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金森国会図書館長 昭和二十八年四月から二十九年三月まで、つまり過去一年間の
図書館の経過の大体の御
報告を申し上げたいと思
つております。しかし、その内容につきましては、おもに数字が基礎にな
つておりますので、印刷いたしましたものを二部お手元に差出しました。
一つは実質的な
報告の要綱でありますし、
一つはその
報告の材料となりますこまかい計数を差出しておるのであります。大体そのような数字に基きまして、幾らか重要な点を口頭をも
つて申し上げたいと思います。
この年度の中で行いました業務のうち、おもなるもの数項目を申し上げたいと思
つております。
一つは、印刷カードの一枚売りということであります。御承知のように、
図書館は、日本で発行せられまするところの書物について印刷カードをつくりまして、これに必要な印刷をいたしまして、どこの
図書館でも、カードを置きさえすれば、わざわざ自分のところでカードをこしらえなくても済むというふうな
事業をだんだんと完成さして来ております。こういたしますれば、日本中の
図書館の
仕事が相当はぶけまして、一枚のカードを買うことによ
つて、人件費も相当節約できるということにな
つております。ところが、実際は、金の都合で一枚ずつ買いに来られましても、これを引受けておると、手数がかか
つて、また経費もかか
つて、とてもやりきれないというので、研究を続けておりましたが、いよいよ各方面の要望に応じまして、印刷カードの一枚売りを始めることにいたしまして、印刷カード販売規則を少し
改正いたしまして、昨年四月一日から一枚売りを実施しております。
一般からごらんになりますと、これは小さなことのように見えるかもしれま
せんけれ
ども、しかし、だんだん発展して来ますと、日本の
図書館が、一冊本が出るごとに自分のところでカードをつく
つて、学問的な分類をすると、非常に不
経済なことであります。そこで、一枚売りの
制度というのは相当意義深いものと思
つております。この三月末までに一枚売りのカード総数九万四千二百十二枚を販売しております。しかし、なかなかこれは、各地方の
図書館等において経費やそのほかの都合もございまして、そう急速な進展を見られないかもしれま
せんけれ
ども、これを拡大してお役に立つようにして行きたいと思
つております。
次に第二として、
図書館資料を写真で複写するということの
仕事の実施と、マイクロフイルムの施設を充実したということであります。近代
図書館におきましては、本を読ませるというだけではなくて、
図書館にある資料を写真等によ
つて複写をいたしまして、これを手軽に人々の手に得させるということと、それからマイクロフイルムによ
つて書物を写すところの施設をするということが、かなり重要性を持
つて来たわけであります。この三月末現在までに六万五千百四十二こまのマイクロフイルムを希望によ
つて写真複製をいたしました。それから、マイクロフイルムを写すことの施設につきましては、御承知のように、さきにロックフェラー財団からかなり大がかりな設備の寄贈を受けまして、その品物もだんだん到着をいたしまして、大体最近におきましては、あとから注文したものわずかを除きまして完備したわけであります。目下その施設のとりつけを急いでおります。ある時期にはこれが十分働き出すというふうに
考えております。
それから第三には、マイクロ写真の展示会をいたしたことであります。近ごろマイクロ写真ということが相当やかましくな
つて来ておりまして、この
方法によりますと、日本の
図書館事業が非常に発展する。のみならず、
図書館ばかりではない。あらゆる
意味におきまして、たとえば裁判所の記録とか、あるいは戸籍謄本とか、こういうものがマイクロ写真にな
つて行きますれば、
能率も上り、経費も減る、確実さも持てる、こういうふうな時代にな
つて来たのでありますが、そこに多少宣伝の
意味をも含めまして、
図書館では、昨年の十一月初めの、いわゆる文化の週間というときに、マイクロ写真の展示会を開催いたしました。大体日本で得られるあらゆる種類の機械、あらゆる方面の発達を人々に見られるようにいたしまして、一万五千余人の入場者がございました。
