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棚橋小虎君 先般
中山委員と私は
検察及び
裁判の
運営に関する
調査のために、島根、
鳥取の両県下に
派遣されることになりましたので、
西村専門員と
三原調査員を帯同いたしまして、十一月二十二日から
松江、
米子、
鳥取の三市に出張いたしまして、所定の
調査を完了いたしました。よ
つて調査の次第を御
報告申上げます。詳細な内容につきましては
写真、
図面、その他の
統計的書類を添附いたしまして
報告書を作
つておりますので、それに譲りまして、ここでは簡単に概要を
説明いたしたいと思います。
検察当局が捜査の段階において在監の
被疑者を
取調べます場合に、
拘置所或いは
刑務所が場所的に
検察庁と離れている
関係上、あらかじめ数名の
被疑者を
呼出し、これを
待室に入れておいて順次
取調べを行う慣行にな
つております。この
待室を仮監と申すのでありますが、
構造や
設備の点が不良なものが多く、且つ仮監に置かれておる間は、必然的に
弁護人との
交通も阻まれるということから、最近その使用が問題となりつつある情勢なのであります。その
実情と、仮監に置かれることが
被疑者の心身にどんな
影響を与えるかというようなことを
調査することが今回の出張の目的であり、併せて
山陰地方の
関係官庁の
施設を視察せんとするものであります。
かような趣旨に基きまして、
調査の対象として取上げました
項目は、
検察庁関係につきましては、(1)在
監者呼出しについての
刑務所との
連絡の
実情、
呼出しの
時刻、
人数等、(2)
呼出した
被疑者取調べの
実情、(3)仮監の
状況に対する
意見、(4)仮監への
収容が
被疑者に与える
精神的肉体的の苦痛と、その
取調べに及ばす
影響、(5)
呼出しによ
つて生ずる
弁護人の
接見の障害と
対策等の
項目であり、
刑務所関係につきましては、(1)仮監へ呼出された
被疑者の
護送及び戒護の
実情、(2)仮監へ
収容中の
被疑者の
状況、(3)仮監の
構造とこれに関する
意見、(4)
被疑者の仮監に対する不満、
要望、及び
意見等の
項目であり、又
弁護人につきましては(1)
検事の
取調べ、特に仮監
収容による時間的ロスと、その
被疑者の
接見に及ぼす
影響、(2)仮監に関る
所見、
要望等の
項目であります。而してこれらにつきましては
各地の
検事正、
次席検事、
関係検察官、
刑務所長、
関係刑務官及び
各地弁護士会の代表というような
かたがたと会席いたしまして、親しく
意見や
要望等を聴取いたしたのであります。
なお、
関係官庁施設につきましては、
各地の仮監のほか、
松江地検、
刑務所、
米子地裁、
地検支部、
米子刑務所、
鳥取地検、
地方裁制所、
刑務所等を視察いたしたのであります。
松江におきましては、先ず仮監を見たのでありますが、
裁制所の門を入りますと、すぐ左側に高い
板塀をめぐらした一画があります。この六十余坪の敷地の中に
間口六間半、奥行三間の瓦葺の平家がありまして、その建物の内部、
中央部に
棒材の太い
格子で取囲んだ
桶舎がでんと造りつけられておるのであります。これが問題の仮監なのであります。
丁度家の中に長さ五間
奥行き一間の細長い檻を据付けたものと思えば間違いないのであります。この
檻舎は四つの
舎房、
部屋に仕切られております。三畳敷と二畳敷のものがおのおの二つありまして、広いほうは
雑居房、狭いほうが
独居房であります。各房に丈四尺、巾三尺足らずの
潜りが開けてありまして、ここから出入りいたすのであります。この扉は
全面ガラスか張
つてあります。私は空いている
舎房に入
つてみたのでありますが、狭くもなく、天井も
相当高く、光線も入り、特に甚しく窮屈とか暗いとか、その他
精神上の
圧迫感があるとかいう
感じはありませんでした。尤もこれは十月末に
改造を加えた現在の
構造でありまして、その以前は全部一畳敷の極めて狭い
舎房であ
つたのであります。
間口が三尺でありますから、その
全面が
潜りとな
つておるわけですが、而も扉は板張りであり、なおひどいことには
格子の棧と棧の間に更に一本の桟が入れてあ
つたのであります。これらを併せて
考えますと、従前のは非常に狭く暗く窮屈であ
つたことは想像に余りあるのであります。
檻舎の外はコンクリートの土間でありまして、二、三人の
刑務官がここに監視しており、便所、流し等がその一隅に設けてあります。一般に
通風換気が等閑視される
傾向にありますが、ここでも床下を初め全体的に
通風が悪く、湿気が多く、臭気が強く感ぜられました。
構造や
状況の詳細につきましては、
報告書に
図面と
写真を添附しておきましたので、それを御覧になればよくおわかりになることと思いますが、仮監の模様は大体以上申上げた
通りであります。
なお、ここで仮監の
法律上の性質と申しますか、その
特殊性について述べますと、仮監は、
検察庁や
