○
中井徳次郎君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、
政府がただいま
提出されました
補正予算の
修正案について
質問を行わんとするものであります。
五月以降数次にわたる風水害に見舞われ、加うるに全国的な
冷害を伴い、
災害総額はきわめて
厖大なる
数字に上
つているのであります。まさに国破れて山河また荒れんといたしておるのである。
翻つてわが国財政史をひもときまするに、明治維新以後、その国情よりいたしまして、うるわしき国土を守るために、
災害には実は非常に多くの
資金を優先的に投入して参
つております。
昭和十一、二年までは、実はその年に起つた
災害はたいていその
年度に処理されておるわけであります。しかるに、
軍事予算の総
予算の中に占める
割合が増大するに及びまして、すなわち
支那事変の勃発前後にな
つて、
災害がその年に処理できないようにな
つて参つたわけであります。
国民生活の安定を中心とする
予算、あるいは生産に振り向けらるべき
予算は、
かくて逐次縮小の一途をたど
つたのである。この結果は、今回の
災害を招く直接的、間接的の原因とな
つております。
従つて、われわれは、これをとりもどすために全力をいたさねばならぬのであります。(
拍手)再
軍備費よりもまず
国民生活の安定をはかれというのは、この点のみでも十分なその
存在理由があるのであります。(
拍手)
小笠原大蔵大臣は、十月二十九日、当本
会議におきまして
財政演説を行われ、今回の
災害は、
概算国家負担部分は千五百六十五億円、それに対して今回の
補正予算の
総額は五百十億円を上まわることは、まず第一にそのような
財源がない、次に
インフレになるので、通貨安定のために、どうしてもこの程度の
予算にとめなければならぬ、これは
信念をも
つて言うと、しばしば大きな声で論じておられたのである。(
拍手)この
金額は、今回の
災害に対し、全体としてわずかに二割にも及ばない少額でありまするが
ゆえに、われわれは、この
金額ははなはだ不満である、
財源はないはずはないと、たびたび申したのでありまするが、
大臣は幾度も
原案を固執されて来たのであります。にもかかわりませず、三十日夜に開かれました
保守三党の
補正予算の
修正の折衝で、三
党協定が発表されるやいなや、ただちにその案に同調されました。
政府みずからが
補正予算を
修正して
国会に本日
提出されるという、まことにみごとなる
転身ぶりを示されたのであります。(
拍手)私
どもは、このことについて、
予算の
増加についてはもとより反対するものではありません。かえ
つて、もつと
増加を要求したいのであります。ただ、その
内容において、その
修正の
手段方法において、またその不明確なる
政治的責任において、まことに承服できない点が多々あるのであります。
以下二、三、私は
吉田総理大臣、
小笠原大蔵大臣、
戸塚建設大臣、
塚田自治庁長官にその
所見を伺いたいと思うのであります。
まず第一に、
建設大臣にお尋ねいたします。今回の
災害予算の
編成に際しましては、
大臣は非常に
苦労をなさいました。閣議を病気で欠席されるほど
苦労をなされたのであります。しかし、残念ながら、その結果は、
建設省所管の
災害予算約百七十八億円をとるために、本年八月せつ
かく成立いたしました
予算のうちから、
成立早々本
予算において約四十億円、また
住宅公庫出資金二十二億円、合計約六十億円を削りとられ、
建設予算は結局において、
たこ配当のごとく、百十数億円の
増加に実はとどま
つたのであります。
災害の遠因の一つは、
建設予算の本格的、
基本的工事の実施の遅延にありまする今日、
大臣はこの
予算を削られることにつきましては、
建設大臣といたしまして断腸の思いであつたと御同情申し上げるのでありまするけれ
ども、
大蔵大臣の、
財源がない、
インフレになるという
説明によりまして、やむにやまれぬところを、やむなく承服されたと私は推察いたします。しからば、今回の
修正により、
財源が必ずしもないのではなかつた。ただいま、
諸般の
状況によ
つて、ちつとも本質はかわ
つていないと申されましたが、それならば
予算の再
修正はやめられたらどうか。実は
インフレの要因にはならないというような状態にな
つたのでありまするから、この際重大なる
建設予算、特に今日三百十八万戸に及ぶという全国の
住宅の
不足をカバーするための
公庫に対する
出資の復活をなぜ
まつ先に強く要求されなか
つたのであるか。(
拍手)聞くところによれば、
公庫の
出資金は、
公庫の
事務的技術の拙劣と、
経済界の変動に即応せざる旧態依然たる
官僚的運営のために、十分なる
運営がなされていないといわれる。これが真実といたしますならば、とりもなおさず、
