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田中(角)
委員 証人お疲れでありまし
ようから、簡単に三点ばかり御質問を申し上げたいと思います。これはこの
委員会においてのこの種の国政
調査に対する将来の問題を考えまして、法務大臣、
検事総長、
検事正に伺いたい問題でありましたが、今までその機会もなく、今日に至りましたが、特に
第一線の河井さんがおいでになりましたので、過去の問題とひつくるめて重大な問題に対して簡単に所見をお聞きしたいと思うわけであります。
その第一点は、
国会開会中における議員逮捕の問題であります。この議員逮捕の問題に対してはいろいろなことが言われておりますし、またいろいろな説もなされておりますが、このたびの
佐藤榮作君に対する逮捕許諾請求の問題にからみ
指揮権の
発動ともなり、この問題が今ほど世論に大きく上せられたときはありません。その意味において、
国民のすべてがこの問題を注目しておるときでありますので、この問題に対する一つの解決点と申しますか、調和点を見出すには非常にいい機会にぶつか
つたのではないか、こういうふうに考えておるわけであります。特に逮捕権の問題につきまして、逮捕請求の最終責任者は勾留判事の名においてなされるのでありますが、これは
法律上の問題でありまして、いわゆる
第一線の担当
検事が合議の上で逮捕の請求をなすべき
かいなかということが、逮捕請求に対しては一つの大きなポイントになるわけであります。そういう意味におきまして私は特に河井さんに
伺つておきたいのでありますが、
国会開会中の
国会議員の逮捕については三つの段階があつたと思います。その一つは、新
憲法下の議員逮捕でありますが、占領軍治下における逮捕請求の問題が一つ。もう一つは、非常に問題になりましたが、今回の十九
国会開会中における逮捕の問題であります。これは新しい
憲法下でありますが、占領軍が撤退し、完全に独立
国家に
なつた
日本としての最初の逮捕請求であります。第三段としては、将来の
国会議員に対する逮捕請求という問題であります。こう三つにわけられると私は思うのであります。これは議論をするのではありませんが、非常に重大な問題だろうと思います。その意味におきまして、私はこのたびの十九
国会開会中においてなされた議員の逮捕ということがいいとか悪いとかいうことを論ずるのではなく、将来のこの問題に対してお聞きをいたしたいのであります。
憲法には明らかに
国会の開会中議員を逮捕してはならないという不逮捕の特権が明記されております。と同時に別に、別の
法律の定めのある場合逮捕してもよろしいという規定があります。
国会法には
国会の議決があつた場合逮捕してもよろしい、こういうふうにな
つておりますから、今までの逮捕請求に関しては
法律通りに運用せられております。しかしこの問題はただ
法律の解釈だけによ
つて運用せらるべきものではなく、いわゆる
憲法の精神に背反してはならないということは動かすことのできない問題だと思います。もう一つ第二の段階において起
つて来る問題は、当然
国会は
国権の
最高機関である、こう規定せられておる。議員の
審議権、すなわち新しい
憲法における主権は在君から在民に
なつた、いわゆる在民
憲法である現
憲法下、
国民の直接
選挙によ
つて出て来た
国会議員というものが、明治
憲法時代の
国会議員よりも非常に位置が高くな
つておる。もつとはつきり申し上げると、天皇権の七百何十分の一かを持
つておる、こう極言してもいいのではないか。こういう
国会の制度にあるところの議員の
審議権と
事件を
捜査するために必要な
逮捕勾留権と、こういう問題が論じられるときにいずれを優先するか、こういう問題にぶつかるわけであります。いずれを優先するかの問題になると非常に議論がありますが、私はすなおに考えてみて、
国会は
国権の
最高機関である、こういう規定をまず第一番に前提とし、もう一つは
国会の開会中逮捕をしない、逮捕をしないということはしてはならないというふうに極論をしても、新
憲法の解釈は
間違いではない。私はこの第二のものを前提にして考えておるわけであります。それは旧
憲法時代において、議員の力が今よりも非常に小さいときであります。天皇権が存在し、議員はただに協賛議員であつたという場合でさえも、
国会開会中逮捕の先例は全然ありません。ないのみならず、東条軍閥時代においてさえもすでに逮捕せられてお
つた者であ
つても、
国会開会の前日これを釈放するというのが、明治
憲法以来の先例であります。中野正剛氏が警視庁から釈放されたのもその例に漏れないわけであります。にもかかわらず、なぜ新
憲法において
国会議員の職責が非常に高く
なつたにもかかわらず、こういうふうに逮捕許諾せられることが多くな
つたのであろうかという疑問が当然わいて来るわけであります。戦後の議員の素質が悪くな
つたのだ、こう一言に片づけてしまう一部の方々もあるでありまし
ようが、私はしかく簡単に考えるべき問題ではないと思います。一つの例は、これは、私も率直に申し上げますと、占領治下において
検察庁の意見にさから
つても、
検察庁の方々があまり
