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説明員(三輪良雄君)
岩屋炭鉱の争議に伴いまして、発生をいたしました不法行為に関することを主として御
説明をいたしたいと思います。
岩屋炭鉱は佐賀県にございますが、六月の二十六日の
水害によりまして操業不能に陥りました。その後七月六日より
組合と
会社側との間で、この
水害対策について団交を重ねておりました
ようでありますが、七月二十二日に一応了解点に達したということで、
会社側から保安要員を除きました全員に退職願を出させております。その際百名ほどが退職願を出しませんで、これに対しましては二十七日に解雇通知を行うと共に、保安要員として残ります者の氏名二百八十名を発表いたしております。当時
組合といたしましては、残留者の労働条件その他につきまして
会社側に
交渉をいたそうということでありましたが、
会社側が異議があるということでこれは蹴
つております。このことにつきましては、
組合側から不当労働行為ということで九月二十四日に地労委の現地斡旋を行われておる
ようでございます。その後残留いたしました者が、
会社側の
態度がそういうことでありますので、残りました者が第二
組合という
ような形で
組合を結成をいたしまして、これが
会社側と
交渉を始めた
ようであります。ところが残留者を除きました、いわば第二
組合に対しまして第一
組合と申しますか、その第一
組合におきましては、第二
組合と
会社側が結託してそういうことをやるのだということで非常に激昂いたしまして
会社側並びに第二
組合の幹部に圧力をかけて、闘争がだんだん激化して参つた
ようでございます。そういう際に九月十九日でございますか、数日前より第二
組合幹部或いは会社幹部の家等にピケを張りまして監視をいたしておりました第一
組合の人たちに向
つて、中野という労務主任が、この山は廃山になるかも知れないと言つたということから
組合員が非常に激昂いたしまして、労務課に約七百名ほどが押しかけたというのであります。九月十九日午後三時頃に
組合側ではスピーカーですぐに労務課前に集合してくれという放送をいたしまして、三十分後に約四百名が集りましてその廃山になるかも知れないと言つたという中野労務主任に対して、廃山になると言つたその理由を大衆に
説明しろという要求をいたしております。併し労務課長がその必要がないということで、みずから大衆に向
つて解散をしてくれということを言つたのでありますが、周囲から
組合員がいきなり課長の右手を掴みまして前に引いたというために、課長がよろめくところを押倒しまして、周囲の大衆が総立ちにな
つて、その周囲のものが課長の両足を抱きかかえ頭を下にいたしまして、丁度逆さまに吊し上げるという恰好にな
つて、笛太鼓を鳴らし、大声を挙げながら、大勢の者が胸、頭、足、首等を毆打し或いは突くという
ような暴行を加え、約三メートルぐらい引ずりまして、瓦礫を績んであるところに寝かせて暴行を加えたのでありまするが、課長は隙を見て脱出をしたということが第一の
事件でございます。その日の午後九時頃に、第二
組合員の平松昭夫という者が、その労務課内の
状態を外から窓越しに見ておりました。ところが第一
組合の一部の者に発見をされまして、犬がいるという
ようなことを言
つて怒鳴られて、二十名ほどの群衆がその本人を連行し
ようということがありましたので、本人が急いで逃げ出しておる。これを追いかけて捉まえて、棒その他で治療約十五日間の傷害を与えております。これが第二の
事件でございます。更に九時四十分頃、第二
組合の森下という人が他出先から帰
つて参りましたが、ピケ隊がおりますので家に入れ左い。同じく第二
組合員の岡という人の家に行
つて話合
つておりましたところが、第一
組合員約二百名ぐらいが押しかけまして、表戸、裏戸を蹴り、叩き、最後にこれを開けまして、七、八人の者が屋内に入
つて、逃げる二人を腕、腰等を捉えて、約三百メートル離れた労務課の前に連行いたしまして、吊し上げの
状態において、打つ、蹴る等の暴行を加え、治療約二週間の傷害を、与えたと思われる
事件が発生したわけであります。
事件の大要は、そういう三つの
事件が起つたわけでございますが、警察といたしましては、もともとこの争議が
水害に基きまして殆んど全員を解雇するという
ような特殊な態様から起りましたことで、非常に深刻な問題を蔵しておりますることから、もとより平素から労働争議そのものには介入をしないという立場を堅持いたしておりました。そうして事態が非常に悪化することを恐れて見守
つておつたわけでございます。そこで八月の二十三、四日に、第二
組合の幹部の宅を取巻いて大勢の第一
組合員が気勢を上げました。その
あとで地元の署長から事が起るといけないということで警告を発しまして、その際はそれで収ま
つております。九月の十六日になりまして、デモが行われ、事務所、工作室のガラス戸であるとか、或いは第二
組合の山崎という人のガラス数枚を破壊をいたしまして、翌十七日、第二
組合長の山下という人の家の板塀の扉その他の破損をいたしております。これらに対しましては、いずれも
組合幹部に対しまして厳重に警告をいたしたわけでございますが、なお越えて十八日にも、労務事務所及び三坑の石丸、中野、五坑の井上、花井という
ような人たちのガラス、雨戸、板塀等を破壊をいたしております。又連日の
ようにデモを行い、或いは小集団を作りまして第二
組合員の宅を訪問をし、そうして第二
組合を脱退をし、すべての権能を第一
組合に渡すという
意味の脱退届に捺印を求めておつたのでございます。又小学校或いは浴場等でも、子供に、犬の子であるとか、裏切者であるとかいう
ような罵声が盛んに浴びせられておつたそうでございまして、県の警備部長を隊長としては地元の署まで派遣をいたしまして、井手
組合長そのほか
組合幹部等に警告をいたしまして、事態がこれ以上悪化するということになると、遺憾ながら警察としては出動せざるを得ない、どうか
