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公述人(重枝琢己君) 私
日本鉱山労働組合書記長の重枝でございます。私は炭鉱
労働者の代表といたしまして、この
法案に対して
反対の
立場をと
つておりますので、その
立場からの
意見を述べ、且つ
委員の
皆様にお願いをいたしたいと思
つておるのでございます。
この
法案は条文三カ条でありまして極めて簡単でございます。そこですでに論議が尽されておるかのような印象も受けるのでございますけれども、私従来のいろいろな論議をよく考て見ますと、どうもその論議はその
立場が余りにも政治的な
立場或いは昨年の
争議から来たところの何か感情的な
立場で論議がされておる、こういうふうにどうしても見られるわけでございます。従いまして、そういう従来の論議は尽されておるようにも見えますけれども、よく見ますと非常に大きな盲点があるのではないかというふうに
考えます。従いまして参議院におきましては、各方面の専門的な知識を持寄
つて非常に冷静な御判断をされるところでございますので、私はそういう点を述べまして御検討を煩わしたいわけでございます。特に当
委員会におきましては、先般各地に実情の調査に
行つて来ておられます。従いまして、いろいろ私は現地の実態についても疑問を持
つておられる点があると思いますので、そういう点も加味して行きたいと思うわけでございます。
第一に申述べたいことは、
労使関係の諸問題の
解決という点を
考えますならば、これは本来
労使が対等の
立場をとるということが大
原則にならなければならないことだと思うのであります。従いまして、この
労使対等の大前提というものを確立しなければ、
労使間の問題の根本的な
解決はあり得ないと思うのでございます。そこでこういうような大前提を破
つて、或いは産業の
特殊性、或いは
国民経済及び
国民の
日常生活に対するこの重要性、或いは
公共の
福祉の擁護というようないろいろな美くしい言葉を並べまして、労勧者の権利だけを制限するというような
考え方は、これはどう
考えましても民主主義の逆行でありまして、我々の憲法の許すところではないというふうに
考えます。そこで
争議権と公益の調和というようなことを
政府は申しておりますけれども、私はそういうことを言
つて、この
労使対等の
原則を破るということについては
反対をするものでございます。
第二の問題は、若し
争議権に制限を加えるほどの
公共性のある
事業でありますならば、私は当然にそういう
事業に対しましては、
社会化が行われるのが先ず順序ではなかろうかと思うのであります。そういう
事業の
経営自体が
社会化されまして、本当に公益に奉仕するというような態勢に立てるということが、先ず私はとるべき
方法ではないかと思うわけでございます。それがなされないということは、どうしても第一に打つことが忘れられておる、こういうふうに
考えるわけでございます。特に私ども炭鉱に働く者として、振り返
つて見まするならば、終戦後
石炭を求める声が極めて大でございまして、増産々々という掛け声で非常な施策がなされて来たわけでございます。その際の増産の
ための臨時
石炭国家管理ということが行われたのでありますけれども、そういうものには資本家や或いはこれを代表する政党が猛烈な
反対をして参
つております。そういう人
たちが、今度は公益ということを
理由にして
組合の権利だけを抑圧する、こういうようなことはどうしても我々の納得の行かないところでございます。特に最近は炭界の不況ということがございまして。企業整備或いは休山、閉山、こういうようなものが殆んど懇意的に行われております。而もこれは政策としてはむしろ放任をされておる、こういうような
状態でございますが、そういう
状態を一方に見ながら、小さな炭鉱も個々の
一つ一つの炭鉱においてさえも、こういう
ストライキの
方法について制限を加える、こういうようなことは全くの
片手落ちであろうと思うわけでございます。
第三に、私は初めに申しましたこの
法案の論議の盲点とでも申すべき点を申上げたいと思いますが、これは
法案の
内容について具体的な検討がどうも加えられてはいないように思うわけでございます。特に炭鉱の
立場から申しますならば、御承知のように炭鉱は極めて自然条件に左右されるところでございまして、各炭鉱におきましても、その坑内状況は千差万別でございまして、恐らく
一つとして同じような炭鉱というものはないと申して差支えないと思います。この点は私は
電気産業におけるスイッチ・オフというような場合とこの保安の問題とが極めて異なる性格のものであるということを特に申上げたいと思うのでございます。
その中で先ず第一点として申上げたいことは、この本
法案には保安業務の正常な運営を停廃する
