○
今村委員 私は
自由党を代表いたしまして、ただいま上程されております
日米相互防衛援助協定等に伴う
秘密保護法案に対し、
賛成の
討論をいたすものであります。
まず
本案の
必要性であります。この点につきましては、過日
国会の承認を得て、五月一日より発効いたしております
日米相互防衛援助協定第三条第一項及び
附属書Bの
規定に基き、
アメリカ合衆国政府から
供与される
秘密の
装備品等、または
装備品等に関する
情報についてその
秘密の
漏洩・または
漏洩の危険を防止するため所要の
措置を講ずる必要があります。かつまた過般
締結いたしました
日本国と
アメリカ合衆国との間の
船舶貸借協定第七条により、
アメリカ合衆国から貸与される
船舶についても、同じくその
秘密を
保護する必要があるのであります。もつとも
MSA協定そのものは、御
承知のごとく直接
立法には触れておりません。しかし
アメリカ合衆国と
MSA協定を結んでおります他の諸外国は、いずれも既存の
秘密保護法令を有しており、これによ
つて同
協定に
規定されており観す
秘密保護の
措置をと
つているわけでありますが、かかる種の
一般的取締り法令の現存しない
わが国におきましては、たとい
協定に
規定がなくとも、
条約を忠実に履行する上において、この種の
秘密保護の
立法を必要とすることは、また理の当然というべきであります。
思いまするに、
MSA協定の
締結に伴い、
アメリカ合衆国から
わが国が必要とする
援助を受けますことは、とりもなおさず
わが国の
防衛能力が一段と強化されることでありますから、それはまさしく
わが国の
独立と安全とをみずからの手によ
つて守らんとする全
国民の要事の実現に向
つて、具体的にその第一歩を進めたものと申さなければなりません。従いましてこの場合受けます
援助は、
わが国の
防衛にと
つて最も効果のあるもの、すなわち
武器等であれば高度の
性能を有するものでなければならぬのであります。かような高度の
性能を有するものにつきましては、それが
秘密の部分を含む場合の多いことも、容易に想像し得るわけでありますから、そのような
秘密を
保護する
措置をわが方がとらざる限り、
アメリカといたしましても、それらのものを
供与することを躊躇いたすのは当然でありましよう。相手が漏らすことを
承知の上で、
他人に
秘密を打明けるような愚かな名は、およそこの世の中に存在しないからであります。かようなことは単に
個人と
個人との
関係だけでなく、国と国との
関係におきましても、ま
つたく同様でありまして、もし本
法案が成立いたさぬとすれば、せつかく結ばれた
MSA協定も、その品的を速成することができないものといわなければなりません。以上のごとく、本
法案は単に国際上の信義に関するのみでなく、ひいては
わが国の
防衛力の強化という点にも、重大な
影響を及ぼすものであります。しかもかような重要な
意味を有するとともに、それは
条約により直接義務づけられたものではなく、ま
つたく
わが国独自の立場からの
立法でありますから、一部論者が本
法案をも
つて屈辱的立法なりとなすがごときは、ま
つたく当らざるもはなはだしいこじつけと断言せざるを得ません。
次に本
法案の
内容を見まするのに、概してこの種の
法律におきましては、それが
国民の
権利に重大な
影響を及ぼすおそれのあるところから、相当に苦心を払
つている跡が見受けられるのであります。たとえば
保護の
対象となるべき
秘密事項の
範囲、
内容をできる限り限定いたしておる点、犯罪の
構成要件の定め方について合理的な配慮を開いている点、
法定刑について
最高限を十年の懲役にとどめ、かつその最低限について
規定を設けておらぬ
点等がこれらでありまして、現在の
内外の諸
情勢から見まして、おおむね当を得たものと
考える次第であります。
以上申し述べましたことく、本
法案が
MSA協定の
締結に伴い、
わが国の
防衛力を強化いたす上において必要欠くべからざるものであり、しかもその
