○
高橋英吉君 ただいま
委員長の御発言のように、海上保安庁の警備船が中型トロール船を不法に故意に沈没せしめた、覆没せしめたという疑いのある案件に対しまして、ごく簡単に
質問いたします。私はただいま海上保安庁の警備船が不法に故意にという言葉をことさらに申し上げたのでありまするが、私の得ました情報によりますると、これは明らかに不法であり、故意であるというようにしかとれないと思います。
従つてこの点に対して、海上保安庁の方へもいろいろ情報が入
つておると思いまするから、不法であり故意であるかどうかということ、それから故意である場合においては、どういうふうな
責任をおとりになり、どういうふうな善後
措置をと
つていただくか。すなわち中型トロール船の沈没並びにそれに際しまして船員が三名死んでおるのです。そこで行方不明に
なつておるのであります。すなわち警備船に殺されたというものが三人あるわけであります。そういうふうな問題に対して、そういうものの遺族などに対する慰藉
方法とかなんとかいうふうなことに対して、どういうふうな御意見を持
つておられるか、これをお聞きしたいと思うのですが、私申し上げたいのは、大体こういうふうな問題が起るのは、その根本において権力を持つ人々の間に、ことに海上保安庁
関係の警備船の機船底びき網取締りの気持の上において、いわゆる人権蹂躪的な思想といいますか、民衆蔑視の思想といいますか、そういうものがあ
つて、そういう根本思想からこういう問題が起るものと思
つております。密漁船は沈没させてもいい、密漁船員は殺してもいい
——船の沈没は、元来原則としては乗組員の死を予定するものであると私は考えております。船が沈没した場合においては、理論上から言えば、原則上から言えば、これは当然死ぬるものであります。沈没したときに生存するということは例外的のもので、奇跡とまでは言いますまい、統計からいうと、沈没したからとい
つても必ずしも死んでおるものではありませんから、現実の統計から言えば、これは死亡が前提となるということもどうかと思われますが、理論上はそう
なつておる。海の上で船が沈んだら死が当然で、生存は例外的なものであるということに
なつておるのでありますから、密漁船は沈没させてもいいという思想は、すなわち密漁船員は殺してもいいという思想になるのであります。さらに一面、こういうふうな思想もあると思うのです。トロール船は全部が密漁船である。トロール船と名のつくものはことごとくが不法な操業をや
つておるのだという考え方なんであります。
従つて、船員を犬やねこと同様に考えたりしており、極端に言えば、どろぼうは殺してもいいという思想の現われであ
つて、これは断じて許せないものと私は思うのです。
なぜ私はそういうことを申し上げるかと申しますと、すでに私
どもの地方においての
関係だけでも、過去において十隻余りのものが沈没させられておる。具体的な事実を申し上げてみますと、すなわち今月の七日の午前十時三十分ごろに、海上保安庁の警備船むらちどり丸というのが中型トロール船、すなわち機船底びき網の作吉丸というのに追突いたしまして、沈没せしめておるのでありますが、こういうことが従来しばしばあるのであります。しかしこれは表面化せられず、問題にならずに済んでおるというのは、何とい
つても機船底びき網には弱点があるのであります。
従つてこれを問題化します場合においては、将来の報復といいますか、復讐といいますか、そういうようなものを恐れますと同時に、沈没させられた方の漁民の方も、問題にしても時がかかるし、その損害額もきわめて形式的で大した額ではないというので、漁師のことでありますから、めんどうくさが
つて従来は問題にせずに泣寝入りに
なつてお
つた。ところが今度は何とい
つたところで三人の人が死んでおるのでありますから、その沈没の際における救助
方法等の手落ちもあ
つたりして、非常に地方民が激昂しておるわけです。非常に興奮しておるというような
状態であ
つて、これを表面化して、警備船の