それから第四は、PBリポートの購入であります。前から申し上げてお
つたのでありますが、PBリポートにつきましては、昭和二十七年度の補正
予算——今としては古くなりましたが、昭和二十七年度の補正
予算によりまして、その購入費が七千万円認められまして、そのうち一千万円は施設の費に充てまして、六千万円をも
つてPBリポートの第一次の注文をいたしました。ここまではすでに御
報告しておりますが、昭和二十八年度の補正
予算で、また科学
技術振興費として、
国会図書館の分のPBリポート等の購入費が認められましたので、いろいろとそれによ
つてまたPBリポートの第二次の発注を行いました。今まで注文をいたしました総数は十万三千九百九十四件、約十万四千件でございます。それから第二次に三千五十件、その注文の中でこの三月の末までに五万五千五十九件だけが到着をしております。外国では仕掛が発達しておるから、注文したらすぐにも大部分が到着するかと思
つておりましたが、なかなか数が多いのでありまして、一応写真に写して整備しなければならぬのでありますから、自然遅れるものと思いますが、ともかくも五万七千件以上が到着をしておりまして、その全部を今公開しております。
次に第五といたしましては、原子力
関係の資料の購入ということであります。これは昭和二十八年度科学
技術振興費の中に含まれておるものでありまして、その二千万円をもちまして原子力
関係資料を収集することになりました。これは、私
どもの原子力資料というものは、書物、雑誌等の文献を買うことでありまして、しかもその
範囲はひとり科学ばかりではございま
せん。医学あるいは政治、
法律というような面にも及ぶくらい、いやしくも原子力ということに
関係をして、日本での心構えをする上の必要なる文献という
意味であります。原子力をある
意味で積極的につくる、こういう
意味を離れて、もつと広い
範囲において収集いたしておるものであります。これはなかなか資料が得られないのでございますが、国内の資料はもとよりといたしまして、外国に対しましても単行本二千六百四十三冊、雑誌二百二十種の注文をいたしました。この三月末までには単行本が七百五十八冊、雑誌百六種が収集されております。これが入りますれば、日本の研究家にかなり自由な
方法で貸し付けて、十分利用してもらいたいと思
つております。
それから次に、PBリポート及び原子力資料の閲覧室の開設であります。これは、赤坂の本館のわきのところに、場所がありま
せんので、宮内庁所有のコンクリートの建物一棟を借用いたしまして、そこでPBリポート等の閲覧をさせることになりまして、各種の米国製のリーダー、読む道具、ドイツ製の道具、国産の道具、合せて十合目ばかり備えつけております。これをここで開設いたしまして以来、あまり閲覧者は数は多いとは言えま
せんが、四百五十人、それからまた写真を複写してもらいたいというのが二万三千八百二十三こまと申しますか、ページに上
つておるのであります。
いま
一つ第七として申し上げたいことは、これは科学、発明等に属しますPBリポートを東京だけに備えつけておくということでは、
全国の人がこれを利用することが困難であります。しかもそんなに幾つもこえることができま
せん。いろいろ
考えておりますうちに、
国会の協賛を経まして、
予算等もいただきました。そこで、ただいま大阪の方へ持
つて行きまして、PBリポートを利用する人の便宜のために、全部の複製を大阪に備えつけようという計画を立てまして、今日までこまかい写真を拡大して目で読めるように、写真の八つ切りに当りますが、目で読める程度の大きさのものにいたしまして、ただいまのところでは二百十五万一千五百ページだけ複写いたしまして、大阪の府立
図書館にその閲覧室を開設いたしました、私は昨日大阪の府立
図書館に行
つてその大要の様子を見て参りましたが、まだ、実情をいえば、われわれの予想する約十一万件を一ぺんに備えるわけに行きま
せん。今のところその一部分を持
つて行
つておるにすぎま
せんが、ずいぶん各方面の注意を引きまして、新聞紙等も確か八紙がこれを書き立てておるような次第でございます。
次に第八といたしまして、
図書館の建築の