裁判所の構内に設けてありますが、その所属は
刑務所であり、性格も
刑務所の一部或いはその延長と
考えられております。かように
刑務所から遠く離れた場所にあ
つて、而も寝泊りをしないことを
建前としておるということから、常に継子扱いにされて来た
傾向がありまして、改善から取残された形とな
つておることを痛感する次第であります。仮監を視察した後
検察庁において
関係各
方面の
かたがたから
説明を聞きましたが、それより判明いたしましたことは、大体次の
通りであります。
検察庁の在監者の
呼出しは大体一日四人程度で、
検察庁に備え付けてある在
監者呼出簿に
呼出しの前日に記入し、これを
刑務所の係官に交付する方法によ
つており、ときには電話で
呼出しております。
呼出しの
時刻は午前九時から午後五時までと指定するわけであります。ここで問題となりますのは、不必要に長い時間仮監で待たされるとか、或いは待たされたが遂に
取調べを受けなか
つたという点であります。これは正午頃に
護送車を一
往復することと、
取調べを午前午後に分けるということで殆んど解決するはずでありますが、
実情は、
検察官の
取調べが予定した時間
通りに行かないこと、
護送用の車と
運転手が足りないために、なかなか実現がむずかしいというのであります。
次に問題となりますのは、この不必要に長時間仮監に置かれることのために、
弁護人の
接見が実際上制限されるということであります。
刑務所側では形式的には「
接見ハ接見室二
於テ之ヲ為
サシム可シ」という規定、即ち
監獄法施行規則第百二十六条に基き、又実質的には逃走の危険を理由に仮監での
接見を許さない
建前を堅持しておるのであります。でありますから、
被疑者が一度呼出されると、その日は
接見ができないことになり、これは
刑訴三十九条の
弁護人との
交通権は甚だしく侵害されることになるわけであります。実際問題といたしまして
検察官が
弁護人の
接見を妨害するため、故意にや
つているのではないかというように疑い得ることさえあるのであります。
検察庁側は
検事室で
面接を許すとか、できる限りの便宜を図
つていると申しておるのでありますが、
実情はかなり不自由であると言わざるを得ないのであります。これは
被疑者に慰安を与えるという点はともかくといたしまして、
刑訴三十九条による
弁護人との
交通権が保持されるか否かの極めて重大な問題であろうと
考えるのであります。是非ともこれは早急に解決しなければならない問題であります。併しそれは別に至難なことではなく、仮監の一部に
接見室を設けることと、必要な
刑務官を置くことによ
つて解決する問題であります。これらの事柄についての
弁護士会の見解は、仮監での
接見は許されないものと初めからきめ込んで、殆んど疑問も批判も持たれなか
つたようであります。
従つて仮監自体を見る
機会もないので、
改造前の仮監の
実情についても詳細な
認識に欠けていたのではないかと思われるのであります。尤も問題の取上げ方によりましては、
検察当局と真正面から対立することになりますので、
会員数の少い
地方の
弁護士会といたしましては、なかなか困難な
事情もあるように見受けられたのであります。前に申しましたような仮監の
特殊性ということもありまして、仮監は各
方面から等閑に附されていたわけでありますが、私たちの
調査を機縁といたしまして、事の
重大性についての正しい
認識ができて来たということは非常に有意義であ
つたと
思つておるのであります。
米子におきましては昨年まで本物の
拘置監であ
つたものをそのまま仮監として使用しております。
従つて構造上は特に陰惨であるとか、窮屈であるとかということはありません。ここでも
刑務所との
往復は朝夕の一回に限られておりまするし、仮監での
接見は許しませんということで、不必要に長時間待たされるとか、
弁護人との
接見は制限されるということは
松江の場合と変りはないのであります。
鳥取の場合におきましては、新らしく
検察庁が建築され、その中に一室を仮監として造
つてあるのであります。これは
部屋の一部の床を上げ、前面に丸い鉄棒の
格子を入れ、後は窓にな
つて内には畳が二枚敷いてあり、一坪半くらいの広さで、大体従来の
拘置所の
舎房を明るくモダンにした
感じのものであります。電灯もありますし、窓の広さも十分でありますから、採光には
申分なく、又新らしいだけにすべてがきれいで、これなら一応良いと見て参りました。なお、この式のように仮監が庁舎の中にありますと、
取調室との
往復に戸外に出ないで済みますので、いろいろな点で大変よい思われるのであります。ここで長時間待たされることや、
接見が阻害されることなどは前の両者の場合と同様であるわけで、
全国的な問題として一刻も早くこの点の改善されるよう希望する次第であります。
これで
調査報告の概略を終るわけでありますが、仮監の点も合せまして
調査及び視察の全般につきましては
報告書に譲りますから、御了承を頂きたいと思います。