内容も
現状にあ
つてはおおむね妥当なものであることは、何人にも明々白々であるにかかわらず、これに対する
反対論を伺
つておりますと、多くは本
法案の趣旨を故意に歪曲し、あるいは本
法案に対する
研究の不十分をみずから暴露しているにすぎないでありまして、この際私はこれらの
反対論に対し、率直な批判を加えておきたいと思うものであります。まず第一に本
法案は、
憲法第九条及び第三章の
規定に違反せざるやのいわゆる
違憲論であります。まず
前者でありますが、
現行憲法が国の固有の
権利として
自衛権を認めております以上、
自衛のため戦力に達せざる
程度の
防衛力を持つことは、
独立国として当然であります。従いましてその
防衛力を強化するために、
アメリカ合衆国から
武器等の
供与を受け、その
秘密を
保護いたすことは、それが
自衛権の
範囲内である限り、
わが国の
防衛に有益でこそあれ、何ら
憲法に違反するものでないと申さなければなりません。
次に
基本的人権の自由との
関係につきましても同様であります。
憲法に保障する
基本的人権の自由は、これを十分尊重しなければならないことは申すまでもありませんが、ま
つたく無
制限のものではございません。そこには
公共の
福祉という
限界が存するのであります。この点は
憲法第十二条及び第十三条に明らかに
規定されております。従いまして
公共の
福祉に重大な障害を及ぼすがごとき
権利自由の
濫用は、
国民としても厳にこれを慎まねばならないのでありますが、本
法案にいうところの
防衛秘密が
漏洩して国の安全が害されるような場合こそは、まさに
公共の
福祉が危殆に瀕する典型的な例でありまして、かかる場合に、
基本的人権の自由に
最小限度の
制約が加えられますことは、これまた無理からぬところであると申さなければなりません。また以上の点に関連いたしまして、本
法案が
基本的人権の自由のうちでも、特に
言論出版の自由に重大な
制限を加えるものではないかという
所論でありますが、この点についても、本
法案の
内容を詳細に検討いたしまするときは、
国民のうちでも最も良識ある
報道関係の
人々が、その良識をも
つて行動する限り、本法の
対象となるようなことは、まず起り得ないものと信ずるのであります。
第二は、本
法案の
内容をなすところの
秘密保護の
措置は、
行政的措置のみで十分であり、あえてかかる
制限法令を必要とするものでないとの
所論についてであります。この論は一見もつともらしく見えるのでありますが、実は現在
わが国の置かれている
内外諸
情勢に対する重大な
認識不足に麺くにほかならぬのであります。何となれば、本
法案の主たるねらいは、
防衛秘密を取扱う者がその
秘密を
漏洩するのを防止するとともに、積極的に
秘密を探知収集するところの、いわゆる
スパイ活動を
取締ろうという
二つの点にあるのでありまして、今かりに
秘密保護を
行政的措置にのみとどめるときは、
前者はある
程度まかなうことができるのでありますが、後者については、ま
つたくこれを放任せざるを得ぬことになるからであります。
しかしながら、ひるがえ
つてわが国の
現状を見まするに、
米ソ両
陣営の切点ともいうべき地位に存在するわが圏におきまして、特に
共産主義陣営よりするところの
スパイ活動は、過般の三橋
事件や、
関事件を見ましてもわかりますごとく、きわめて熾烈なるものがあるのであります。ただいま例にとりました
事件のごときは単なる氷山の水面上の一角にすぎないのであります。また最近におきましては、
国内共産党の
保安隊、
警備隊に対する工作もすこぶる活発でありまして、すでに三重県の久居あるいは北海道の
幌別等にも
事件の発生を見ており、その
現状はわれわれといたしましても、まことに寒心にたえぬものがあるのであります。かような
現状において、高度の
性能を有する
武器等が
保安隊に
供与されるならば、結果はどうなるか、それは火を見るよりも明らかでありましよう。私はこの点につき