行為という言葉がございます。そこで先ず問題になりますのは、私は保安という問題であろうと思います。これは今申上げましたように、各炭鉱によ
つてことごとく保安ということは異な
つて参ります。
一つの炭鉱におきましても、或る地点から次の地点に移りまするならば、その保安ということの
内容、保安状況というものはそれぞれ異な
つて来るわけでございます。そこで保安業務の正常な運営という言葉がございますけれども、正常な運営とは一体何かということを
考えますならば、その正常な運営の判定をし得るものはないと私は
考えるわけでございます。これは勿論
中央においてそういうものが判別できるはずもございません。地方において保安監督官が参りましてもなかなかその保安状況というものはわからないという状況でございます。例えて申しますならば、丁度人体に故障がある場合に、主侍医として長くその人の身体を平素見ておる人ならば、その病気の急所というものはわかるわけでございますけれども、初めて若し診察して医者にかか
つたという場合にはなかなかその病気の根源はつかみにくい、どういう処方を下したらいいかということは恐らくわからないようになると思うのでございますが、炭鉱はは或る意味で例えて申しますならば、そういうような
状態にある次第でございます。
従つて保安の確保ということが直接に問題にな
つて参りますところの保安要員の数を
どの
程度入坑させたらよろしいかという問題にな
つて参りましても、これは絶対的な基準がないわけであります。これは炭鉱へ御視察に行かれた
委員のかたは十分おわかりのことだと思うのでございます。
それから本案には、そういう保安業務の停廃ということでいろいろ人に対する危害或いは鉱物資源の滅失、重大な損壊或いは鉱山の
重要施設の荒廃或いは鉱害というようなものに直接
因果関係があるかのごとく、それが而も非常に見やすいような言葉で書いてありますけれども、私はこの
因果関係というものはなかなかつかみ得ない問題ではなかろうかと思います。特に
争議の場合の保安の問題と鉱害の問題とを
因果関係を付けるということは、恐らく私は技術的に考究いたしましても不可能なことではなかろうかと思うのでございます。そういうようなことを
考えて見ますると、私は非常にこの法の実際運用というような点については余り
考えずに、炭鉱をよくわからないままに制定されつつあるというような気持が非常にするわけであります。そういたしますと、先ほど申しましたように、具体的な保安要員の数を決定するものは誰がするのかという点については、
立法者はどういうふうに
考えておられるのか私は非常に判断に苦しむのであります。若しこれを例えば行政官庁或いは保安監督官というようなものに委ねるというような、或るところで御答弁があ
つたようでありますけれども、若しそういうことがありますならば、無論その保安の監督官の個人的な見解によ
つて、その
争議の重大な
段階において
争議自体を左右するような決定がなされる、特に行政官庁によ
つて労使関係のこの対等の
原則に立
つて闘われておるこの
争議に対して大きな制約を与えるということにな
つて参るわけでございまして、これは又許すべからざることであろうと思うのであります。又鉱山保安法によりますと、保安業務の最後の
責任者は鉱業権者にな
つておりますが、御承知のように鉱業権者はこれは炭鉱の
経営者でございます。で、若しこの鉱業権者の決定するところの保安要員というもの、保安の確保というものをそのまま鵜呑みにする、そのまま実施させるということになりますならば、これは又極めて重大な問題にな
つて来ると思うのであります。そういう鉱業権者の就業命令というものが、この法律によ
つて法的な権力的な命令にな
つて来るということになりますならば、私は
労働組合に対して非常に制約を与えるということになると思います。御承知のように、
争議の場合には
組合員というものは
組合の統制下にあ
つて行動をしておるわけでございますが、それに対して相手方の
経営者のきめるものを一方的になさなければならんということに
なつた場合の
争議が、或いは
労使間の
団体交渉というものが果して対等な
立場でなされておるというふうに言うことができるかどうかということは、私はよくお
考え願いたいと思うのであります。これは一歩誤まりますならば、私は強制
労働というような点にまで発展しかねない重大な問題がこの中には含ま
つて来るのではないか、こういうふうに
考えるのであります。
それから保安の問題に絡みまして、保安炭という問題がございます。これは保安を確保する
ためには切羽の維持をいたしますが、採炭をする
ために切羽の維持をするということも不可能ではございません。けれども坑内の状況或いは採炭技術等の
関係からして保安を確保するということは、即ち出炭をするということを以て行うという場合もあり得るわけでございますが、そういう場合に出て参ります炭を、昨年の
