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参考人(
池之谷吉春君) 私は今御紹介にあずかりました
王子製紙労働組合の副
委員長の
池之谷でございます。今回本
委員会に
参考人としてここに呼ばれましたが、実は私の
組合は製紙が主でありまして、苫小牧工場においても殆んど四人近い人が製紙にな
つております。王子醗酵の
従業員のかたは曾
つて王子におりましたので、現在私の
組合に入
つているような
状態で、私も又製紙の出身でありますので、本日述べます
参考意見が全くの
参考意見になるかも知れませんが、本案件について
意見を述べたいと思います。
先ず
最初に先ほど
中山先生も、それから又数回に亙りまして
国会その他の会議の中でいろいろ問題が出されておりまして、私たち
民間人として一応
公労法の解釈についてもどういうように
労働組合のかた或いは
政府のかた、そういうかたが言
つておるかということにつきまして、私の
意見も一応述べたいと思うのであります。
労働組合としては
公労法は争議権を奪つた、だから
仲裁を設けて
仲裁を実施しないことは、
政府みずからが法の精神を踏みにじ
つておる、そう言
つております。それから
政府のほうでは、
予算上、資金上無理な場合
国会の承認がなければ駄目だというようなお話です。又
仲裁委員長のお話を伺いますと、労使双方の紛争を解決するために、いはば
仲裁裁定というものは判決のようなものであるから、労使双方を拘束する、両者において当然そこに債権債務というような問題も出て来るというようなお話がされております。これに対しまして
政府は更に
予算に
関係する以上、
国会の
審議を経なければ債権債務の
関係は生じないというようなことを言
つておりますが、こういう中で私たちは外から見ておりましてどういうふうに感じているかと言いますと、やはり一番常識的であり、そうして又一番今切実な問題として労働者のかたがたが
賃上げ要求をしておる、そういうようなところへ追詰められている人々の御
意見が一番ぴんと来るような
状態です。又これは私が
組合幹部であるからそう感ずるのかも知れませんが、率直に申してそう感するような次第です。で私たちの狭いそれから小さな経験から見ましても、
賃金の理論の合理性とか或いはその他労使双方を満足させるような主張というものは殆んどないのではないか、こう申しますと、実力一点ばりで合理性だとか或いは科学性の追究だとかを放棄したように聞えますが、そういう
意味で言
つているわけではありません。ただ労働者として争議権の裏付けの中に資本家の実力を正しく評価して行く、そうして又私たちも
労働組合の主体性の力を冷静に判断して行く、そういう中で或いは紛争も起り或いは妥協して行
つておる、こういうような形の中で労使の
関係というものが自主的に解決を行い得るものではないか、こう考えております。こうした経験から見てみますと、
公労法によ
つて争議権を奪われた
組合とか或いは
組合幹部のかたは現在非常に苦しい
立場に立たされているのではないかと考えております。これはまあ法律的なことはよく私も知りませんが、成るほど争議権と或いは又
仲裁制度というものが直接の関連があるとは考えておりませんが、併し労働者の
立場として今の値の中の
仕組に対してはやはりそういう
考え方をするのが非常に鋭い批判とな
つているのではないかと考えます。それで私たち素人から考えて見ましても、
公労法の十六条というのは三十五条の例外
規定で、原則は飽くまで
仲裁裁定に労使が
従つて行く、そうして労使間というものが自主的に問題を解決して行く、そうして国営企業であり、公企業である企業の能率をよくして行くと、こういうことが
根本の精神ではないかと思います。この点から
政府のかたがたが言
つておられますことがやはり公企業である企業に対して非常に干渉し過ぎるのではないかというような考えを持
つております。
第二には源資の問題ですが、やはり
公労法の精神である労使の自主的な解決ということが解決しなければこの財源の問題に関してもいろいろ話しても無駄なことのように思うのであります。私たち
