○藤原道子君 私は日本社会党を代表いたしまして只今上程になりました
昭和二十八年度一般会計補正予算並びに特別会計補正予算案に対し、反対の意思を表明いたすものであります。
政府は今国会の召集に当
つて救農国会と称し、予算も災害、
冷害対策に限定し、これによ
つて罹災者に緊急処置の温情を匂わせ、あたかも異常なる災害に悩む人々に大きな希望と
期待を持たせ得るかのように装
つておるのでありますが、果してこの予算案が救農一枚看板で貫かれた国会にふさわしい内容を持つた補正予算案でありましようか。私は、
政府のその
誠意の微塵をも見出だすことができないのでございます。而も大蔵大臣が責任を以て提出したと称する予算案を、大蔵大臣が両院本
会議において
説明をし、その舌の根も乾かないうちに、保守三党の楽屋裏の取引によりまして修正が加えられ、
政府は当初の大言壮語にもかかわらず、みずから修正予算案を提出いたしたのであります。保守三党が予算
委員会において修正を行わず、楽屋裏の取引に終始したことは、みずから国会の審議権を軽視し、国会の威信を傷つけたものであり、これをそのまま呑んだ吉田内閣の態度も又少数内閣の弱さのためとは言え無責任も甚だしく、民主主義政治の正常なる運営上甚だ遺憾であると言わなければなりません。保守三党がかかることを平然と行い、将来に対して悪例を残すならば、やがて
国民の信頼は国会を離れて行くでありましよう。而もかかる楽屋裏の取引によ
つて修正されました補正予算案によ
つて果して罹災者が救われるでありましようか。災害が復旧し、或いは不安なき
国民の
生活が保障されるでございましようか。断じてそうとは考えられません。
先ず第一に指摘いたしたい点は、今年の災害は、前国会の開会中の六、七月に起つた未曾有の暴風雨による九州、和歌山の災害以来、数次に亘るものであり、その被害の規模も全く異常に深刻なものであります。従いまして、第十六回国会におきましては、衆参両院に水害地緊急対策特別
委員会が設置され、又
政府といたしましても対策本部を設け、災害者の救済と災害復旧のための努力を
国民に誓われたはずであります。爾来、特別
委員会は涙ぐましいまでの活動を行い、休会中といえども休むことなく、実情調査に、その対策に腐心されたことに対しまして、我々は心からなる敬意を表する次第であります。而して
委員会は超党派的な努力によりまして二十四の特別立法を行い、又復旧事業費の国庫負担分につきましては満場一致千八百億円としたのであります。従いまして、これを三・五・二の比率で支出いたしますならば、本年度といたしましては当然五百四十億円を補正予算に計上しなければならなかつたはずであります。然るに
政府は無慈悲にも、先ず総額を千五百六十五億円に削減し、予算にはその二割にも足りない僅か三百億を計上したに過ぎないのであります。
政府は本年度はこれで足りるとうそぶいているのでありますが、
政府が今回この種予算の三割の
原則を二割に切下げられましたその真意はいずこにあるのでありましようか。口に災害対策、救農を叫ばれる
政府並びに自由党、改進党の皆さんは、今度の災害がそんなに軽微なものとお考えでありましようか。現在なおその家は潮水に洗われ、水田の海水は未だに引かず、一年の努力による収穫を根こそぎ失い、その飯米にも窮している人々は、罹災半年を経過してなお住う家もできず、十一月のこの寒空に学校の教室に震えている人々の暗澹たる希望なき姿は見るに忍びないものがあるのであります。又
冷害対策にいたしましても、
政府及び保守三党によ
つて作られました修正予算案においては、農業保険費不足補填百三十億円のうち四十五億円を削
つて、
冷害対策費、農林
漁業金融公庫出資の増加に廻して、辛うじて百五十億と辻褄を合したのであります。又財源といたしましては、既定経費削減分を計上しておりますが、そのうち、公共事業費、食糧増産対策費の削減、住宅公庫出資の二十二億円等、民生安定費を削減したのでございますが、これ又我々の認め得ない点であります。なお大蔵大臣は、復旧事業の進行によ
つて資金運用部
資金の融資を図ると言
つておりますが、その数字的な裏付けはなく、従来の例や大蔵当局の言から見まするならば甚だ心許ない次第であります。殊に、実際には出さない肚が見え透いているよりに思えるのでございます。
第二に、
政府は、インフレの危険あるが故に補正予算総額をこの程度で抑え、インフレ要因の排除に努めると自讃しているのであります。併しながら、ワシントン
政府や財界の要望に従
つて、インフレを口実にして、災害の復旧や
冷害に悩む農民の
生活に金を出し惜しみをしているのであります。これに対して、我が党は衆議院におきまして、両社共同組替案といたしまして、災害復旧事業費を六百億、
凶作対策費といたしましては、
冷害対策費百三十億、農業共済保険繰入百五十億を計上し、
