船の方に
関係しておる団体でありますから、いち早くこれが
対策を講じたのであります。私
どもだけではなかなか十分でないと感じまして、まず近まわりの
業者の方方、それから
荷受関係の方とも相談しまして、とりあえずこれの
対策本部をつく
つたのであります。そうして第一に私
どもが考えましたのは、各般の
部門をこしらえまして一時に
活動しようといたしましたが、手も足りないし、またこの
活動が、非常に
感情的にな
つておる
国民大衆にどういう
影響を与えるかについて一番悩んだのであります。デモンストレーシヨンや何かいろいろなことをやろうというので、
作目までほとんど
昼夜兼行でや
つておりますが、われわれが一番憂えますことは、もうすでに
被害をこうむ
つた船につきましては、
損害についていろいろ見てもらうところもありますので、それはまず
静岡県庁及び
業者の方にまかせまして、非常な
被害の起りつつある、すなわち魚を食わないということで起
つておるところの大きな
被害の防止に死力尽くしたのであります。先ほど申しましたように、どういう形でこれを処理するかに一番悩みましたが、第一は、現われるところの
報道をできるだけ是正してもらう、また
報道されない前にこれを是正してもらうことが
一つ、それから官庁の方でも
いろいろ手をつけておるようでありますが、主として
厚生省の方の
関係でどうも私
どもが必ずしも
納得のできないようなあり方であ
つたことに対しましては、これは通知された先あるいは直接
厚生省に向
つて、こういう
方法で処理していただきたいということも要望いたしました。それから
ラジオ、
新聞いろいろな
パンフレット等について、かなり多くの手を打
つておるのでありますが、何分にも
業者が
名前を出すことは、どうかすると逆
効果を、いわゆる売りたいというようなところへすぐ持
つて行つて、
感情を静める上において必ずしも有効でないというようなことで、極力私
どもの
名前を入れないで、そうして公平な
立場にあられる
方々の発言やあるいは
座談会とかいろいろな
方面に、
新聞でも
ラジオでもいろいろな
部門がありますから、少しでも
効果のあるようなところへはみな私
どもは手を打
つております。そういうようなことで今日まで参
つておるのでありますが、まだ十分に
効果が上
つておらない、ま
つたく
効果が現れておらない点ははなはだ遺憾に思
つておるのであります。
業者によりましては、非常な意気込みでもって、あるいはデモでも何でもや
つてくれという要求はずいぶん出るのでありますが、さてこれを取扱う上においては、どうしても慎重の態度をとらざるを得ないというようなことで、苦しい
立場で
活動をしておるような現状であります。
それで私がこの席で各
方面にお願いしたいことは、有害である魚と無害である魚との
けじめ——これはもう当初から当局の方にお願いしたのでありますが、これをできるだけはつきりさしてもらいたい。とにかく疑いを持つといういわゆる
感情の問題であるのでありますから、それの解決にはどうしてもそれが第一に必要である。ただ安心せい零せいといいましても、なかなか
納得をしてもらえないのでありますから、その
方法をできるだけと
つていただきたい。これが第一の希望であるのであります。
それから
大衆の
啓蒙——というとはなはだなまいきなような言葉でありますが、たとえばガイガーの
測定器による
数字の表わし方が二つありまして、
一つはカウンターが一万以上を出ても、よほどその上でなければ有害とは言えないにかかわらず、その
数字がもう
一つの単位のいわゆる六ミリぐらいでも有害だという、これとごつちやになりまして、私
どもは、
新聞社が書かれる前にこれを訂正してくれというようなことも交渉いたしましたが、そういうような点がありまして、どうも出る記事が非常に
大衆を迷わすようなことがありまして、私
どもはある
新聞を使
つたり、ポスターなんかを
大衆に配
つたりなんかもしておりますが、そういうようなこともあるし、また学者などの発育で、海の魚が、ことに
南方からと
つて来た魚がどうも怪しいとい
つたような発言をする人もありますから、これをそうでないというふうな御家もしてもらわなければならないというようなことで、いろいろや
