○高瀬
委員 それではその問題はそれだけにいたしまして、
政府が、去年の六月十八日に
自治庁通達で、いわゆる
学生生徒の
選挙権の行使につきまして、今まで
政府がと
つてお
つた、いわゆる
居住地あるいは
現在地というものに基く
選挙権の行使に制限を加える——というよりは、全然本質的に
考え方をかえて、
住所地いわゆるウオーンジツツに
選挙権の行使の
本拠を置くということにきめた。あの
通達でこういう重大なことをきめるということは、われわれは反対である。少くとも
法律案をも
つてこれを
出して来てもらいたいということを、われわれはこの
委員会で
政府側に要望いたしました。幸いにしてその要望
通り法律案をも
つてその
改正案を
出して参りました。その点については、私は
政府のと
つた処置に対して非常に敬意を表しております。ただ、この
法律案を見ますと、すこぶるあいまい模糊でありまして、もちろん
選挙制度調査会の
答申に非常な
基礎を置いていることは、私は十分認めますが、本質的に筋が通
つていない。
法律案は私はけつこうだと思う。しかし、
政府の
出して来た
法律案の内容を見ますと、非常に筋が通
つていない。いわゆる本質的に重大なことを忘れているということを私は非常に遺憾に
考えているものであります。特に、この前の
選挙法改正の
委員会で、いわゆる
学生なるがゆえに
選挙権の行使について特例を認めるのか、少くとも日本の新
憲法の
趣旨によれば、社会的あるいは身分の相違で特殊な扱いを受けないということにな
つておりますのに、
学生なるがゆえに、この
原則をはずして、
憲法のいわゆる本質的なわれわれ日本国民に与えられたところの権利義務という観念に対して除外例を認めて、
選挙権の行使に対してだけ特に
学生なるがゆえに特例を認めてよいのかどうかということについて、私は
政府の
所見をただした。ところが、そういう
考えは毛頭ない、こういう話であ
つたのです。それならば非常にけつこうだから、これを
法律案の形をも
つて出してくれ、その参考としていわゆる
選挙制度調査会の
意見を聞かれることはけつこうでしよう、こういうふうに申し上げて、私はその
法律案の提出を待
つてお
つた。ところが、その
法律案が出て来ると、すこぶる本質的な問題がうやむやのうちにあさ
つての方に追いやられてしま
つて、単なる便益上の問題ということに非常に重点を置いてある。いろいろ行政をやり、あるいはほんとうに国民の安寧康福をはかるという場合に、ある
程度実際の実情に適したやり方、あるいは常識的な方法、あるいは合理的な方法というものを、国家の官吏としてもあるいは
政府当局としても、こだわらずに
考えるということはけつこうだと思う。それについては私は敬意を表するのです。しかしながら、
憲法の
趣旨をまるで蹂躪したような形で、単に便宜そのものだけで
法律をつくるということになると、島上君もおられますが、今はや
つているやれ労働運動、
学生運動、デモでもかけて来て、国会に行
つて高瀬の野郎を締め上げてしまえ——事実私は一時間以上にわた
つて学生諸君と議論した結果、あいつは誠意がないとか、あいつはも
つてのほかのやつだとかいう
判決のようなものを受けて、それで討論終結に
なつたこともあります。それ以来私は
学生諸君を相手にしておらないのです。私は私独自の
考えでこの問題に対処しようとしているのですが、とにかくデモでもや
つたりあるいはおどしたり戸別訪問したりすれば、少し薬がきいたぞということになる。そうすると、思想があまり統一しない
学生諸君は、今後また気に入らないことがあれば、国会に押しかけて高瀬のやつを締め上げ、
政府をおどかせということになる。しかもこれは
憲法上の根本的な
原則をあさ
つての方に置いて
政府が立案したということになると、将来日本の指導者を訓練する上においても、私は重大な問題だと思う。従
つて、この
法律などの制定は、単なる便益ということも無視はできませんが、それだけではとうていわれわれは了承できない、こう思う。そういう点から
考えてみますと、私は、
選挙制度調査会の
