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五十嵐参考人 加藤さんの
お話に言葉を返すようで変なんでございますが、先ほど私が昨年よりも支払い状況がよろしいと言いましたのは、おもに大企業の下請だけの話でございます。この点はどうか御了承願いたいと思います。それから倒産の
お話がいろいろございましたが、手形交換高のふえておりますことも事実であります。しかし、ここに不渡り手形の表がありますですが、不渡り手形はふえておりますけれ
ども、その六〇%は、一度不渡りを出して
銀行の
取引を停止されたか、あるいは
銀行に全然
取引のない、こういう手形が不渡り手形の六〇%あるわけです。これは出す方が不注意かあるいは悪意があるかというわけで、これが非常にふえておるわけです。それからほんとうの専門的見地から見ますと、新規に不渡りを出した件数はどうかというと、それは昨年とほとんどかわりがないです。
取引のないのに、か
つてに手形を出して不渡りを出した。それで不渡りがふえておる
数字が出ておりますが、ほんとうの第一回の不渡りといいますか、初めて不渡りを出した件数は昨年の今ごろと比べてちつともふえておりません。不渡り手形の枚数、
金額に対するそういう新規の不渡りを出したパーセンテージの
ごときも本年は非常に減
つております。そういう
数字はとにかくといたしまして、倒産のあることは繊維
業者その他事実であります。この倒産その他が、今の
お話ではこと
ごとく私
どもが
金融を締めたからというようにも聞えますが、これはいろいろの原因があると思います。これは多岐にわたりますから申し上げませんが、これは倒産会社の思惑の失敗とか見逓しの誤りとか、いろいろの点が
相当原因しているじやないかという気がするのであります。それから先ほど御
質問がありましたけれ
ども、私
ども実際今の
金融政策をと
つて参りますバツク・グラウンドを少し話さしていただきますと、こういう
考え方であります。これは
中小企業と直接の
関係はありませんが、ある
一つの政策をとる場合には、その前提として必ず現在の日本経済がどういう
状態にあるか、この認識の問題が違いますとやはり政策も違わざるを得ないと思うのであります。
加藤さんと私
ども、その点多少認識が違うのかもしれませんが、かかる
状態なるがゆえにかかる政策をとる。その
状態は、われわれは日本の経済は一言にして言えば基地経済である。なぜ基地経済かと申しますと、たとえば御殿場にアメリカの兵隊が駐留する。するとその村なり町なりに臨時収入がふえ、過剰購買力が散布される。カフエーができる、キヤバレーができる、みやげもの屋ができる、お百姓さんも田を耕するよりもパンパンにでも部屋を
貸して暮した方がいいという、他力本願といいますか、見せかけの繁栄といいますか、要するに基地経済の特色として、私
どもは不健全、不安定、他力本願、勤労意欲の喪失、ぜいたく、そうして見せかけの繁栄、こういうことを言
つております。そういう村なり町ですとよくわかるのですけれ
ども、日本の今の国全体が現にこの原則は同じだと思います。日本全体だと大きくてわかりにくいですが、端的に見ますればあの基地経済とちつともかわりがない。端的な話が国際収支——国内における価値の移転は階層間の移転です。国会日体として見れば階層間の価値の移転にすぎないのですけれ
ども、ほんとうの国のあれは国際収支です。国際収支は御
承知の通り正常の貿易の輸出が十二億ドルで特需その他八億ドルですから、実に十二対八です。正常貿易十二億、特需八億ドル、二十億ドルで輸入しておるのでしよう。その二十億ドルでは日本の経済は保てません。主食などの五億六千万ドル、その他羊毛とか繊維とか四億五千万ドル、それだけで正常の輸出の十二億はとんとん、あと鉄鉱石、あらゆる工業原料全部入れて二十億ドル輸入しなければ、この今のわれわれの生活水準を保てません。ところがそれを稼ぐのは十二億ドルが正常貿易であとは特需であります。いかに臨時収入に依存しておるかという点は基地経済とちつともかわりがない。それから見せかけの繁栄ですけれ
ども、御
承知の通り今日本は石炭でも鉄でも造船でも船会社でも、みんな景気が悪いでしよう。石炭だけでも三井鉱山は赤字を出して無配でしよう。船会社——郵船でも商船でもみんな赤字で無配でしよう。国家の基礎的産業はこと
ごとく悪く、いいのは何です。いいのはデパートがいい。デパートの株は上
