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政府委員(
黄田多喜夫君)
我が国の
ガツトの
加入と申しますものは長い間の懸案でございましたことは御
承知の
通りでございます。それが、これも前の国会でお話申上げた点でございまするけれども、いろんな
障害から実現し得なか
つたというわけだ
つたのであります。この初期におきましては、
イギリスを初めといたしますところのいわゆる
英連邦諸国というものの熾烈なる
反対がございまして、そのためにどうもうまく行かなか
つた。それがやつとその
段階が落着きましたところ、次に来ましたのは思わざるところの
障害でございまして、即ち
アメリカの
政府の更迭、それに伴うところの現
政権が
アメリカの将来の
外交政策、殊に
関税或いは
経済一般に対するところの
アメリカの
長期に亙る
政策を早急に決定しないという
政策をきめましていわゆる
ランドール委員会というものを設けましてあらゆる角度から
本件を検討いたしまして、それが
結論を出したところで初めて
アメリカの
長期に亙るところの
経済政策というものを決定する、それが決定するまではメージヤー・タリフ・ネゴシエーシヨンというものを行わないということを決定いたしたのであります。これは何も
日本を
目当とするものではございません。いわんや
日本の
ガツト加入を困難ならしめようというふうな目的に出でたものでは絶対にないのでございますけれども、而もそれがはしなくも
日本の
ガツト加入というものを困難ならしめたということにな
つたのであります。と申しますのは、御
承知の
通りガツトと申しますのはお互いに
関税を低くして自由な
取引をしようという理想を持
つたものでありまするけれども、それを一歩掘り下げてみますと、何とかして
アメリカの
関税を引下げさせまして、それによ
つてアメリカにたくさん物を売ろうという
各国の
狙いであります。つまりそれによりましてできるだけ多くの物資を
アメリカに売りまして、そうしていわゆる
各国のダラー・シヨーテイジというものを少しでも緩和したいというのが
狙いでございます。従いまして
アメリカが大きな
関税交渉というものは行わないのだ。これは六月の十五日でございましたか、
向う一年間はいわゆる
アメリカの
互恵通商法というものを単純延長するということにいたしまして
従つて各国と
行政部がなし得る
関税の
譲許の中というものは今まで
通りということを決定いたしましたために、改めて
ガツトのいわゆる
多角的関税交渉というものは行い得ないということにな
つたのであります。
従つてその
日本の通常の手続による
ガツトヘの
加入というものはできなくなりまして途が塞がれたわけでございます。従いまして
日本のかねての
希望でありますところの
ガツトヘの
加入を実現さすためには何か
便法を講じなければならんということになりまして、このたびジユネーヴで開かれましたところの
委員会におきまして、
日本は
便法を案出して提出いたしたのであります。つまり無事に
ガツトに仮
加入するためには
関税交渉ということをいたさなければならないのでありまするけれども、今申しましたような
事情でそれができない。このできないというのは、
日本の
事情によるのではないので、
日本は熾烈なる
希望を持
つておるのにもかかわらず、よそから来るところの
理由によ
つて日本の
加入の途が塞がれたのである、
従つて何とか
便法を講じてもらわなければならんというので、
日本側は
ガツトに
加入させてもら
つてその
ガツトの
権利義務というものはこれを享受したい、併し
各国とも
ガツトに入るためにはそれ相応の
犠牲を
払つておるのだ、つまり
関税の
譲許というものをもう少し高い
入場料を
払つて入
つておるのだから、
日本も只で入れてくれということは申しません、
日本は将来に亙りまして本
加入が認められる期間に至る
間相当品目の据置ということを約束いたしますという提案をいたしまして、それが容れられまして今度の
ガツトの仮
加入ということが実現したわけでございます。御
承知の
通り、
イギリスと
豪州と
ニユージーランド、南阿、
南ローデシアというものが
反対……
反対ではございません、棄権いたしましたけれども、その他の国は
日本の
加入に原則として賛成だということで二十七対六でございますかで
加入が実現されたわけでございます。
さて然らば
加入した後、
状況はどうであ
つたかと申しますと、御
承知のように、
アメリカは
日米通商航海条約によりまして、
日本の意思によらずして
日本が
ガツトの一員になれない間は、
日本に対しては
ガツトの
税率をやるということが二十四条に規定してございますが、それによ
つてアメリカは
日本に法律的の
ガツトの
税率を適用してくれておるというわけでございまして、
イギリスは
イギリス本国に関する限り、事実上
日本にその待遇を与えてくれておるのであります。ただ
イギリスは
法律的権利として与えるということは好まないということを申しておりまして、事実上与えておるけれども
権利として享有しておるものではないのだということをはつきりいたしております。従いまして、
只今のところ
日本に
ガツト税率の恩恵をくれていない国の目ぼしいものといたしましては、今までくれていません国は
カナダ、
豪州、
ブラジル、南阿、
ニユージーランドというふうな国でございます。これらの国で然らばどういう実際上の差別があるのかと申しますと、
羽生さんが
只今御
指摘になりました点を具体的に申上げますと、例えば
カナダを例にとりますと、
カナダはいわゆるプレフアレンシヤル・タリフ(