現下日本の最も切実なる
住宅問題に対する
政府の
失政以外の何ものでもないのであります。(
拍手)この重大なる問題において、
建設大臣は、ちと西独の
住宅政策でも
見習つてはどうかと思うのであります。
次に、
塚田自治庁長官にお尋ねいたします。そもそも終戦後、
災害が大きく取上げられ、その
金額が
厖大になりまする裏には、
地方財政の貧困という問題が横たわ
つております。これは
天下周知の事実であります。今日の
災害特別立法において、かなり高率の
補助金を認められておりまするが、もちろん、
災害の性質より申しまして、全部の
金額が
国庫負担というわけには行きません。
災害地方の府県、市町村は、まことに
財源に四苦八苦であります。一時
融資、
つなぎ融資、もちろん必要でありまするが、実はこれにも相当不公平があるといわれております。きようはそこまで
質問はいたしません。本質的には、こういうものはあくまで
借金であります。(
拍手)あくまで
地方の
負担であります。
災害の
自治団体の赤字は起債を認めると言われるかもしれません。もとより、これも
借金であります。
かくして
借金がふえるばかりであります。この際、
政府は、思い切
つて地方に固有の
財源を与えるか、それができなければ、本
年度の便法として、さしあたり
平衡交付金の
大幅増額をはかることにいたさなくてはならないのであります。(
拍手)今回の
補正予算並びに本日の
修正に、
自治庁関係の
予算は少しも頭を出しておらないのは、いかなる
理由によるものでありましようか。
建設大臣同様、
自治庁長官として再度大いに強力に主張すべきものであると思います。
災害と
冷害こそ大
部分の
地方自治体の本年の最大の問題であると思うが、この点について、
長官の
所見、これまでとられた
態度について伺いたいと存じます。(
拍手)
最後に、
政府の今回の
補正予算の
修正の
方法につきましての
憲法上の
解釈の問題であります。この点について、
吉田総理大臣及び
大蔵大臣にお尋ねいたします。
いまさら私が説くまでもなく、
予算の
提出権は
政府に存在し、その
予算を
審議し
修正する権限と義務は
国会に存在するわけであります。
政府がみずから
国会に
提出した
予算を
修正する場合には、原則として、
数字について重大なる錯誤があつたか、その他
予算の
編成に関する純技術的な問題か、それとも
予算提出後の突発的な
社会情勢の変化に応ずるものかに限定されるべきものと考えられます。(
拍手)
かくて初めて、
政府として
民主主義における
責任ある
予算の
提出、あるいは
責任あるその
修正であると言うことができるのであります。このたびのごとく、
保守三派の
補正予算修正の会談をそのまま受入れて、みずから
政府がいまだ
説明したばかりの
予算を
修正したのは、あくまで本筋ではないのであります。(
拍手)この点について、あるいは
先例があると言われるかとも思います。しかし、それはあくまで
占領下の
先例であります。また、たとい
先例がありましても、悪い
先例は大いに改むべきであります。(
拍手)
先般の第十六
特別国会における
予算委員会で、
昭和二十八
年度本
予算は、その
最終段階に至りまして、自由、
改進、鳩自によ
つて大幅に
修正されたが、このとき、わが党の
河野議員は、この
修正された
予算に対して、一体
政府が
責任を負うのか、それとも
修正した
保守三派が
責任を負うのか、それを明示されたいと、まさに心底をつく
質問をされたのであります。これに対して、
答弁は残念ながら区々にわかれました。
政府側は、野党もその
責任をにな
つてくれると思うと言い、
改進党は、
修正された
部分の
予算についてのみ
責任を負うと
答弁されているのであります。この
河野密氏の
質問は、実は
予算委員会における
修正はいけないということを
言つているのではありません。新
憲法のもとにおける
予算修正のルールを確立せんがための
質問であつたと思うのであります。(
拍手)基本的には、
政府の
予算が
——吉田内閣のごとき数について弱体な
内閣にありましては、将来とも当然
政府の
原案を
国会において
修正することがたびたびあるであろうし、またそのことは、新
憲法の
精神から
言つて、政治的には議論があるといたしましても、法制的には決して
間違つているのではないのであります。(
拍手)
政府は、それに際しては、その
修正が
政府の
根本方針に著しく反しない限りは、これに応ずるのが当然の
憲法の建前と考えます。しかしながら、その際には、
予算成立の
責任はあくまで
立法機関たる
国会にあ
つて、
予算執行の
責任はあくまで
行政機関たる
政府にあるのが当然であります。ここに三権分立の