政府の救農予算計上額五百億に対し計八百八十億といたしたのであります。なお、このほかに、農業金融公庫出資、つなぎ融資の利子補給等、合せて九百一億を計上いたしております。ところが、これに対して保守党の
諸君は経済破壊のインフレ案であると言うのでありますが、私は、今日再軍備を推進し
国民生活を圧迫しつつある防衛費こそがインフレの要因であると(
拍手)断ぜざるを得ないのであります。このたびの補正予算の問題は、防衛関係費の削減なしには
解決は絶対にできないのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり、
拍手)財界を初め
政府与党は、口を揃えて、インフレを防ぐためにこれだけしか出せないのだと言われますが、不思議にも現在使い残されておる一千二百億に余る防衛関係費には一口も触れないのであります。災害復旧のために使う予算がインフレを起し、防衛費がインフレ要因には関係がないというがごとき財界、
政府与党の考え方こそ、耳を掩うて鈴を盗むがごときやり方であると言わなければなりません。毎年の災害復旧が次年度へ次年度へと繰越されるために、年と共にその災害は増大し、いよいよ多くの尊い人命が失われ、一年の汗の結晶の収穫は一夜にして一物をも余さず奪い去られ、ただでさえ不足の食糧がいやが上にも不足となり、なけなしのドルで、而も頭を下げ、高いまずいお米を、外米をますます多く輸入しなければなりません。そうしてそのために貴重なる外貨を使い果しておる。半面、罹災者の
生活を地獄へ突き落しておる。この悲劇を思えば、今こそ過去の惰性を一擲いたしまして、抜本的対策を樹て、再び災害をこうむらざるよう災害復旧を完全にいたし、且つ治山治水の政治を起し、以て民生の安定と食糧の増産の擁立を図る積極的な政策の樹立こそ急ぐべきであると信ずるのであります。(
拍手)曾
つては食糧難、或いは洪水、乞食、餓死者等々で有名でありました中国におきまして、今日革命後四年にいたしまして、すでにこれらの災害を完全に除去し、建設的事業が着々と進行しておるということは、以て
政府は大いに参考とすべきものであろうと思うのであります。
以上が救農国会における補正予算の実体でありますが、その他の
国民のことは全然考慮せず、中小企業はつぶれても死んでも仕方がない、貧乏人は麦を食え、金持が米を食うのが経済の法則だという自由党一流の考え方に終始いたしておるのであります。今日中小企業の困窮は想像以上のものがありますが、不況の深刻化につれて大銀行の金融の引締めはいよいよ厳しく、窮迫の度は今やその年の瀬を控えてまさに絶頂に達しておるのであります。併しながら、
政府は、今回の補正予算ではこれに対し何らの予算をも計上いたしてはおりません。我が党といたしましては、これが救済のために百億を計上いたしております。又公務員に対する人事院のベース・アップにいたしましても、すでに四カ月前に勧告されているにもかかわらず、
政府は今回全く予算的
措置をせずに放置しております。又国鉄、専売、電通、逓信、林野、印刷、造幣、アルコール等々の公共企業体に対しましては、すでに仲裁裁定が出ておるにもかかわらず、そして又当局は予算上
措置可能であると言明しているにもかかわらず、
政府はなおこれを無視して、それが予算的
措置を講ぜず、これら公共企業体、現業官庁の従業員の権利を全く無視いたしました
暴挙をあえて強行いたしたのであります。我が党は、仲裁裁定を完全に実施すると共に、公務員の給与ベースの引上げは勧告
通り八月よわ実施し、苦しい年の瀬を迎えての期末手当一カ月分の支給、
地域給、
寒冷地手当の是正を主張しているのであります。負けた国で経済の破壊の建直しの急務の時、そんな贅沢なことを言うなと言われるかも知れないが、我々は乏しきならば共に乏しきを分つ政治を欲する
国民感情を知らなければならないのであります。第十六国会において違憲論まで出た予算編成のことを思い出したい。少数党内閣の政権維持の念願から、本予算審議の過程に、改進党との野合修正によ
つて公党としての面目を丸つぶれにしてまでその延命を図つたことは、つい三カ月前のことでありました。驚いたことは、そのとき
政府案は、船舶会社に対しましてその利子補給を二十八年度からとして十三億計上されていたのが一躍百六十七億、そうして二十五年度遡及が決定した点であります。このことは、昨年炭鉱資本家に対し炭住融資の利子引下げを二十三年に遡
つてなしたこと等、曰く何会社、曰く何々と、洗
つてみれば政党献金のある会社ばかり、こういうことは平気で行える
政府が、事、民生安定のためとなりますると、言を左右にして拒否しておるのであります。住むに家なく、食うに糧なく、働きたくても仕事のない失業者が巷に溢れております時、大衆はその住宅難なるがために、三畳に、四畳に、或いは六畳に五人、八人、十人ひしめき台