賛成をせられない状態においてさえも、逮捕した例があります。これは芦田均氏の逮捕においてしかりであります。大野伴睦氏の逮捕においてもしかりだという説が流布されております。私たちも当時不当財産
調査特別
委員会の
委員として、しよつちゆう
検察庁との連絡にも当
つたのでありますが、堀ばたの方々の言うことでもうやむを得ないのだという
ような意見も出ておつたことは、世間周知の事実であります。そういうときに
国会開会中の議員の逮捕が行われたのでありますが、これは占領軍の治下にあ
つて日本人がどうにもならなかつた状態であ
つて、天皇権に優先し、
憲法に優先する大きな力があ
つたので、この
ような前例が開かれたのでありますが、少くとも
日本が完全な独立
国家にな
つてからの状態においては、明治
憲法下であ
つてさえも逮捕許諾の請求がなか
つたのになぜ逮捕請求が出るかという問題は、必ずしも
検察庁の意見だけで
納得するわけに行かぬのであります。ただに私が今議員の職にあるからをも
つて言うのではありません。
日本の主権の存在の尊厳さを考える場合、私はこの問題には深く思いをいたしておるのでありますが、特に河井さんは、第一の段階においても第二の段階においても、この逮捕請求の所管者として相当の重責にあられたので、この問題に対しては相当お苦しみでもあり、また明快なるお考えもあると思います。ただ、
国会の開会中でも
捜査上必要があれば逮捕請求は一方的になし得るのです、あなた方がこれを重要な段階であるから拒否するというならば拒否をすればいいじやないですか、こういう議論をなしておりますが、私はこれは俗論だと思う。いやしくも
国会においてかかる議論をなすべきではない、こういう考えを持
つております。なぜかといいますと、もうすでに新聞、ラジオでどんどんとたたかれておるときに逮捕請求が出て
——国会議員というものは
選挙によ
つて出るのでありますから、率直に申し上げると、公選の弱みを遺憾なく露呈しますと、大衆に対して、
国権の
最高機関である議員の職責を全うするためにはこれがいいと思
つても、逮捕反対という決議はなかなか出せないのであります。そういう事態を十分御認識の場合は、ここにはおのずから慎重な処置が必要なのではないかと考えるのであります。もしこれを
間違つたならば大臣は訴追せられない
——私はこれは
自由党とか改進党とか野党というので申し上げておるのでは全然ありません。総理大臣の認可がなければ大臣は訴追せられないという意見を持
つておられますし、またそういう規定がありますが、來栖大蔵大臣当時は、身柄逮捕は訴追ではないという議論をなされて、訴追せられております。そのために芦田内閣は瓦解しております。非常な大きな問題であります。新
刑事訴訟法は、疑わしきは訴追すればいいんだ、実際の判決は裁判官が行うというのではありますが、
日本人の感覚において、大臣が訴追せられれば内閣は瓦解するのであります。倒閣の責任は最終的に一体だれが負うのかという問題を、
国民が大きく声を上げないのはおかしいとさえ私は思
つておる。ただに大衆に迎合することが真に国を思うの道ではない。こういう混乱の時代においてこそ正しく百年の将来に目を転じて、われらは新しき道を開かなければならないと考えておる。その意味におきまして、芦田内閣の倒壊の問題もあり、特に開会中の議員逮捕は
——事件の解明はもちろん大切でありますが、この
ように与野党が接近しておりますときには、予算不通過の責任も負わなければならぬかもしれない、議案不成立の責任もある場合においては負わなければいかぬのであります。それは、われわれはただ訴追をすればいいのだということだけでは私たちはなかなか考えられない。なぜならば、私たちも今
国会において裁判官訴追
委員会を持
つておりますが、疑わしい裁判官を訴追し
ようと思つたならばどんどん訴追して弾劾裁判所にまわせばいいのだ、こういう考えはいかに戦後のわれわれでも持
つておりません。だから、
検察庁もお持ちにな
つておらぬことはもちろん私もわかります。このたびの
佐藤君等の問題に対しましても、
国会開会中はできるだけ
権限の紛淆は避けたいと思
つておるのです、そして国政
審議の優先権ももちろん認めておるのでありますが、時あたかも開会中に、
捜査中の
事件の中からこの
ような大きな
犯罪容疑が浮かんだので、開会中といわず逮捕請求をしなければならなかつたという御説明でありまして、私は、過去の事例においてはそれをそのまま全幅の信頼を持
つて認めます。しかし将来の問題において、ここまで議論をせられ、ここまで真剣に考えられて来たこの
国会開会中の、逮捕権の問題に対し、新しい
憲法に書かれた不逮捕の特権
——不逮捕の特権などということを議員が言うと、新聞もまた非常に悪く書きますが、議員だけは悪いことをしてもつかまらぬのか、こういう俗論をやられてはだれも
日本の大道を守る人はおらなくなります。私はそういう意味で特にはつきり申し上げたいのでありますが、いわゆる
憲法の不逮捕権の問題と、これを前提にしたところの
国会開会中における議員に対する逮捕、これに対して
第一線の
検事であるところの河井さんは将来どうあるべきだと考えられるか、こういう問題をひとつお聞きしたいと思います。