○佐々木(盛)委員
並木君のただいまのお話は、御要望のようで質問ではないようですが、私は
並木君と異なる観点から私の所信を申し上げて、あわせて
政府の見解も明らかにしておきたい。その結果によりまして、わが党におきましても善処いたしたい、かように考えております。
並木君は、このたびの防衛秘密
保護法が言論界などに非常に濫用される結果になりはせぬかということを憂えておられる。おそらくそうい
つた気持に基いての御発言であると考えまして、その
並木君の気持そのものは私も了といたします。また私自身がジヤーナリストの出身でもございますし、その点のことはわからないわけではございません。しかし、かりにただいまの
並木君の修正案と原案とを比べて見ましたときに、相当大きな開きが生れて参ります。そこでたとえば、第三条の第一項第一号を、
並木君の言うように、「わが国の安全を害すべき用途に供する自的をも
つて、防衛秘密を探知し、又は収集した者」をこの罰則の対象とするということでありますと、目的だけで、その秘密をとるというときの
方法というものが全然ないわけである。そういたしますと、
並木君は非常にこれが濫用されはせぬかと言うが、考え方によりましては、「不当な
方法」というものがないために、逆に多くの人が迷惑をこうむらなければならぬということにならないとも限らないと私は思う。それからまた、たとえばここにある人間がおりまして、その気持の中ではこれは悪いこととは考えながらスパイ行為をや
つた、そのときに、自分には国家の安全を阻害するというような考え方は毛頭ございませんでしたけれ
ども、家族が食うや食わずでございますから、その秘密をと
つて来いということであ
つたので持
つて参りました、こういうようなことになりますと、不当な
方法というものが全然入
つていないわけでありますから、それが処罰の対象にならない、こういうことにもなるわけです。
従つていかなる
方法によ
つて防衛秘密を取得するかという、
方法という点はきわめて重大な点だと思う。これを織り込んでおくことは、この秘密
保護法の目的を果すことである。もしこれがない場合においては、秘密
保護法の罰則規定というものは、空文になる、ないしは逆にたくさんの人々が疑惑の対象となるということにならないとも限らないと私は思う。この「不当な
方法」という文字がないならば、まるで第三条は歯が抜けたようにな
つてしまうわけで、これが眼目である。眼目を抜きにして取締りなどはできようはずがない。でありますから、私は「不当な
方法」というものはぜひ必要であると考えます。
それから第二の
並木君の話でありますが、「わが国の安全を害すべき用途に供する目的をも
つて、防衛秘密を他人に漏らした者」こういうことのようでありますが、これは原案によりますと、「防衛秘密で、通常不当な
方法によらなければ探知し、又は収集することができないようなものを他人に漏らした者」とな
つており、この方がより明確であり、誤解がなくて済むのじやないかと私は思います。もし
並木君のようなことをやりますと、一号と二号とは同じようなことを規定したということにもなるわけだと思います。何のためにことさらにこの原案の二号を
並木君の言う通りにするのか、その真意も、先ほど承りましても
了解に苦しむわけであります。文章の構成から申しましても、私は当然二号については原案の方がはるかに適当であろうと考えます。先ほどお話のようにことさらにこの字句を修正する必要はごうもないと考えるのであります。
それから第三号の「業務により知得し、又は領有した防備秘密を他人に漏らした者」とあるのを、
並木君の御説によりますと、「防衛
関係の業務により知得し、」こういうふうにすればよいということですが、そうすると、たとえば
新聞、ラジオというような
報道関係の業務などから知得したものは、この防御秘密の対象にならないということになるわけであります。たとえばここに郵便配達夫がお
つた、あるいは電報のオペレーターがお
つたという場合、これは決して防衛の業務には従事していない、しかし秘密の通信を配達するところの業務をや
つた、それが封筒を破
つて中から秘密を盗んだという場合においては、明らかに防衛
関係の業務ではないのでありまして、郵便配達という業務なのです。しかしそういうことは郵便配達の業務であ
つても普通や
つてはいけないことである。人の信書まか
つてにあけるということはできないことです。それがたまたま自分の業務であるということによ
つてそれを悪用することにより、秘密をと
つて、人に漏らしたということは、これは当然罰則の適用を受けてしかるべきだと私は考える。そこでどうも
並木君自身、何か今度の秘密
保護法というものの大きな幻形によ
つて、非常に脅かされておるように私は考えるわけがあります。
並木君は削れと言うし、私は削
つてはいけないというこの第一号の「不当な
方法」ということさえ、たとえば
報道関係の諸君な
どもこれについて十分に心するならば、この第三条の罰則の適用を受けるというようなことは、私は絶対にあるはずがないと思うのであります。共産党であるとかいうふうな者が、何とかスパイ活動でもやろうという考えを持
つておりながら、なおかつこの法の適用からのがれようというようなことをお考えになるならば、あるいはこれの適用ということは非常に恐ろしいかもしれませんが、そうでない善意の人が普通の
報道関係に従事してお
つて、そうして善意により単なる
報道の目的をも
つてやられたときに、第三条の適用を受けないということは、繰返し繰返し
政府当局が
説明されておる通りであります。
従つて並木君のような修正によ
つて、かえ
つて多くの人々に迷惑を及ぼしたり、あるいは法の規律というものを不明確にするというようなことはこの際とるべきではない、やはりどう考えても
並木君の修正案よりは原案の方がベターである、私はかように考えるわけであります。従いまして私はこれに対して
反対をいたしたい、こういうような考え方を持
つておるわけでありますが、こういう案が将来とも
友好関係を大いに持続して行かなければならぬ改進党から出ておるわけですから、その
並木君の御
提案の趣旨だけは私も聞いて帰
つて、党でもひとつ大いに協議をいたしたいと思うのでありますが、私の今の考え方に対しまして、
政府当局はどのようなお考えであるかということをひとつ承
つておきたいと思います。