関係者に対して艦船覆没罪並びに殺人罪で告訴をしておるという次第なんです。これは従来もそういうふうに十数隻も沈没させられておるというような事実からも裏づけができまするし、さらにその警備船の船員が、常にトロール船は沈没させてもいいのだというふうなことを放言しておるのであります。今度の事件は午前十時二十分ころでありまして、白昼なのであります。
従つてこれは過失や何で追突したものとは信ぜられません。このむらちどり丸というのは非常に優秀船であ
つて、いかに迫突いたしても自己の船体に損傷を来さずして、相手方を沈没し得るという自身を持
つて激突したというようにいわれておるのであります。そういう自信のもとに、この優秀な警備船が脆弱な中型トロール船に激突して沈没せしめ、人を殺したということに
なつておるのでありまするが、これは今言いましたように、白昼公然と行われたことであり、当日はまた非常に天気晴朗で、波も風もなか
つたそうであります。私は先ほど沈没は死を原則として生を例外だというふうに申し上げましたけれ
ども、しかし現実においては、何とい
つたつてトロールに乗るような船員でありまするから、水練は相当できるのであ
つて、暗夜で風波が非常にはげしい、すなわち激浪中に沈没したということであれば別なのでありますけれ
ども、白昼風波がないときにおいて、この水練の達人たちが三名も死んでおる。よほどの自信を持
つての激突でなければ、こういうことはできないと私
どもは確信しておるのであります。そういうふうなことであ
つて、これがかりに密漁をしてお
つたといたしましても、こういうふうな従来のやり方、取締りの行き過ぎに対しては、私は断同として抗議せざるを得ない。同じ日本人どうしであ
つて、そうしてこれは許可なくして不法に漁業をしておるのでありませんで、単に禁止区域海上のことでありますから、何もそこに棒ぐいが立
つておるわけではなく、鉄のカーテンがあるわけではないのでありますから、はたしてどこからどこまでが操業区域であるかどうかということは、なかなかわかりにくい。そういうところでは常にこういうふうな密漁は行われておるのでありまして、私
どもはこれはとうてい許すことができないと思うのです。かりにこれが密漁船といたしましても、今
言つたような
状態で、私は乗組員のうちにまさかアメリカ人や朝鮮人ばかり乗
つておるとも思われないのでありまして、同じ日本人がなぜこういうふうな乱暴なことをやるのかと思うのであ
つて、これは許すことができない。どろぼうだからただちに殺してもいいということは、非常にけしからぬ思想であり、非常な行き過ぎだ、かように思
つております。
さらに本件の場合においては、私は密漁船と思いません。断じて密漁船でないという情報を持
つておるのでありますが、この点についてはいずれ司直の手によ
つて事実が明白にされるでありましよう。現に取締り官憲の方では、船長が自白して密漁をしてお
つた、かように言
つております。しかしこの船が根拠地の八幡浜を出たのが午前八時なんです。そうして出港してから後、九時半にむらちどりに遭遇しまして、追いかけられて一時間ほど逃げた上でやられたわけなんですが、九時半なので、出港してから一時間半ぐらいの時間しかた
つておりません。一時間半ぐらいでは現場へ行く時間しかないということは、瞬間的に調査されればただちにわかることなのであります。そういう事態から見ましても、それからまたこの現場は、愛媛県の海岸近くの山の上からはつきりと認識のできる海上のことなのでありますから、白昼そういうところで操業する人はありません。この愛媛県の中型トロール船が操業します区域は、宮崎県、鹿児島県ないし長崎県であ
つて、九州と四国との間の宇和海というようなものではありません。かりに密漁するとしましても、帰りに夜半人が寝静ま
つた時分にこつそりやるくらいな
程度で、白昼こういうことをやるというようなことは、とうてい常識上想像できないことなんでありまして、宮崎県に行く途中の行程にあ
つたということは、動かすことができない事実のようにわれわれには受取れるのであります。ただ今申し上げましたように、すでに船長が密漁したということを自白したと申しております。それから証拠品として網が上