民間企業においては、特に大企業においては金はあるけれ
ども出せない、なぜ出せないのかというと、世間との振合いだと言いますし、今最近の団体交渉の席上では会社側のかたはどういうことを言いますかといいますと、将来の恐慌に備えるのだというわけです。では具体的に一体企業というものがどうな
つて行くのかというような質問に対しましては、経営者のかたも具体的な明示がなくてあいまいに終
つてしまうように考えられます。併し公企業と
民間産業との経営者の或いは資本家のかたの考えることが違う点は、やはり自主的に解決しようという点において大きな食い違いがあるのではないかと思うのです。でこの点については本案件に対する当局のかたがたは、自主的な解決がないというよりも、或いは自主的に解決しようとしてもこういう官僚
制度といいますか、行政
制度の中においては非常に困難な
状態にあることはよくわかりますし、やはり自主的に解決しようとすることが見受けられないのではないかというように考えるのです。これはどうしてかといいますと、
裁定の
理由書の第三項の中にも
当局側は久しく
事業の面から見て現行
賃金が妥当であると主張し続けて来たのですが、最終段階に至
つて、
民間同種産業の
賃金を考慮して
事業経営者としては調停案の額の程度を妥当と認めるというように書かれておりまして、企業体としては支払い可能であることを表明しているわけです。それから又
組合から出されております
仲裁裁定実施に伴う源資という
資料を、見ましても、
組合の要求案を完全に支払
つても四千六百万あればいいと、それも予備費の四千五百万と、或いは国債整理基金特別会計繰入の三千五百万の操作によ
つて相当の余裕を以て実施できるというようなことを申しておりますし、又
仲裁裁定の実施によ
つても二千四百万円あれば妥当だと、これは当然予備費の流用からも充当できるというようなことを申しております。で
当局側としてはどう申しておりますかというと、予備費の取りあえずの使途は想定できないが、最も恐れておるのは原料費が値上るからであるというようなことを言
つております。併し当
委員会から頂きました
資料別紙十号の
アルコール専売事業概況要綱によりますと、こういうように書かれておるわけです。合理化は強力に推進されておる。官営工場においても製造技術の改良、或いは熱管理の実施とか、安価な原料の購入とか、或いは原料の転換、労働者一人当りの
生産量、年産集中の実施、諸種の合理的方策によ
つてその結果原単位は改善されておる。年産原価の低下とな
つて現われておる。というように書かれておりますところを見れば、当局は予備費の使途について原料費の値上りを心配されておるようでありますが、これは却
つて組合が主張しておるように原料は却
つて割安になるのではないかと言われておりますその主張のほうが私
ども外から見て正しいのではないかというように考えられます。又最近新聞によりますと、
アルコールの価格が一〇%値下りをしておるというような
状態から我々考えて見ると、やはり
組合の主張のほうが正しいようにも考えるわけであります。
それから振合いの問題ですが、
アルコールの
現業におきましても企業内で
裁定による
賃金を当局も支払い得ると述べておる。にもかかわらず
政府は給与総額が決定してから
国会の承認を要するというようなことを言
つておりますところを見ると、
公労法の自主性といいますか、そういうものを非常に無視しておるように私たちとしては感ずる次第ですが、それから更に
仲裁裁定を
仲裁裁定通りに実施するならば国家
公務員とか或いは地方
公務員との給与の振合いもあり、これは財政難の折柄
一般民間企業給与にも非常に
影響してインフレになるというような話がしばしばいろいろの所で聞き私たちが読んでおるわけですが、併し
民間産業においても非常に給与のアンバランスがあることはすでに皆様御
承知の通りであります。特に
公労法を適用した
専売事業といたしましては、国家
公務員と申してもやはり
民間に非常に近い労働者ではないかと思うのであり市して、それほどきつく国家
公務員とかその他
一般職のかたがたとの振合いを考えなくてもいのではないかというようにも考えられます。
