○大橋(忠)
委員 私は首相の外遊に関しまして
質問いたします。首相の外遊についていろいろ
議論がありますが、これは国際関係の複雑なときであり、
外国との関係において生存をしているこの
日本において重要なことでありますから、最高首脳者の間でいろいろ直接会
つて意見を交換するということは必要なことだと思いますが、この外遊に関連して私が非常に不愉快に感ずることは、またまた外資の導入、
借款、
経済援助というようなことがしきりに新聞に伝えられ、財界でもおみやげを期待しているというようなことがしきりに載ることであります。大体
アメリカから外資を導入する、金を借りるということは、むろん筋が
通り、かつその条件がよろしいならがそれはよろしいのでありますが、しかし一体個人であ
つても、国家であ
つても、借金ということはいいことではない。これはやむを得ざる場合においてのみやるべきことを、どうも民間においても
政府においても、まるで
アメリカから二文でもよけい借りる方がいいことであり、借りたのは手柄であるというふうな気分が非常にただよ
つておる。こういうふうにしてどんどん借りて行
つたら、一体先がどうなるかという問題があると思う。一体返すめどというものが立
つておるのかおらないのか、返すめ
ども立たぬのに、むやみにねだ
つて借りる。そうしてその結果返すことができなか
つた場合、一体どうするつもりなのでございましようか。私は
アメリカという国はそういう甘い国じやないと思うのでありまして、必ずや
借款というものについてはひもをつける。たとえばMSAの小麦の問題についても、やはりひもがついておると同様でありましてわれわれの時代はかりにいいとしても、われわれの子孫の時代にこれはどうなるでございましようか。私が返すことができなか
つた場合を想像してみますと、結局
アメリカの
日本に対する圧力がますます加わる。そうして
日本の軍隊は傭兵のようにますますなる。そうしてますます
日本の独立というものが怪しくなる。その結果は、
日本の青年がまた
外国勢力をはねのけるというようなところから一種の反米運動が起
つて、
ちようど仏印のような事態になり、そこへ赤化勢力が入
つて来る、私はそれを非常に恐れておるのであります。そこで私は
借款はするのもよろしいが、よほどよく
考えて、はたして返せる見込があるかどうか、また何に使うのかということをよく
考えましてから
借款をしていただきたい。ことに本日の新聞によると、何か治水、潅漑、干拓であるとか、愛知用水であるとかそういうことのための世界銀行からの
借款のことが第一次に置かれておる。干拓にしても、こんなことは
日本においてむだをやめて重点的にその方に予算をやるならば、
日本限りでできるものである。しかるに何がゆえにこういうような問題のために第一次的に借りるのか、これは新鋭な機械を借りて
日本の工業設備をよくするということならば、これはすぐに外貨獲得に役立つのだからこれは話も聞えるのでありますが、こういうようなところにまでむやみに借りることをも
つて能としているような傾向があることを非常に遺憾と思います。
私が二年半ばかり前に
アメリカに行
つた当時チャーチル首相が渡米をされた。当時国の、ドルがますますなくな
つて、これはてつきりお金を借りに来るのだろうということを新聞が書き立てました。チャーチルがわざわざ来るのだから素手で帰すわけにも行くまい、二億ドルぐらいは少くとも貸さにやいかぬということを各新聞ともほとんど輿論のように言うた。チヤーチルはニューヨークに上陸すると、私が今回来たのは一文といえ
ども金を借りに来たのじやないという声明をいたしまして、それから帰
つて、いわゆる耐之生活によ
つてすつかり
経済を立て直して、そうして
アメリカ人をあつと言わしたことは御承知の
通りであります。しからばなぜチヤーチルがこういうような態度をと
つているかというと、これは私はチャーチルの心のそんたくでありますが、世界平和の維持のためには、どうしても
アメリカの
外交を押えて、そうして
外交の自主性を回復せぬことにはいかない、あまりに
アメリカにやつかいばかりかけてお
つては頭が上らない。そこでチャーチルが、やせがまんでありますが自力でも
つて英国の
経済を立て直した。
アメリカが貸すやつまでいらないと
言つて断
つたところに、私はチャーチルの偉大性があると思
つて、実は非常に感心しておるのであります。そこで
日本も
外交的にいわゆる対米一辺倒といわれて、
アメリカに何か言われると頭が上らない、その言うことを聞かなく
ちやならぬという一番大きな原因は、
経済的に金縛りにあ
つているという点であります。
従つて日本はすぐというわけに行きませんが、徐々にやはり
外交的にも独立せぬことにはいかぬ、独立の方向に向うべきである。
従つてそういう点から申しますと、むやみに
アメリカから金を借りて金縛りにかかるなんということは、これはよほど考うべきことである。
外交自主ということから……。
従つて私はどうしても
日本も英国と同様に、英国のようにはむろん参りませんが、徐々にではありますが、まじめにひ
とつ日本の
経済自立をはか
つてそうして東亜の
外交についてはもつと自主性を回復しないと、認識不足の
アメリカのやる
通りにまかしておいては、決して東亜の安定というものははかれないのではないかということを恐れておるのであります。そういう見地から私は吉田さんが向うへ行かれる際におきましても、チヤーチルのまねをせよとは申しませんが、この際
日本を代表する
総理大臣が、小さな問題でこじきのように金を借りるというような態度をと
つてはいかない。やはりやせがまんでも
アメリカのごやつかいなんかにならず、
自分の
経済は
自分で耐乏生活で立て直すのだというような毅然たる態度をも
つて行
つてもらいたい。そうしてまた
日本の方でも、何でもかんでも対米依存なんかやらずに、自力でも
つて立て直すというほんとうの耐乏生活をやらなければならぬと私は思うのであります。
第二に申し上げますのは仏印の問題であります。仏印の問題について今問題にな
つておるのは太平洋同盟の問題であります。この太平洋同盟に、吉田さんが向うに参りました際に
アメリカからこの問題が持ち出され、そうして
日本が参加を勧められはせぬかということが、一つのこれは各方面に抱かれておる憂慮であります。私はそういうようなことはないだろうとは思います。また派兵をしようとい
つたつて、
憲法上その他の
理由でできないことはわか
つておりますが、しかしあるワシントン電報によりますと、もし
日本がその方面で
アメリカと協調すれば相当の金が来るというような電報もあるのでありまして
国民の一部においては相当心配を持
つている向きもあるのであります。はなはだこの仏印の状態というものは遺憾な状態でありますが、なるほど共産主義の侵略と言えば言えないこともないのでありますが、やはり長年フランスの植民地政策のもとに弾圧されてお
つた仏印が、この機会にどこまでも独立しようという、仏印の民族主義というものがもとにな
つている。
従つて、その根はまことに深いのでありまして、私は実は同じアジア人としてひそかに彼らに同情を持
つておるのであります。この仏印の民族主義を弾圧することに、いやしくも
日本が協力するというような形にな
つては、東南アジア一帯の同情を失
つて、もう南方へ進出することはできなくなる、いわゆるアジアの孤児になる。従いまして、いかなることがあ
つても、仏印の民族主義を弾圧することに協力するようなあらゆる
協定なり行動というものには、私は
反対なのであります。これについて
日本に疑いがありますので、今申しました二点について、もしも吉田外遊について声明を出されるならば、
はつきりしたことを述べられたらどうか、そうすれば
日本国民も安心するし、
アメリカ側でもその点について認識を持
つて来て、国際
外交上非常に有益だろうと思いますが、この点についての外務
大臣の御所見をお伺いしたいと思います。