つたというふうな報道もあるのであります。しかしこれは私が申し上げるまでもなく、皆さんの多年の御経験によ
つてよくおわかりのように、はたして船長らが事実をそのまま陳述しておるかどうか、その自白はゆがめられた自白であるかどうか、これは非常に疑いの深い問題だと思います。李ラインで拿捕された連中が、ラインの外であ
つたか内であ
つたかとか、いろいろ向うで尋問を受けました場合に、あくまでも日本の漁民側の主張がいれられずして、あちらの取調官の言うままの陳述に
なつておるというような争いが、始終今日起
つておるのであります。この韓国側と日本との間を考えました場合に、韓国側の主張が常に一方的であ
つて、不法なものであるという前提のもとに、われわれがここで勧告側と闘
つておりますことが、ただちにこの拿捕された船の船員と、それから取締りの方の警備船との側に言い得ることは、いろいろな点より考えまして明瞭な事実なんでありますから、現在船長が自白しておるかもしれませんが、その船長の一陳述によ
つてのみ密漁されておるというふうに断定されることは、非常に早計だと思うのであります。
従つて私は住吉丸は密漁していない、密漁していない船が不法に故意に沈没せしめられて死亡者ができたというふうに考えておりますが、その点に対する長官その他の
当局のお考えはどうであるかということを
お尋ねしたいのであります。
それから第二点といたしまして、沈没しました事後の
処置に手落ちがなか
つたか、これが現地を非常に激昂させておる事実であります。たとえばこういうことはどうでありましようか。十時半に沈没したのであります。その場合に、地元の各警察には無電があるのであります。
従つて各地元の警察に無電でそれを通報しますならば、
ちようど旧正月でたくさんのトロール船が休んでおるのであります。また警備船もあるのであります。それが総出動してただちに沈没船員の捜査を開始するようなことになりますならば、あるいはこの五名の死亡者も死亡せずに、生存者のうちに入
つてお
つたかもしれないのでありますが、地元の方へ何らの通報もせずして、わざわざ広島の方へ通報し、広島から三津浜へ通報して、地元の警察や家族に通報されたのはまさに午後四時であります。目と鼻の沖合いで沈没せしめられておる船のことが、五時間も六時間もた
つて後にようやく地元の警察に通報され、この
関係者に通報されたというような事実、こういうことがはたして妥当であ
つたかどうか、手落ちがなか
つたと言い得るかどうか。さらに捜査の点について誠意がなか
つたというふうにとられる節もあるのでありますが、これはどうであるか。すなわち従来こういうような遭難があ
つた場合には、その死体が上りますまで徹底的に夜に日を次いで捜査をするのであります。ところがこのむらちどり丸は四時か五時まで捜査に従事しましたけれ
ども、四時か五時に引上げてしま
つておるのであります。なるほど数時間後に同じ海上保安庁の警備船が二隻ほど現場に到達しまして、この捜査をいたしましたけれ
ども、しかしいろいろ専門家にいわせますと、追突の現場を知
つた者でなければほんとうの捜査はできない、あの広い海上で、あとから来て
事情のわからない者が捜査するとい
つたつて、なかなかそんなにほんとうにかゆいところに手の届くような捜査ができないということをいわれておるのであります。また従来そういう例があ
つたときには、必ずその
関係の船が全
責任を持
つて捜査をするのでありますが、この三人の生死をはつきり確かめずに、これが無
責任に早期に引上げておるのであります。私はこれは非常に非人道的なことであり、ゆゆしい人道問題であ
つて、断じて許すことはできないと、かように考えておりますが、私の考えは間違いでありましようか。またあとからや
つて来ましたその捜査の船は、夜間は中止して朝始めるというような
状態であるようであ
つて、誠意の一片も、と言うと極端でありますが、現地の
関係者並びに地方民の憤激が緩和されるほど、誠実にや
つていないというふうに聞いておりますが、その点に対する現実の善後
措置はどう
