○浅見説明員
ちようど一年前、昨年の六月下旬から九月の上旬まで
黄変米の一番中心だといわれますビルマとタイに駐在しておりまして、そのとき進捗中の船積みの立会いと翌年度のビルマ政府、タイ政府との契約の改訂事項、特に
黄変米の拒否限界というものを契約に入れるかどうかという問題で、予備折衝をして参
つたのであります。ただ現地の情勢は、すでに一年前でありまして、滞在期間も短かいものでありますから、非常に観察が皮相でありますし、また現在の客観情勢とは相当相違を来しておりますが、一応その当時の私の判断の結果を申し上げてみたいと思います。
まず第一は、
黄変米の発生の経過、言いかえますると、直接的な発生の理由であります。その
一つとして
考えられますのは、まずもみの乾燥が非常に不十分である。もちろん米の収穫期は
ちようど向うは乾シーズンでありまして、意欲があれば十分に乾燥ができるのであります。しかも
あとに申します理由のもとにろくろく乾燥しないで、一両日、二、三日のひぼしの
程度でも
つて乾燥したものをすぐ牛に引かせて脱穀をして、そうしてそれをそのまま倉庫にばら積みをする。
従つてそのもみの持ちます水分は、おそらく二〇%以上のものであります。これは農学的に
考えまして非常に危険な
状態であります。加うるに気温の高いということは申し上げるまでもありますまい。まず第一
条件において危険
状態に置かれている。
それからその次は、倉庫の設備が非常に不完全であります。それに保管、管理、貯蔵というふうな関心あるいは感覚というものがほとんど皆無に近い。われわれが
日本において
考えますところの穀物倉庫というふうな概念を持
つておりますと、現地の倉庫は全然違
つて来るのであります。私
どもいくぶん
専門的な立場から申しますと、いわば物置である。かりに物を置いておく、つまり盗難予防あるいは風雨をしのぐ、そういう
程度のものが穀物の倉庫として使われている。この二つの
条件がかみ合されまして、すでにもみの時期において病害の発生あるいは虫害の発生について一番よい
条件が提供されているということであります。特にビルマ政府の管理方式は、御
承知かと思いますが、政府が、もちろん輸出用は全部統制しております。もみを買いまして、それを精米工場に委託加工さしたものを精米として受入れる経路と、もう
一つは、精米工場がもみを農家から買いまして、それを精米したものを政府が買うという経路がございます。そういう前提のもとに、むしろそうい
つた黄変米を発生する間接的な誘因として
考えられますことは、第一には、農民なりあるいは精米工場にすでに企業意欲が非常に低下していること。もちろん自由経済時代は、ビルマでもタイでも、これは世界最大の米の輸出国であ
つた。生産者、精米工場というものは、それぞれ自国産の米の商品価値の高揚には非常な努力を払
つて来た。具体的に申しますと、買受者から注文があ
つて初めてもみを生産者から厳選して買取
つて、それを精米して、高度の商品価値を持
つたものを世界の大市場に出したのであります。ところが現在は、特にビルマの場合にその感が深いのでありますが、政府が統制をしておりまして、生産者なり精米工場から買上げますもみの価格なり精米の価格というものが、ここ数年来すえ置の非常に低価格にきめられております。それを政府が精米として輸出しますときの価格との格差というものが国家財源の相当高い部分を占めておるであります。ビルマではその分が八割、タイでは五割ということを聞かされて参
つております。その数字的な真偽のほどは直接知
つておりませんが、大体そういうふうな見当であります。大体生産者なり精米工場は、できたものをそのまま何でもかんでも出して来る。精米工場はもみの選択なりあるいはその検査ということは全然しないで買込んで精米して、政府から出荷命令を出すまでその間貯蔵、保管というふうな、つまりその入
つた米の品質をできるだけよく保存するというふうな関心は全然ない。
従つてひどいのはすでに二年、三年前に精米されたようなものがそのまま倉庫に眠
つておるという
状態であります。そういうふうな理由、あるいはまたさらに申しますと、黄変粒の混入率というものは、世界各国の米の規格には一応全部入
つております。ところがその規格を設定しております理由というのは、
日本で今問題にな
つておりますような
毒性の問題ではないのであります。単にそれは商品価値として見ばえが悪いという
意味で、一パーセントなり三パーセントときめられておるのであります。私がおりますときに
日本のこの
毒性の問題が非常に社会的な問題だと話しましても、全然取合わないわけであります。ま
つたくそういう関心がないわけであります。結局最終的には一パーセントの許容限界というものを契約事項の中に入れましたものの、それも単に
日本では危険性のある米は買えないからという理由でそれをやつと認めさしたのであります。決して
日本の
毒性の概念なり観念なりというものを織込んで、そういう理解を持
つていたというふうには、少くとも私は解釈しておりません。