組合幹部においてしつかり統制をして頂きたいということをお願いをいたしております。又炭労の
九州本部から副執行
委員長その他のかたがお見えにな
つておりますので、このかたがたにも同様に警察からは御協力をお願いをいたしておるわけでございます。そこで当時といたしましては、
組合幹部のかたも炭労の九本代表のかたも御了承を頂いて、十分に注意するということで
お話がございましたが、越えて十九日、先ほど来申しました三つの
事件の起ります
ような険悪な事態が起りましたので、第二
組合の幹部の家族は非常に身辺に不安を感じまして、警察に対して保護を願い出た者がありまして、それらの者に対してはそれぞれ警察署等で保護をいたしておつた
ような事態もございます。
事件のありました当日午後九時頃に井手代議士も駆けつけて頂きまして、極力説得をして頂いた
ようでございますが、集まりました第一
組合のかたがたは解散をいたしません。十一時三十分頃に招電によりまして
九州本部から代表が駆けつけて、不法行為に亙ることがない
ように注意をして頂いておりますが、これ又そこで解散をするということになりませんで、二十日の午前零時頃、つまりその晩の午前零時三十分頃に至りまして、それまで第二
組合幹部の岡、森下という二人を取巻いて、第二
組合の結成の経緯を聞くということで吊し上げを行な
つておりましたが、漸くその時刻にこれを打切
つてデモに移りました。警察はその二名のかたを早く解放する
ように警告をいたしておりましたが、そこで二名のかたを保護をいたしまして事情を調べましたところが、不法監禁、暴行の容疑がありますので、重ねて
組合長を招致をして、その事実を告げております。そこで大衆は解散をして頂く
ように警告をいたしておりましたが、この際は警備の実際に実力行動に移る直前に解散を見ることに
なつたわけであります。その後九月三十日まで連日デモの届出もありますし、地元の空気はそういうふうに険悪の一途を辿
つておりまするので、先ほど申上げました
ような三つの
事件につきましても、警察としては、この容疑のある事実を放置しておきますことが却
つてその後更に事態を悪化させる虞れがありますということを痛感をいたしまして、それから
組合幹部なり、他の御心配頂くかたの統制の限界をすでに越えんとしておるという
ようなことから
考えまして、又実際に逮捕に向いました際に、その附近数分を出でずして
組合のかたがたがすぐに集まれる
ような事態でもありましたし、又会社、第二
組合の幹部、或いは警察署等に対しましても、厳重な昼夜を分たずピケ隊が監視をしておるという
ような
状態から
考えましても、これらの容疑者の検挙をいたします際には、集団による公務執行妨害その他再び不幸な事態の発生が予想されますので、警察といたしましては、二百八十名ほどの動員をいたしまして、而も検挙はいつも私服で行くわけでありますけれども、誤解を避けます
意味でそれぞれ制服員をつけ、その際四ケ所の押収をや
つておりますが、その
場所にも制服一個小隊を外に待たせるという
ようなことで、検挙、捜索、押収をいたしております。丁度豪雨の際であ
つて、ピケ隊も家に入
つておつたという
ような事態も結果から言えばあつた
ようでございまして七、八十名の人たちが出て来た以外には、それ以上の抵抗等を受けることなく検挙した次第であります。その際に何故
組合事務所の検索をやつたかということについても、その後御注意を受けておりますが、先ほどちよつと触れました
ように、第二
組合の各人に対しまして、第二
組合を脱退するという委任状を
相当におどかして取るという
ような事態を起しておりましたので、そういうことに肯んじない者たちがそういう暴行を受けたという
ようなことが
考えられますので、そういつた
証拠になります
ようなものを捜索いたしますために、その
組合を検索いたしました
ような次第であります。合計そこで検挙いたしました人員は十一名でございますけれども、一人婦人がおりまして、これはすぐに釈放いたしました。警察で調べまして、検察庁に招致いたします際に三名、その後更に一名身柄が釈放にな
つておるというわけでございます。
その後
委員長の御
指摘のございました
ように、佐賀県会におきましても、この問題について深い関心を示されまして、現地警察隊長に対しまして、いろいろ御質問、御注意等がございました
ようでございます。その点はまあ第一
組合と第二
組合との合法性の問題でありますとか、或いは任意出頭で調べる方法があつたのに、なぜ穏やかな方法をとらなかつたのかとか、或いは吊し上げというのはどういう
程度を合法的に、或いは非合法の限界と
考えておるか。或いは容疑者の
関係のない
場所なり、書類なりを検索をしておるのはどういうわけかという
ような点でありますとか、傷害
事件におよそ
関係のないものまで押収しておるとか、或いは取調べが苛酷であつたのではないかという
ような御注意もございます。
なおこれに
関連をいたしまして、甚だ遺憾なことでございますが、容疑者の一名でございます白尾という人のお父さんでございますが、このかたを、二十七日に検察庁の御連絡がございましたので、任意に警察署にこのお父さん夫婦においでを願
つて、任意に調べをいたしたわけでございますが、その日の夕刻、丁度ついでがございまして、警察の車で七時半頃お宅に送り届け、別に変つた様子もなかつたのでございますが、翌朝裏で自殺をしておられるのが発見をされた
ような始末でございます。これに関しまして、取調が苛酷であつたかどうかという点については、現地警察の隊長も非常に心配をして
調査をいたしましたが、その
ような事態はなかつたというふうに私どもは
考えておるわけでございます。併しその自殺をした際に、自宅のガラス戸に残念というふうな文字を残したというふうなことでございますので、なおこの点については更に詳細に
調査をしなければいけないというふうに
考える次第でございます。
主として争議に関します不法行為並びにそれから起りました不幸な
事件につきまして、御
報告をいたした
ような次第でございます。