答申も、
自治庁の
通達、すなわち
民法上の
住所地に
選挙権があるのだという
原則を明らかにした
自治庁の
通達に対しては、ごもつともである。あるいは穏当であると
言つていいようであります。しかしながら、実際上の便益上からい
つて、ただいま
政府が提
出して来たような
法律案の
趣旨のような
通達をしているにすぎない。ところが私は、この
政府から
出して来たところの
法律案が、非常に、
原則はどうでもよいことにして、便益的なものだけを羅列して
学生の思う
通りな
選挙権の行使を与えた。これは別に反対するわけではありませんが、しかし大きな問題は大きな問題としてはつきりと
原則の中へうた
つてない
法律案ということになりますと、
選挙権の行使については、将来日本の
政府がいろいろ立法する場合に派生的な問題が必ず起きて来る。たとえば、
住所というものは
民法上の
住所と
選挙法上の
住所の二つある。こういう点については非常にこれは重大だと思うのです。
民法上の
住所というものと
選挙法上の
住所というものと、
選挙権の行使についてはとにかく二つあるものだ。
住所というものは二つの観念があ
つて、
民法上の
住所と
選挙法上の
住所と二つある。一体それが違うのか同じなのか。これなどは非常に問題だと私は
考えざるを得ないのです。ただ
選挙権に関してだけ、特に
学生の
選挙権の行使に関してだけ、
住所というものをいわゆる
現在地あるいは
居住地に置くのだということを明らかにしてある
法律案ならばいいのですが、そんなことは何にもしてないで、この
法律案に関する限り、とにかく
住所地というものは、
学生に関する限りは、三箇月以上東京なら東京に住んでお
つて、そこに
下宿をして
住民登録でもしてあればそこでできるのだ、こういうようになりますと、非常に私は問題じやないかと思う。だから、
原則も何も明らかにせず、
選挙権の行使に関しては
民法上の
住所と
選挙法上の
住所がある。
地方選挙についてはもちろん
民法上の
住所でなければ
選挙権の行使は私はできないと思う。しかし国の
選挙の場合は、たとえば国
会議員の
選挙とかそういう場合は、
住所は
選挙権行使の
一つの要件にすぎないのだ。
選挙権行使の
一つの要件、国
会議員の
選挙については
住所は
選挙権行使の
一つの要素にすぎない、こういう
考え方だと思うのです。そうなりますと、
選挙権行使に対しては
住所というものは二種類あるということになる。この点非常に私は問題じやないかと思う。だから私は、何も
学生あるいは保安隊あるいは警備隊の人たちに特例を認めないというのじやないのです。しかしながら、それを認める場合に、これは便益上の問題でありますから、
原則をはつきりしておくべきである。
学生といえ
ども、あるいは保安官といえ
ども、警備官といえ
ども、
選挙権の行使に対しては
民法二十一条の
住所にあるのだということを
政府は明らかにして、ただ、実際上の便益のために、特に
学生あるいは保安官、こういうような人については、
選挙権の行使を、三箇月以上そこに住んでお
つて、寮、寄宿舎、そういうところにおれば認めるのだというならわかるのですが、そういうことには全然触れないで、これだけの
法律を
出して来たことに対しては、私はどうしても
憲法の
趣旨からい
つても賛成できないのです。だから
政府は、この点について、
法律を出すというところまで進歩したわけですから、これは先ほどから申し上げる
通り政府の大進歩だと思うのですから、その
原則を忘れないように、
原則をちやんとしておけば、私は必ずしも反対するものではない。大体こんなことを
政府がはつきりと
学生なんかの前にできないようでは、将来日本の再建などなかなかできないだろうと思うのです。将来日本の指導者になる人に対する
一つの精神的指導部面も
考えて、正法にはもつとそういう点を入れて立案していただきたい。この
法律案を見て私が賛成できないのは、そういう点なんです。これはひとつはつきりと
政府側でや
つていただきたい。これだけ私は聞きたいわけなんです。