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行實参考人 私は福岡県直方市長の
行實重十郎でございます。私は全国の鉱業市町村連
盟会長として、山口、福岡、佐賀、長崎、熊本各県の
鉱害関係市町村を代表いたしまして、先生方に感謝の言葉とともに陳情を申し述べさせていただきます機会を与えていただきましたことを厚くお礼を申し上げます。
先生方には国政のため日夜御精励せられ、なかんずく通商
産業委員として御活躍に相なり、お忙しいところを特に
鉱害復旧問題について日ごろより非常な御関心をお持ちいただき、しばしば現地を御視察になり、また親しく耳を傾けられまして、さきには特別
鉱害及び一般
鉱害復旧の二つの法律を制定され、これによ
つて一応複雑多岐にわたる問題の救済に当
つていただいたことは、
鉱害をこうむ
つております地元民としてまことに感謝にたえないところであります。全国の市町村が一万の多数を算するに対しまして、
鉱害のありまする市町村は百にも満たないで、全体から見れば一%に及ばない少数である。しかも狭い地域に偏重しておる問題でありまして、風水害のごとく全国の輿論を巻き起し、国家緊急の問題として取上げていただくには、あまりにも条件が悪いのでありまして、それでも現存する
鉱害は実に三百億を算し、その被害の深刻なことは、とうてい筆舌には尽し得られないのであります。現地御視察の先生方には、よくこの実情を認識していただいておることと思いまするが、地盤の陥落に伴うて、田畑、道路、河川等は沈降または水没し、家屋は傾斜して危険にさらされ、また井水は枯渇してその日の炊さんに事欠くありさまで、各所にぼた山はそびえ、水たまりは広がり、国土の様相は、あまりにもみにくく変貌して行くはかりでございます。私が郷里をた
つて参りますとき、県下の某炭坑で、たいへんな事故が起りました。それは炭坑が一切の保安条件を無視して、無謀にも堤の下を濫掘したために、堤の水が落ち込み、坑内は水没し、採炭中の七人の犠牲者を出しましたが、これを目撃しました地方民は、不安にかられまして、識者は炭坑の濫掘は悪いが、これを監督すべきお役所があまりにも無責任であると非難しており、まことに悲惨のきわみでございます。右は
一つの例にすぎませんが、筑豊炭田地方には、このような事態がときどき発生するのでありますが、国土保全の建前から見ましても、実に慨歎にたえない次第でございます。私といたしましては、この崩壊に画せる
鉱害地帯を根本的に復旧して、民生の安定を確保するためには、現行の法令では満足ができません。由来私権は憲法において保障されておるはずであるにもかかわりませず、炭鉱地帯の住民の
生活と権利は、何らの保護を受けておらないのであります。
鉱害賠償の要求は、法的には認められておるが、弱小の被害者には事実上これを訴うるの力がない。現に
石炭採掘によ
つて発生した被害は歴然たるものがあるにかかわらず、正当の復旧を講ぜられず、泣き寝入りの
状態であります。この不満の現実は、国政上から放置できないことだと思うのであります。現行鉱業法の基本原則である金銭賠償主義にもさらに検討を加え、将来にわたる抜本最善の構想を打立てたいという理想を有するものであります。このことは次の機会に譲り、今日の段階におきましては、特別
鉱害復旧臨時措置法並びに臨時
石炭鉱害復旧法の二つの法律に絶大の期待をかけておるのであります。特別
鉱害におきましては、法律の寿命はあますところ一年有半であるにもかかわらず、この事業の進捗率は、ようやく五〇%にすぎないのであります。現に過般の風水害でも特鉱が予定
通りに進行していなかつたために災害度が加重されたことはいなめない事実であります。しかしながら幸いに
政府当局におきまして特鉱法の強化につきまして、せつ
かく御考慮を願
つておるやに聞き及びますので、さらに全幅の信頼と期待をかける次第でございます。
次に、一般
鉱害の場合は、そのすべり出しにおいて、すでにつまずいた感があるのでありまして、なかんずくそのおもなるものには、臨鉱法の適用を受ける土木箇所の復旧に対する国庫補助金の交付に関する件であるのでございます。
鉱害土木箇所は、県営土木箇所と市町村営土木箇所とに区分されますが、
大蔵省の取扱いといたしましては、県営土木箇所の復旧に対しては、国庫補助金を交付するが、市町村営土木箇所については補助金を交付しないということであります。臨時