争議の頃から保安炭というような言葉で呼ばれておると思いますが、こういうものが出て参
つて来ております。これは勿論いろいろな保安上の問題が出て参りましても、切羽の密閉、そういうようなことで炭を全然出さなくても私はできる場合もあると思いますけれども、出すという場合もあり得る、その場合に出て参りました炭は保安炭という名前を冠してありましようとも、
一般の商品炭と同じものでございます。勿論この炭はそう大した炭にはなりません。併し
労働争議の非常な緊迫をしておるときにそういう炭が出て参りまして、それが簡単に商品化するということになりますれば、そのときの
影響というものは私は無視できないものであろうと思います。こういうような保安炭の問題についての管理の
方法或いはその他について、一体この
立法者は
考えておられるかどうかという点が非常に疑問でございます。これは先般私
たちは民労連の主催で懇談会を持
つたのでございますが、その席上安井政務次官がお見えにな
つておりまして、私その点をいろいろ質問いたしましたが、その点については御答弁ができずに保留をされておるという事実がございます。恐らくこれはそういう点についてまでは全然御検討が進んでいないのではないか、こういうふうに思うわけでございます。この保安炭の問題も、先ほど申しました保安要員の数を、一方的に鉱業
経営者の指示するものを若し入れるというようなことと並んで
考えますならば、なかなか重要な問題にな
つて来るのではなかろうかと私は思います。こういう点をいろいろ
考えて見ますると、どうも十分なる検討がなされてこの
法案ができたというふうには何としても
考えられません。私
たち実際炭鉱の
組合におりまして、いろいろな交渉、
争議というものをいろいろや
つて参
つておりますが、従来そういう経過を
考えて参りますと、この
法案というものは炭鉱に関する限り私は全く無用の長物であるということを言い得ると思うのでございます。保安の問題は
組合と
会社において十分話合を進めて事実上は何らの支障もなく進んで参りました。又
組合に対して帰るべき
職場を失うようなことは困るであろうから、これを避けるというような説明もございますけれども、そのようなことは、
組合に対して
政府のほうからお
考え願わなくても、
組合自体が十分に
考えておるのでございまして、炭鉱を破壊させるような保安放棄というようなものについては、少くとも私
たちの経験する限りでは、
組合の良識によ
つて従来
解決をして参りましたし、又私は今後もそういう
方法によ
つて最も自然に、最もスムースに私は
解決できる問題ではないか、こういうふうに
考えます。
又この
法案の無用の長物である第二の
理由といたしましては、昨年の炭労
ストライキは非常な
長期に亘
つたのでございますけれども、その
争議は
解決をいたしております。而もその
解決は
スト規制法のないときに十分なる
解決を見ておるわけでございます。私はそういう点を
考えますならば、十分御検討の上で、本
法案が無用のものであるということをこれは
皆さんの御結論として出るのではないかというふうに
考えおります。私はいろいろ専門的な点に亘るようなことを申したように思いますけれども、併し実はそれは専門的なことでなくて、少くとも炭鉱の保安の問題を法律で云々しようとするならば、当然解明されなければならなところの私はいろいろな問題であろうと思います。昨年の電産、炭労の
争議はいろいろな教訓を残しておると思います。私はこれについては、労勧
組合側も、使用者側も、
政府も共に三者それぞれ十分なる反省をなすべきであろうと率直に思います。そういう反省というものを
政府或いは資本家の一部の
かたがたがされずに、何か素朴な
国民的な感情に便乗をして
組合の権利を剥奪するというような
立法を軽々に私はおとりになることに対して、全くの
反対の意を表するものでございます。法律はいろいろ作るときには悪用をしないとか、或いはその他いろいろな美しい言葉でできると思いますけれども、できましたあとは、法律は法律として自動的に動いて行くということを私
たちは従来経験をいたしております。そういう意味で、私はこの法律の制定ということは故なく
労使対等の
立場というものを破るものであり、特に炭鉱の
立場におきましては実体を知らない、実体においては適用のできない、又非常に若しやろうと思うならば悪用のできる弊害を生むところの
法案であろうと思いますので、そういう点を十分、従来検討をされていない点を、参議院においては是非御検討を願いまして、この
法案の不要であるという点を明らかにして頂きたいことをお願いをいたしまして公述を終ります。
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委員長(
栗山良夫君) 続きまして、私有鉄道
経営者協会
理事別所安次郎君の御
意見をお願いいたします。