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下田政府委員 国連軍協定は約二十箇月の長期にわたる
交渉の末、ちようど昨日署名の段階に到達いたしましたが、その中で先方が譲歩した点はどういう点であるかという
お話でございます。御承知のようにこの協定の
交渉の二大眼目は、刑事裁判権の問題と財政
関係の問題とでございます。わが方は刑事裁判権につきましては、いわゆるNATO方式を
交渉の当初からかたく
主張しておりましたので、これは先方が譲歩いたしまして、いわゆる属地
主義と申しますか、公務に
関係のない普通犯罪は、
日本におるのだから
日本の法令によ
つて日本側が裁判するという
主義を、先方が譲歩して認めました結果、この刑事裁判権の問題だけはすでに昨年の九月に
解決を見たわけでございます。これがまず国連側の大きな譲歩だろうと存ずるのであります。
そこで第二の財政
関係の問題でございますが、これはわが方の譲歩いたした点もありますが、先方も少からぬ譲歩をいたしておるのであります。第一に防衛分担金の問題でございますが、日米行政協定におきましては御承知のように、第二十五条におきまして米軍の
日本における維持費のうち、一億五千五百万ドルという額は
日本が分担しておるのであります。ところが国連軍の
日本における維持費というものは、これは当初から
日本側は一文も分担しない。間接的には
日本の安全に寄与する存在であるかもしれぬけれども、
日本は一文も出さぬということを当初から
建前といたしておりまして、防衛分担金は
日本側は一文も出さぬということにな
つております。ただ昨日調印いたしました協定の十五条の但書で、国有施設だけは賃貸料を免除してやる、それが
日本側のいたした譲歩でありますが、国有施設の借料以外には何も分担しないというわが方の
建前は、大きく貫かれておるわけであります。
第二は、この国有施設の借料を免除する
条件と申しますか、わが方の希望として呉における国連軍の施設の返還を早く実行してくれということを申しておりまして、これは十数箇所わが方に返還することに話合いがついております。これはできればもう朝鮮の休戦も実現したことであるし、そのまま最後までそつとしておきたいという向うの希望でありますが、返還することについてはそこにあるものを移転するとか、あるいは移転するためにいろいろな費用が数千万円かかりますが、その移転に伴う数千万円の費用も先方がかぶ
つて、そうして移転を実現して十数箇所の施設を返すということに同意いたしております。それから財政条項とは
関係がないのでございますが、
日本側が関連して強い希望を出しておりましたのは、進駐軍労務者の強い要望でありました間接雇吊の問題でございます。労務者側からいたしますと、軍に直接雇用されるのはやりきれぬ、間に
日本政府が立
つてくれた方がいいということを前から強く申しておりました。この間接雇用方式をとりますと、間接雇用の事務費のために年額約六千万円の経費を国連側がかぶるのでありますが、この六千万円の経費もかぶ
つて、そうして間接雇用方式をのむということに先方が譲歩してくれましたので、この点も
解決いたしたわけでございます。これらがおもなるものでございますが、なお行政協定と違います点は撤退条項、昨日調印しました協定の二十四条に撤退条項を明記いたしました。これは朝鮮における国連軍が撤退すべきとき、現実に撤退するときではないのでありますが、いずれ
国連総会か何かの
決議で何月何日撤退すべきものとするという
決議ができます。そうすると、現実にはあるいはそれから遅れるかもしれませんが、とにかく
決議なり何なりで何日に撤退するということにきめられた日から九十日以内に
日本から撤退しろということを定めまして、明白に撤退の時期をうた
つてある、これも先方の譲歩と言えないこともないのであります。かように非常に利害錯綜いたしまして長い
交渉の
期間を要しましたが、先方も相当の譲歩をいたしまして円満に
解決を見たような次第でございます。