予算、それから建築の準備のことを申し上げたいのでありますが、これはいろいろ変化を遂げまして、二十八年度つまり昨年度におきましては八千五百万円が計上をされましたが、いろいろ
予算の成立が遅れて、大蔵省との交渉に手間取
つた等のために、実際
予算を使うことができるようになりましたのは十月であります。それ以来いろいろの基本となるべき設計の作成その他の準備をいたしましたが、これが遅れまして、実際の経費としては八百二十七万四千円を使用したにすぎま
せん。その他の金額はまだ使わずに残
つておるわけであります。いろいろ財政
整理等の
関係もございまして、現在七千三百三十万円ばかりは二十九年度の工事費に繰越すこととし、大蔵省の
承認を得ております。
次に、建築の準備について申し上げますが、これもいろいろ複雑な問題がございまして、昨年七月十四日開かれました衆参両院の
図書館運営委員会の打合会におきまして相当の御検討を願いまして、建築延坪一万五千坪という計画のものを二期にわけてつくるというふうになりましたことは、御承知の通りであります。しかし、これを実際の面に持
つて行きまするために、必要な方面との相談も大切でありまするので、いろいろの専門家を含めまして建築協
議会というものを設け、昨年の八月にその
規程をつくりまして、九月に実際の建築協
議会を開催し、各方面の方の御
意見によりまして
方針をきめたのであります。それは、建築に関しまする基本設計ができまするまでは
国立国会図書館で担任をいたしまして、その後には建設省で担任をせられること、基本設計をつくりますために
一般に懸賞募集をすること、
技術的の事項をきめまするために
技術専門家の小
委員会を設けること、こんなふうな決議をしていただきまして、その後数次にわた
つて小
委員会を開きまして、だんだん進行いたしまして、いよいよ懸賞募集を
一般にしたのでありまするが、それが十一月の二十日のことであります。ところが、それに対しまして建築家との間に——建築家と申しまして本一部のグループがその相手でございますけれ
ども、実際は日本の建築家の大多数にわたる問題でありまして、それとの間に紛争と申しまするか、
意見の相違を起しまして、これが解決のために若干の時日を使いました。私
どもの見るところでは、紛議はきれいに解決をいたしまして、今日両々相寄
つて胸襟を開いてこの建築に努力するということにな
つております。ただ、そのいきさつのために、懸賞募集の応募締切り期間を二十九年の五月末日まで延ばすことになりましたが、現在までまだ三通だけしか応募がございま
せん。他のものは五月の終りごろに来るであろうと思います。その紛糾当時は、こういうふうに期間を延長することに、いろいろ
法律問題等を起して、めんどうなもつれになるのではなかろうかという懸念もありましたが、幸いと申しますか、今まで応募者は三通だけでございました。そこで三人の応募者と話合いをいたしまして、期間の延長については異存がないというふうに同感を得ております。
次に第九といたしまして、労働科学資料の返還ということであります。これは、相当の沿革を持
つておりまするこの
図書館が、今まで労働科学資料の閲覧室を持
つてお
つたのでございます。それは元労働科学研究所に属しておりました労働科学資料で、祖師谷に閲覧室を設けて
一般に公開しておりましたが、昭和二十八年
法律第二二四号によりまして——研究所に対する国有財産の譲渡に関する
法律でありまするが、それによりまして閲覧に属しまする書物の全部を返還することになりました。だから三月二十五日以来閲覧業務をやめまして、四月一日から閲覧室を閉鎖することに
なつたのでございます。
第十といたしまして、昭和二十九年度の
予算のことを申し上げておきたいのであります。昭和二十九年度の
予算の概算要求はすでに
委員会の御
承認を得ております。しかるに、
国会におきまして修正せられまして、原子力
関係資料の購入費及びPBリポートの購入費、合計いたしまして二千万円の増額とな
つております。私
どもはこの増額せられたものを基礎として今年度の
予算の実現を期する順序と
なつたのであります。
以上昨年一年間の大体の経過を申し上げました。どうぞ御
承認をお願いいたしたいと思います。