従つてさらに今後の向うとの折衝の場合も、その点をまず前提として
考えませんと、いらぬトラブルが起きるではないかというふうに懸念しておるであります。
さらにもう
一つは、新聞にも出ておりましたが、例のセイロンではそういう商品が歓迎されているという事実があるのであります。いわゆるゴールド・ライスとして非常に賞美されておるのであります。しかしそれは若干その間に誤解があるのではないかというふうに私は
考えております。これはインド、セイロン、インドネシアの
方面には、御
承知と思いますがボイルド・ライスという米が非常によく売られておるのであります。これはもみの
状態のときにそれを蒸熱いたしまして、その後に精米したものであります。これは普通の白米、精米と比べまして非常に栄養価が高い、細菌の発生が非常に少いということで、米としての価値の高いものであります。しかしながらその唯一の欠点は、もみの色がついて表面が黄色くなるということと、もみのにおいがつくということであります。この二つはいずれもなじみの問題でありますから、なれてしまえばそう気にならない。もちろんそういう操作を経ますので、相当高価に東南アジア
方面に利用されて行くわけであります。ところが
黄変米で、現地で問題になりますのは、今、
日本で問題にしておりますような一パーセント、二パーセントというようなそんなものではなくて、
黄変米全部が明らかにまつ黄色なんであります。それが今申し上げましたボイルド・ライスと非常に似ておるのであります。
ちよつと外見上は区分がつかない
状態であります。これを実際に精米工場の最終のホッパーからそういうものが流れ出すのを見て非常に唖然といたしました。そういうものがインド
方面の筋肉労働者を対象として相当流れて行く。もちろんその場合は値が相当安く引下げられて売られておるわけであります。そこでボイルド・ライスというのは非常に値が高いのであります。これは相当固定した上層階層の要求によ
つて売れて行く。しかしその
黄変米は外観上は似ておりますが、流れて行く行く先は全然違うのであります。そういうふうに現にインドなりセイロン、特にボンベイ、マドラス
方面に非常に需要がありますものですから、いかに相手側の政府とそういうことをきめてもてんで問題にならない。それで現在われわれがどういうことをや
つて防止策を講じておるかということにつきましてはこの際申し上げませんが、ただ将来の問題としてま
つたく私の個人的な見解を申し上げます。
黄変米に実際に
毒性があるならば、そういうことを科学的に関心なり
研究意欲を現地に持たせることがまず必要だと思います。これには米の取引につきましては非常にかけひきが多くてなかなかむずかしいのであります。しかしながらやはり科
学者の言あるいは現物を目の前に見せますと、非常に理解が早いのであります。幸いにこの秋に
日本でFAOの
会議がございますので、そのときにこの問題を出して、できればFAOを通じましてやはり東南アジア
方面にこの
黄変米の
毒性に関します問題を提起して、それに対する関心をまず持
つてもらう、あるいは進んで協力的な
研究を進めて行くということが前提だろうと思います。そういうような客観情勢をまずつくりませんで、いきなり飛び込んで
毒性云々ということをやりますと、非常にまたいらぬ問題が起きて来ることを懸念するのであります。
それからもう
一つは、申し上げましたように倉庫の設備が非常に悪いということであります。あるいはまた保管管理に対する関心が全然ないということ、もちろん技術がないわけであります。そういう
方面はやはり
日本のように米に対する感覚が非常に進んでいるところ、技術的にも商品化に関する段階の進んでいるところから、積極的にやはり支援なり援助をする。ビルマでも現在倉庫の建設計画が非常に進められております。できますれば、あるいはまた賠償の一環としてでも、
日本から倉庫の建設に対する資本なりあるいは技術援助をしてやる、あるいはまた申出によりましては保管管理に対する技術的な協力をして行く、そうしてでき上
つた倉庫は、
日本向けの米を入れる倉庫としてレザーヴするというふうな
条件をつける。そうすればこちら側も安心して倉庫に入庫しますときに、こちらの目でも
つて非常に厳選した精米をまず外観的に運ぶ、その後になお現実的に培養検査ができればそのことをや
つて行く、そのことによ
つて、もし
黄変米の存在が確認されたならば代替分を要求するというふうな
条件をつけ得るならば、これはある
程度話合いができるのじやないかというふうなことを
考えております。もつとも、この問題は昨年
ちようど経済ミツシヨンがお見えになりましたときにも、その問題を一応向うに通じていただいたことがあるのでありますが、正面から
日本側だけの見解でも
つて行きますと、いろいろ問題が起きますので、やはりまず客観情勢なり、向うの利益になるようなことを
条件として行きませんと、現地的な
黄変米の問題はなかなか
解決が困難ではないかと思います。