なつておりますか、これもお聞きしたいのであります。
さらに現地の民衆を極度に激昂せしめております他の一つの問題は、十人の乗組員のうち三人は行方不明にな
つたのでありますが、七人はぬれねずみのものを引揚げられてむらちどり丸に収容された。むらちどり丸の方の情報から見ますと、非常に優待したそうでありまして、その点については私
ども感謝の意を表するにやぶさかならないのでありますが、しかしかりに密漁の嫌疑があ
つたといたしましても、目と鼻の間に宇和島、八幡浜という市の完備した留置場があるにかかわらず、これに収容しない。ことにその家族全体が、自分の親が死んでいないか、自分の子供が死んでいないかというふうに非常に憂慮しているにもかかわらず、そのぬれねずみに
なつている七人を目と鼻の間にある自宅に帰さず、家族とも会わせずに、それを遠い広島にひつぱ
つて行つて、船員らを隔離して、何人にも会わせないというようなことに
なつておるのであります。この家族の者ばかりではない。死亡者の遺族の人たちは、どういうぐあいに自分たちの親とか兄弟とか子供たちが死んだのであるかということを心配しているけれ
ども、それを聞くことが全然できないのであります。他の七人が帰
つて来ますならば、いろいろな点から、だれそれはこうして、だれそれはどこにお
つてどうな
つたのだがというようなことで、一応はその生死も確かめることはできるし、沈没当時の
状況も聞くことができて、少しは慰めになるのでありますが、何らそういう点に対する顧慮をせずして、広島の方へひつぱ
つて行かれて、現在でもまだ隔離してだれにも会わさないということなんであります。これはよほど警備船の方にうしろ暗いといいますか、弱点があるからい船員を自宅へ帰さず、地元の警察の留置場に置かずに、現在なお隔離して、面接をせしめないのではないかと思われる。たかが操業区域を犯したか犯さないかという問題であります。刑事問題としてもごく軽微な犯罪であ
つて、何箇月、何年というような懲役の問題ではありません。罰金だけで済む問題であります。いわゆる重大犯人でないにもかかわらず、かくのごとき非人道的なことをやるのは、私
ども同じ日本人として非常に悲しみにたえません。そういう点について、長官はどういうふうに御報告を受けておられますか。実際血も涙もないやり方だと私は思
つて、地方の人心が憤激しておるのももつともだというふうに考えております。地方の新聞なんかを見ますと、いろいろなことが書いてありますが、こういうことも御参考にしていただきたいと思うのです。「密漁なくも捕
つたら百年目、必ず喰わされる臭いメシ」という見出しで、こういうふうなこともい
つております。「仮に密漁していた場合は仕様がないとして、もし密漁の事実がなければ、容疑が晴れて釈放されても、その間の無駄は大きな損害だ。こんな場合には、損害の弁償をしてくれる規定はある。然しその手続は面倒で、とても漁師なんかに出来た
仕事ではなく、また取
つたにしてもホンノ申訳
程度な金であり、貰
つても到底損害の十分の一にも足りないから貰わないのが普通だ。それにもし密漁がない場合は、船体やエンジンの細部検査で苛め、もしこれも落度がなければ、雇入れ手続などの細則などを引張り出して取調べられるから、結局警備船に捕
つたら百年目だという気持ちが船員の頭にこびりつき、沖で警備船に逢えば必ず逃げるようになるんです。」こういう新聞記事もあります。とにかく「警備船は殺人業か」というような見出しもありまして、地方では非常な重大問題に
なつておるのであります。これは今回の問題ばかりではない。全体の海上警備船は、同じ日本人に対してこういう気持であ
つて、それが至るところに現われるとなりますと、非常にゆゆしい問題だと思うのであります。その点について、実情はどうであるか。それから、もし不法に、あるいは故意に衝突せしめて死亡せしめる、しかもその善後
措置に欠くるところがあるというふうなことがありました場合には、どういうふうに善処されるか。そういう点について一応お聞きいたしまして、いずれまたはつきりした情報が入り次第、いろいろ御
質問してみたいと思います。