根本精神があるのであります。しかるに、
政府は、第十六
特別国会における
河野議員の
質問におびえましたのか、とに
かく表面を糊塗して
予算を通せばよいというわけから、今回は前
国会とまつたく相反し、
保守三派の幹事長及び
国会対策委員長の話合いで、そのままの姿で、ありのままに、
国会の
修正とせずして、
原案の
修正とし
たことにつきましては、どなたの意見に押されたのかは存じませんが、まつたく新
憲法の
精神を無視し、これを蹂躪した行いと言わねばならぬのであります。(
拍手)ことに、今回のごとく
災害の
金額のみが最も重要なる論争にな
つているときに、一昨日まで、これ以上の
予算の
修正及び
資金の散布は
日本を
インフレの道に導くものであるとの
信念を強調していた
大蔵大臣が、
原案をそのままとし、
国会においてこれが
修正され、これをやむなくのむのならとに
かく、
大蔵大臣自体において
原案を
修正するがごときは、かような建前をとるに至つ
たことは、
予算の
編成こそが歴代の
大蔵大臣の最も重要なる施策である点において、その心境の変化と、その
政治的責任の無節操について、ただただあきれざるを得ないのであります。(
拍手)
私は率直に申し上げます。
大蔵大臣も、今回の
災害地の出身で、
事情はよくわか
つておられるのであります。
従つて、
保守三派の
修正を
国会の
修正としてのむのではなく、
原案修正の形で出されるのならば、何
ゆえ、西
日本全体にわたる
災害、東
日本を中心とする
冷害、特に食糧を通じて八千五百万全
国民の生活に直結し、最も急を要するこの問題について、当初からはつきりとした見通しを立て、この
保守三派の線を堂々と出さなか
つたのかということを疑いたいのであります。もしそれ
大蔵大臣は、自己の
信念において三百億円以上は無理である、しかし
保守三派が
修正するならそれに応じようというお考えであ
つたのならば、会期を七日間にわざわざ限定いたしまして、最初の三日間、
財源がない、
インフレになると言い切
つて、まつたくむだながんばりをやらないで、まず
国会を召集されて、今度の
予算はどうしましようかと
国会に聞いてみたらいかがであつたかと思うのであります。(
拍手)それから
原案を作成されても遅くはないと思います。私
どもは、今回の
修正について、
憲法の
精神から
言つて、
政府原案をそのままで
国会修正というのならば少な過ぎるが、前よりはましである、しかし、いやしくも
政府が
原案を
修正するということについては、はなはだ法理的に
間違つているものと言わなければなりません。(
拍手)この点に対する
大蔵大臣の
所見を強くただしたいと存ずる次第であります。
また、この問題に対する総理の見解をもお尋ねいたします。総理は、筋を通す通すと言つた。この総理
大臣は、将来の慣例になるこのような重大なる
修正について、いかなるお考えをお持ちになるのでありますか。最近の
政府の考え、
やり方を見ると、まことに継ぎはぎ政治が多いのであります。以上のことが、その一つの例であります。ことに、内政の問題については、まつたく野放しに、場当りの政治であります。終戦後八年、独立後二年の今日、まつたく抜本的な手を打つべきときが来ていると私は信じます。(
拍手)
調査調査と何回もや
つておりますけれ
ども、それはいつも官僚の手によ
つて途中で消えてしま
つております。これはまことに現
内閣の内政力の貧困であります。
災害とて、もちろんこのわく外ではありません。今日、
地方財政の困窮の結果、実に三万円という施設の
災害についてまで中央
政府が助成をしなければならないという事態に立ち
至つております。三万円といえば戦前の百円ではありませんか。かような
金額のものを、中央の建設省や農林省であくまで正確を期そうとしても期せられるものではありませんか。もし、かようなものまで正確を期そうとするならば、
厖大なる人員と
厖大なる間接費が中央
地方を通じて必要なのであります。これが現在の財政の貧困の一つの大きな原因にな
つております。こんなことをするよりも、
政府は、新
憲法に基く主権在民、
地方分権の
精神をすなおに受継いで、
地方自治体をもつと信用いたされまして、法制だけではなくして、
財源においてもこれを大幅に
地方に与えるべきであると私は思うのであります。(
拍手)
厖大な人員を要する仕事を一方でどんどん広めながら、一方では行政整理、人員縮小、待命制度などを始終唱えているのであります。かような首尾一貫せられざる政治を、もういいかげんに打切られたらどうかと思うのであります。
以上、簡単でありますが、私の質疑を終ります。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君
登壇〕