政府並びに
保安庁当局に対し、慎重にして果敢な
対策を一日も早く立てられることを強く要望いたすのでありますが、問題は決してそれに尽きるものではないのであります。すなわち部内の
秘密保護の
措置を厳重にいたすとともに、どうしても
スパイ活動そのものを
取締るにあらざれば、抜本的な
対策は望み得ないのであります。従いまして、
秘密の
保護を単に
行政的措置のみをも
つて足れりとなす諸君は、かかる事態に対する
認識がま
つたく不足しているか、あるいはまた
わが国には
スパイなどは一人もおらぬと思い込んでいる、きわめてお人よしであるか、そのどちらかであるといわざるを得ないのでありますし、もし
認識しているとすれば、それは
共産主義陣常に奉仕するところの、ためにする
議論であるとの非難を受けても、弁解の余地はないのではないかと
考えるのであります。
第三は、本
法案における
秘密の
範囲と
内容がきわめて不明確であるという点であります。この点につきましても、
反対の論をなすものは、本
法案に対する
研究の不十分を自由している以外の何ものでもないのであります。すなわち本
法案における
防衛秘密とは、
MSA協定により
アメリカ合衆国から
供与を受ける
装備品または
情報等であ
つて、本
法案第一条第三項の各号に掲げるものに限定され、しかもさらにその中で秘匿することを要するものに限られているのであります。このように限定されました
秘密は、数から申しましてもそうたくさんはないのでありますから、それらのものが簡単にわれわれの近くにごろごろいたしておるとはまず
考えられないのでありまして、善意の
国民が知らずしてこれに触れ、不測の罪を問われるようなことは、ほとんどないかとも
考えられるのであります。もちろん
国民は知る
権利を有するのであります。しかしそこには条理上おのずから一定の
限界が存するのでありますし、またすでに申し述べましたことく、本
法案によ
つて保護される
秘密は、いずれも相当高度のものと
考えられるのでありますから、それらのものを暴露いたすことにより、国の安全を害してまで
秘密を知ろうとすることは、
権利の
濫用といわねばならぬのであります。
次に
本案の
秘密につきましては、いまひ
とつ、公にな
つているものを除くという大きな
制約があるのであります。この公にな
つているとは
政府も説明いたしておりますごとく、公に
なつた事由、公に
なつた場所のいかんを問わぬ
意味であります。すなわち公にな
つているのが、
アメリカ合衆国はもちろんソ連であ
つても、極端にいえばアフリカであ
つてもいいわけでありますから、
秘密の
範囲としては一層しぼりがかか
つていることになるのであります。およそ諸外国の
立法例を見ましても、
政府機関の公表したものを
秘密事項から除いている例こそあれ、かような広汎な除外例を設けている例はないのでありまして、はたして
秘密の
保護を十二分になし得るやという危惧の念すら抱くほどでありますが、かかる
立法をあえてしたところに、本
法案がいかに
国民の
権利、自由の保障に意を注いでいるかがうかがわれるのであります。
第四は、本
法案における用語が不明確であるという非難であります。元来この主の
立法といたしましては、
秘密を守ることがその実体をなすわけでありますから、勢いその
規定も包括的ならざるを得ぬことは容易に想像し得るのであります。しかし本
法案はその点につき、できる限り具体的ならしめるよう配慮していることが見受けられるのでありまして、
基本的人権の自由との調和という点にいたしましても、この
限界点まで譲歩しているのであります。従いまして、本
法案は
秘密の
保護に必要な
最小限度ぎりぎり一ぱいの
規定をいたしておりますので、
委員会における審議の際、質疑の
形式で出されました
修正意見のごときも、もしこれを取入れるときは、本
法案はま
つたくの空文と化するおそれがあるのであります。たとえば本