つております。ビール会社も景気がいい。森永製菓、明治製菓など製菓会社がいい。森永製菓は銀座四丁目に東洋第一の広告塔をつく
つてや
つておる。それからサービス業がいいでしよう。要するに末端消費につながる、つまらぬ——つまらぬとい
つては語弊りがありますけれ
ども、映画会社とか興行会社とか、デパートとかビール会社とか、製菓会社とかサービス業というものが景気がよくて、国家の基本になる基礎産業はこと
ごとく悪い。これは見せかけの繁栄ですよ。こういう某地経済ということを私
どもは今の経済の基礎として認識している。それを出発点にして
考えますと、どうしてそうな
つておるのか、やはりこれは過剰消費が行われておるからだ。それはりくつがありますけれ
ども、過剰消費が行われておるという証拠は物価が上
つて来ている。過剰消費が多いから物価が上るのです。それともう
一つは、ことしにな
つて輸入が非常にふえておるのです。だから国力以上の消費をやれば輸入がふえるか物価が上るかどつちかです。今半々にわかれておる。国力以上の消費をや
つておるから、その
一つの現われで物価は上る。もう
一つの現われは輸入がふえておる。もし物価を下げるつもりなら外貨をどんどん使
つて輸入をやれば、底の浅い日本経済は一ぺんに安定してしまう。物価は上らない。それだけの外貨を使う国の力がないのだ。おそろしく外貨をうんと使
つて、綿でも羊毛でも——この春から羊毛が高くな
つたのは外貨の
割当を少くするという思惑で高く
なつた。外貨を使
つて羊毛を入れれば一ぺんに物価は下
つてしまいます。それたけの力がない。ですから国力以上の消費をしてやるということはいろいろりくつがありますけれ
ども、端的に言
つて、日本の経済は一面は物価の騰貴によ
つて吸収しておる。一面は輸入の増加によ
つて吸収しておる。これは
数字がはつきり示しております。こういう
状態のときにはどこの国でも財政の緊縮と
金融の引締めは定石です。それをやらぬから向うから投げやり経済とかすつぽらかし経済というか
つてな批判を受ける。外国がそう批判するのはか
つてですが、要するにそういうことですから、そういう基盤から今
中小企業とか大企業とかにいろいろな問題がある。これは全部の問題ですよ。全体のためにこうや
つておる。そういうむずかしい問題がありますけれ
ども、それはいろいろそういう政策をとれば、大きいものも小さいのもみなここしばらくほんとうに苦しまなければならぬと思うのです。それは今の基本的な情勢ですけれ
ども、ことしに入りましてから私
ども実際についてみますと、今の国際収支は一月から十月までの間に一億三千五百万ドルの入超なんです。去年は一月から十月までに三億五千四百万ドルの受取り超過です。これは特需もみんな入れてことしは一億三千五百万ドル国際収支において赤なんです。去年が三億五千四百万ドル黒ですから、それを合せますと、一年間に約五億の国際収支においてマイナスが来ている。これが日本経済に影響しないわけはない。それから卸売物価は、ことしは一月から十月までの間に日本
銀行の卸売物価指数は四・九%、約五%上
つておる。去年はこの十箇月で二・一%下
つておる。ことしは上
つておる。それからことにわれわれの家計、CPS、消費者物価指数が一四・一%上
つている。去年は全然横ばいなんです。そしてことしは
銀行の貸出しは輸入決済を、除きまして四千二百四十億ふえておるわけです。去年は三千四百四十九億です。そうして二重投資とか過剰投資とかの現象が出て来ます。そうして一方
運転資金は滞貨融資の面がある。これは私
どもの抜打ち検査の調べですけれ
ども、六月末における小売商のストツクといいますのは、一月分を一〇〇としますと一七七、これが九月には二七二にな
つておる。ストツクもふえておるわけなんです。国際収支は赤になり、輸入はどんどんふえる。物価は上
つて来る。そうして滞貨がふえて来る。過剰投資が行われる。
銀行の貸出しはどんどんふえる。これで一体国の経済が保てるかどうかと思うのですよ。実際これでは甘い
金融政策をとれないじやないか。けれ
どもあまり締めれば日本の経済が耐えるかどうか問題がある。あるいは思想問題がありますから、そこには限界があります。日本の経済がそれに耐えるかどうかという体力の問題、それから赤の思想問題、この二つがある
関係で、締めるとい
つても、そこにはおのずから限界といいますか、そういうものがありますけれ
ども、経済の基本的な認識が、今申し上げましたような認識に立ちますから、今の政策をとらざるを得ないという点をひ
とつ御了承願いたいと思います。