つて暮らしておりますときに、なおこれらを顧みず、補正予算におきまして二十二億を削減した
政府、大銀行、大会社のビルはどしどし建設され、高級料理屋に高級自動車が列をなし、歓楽街は大繁昌、通勤電車は定員の二・六倍くらいで大衆が苦しんでおりまする時、乗用車は戦前の七万台が二十七年にはすでに十六万八千台で二倍半、而も殆んどはアメリカ製の高級自動車で、大衆には全く縁のない代物でございます。
国民に耐乏
生活を求める前に、道義の高揚を説く前に、みずから守るべきことを私どもは強く要望せざるを得ないのでございます。
今や真実、我々はバターか大砲かの二者択一の段階に立
つております。改進党は再軍備と社会保障は両立するとの主張でありますが、今どきそのような理屈は通らないのであります。防衛費が如何に莫大な予算を必要とするかということは、すでに諸兄の頭には判然といたしておると信じます。
国民の前に真実を知らせること、真実を知りたいというのが、今の
国民の一人々々の欲するところでありましよう。昨日の予算
委員会におきまして、中田
委員が、信を失うことはすべての終りであると、切々として
政府に真実の答弁を求められましたが、まさにその
通りで、最近の
国民の政治に対する不信は、まさにその限度に達しているのであります。吉田総理は、二十一年六月、第九十回国会におきましての憲法審議のとき、戦争放棄に関する本案の規定は、直接には自衛権を否定していないが、第二項において、一切の軍備と国の交戦権を認めない結果、自衛権の発動としての戦争も又交戦権も放棄したものであると答弁しております。又、今日までの戦争は、多くは自衛権の名によ
つて始められた。自衛権による交戦権と侵略による交戦権とを分けることが有害であるとも答えて、全面的に戦争の放棄を言い切
つておるのであります。ところが今日、再軍備はしないしないと口にされながら、事実は既定の事実を積み重ねられておることを考えてみて、国内治安のための警察予備隊が保安隊と変り、MSA援助の問題から起
つて、近く自衛軍となるとやら。岡崎外相は、保安隊が直接侵略に対抗する任務を与えられてさえ憲法違反ではないと言明し、MSA
協定の内容次第で保安隊の任務は変り得るものと、木村保安庁長官は言明をし、再軍備は今の国内経済力ではできない、又する段階ではないとしばしば繰返していたと思うと、自衛隊と呼んでも
軍隊と呼んでもよいというような意見も飛び出して来ておるのであります。何を信じてよいやら、お先真暗で、手探りの
状態に置かれておるのが現在の
国民であります。まあ私ども国
会議員の国会審議においてすら何事も知らされず、殆んど外国通信によ
つて知らされる実情であります。今回の池田特使の問題などは、余りにも
国民を愚弄するやり方と言わざるを得ません。如何に黒を白とごまかすかということに、全努力、全智能を搾
つておられる様は、全く見てはいられないというのが、現吉田
政府の姿でございます。
国民いわく、主権在米、まさに至言と言わざるを得ないと思います。而も保安隊という、私生児だか混血児だかわからない集団のために、苦しい
国民の血税がふんだんに使われて、
国民生活を圧迫しております。
今回の災害予算にいたしましても、その予算がないことの
理由で、千二百億を越す防衛関係未使用費がありながら、緊急を要する
国民生活のためには使用できないのは一体なぜでありましよう。而もこの防衛関係費こそが、明らかに平和憲法を蹂躪し、
日本国民のささやかなる
生活を根底から壊滅させ、破壊、荒廃せしめる再軍備の根源をなすものであります。従いまして、
国民的災難である今期災害対策が軽んじられ、これが予算はインフレ要因となり、防衛費はインフレを来たさないという
政府の考え方に反省を求め、今や
世界情勢は戦争の危機は遠ざかつたと首相自身が言明されておるときに、何のために、誰のために、再軍備を急がなければならないか。平和な
生活を求めてやまない
国民の悲願を代表し、又、巷間、子供の遊びの中においてさえ、その言葉に、相手が嘘を言つたときには、「何だ、おまえは嘘を言
つている。やあい
政府だ、
政府だ」と、嘘の代名詞を
政府だなどとい
つている。(
拍手)
政府の不信が童心にまで植え込まれることのないよう、この際、
政府に猛省を促したいのであります。苦しくとも真実を
国民に訴える、その上に立
つて国民の判断力により事が決せられる政治こそ、すべての
国民が求めてやまないということを強く主張し、これらに対し全然正反対の方向へ導く
政府の施策に反対し、且つ救農予算の名をなさざる本補正予算案に対し絶対に反対をいたし、討論を終る次第であります。(
拍手)
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