法案第三条第一項第一号より、「又は不当な
方法で」を削除するという
修正意見でありますが、これな
ども現実の
スパイ組織あるいは
スパイ活動の実態を知らざるものはなはだしい論でありまして、もしかように
修正せんか、いわゆる
スパイ網の末端が活動いたすような者に対しては、ま
つたく
取締りを行い得ぬこととなるのであります。この点は第三条第二項第二号を目的罪にせよとの
修正意見につきましても同様でありますが、さらに第三号の「
業務」の上に、「
防衛関係の」を付せよとの意見に至りましては、かえ
つて概念があいまいとなり、提案者の意図とはおよそ
反対の結果を生ずることとなるのであります。また罰則における刑の軽車についても、若干問題とされたようでありますが、旧
軍機保護法あるいは他の現行諸法令、なかんずく本
法案に類似する唯一の法令であるところの、
行政協定に伴う
刑事特別法等と比較いたしてみましても、おおむね妥当ではないかと
考えるのであります。およそ
独立国である以上、国家あるいは国防上の
秘密の
漏洩を防止するため、何らかの刑罰
規定を設けることは当然でありまして、さればこそ永世中立国であるスイスにいたしましても、
わが国と同じく
軍隊を有せざる西ドイツにいたしましても、それぞれ厳重な
規定を設けて、国家ないし国防上の
秘密を
保護いたしているのであります。さらにソ連、中共等の共産主義諸国に至りましては、
わが国の旧
軍機保護法にもまさるような厳重な刑事法規を有しているのでありまして、これらの諸外国と比較いたしましても、本
法案の
内容が決して厳に失したものでないと言い得るでありましよう。以上のごとく本
法案の
内容に関しまして出された
修正意見は、いずれも実態を無視した、単なる言葉の上の抽象論にすぎぬのでありまして、われわれのよくとり得るところではないのであります。
最後に改進党の
反対意見について申し述べてみたいと存じます。改進党の諸君は、すでに
MSA協定自体には賛意を表しておられますので、本
法案に対しましても当然
賛成されるものと
考えておりましたが、このたびの同党の態度はま
つたくわれわれの意外といたすところであります。しかも今回の
反対意見に先だ
つて、
委員会において本
法案をさらに限定するがごとき
修正意見を述べられましたことは、いかにも首尾一貫せざる感を与えるものでありまして、
反対のための
反対であるがごとき印象を払拭いたすことができないのであります。もちろんわが党といたしましても、
独立国である以上、
わが国独自の
秘密保護法の必要であることは十分感じているのでありますが、かかる
立法こそ
反対論者の言うごとく、
国民の
権利、義務に重大な
影響を及ぼすものと思われますので、その
内容、時期等につきましては、いやが上にも慎重に考慮いたすことを要し、軽々にこれを取上げることは戒めねばならぬのであります。従いましてこの点は将来の
研究にまつことといたし、さしあたり
現状におきましては、本
法案程度で満足すべきであると
考えるわけであります。さようなわけでありますから、改進党の諸君も現実の事態を率直に
認識され、従来の行きがかりを捨て、大局的見地から本
法案に対し、全面的に同調されるよう希望いたす次第であります。
最後に私はこの際一言
政府に申し述べておきます。本
法案は現下の
情勢に照し、おおむね妥当なものと信ずるのでありますが、しかしかかる種の法令は、いかに妥当なものでありましても、その運用を誤るときは、
国民の
権利に不測の侵害を与えるおそれま
つたくなしとし得ぬものがあるのであります。よ
つて私は、一方において
裁判所の公正な裁判に信頼いたすとともに、本
法案成立のあかつきは、
政府におかれても、でき得る限り慎重かつ適切な運用を行い、いやしくもその適用を誤ることによ
つて本法の信を失墜し、ひいてはせつかく
独立の第一歩を踏み出した
わが国の
防衛体制に、思わざる蹉跌を来すことのないよう切に要望いたしまして、私の
賛成討論を終ります。(
拍手)