石炭鉱害復旧法第九十四条、同法施行令第一条の規定には、これら地方公共団体が維持管理する道路、河川、堤防等の公共施設の復旧については、県営土木箇所、市町村営土木箇所の区別なく、国庫補助金を交付して復旧を促進することにな
つておるにもかかわらず、
大蔵省がこのような取扱いをされますことは、きわめて了解しがたいのでございます。しかもこの問題につきましては
政府部内においても、大蔵、建設、通産各省の取扱いについて、はなはだ矛盾があるのでございます。一例をあげますと、
昭和二十八年度分については、すでに県及び市町村分を含めて、所要補助金四千万円を予算面に計上されているのでありまして、予算措置はなされており、かつ建設省は
関係知事へ県と市町村分とに区分して予算割当の内示をされておるほどであります。前に申し述べました特別
鉱害と臨時
鉱害復旧との二つの法律は、まつたく同じ性格同じ目的を有するものであり、いわば姉妹法律で、ただ異なるところは、特別
鉱害が戦時中の
鉱害を対象とするのに対し、臨時
鉱害の方は
戦前戦後の
鉱害を対象とするものであります。しかるにプール資金制度及び特別
鉱害による復旧では、市町村官土木箇所も県営土木箇所並の取扱いをしておるのに対し、臨時
鉱害の場合は県営土木箇所のみに限定し、市町村宮土木箇所を認めないというのでは、国の行政の矛盾もあまりにもはなはだしいのではないでしようか。道路、河川等の公共的施設は、県営、市町村営の土木箇所が相互に交錯
関連しておりますので、これを切り離しまたは単独に復旧をしようとしても絶対にできないのでありま
〔
委員長退席、福田
委員長代理着席〕
かりに県道だけを復旧しても、これに交錯
関連する市町村道がそのままでは、かえ
つて条件が悪くなります。特に炭鉱地方における市町村道は、
石炭、米麦、肥料等の重要物資の運搬には欠くことのできない緊要な使命を有するもので、決して県道に劣るものではございません。特に長崎県のごときは、市町村道が普及整備しているので、一層にこの必要を痛感しております。以上は炭鉱地方市町村の共通した悩みでありますので、市町村営の土木箇所の復旧に対しても、ぜひとも補助金の交付をしていただくようにお願いを申したいのであります。
昭和二十五年十二月、鉱業法制定の際の通産
委員会の附帯決議にも、「
政府ば、国庫の負担において、
鉱害地の原状回復を断行すべく」と書いてありますが、幸いに二つの要望を実現さしていただきましても、いまさら法令改正の必要もございません。また予算を補正していただく必要もありません。どうぞ皆様におきましても、われわれの悲願を達成さしていただくように、ひとえに懇願をいたす次第であります。
次に資金運用部資金の借入れについてでありますが、このことにつきましては、別の公述人から詳しく陳述があると思いますので、私はごく簡単に申し上げます。
鉱害復旧事業団は、御
承知のごとく、基金を全然持たない特殊法人でありますがゆえに、公共事業の
鉱害復旧を実施する責任を有する同事業団が、必要ある場合は借入金をも
つてこれを運営して行くことを法は認めているのでありまして、この借入金は、その性格からして、資金運用部資金のごとき低利資金を予期しているのでございます。また一方非公共の家屋等の復旧については、同法は、被害者が通商
産業局長に協議あつせんの申出または裁定の申請をなすことができるにとどまり、その場合は、賠償義務者たる炭鉱側は、
鉱害復旧事業団にその復旧費の借入れを申し出ることができることにな
つているのであります。すなわち特別
鉱害における家屋は完全復旧がなされているのに対し、一般
鉱害における家屋は、ただ事業団が賠償義務者にその復旧費を貸し付けることによ
つてのみ救済されておるにすぎないのであります。この借入金の性格も、公共事業の場合と同様に資金運用部資金を期待しているのであります。家屋等の被害者は農地の場合とは異なりまして、年々の賠償をも受けず、ただ黙黙として一日も早く復旧ができ得るようにこそ待望いたしておるのでございまして、
かくのごとく被害者は、加害炭鉱に対して、賠償要求のために、今では集団的に要求をすることは日常のことでございまして、現在ではハン・ストによりこの問題を解決せんとする事件が、もうすでに本年におきましても二、三回にわた
つてあつたのでございます。近時炭界がきわめて不況でありますので、
鉱害復旧が遅延がちにな
つていることはまことに遺憾でありまして、これが対象として、
政府はすみやかに
鉱害復旧事業団に資金運用部資金を二億七千万円貸し付けていただくことを
念願する次第でございます。
以上二つのお願いを申し述べさしていただきまして、私の公述を終りたいと存じます。