つてもら
つておるのであります。だんだんおちつきつつあることは、非常に私
どもは弾んでおるのでありますが、ここで一体どういう
被害があるかということを申し上げた方がいいんじやないかと思うのであります。
第一直接の漁
業者の
被害といたしまして、漁場の
関係でありますが、御承知の
通りまぐろ船の
活動範囲は
日本から四千マイルの距離にまで及んでおるのであります。この問題の位置は大体二千マイルくらいの所であります。
活動しております範囲の半ばのような所であるのでありまして、時期によ
つてその付近で漁業をや
つていい場合と、そうでない場合があるのでありますが、中型の漁船の最も先端になる所なのでありまして、大型船でありますと、これを迂回してそこを通らないということになるのでありますけれ
ども、中型船は大体先の方の終りごろでありますから、あそこらでそういうあぶないことがありますと、もう大分手前の方から行かない、あの方向へ行かないというところに相当の
被害があるのであります。それから間接的といいますか、この方が一番大きく
つて深刻であるのでありますが、船に乗
つておるままで売れませんから、荷をはかせない、これが第一にあるのであります。その次が
価格の低下であるのであります。
価格の低下は、先ほど
東京都の卸
売市場長の言われましたようなものと、さらに、長く船に置きますために
鮮度が落ちる。いわゆる
そのもの自体の質が落ちて来るということもまた
価格の低下の中にあるのであります。それから出漁をしない。大型の方はただ順送りに遅れるだけであります。小型はもちろん近海でありますから何も
関係がありませんが、中型の方は、先ほど言いましたような
関係で、迂回はその船の航続の能力から言いましたらできぬのでありますから、手控えて出漁にてんでそちらの方に行かぬということ。それから売
つた魚の代金の回収が非常に不円滑になる。魚を売
つてもすぐ金が受取れない。これはずつと配給
業者の方が困
つておるのですから順送りになるのでありますが、その金の受取りが非常に不円滑である。そのために油屋とかその他のところからの買物がスムーズに行かない。銀行が——もつともこれは金融が非常に逼迫しておる
関係でもあると思いますが、銀行が今までのようにすらすらと融資してくれないというようなことで、船主は経済の損失でありますが、
従業員の方はただちに
生活の困難というところに今直面しておるのであります。こういうふうにどうも算定のはなはだしにくい、しかも深刻で大きな損失があるのでありまして、私
どもはこの基礎になる今調べはしておりますけれ
ども、金額がどうしてもまだ出て参りませんので、はなはだ遺憾とするのでありますが、大体
損害の項目だけを申し上げたのであります。いずれはこれに金額を当てはめまして、そうして補償なりあるいは救済なりをやらなければならぬ、その
処置をしなければならぬ、こういうふうに存じておるのであります。
それから最後に
原爆のことにつきましてでありますが、これは漁
業者といたしまして、こういうふうな直接間接の大きな
被害がすでにあ
つたのでありますから、今後はでき得ることならばあの
場所をかえてもらいたい、これが第一であります。もしどうしてもかえられなければ時期を極度に少な目にし、
被害の区域をできるだけ狭くする。但しこれは安全度を考えてもらわねばなりません。われわれはそういう希望を持
つておるのであります。なおいま少し私
どもの
対策をやりますところの範囲を広げまして、そうしてこの
原爆の問題については、
協議の結果ある
意見を立てたい、こういうふうに存じておるものであります。
それからこれで終りますが、これはこういうところで申し上げていいかどうかわかりませんが、当の第五
福龍丸の船主及びこれの出荷をいたしました
焼津漁業協同組合の組合長から、知らぬこととはいいながら、非常に大きな
損害を
業者並びに
関係者にかけまた
国民に非常な
恐怖感を与え、それから少しでも栄養に対してのさしつかえを起したことについてははなはだ遺憾であ
つて、どういう陳謝の仕方をしていいかわからないが、いろいろな私の発言の機会にその意思を伝えてくれということでありましたから、この機会にそれも申し上げたいと思います。