それから又インフレになるというような話でありましたが、現在インフレにな
つて行こうとしておるのは、これは
労働組合だけでなしに、
国民の常識にな
つておるように、やはり先ほど論議されましたように厖大な再軍備
予算があるというように私は理解しております。
それから、併しそれは別としまして、
政府は二十一日に閣議で
裁定通りには行えないが、来年一月より実施すると聞いておりますが、同時に労働者の人員整理だとか、或いは米の値段だとか、その他運賃、郵便料を
値上げしようというようなことを言明しておりまして、このことは労働者の
賃上げに応じたためにこういうことにな
つて行くのだというように言われますが、私たちとしてはそういうふうに考えておりません。これはやはり再軍備
予算ということによ
つて生ずるインフレを隠し、そうして又維持して
一般国民にこういう負担をかけておるというように考えられまして、このことは
政府自体が非常に自主性のないものではないかというようにも考えられます。このことはやはり左手で
政府は国家
公務員や或いは
民間産業との間の振合いを言
つて公共企業体の労働者の
賃金を抑えて行く右手では
国民に迷惑になるような諸
物価を
値上げして行く。これは丁度私
どもの企業においても行われ、或いはその他大きな企業の中においても行われる方法でもあり、
民間産業ではこの方法をどういう形でと
つて、おるかと言いますと、非常に一方では合理化をや
つて労働強化の
方向に進めております。それから同時に他方では再軍備
予算によ
つて大きな企業が更に大きな資本の蓄積をや
つて行こうという
二つの面があ
つて、これは
民間大企業と今
政府がやろうとしておることと同じように考えられるわけです。このことは三公社五
現業のかたがた、勿論
アルコール専売事業を含めて
公労法の枠を越えようという気持になるのは私
どもとしては理解できるわけであります。このことは
民間産業に
賃金が上つたから
影響するというようなことではなしに、もつと重要な
影響を
民間産業の労使間に与えるのではないかというように考えております。
それから次に
民間の
同種産業賃金との比較でありますが、このことについては先ほ
どもいろいろな話があり、又今協和発酵のかたからいろいろ話がありましたので申上げるまでもないし、又調停
委員会或いは
仲裁委員会において十分討議されたことでありまして、私自身先ほ
ども最初に申上げましたように、詳しい
資料も持
つておりませんし、ただ私たちの企業から比べれば非常に低いものだということが言えると思うのです。これは王子醗酵の
賃金の
水準ですが、これはほんの
参考までに申上げますが、人員二十六名で年齢平均二十七歳、勤続年数が十四・二年、扶養家族が三・四人で二万三千円ベースです。これはべースというのは非常に比較しにくいものでありまして、非常に又
意味のないものだと思いますし、これは又
アルコール専売事業の
労働組合の
賃金の個別比較をしておりませんので、二、三うちの例だけを挙げておきますと、女子年齢二十歳、勤続三カ月の人が基準内が八千九百五十二円にな
つております。それから男子年齢二十四歳、勤続六年で一万四千八百二十円にな
つております。それから男子で年齢四十二歳、勤続二十八年で三万四千九百八十三円にな
つておりまして、
アルコール専売の設例につきましてはこれに併せて比較して頂ければ明瞭に出て来るだろうと思いますし、恐らく
アルコール専売の労働者のかたがたは王子醗酵よりも遙かに低い線にとどま
つておられるのではないかというように考えております。
まあ以上で私の
意見を述べまして結論的に申しますと、やはり
政府は
公務員の精神を尊重してもらいたいということと、それから当局は支払いが可能であるのだからもつと公企業をうまく運営して自主的に問題を、労使間の問題を解決して行く
方向に歩んでもらいたいということと、
政府は再軍備
予算を維持するために労働者の
賃上げを事として諸
物価を上げるようなことをや
つて国民に迷惑がかかるようなことをしてもらいたくない。以上の点から
政府は速かに
仲裁裁定の完全なる実施をしてもらいたいということを最終
意見として私の陳述を終りたいと思います。