英連邦特恵関税)というのがございますのでそれと、
ガツト税率というものと、それから
最高最低ガツトというふうな三つの
税率にな
つております。例えばまぐろは缶に入
つたものでありますけれども、これが
最高税率は三〇%、
最低が二二・五%、
ガツトも二二・五%というふうにな
つております。
かに缶詰、肝油、
天然真珠というふうなものも大体今申上げましたような
最高というものと
最低、
ガツトというものが今申上げましたような比率で違
つております。それから
最高と
最低と
ガツトというものがそれぞれ違
つておりますものを申上げますと、例えば羽二重は
ガツト税率は二五%
プラス五セントというふうにな
つておりますが、これが
最低税率になりますと三〇%
プラス七・五セント、
最高税率になりますと四五%に
プラス一〇セント、この一〇セント、七・五セント、五セントと申しますのは、一ヤードにつきましてそれだけのエキストラの割合がかかるということでありますが、そういう
状況にな
つております。従いまして、今まで
日本は
最高税率というものを課せられてお
つたわけでございまするけれども、これがこの
ガツトに今度
加入いたしましてこれらの国が
日本との間にいわゆる
宣言というものにサインをいたしますと、
日本に対する
適用税率がいわゆる
最高からこの
ガツト税率というものまで引下げられるということになる次第であります。これが果してどのくらい金額で違うであろうかということはなかなか予想は困難でございまして、ただ今まで出ていた額がどのくらいであ
つて、それに適用されていたところの
税率がどのくらいであ
つたかということだけはフアクトを以てお示しできるのでありますけれども、さてどのくらいこれが伸びるであろうかということは予想し得ません。まあどのくらいになるであろうというラフなエスチメイシヨンはできますけれども、それ以上にはできがたいのであります。
さて今申上げましたこの
カナダ、
ブラジル、それから
フランス、
豪州、
ニユージーランドというふうな中で、さつき申上げましたように、
英連邦諸国は
カナダを除きまして恐らく
宣言にはサインいたしません。これが実質的に
日本に得になるであろうというふうに認められますものは、
カナダ、
ブラジルであります。
フランスはこれはまだわかりません。
英連邦の
カナダを除くところのほかの国は、もう殆んど確実に
宣言にはサインいたさないであろうと思われますので、実質的にどれだけの具体的に利益がある国ということを申しますと、恐らく
カナダと
ブラジルであろうと存じます。
さて、先ほどもう
一つ御
質問がございましたが、この
ガツトに
加入するがために
犠牲を払
つたようなことはないかとおつしやる点でございますが、これは先ず第一に
犠牲と申しますと語弊がございますが、と申しますのは当り前の
入場料であるからと思うのでありますけれども、
日本は
向う一年間或いは再来年の六月に至るまでの間、相当
品目の
関税の引上げをいたさないということをいたしております。これは
日本側の受ける
制約でございまして、
各国とも
ガツトに
加入いたしますためにはそういうことをや
つておりますものを、
日本が新たに仮
加入の方式といたしましてそういうことを約束いたしましたので、これが
日本側の受けますところの一番大きな
制約でございます。それから
各国に対していろいろなことを
譲許したというようなことはないかという点でございまして、これが
新聞にもそういうふうに出ておりますけれども、
カナダとの間に去年の終頃から
関税を主といたしまするところの
通商協定を締結しようといたしてお
つたのでございます。この
通商協定というものを長い間や
つておりましたけれどもなかなか結実いたさなか
つた。それがこの
ガツトの話と
ちようどあたかも軌を一にしておりましたので、この
通商協定というものを作ろうじやないかということにはな
つております。但し先ほど
羽生さんがおつしやいましたように、
カナダからたくさん物を買わなければならないというふうな約束は何にもいたしておりません。これはこうでございます。
日本は御
承知の
通り今まだ外貨も十分にございませんので、いわゆる自由な
多角貿易というものをやれない
状況にな
つております。そこでまあ
イギリス何かもそういう状態でございまして、このコンヴアータビリテイということに伺
つて邁進しようとしているのでありますが、この
イギリスの
狙いますところも、成るべく自由な
貿易にしようということが
狙いであります。
カナダのほうはいわゆる富める国でございますので
自由貿易ということに非常に主眼をおこうということを主張いたしております。つまり安い所から自由に物を買うということにする必要があるということを主張しているのであります。
カナダには安くていい物が多いのであります。
従つて日本も成るべくならばそういう
為替割当とか、或いは地域的に基く
割当とか、或いはこのクオータ・システムとかそういうものは成るべくやめて自由な
取引にしようじやないかということを申して来ております。それは
日本といたしましては理想的には違いない。併しながら
日本を含める
世界の多数国が置かれておりますところの
状況からして、
一足飛びにそこへ行くということは到底不可能だ。それができるならば
各国ともそれをや
つているはずでありますけれどもそれができない。おのおの潜在的なる内在的の
理由があるので
一足飛びにはとてもできないんだということで、そういう点で
話合つておりまする点はございまするけれども、
カナダから物を余計買うというふうなことを約束している、或いは
話合つているというふうなことはございません。