○
参考人(
山本經勝君) 連日御苦労様でございます。実は
炭鉱関係の
災害を重点的に私は
お話を申上げたいと思います。
只今
江口労金の
理事長の前の
お話によ
つて、総体的な
被害状況、それから
労働者の
一般的な状況について御理解を願えたかと存じます。それで少し
政府のほうでも御
調査にな
つておりますし、又議会のほうでも御
調査にな
つておる
実情でございますから、簡単に問題になろうかと思いまする、三点ばかりを御
説明申上げまして御返答をお願いしたいと、かように考えております。
その第一点として申上げたいのは、
先ほど申しました交通分断による或いは
賃金の遅
欠配、こういうような問題があると思いますが、その中で非常に大きな問題になりはせんかと思いますのは、
労働者もやはりこの
災害をこうむ
つているということをよく御理解願いたいのであります。それで企業が
水害或いは
災害のために危殆に瀕しておるという場合に、これを
救済する
対策なり手はよく伸びられるわけでありますが、常にその半面で同様な
被害或いはそれ以上の深刻な
被害を受けた
労働者は見忘れられておるような向を今日までしばしば見て来たわけであります。これは私
炭鉱におります
関係上、特に筑豊炭田、或いは
九州における炭田地帯の状況でございますが、例年二回ばかりは大抵台風その他
水害を受けております。この
被害は決して僅少なものではないわけでございます。これに対する今までの状態は、今申上げましたように企業なり経営に関する
救済はなされておるけれ
ども、
労働者の
救済は今まで一度もなされていないのが
実態なのでございます。今回の
水害に当りまして特に考えられますことは、
炭鉱関係で百九十四の
炭鉱が浸水その他
相当大きな
被害をこうむつたものなのであります。その中におきしまして
関係労働者数は大体六万五千くらいにな
つておるようであります。この詳細な
調査の資料も今回更にあとから続いて参ります代表がこちらのほうに持
つて為ることにな
つております。まだ私の手許に届いておりません。
そこで
炭鉱の社宅が特殊の
事情にあるということが第一点、先ず御理解を願いたい。
炭鉱は鉱区の上に土地を売収して、その上に集団的に社宅を作
つておる。ところが鉱区でございますから当然石炭を掘るに応じて土地が沈下いたします。そこで大抵の所が土地が非常に低い、そこで一番水の
被害を受ける条件を備えております。今回の一例をと
つてみますと、三菱の潜龍
炭鉱の六坑のごときは千三十戸の社宅を持
つておる坑口でございますが、この坑口で八百戸がいわゆる床上浸水をいたしました。これは二十九日の晩でございましたが、そのときに連絡を受けまして
現地に私
ども参ろうといたしましたけれ
ども、遺憾ながら遠賀川の堤防決壊で近寄ることもできない。一面の海原という状態で行けなかつた事実がございます。その際に
被害を受けました
人員は四千百八十名という
報告でございます。八百戸の浸水で、保護
人員は四千百八十名、これが高台に避難を夜中にいたしました。そうしてこれに対する炊出し、衣料の補給、こういうものを翌旦三十日に私
ども協力いたしまして、筏で運んで、辛うじて命を繋いだという状況であ
つたのであります。この地帯はすべて坑口であ
つて、且つ坑口を埋立てて社宅を作
つてある、而も川の水面より低い地域にある、こういう状態でございますから勢いそこに浸水する、堤防の決壊によ
つて怒濤のように流れて来る。電柱は倒れ或いは道路を決壊する、鉄道は不通になる、電信電話も切断されるという状況が現われたのであります。こういうような点、この場合にいわゆる
被害を受けた社宅は倒壊はいたしておりません。併しながら家に帰
つて再び住まうようにするためには最低一週間かか
つておる。畳を乾かし或いは家の中の調度を
整理して、そうして辛うじて病害を予防する
程度の消毒を完了して家に移るためには一週間かかる。その間は何とい
つても
労働者は働こうとしても働けない
実情にあるわけであります。これは中小
炭鉱の場合にはいきなり坑口から浸水いたしまして全く水没状態にな
つたのは大体四十
炭鉱ございます。これは今日までに
報告されたものが四十
炭鉱、これは初めから操業ができない状態に陥
つて、これらのものは
賃金その他の給与の保障等は何らなされておらない。
従つてこの
水害に会つた
生活というものは、異常な困窮に陥
つているという状態を是非皆さんは御理解願いたいと思うのであります。そこでこうした
一般的な
被害にあつた
労働者のいわゆる
災害の
復旧、つまり
自分の住ま
つておつた家を修復して再びそこに住まうようにする期間の犠牲と、それから只今中小
炭鉱の例のように、水浸しになりましたために
事業を再開するのがいつになるかわからん、その
復旧を経営者が
努力して、やらないような
現実の姿が現われておるわけであります。ですからこの
水害によ
つて現われました
労働者の、特に
炭鉱労働者の窮状というものは極めて甚だしいものがあるわけでございます。
それからもう
一つ非常に重大だと考えます点は、この
水害を
理由に
休業をしようとした
炭鉱がある。これは大資本に属する
炭鉱でございますが、その一例を挙げますと、貝島
炭鉱或いは三菱の方城
炭鉱、或いは明治鉱業の赤沈
炭鉱或いは福地山
炭鉱、こういうふうな大資本を擁する経営の中におきまして、
水害によりいわゆる鉱車の操作ができない、或いは資材の導入が困難に
なつたから、こういう
理由で臨時
休業を申出た者があり、尤もこれにつきましては貝島労組のごとく
炭労傘下の支部としまして、対会社の交渉で一応これは解決をみましたが、明治或いは方城、住友等におきましてはなし崩しに
休業状態に押しやられて、そうして会社の考えた
通りの
休業を強行して行く、こういう事実が現われております。これらはやはり今
炭鉱の
事業の不振或いは
炭鉱の先行き不安というようなことを考慮に入れて企業整備を計画してお
つたのでありますが、この
水害を契機にこの企業整備を意のままに一方的に強行する状態が実は現われたわけでございます。この点は特にこの
委員会におきまして十分経営者に対しても警告をして頂きたいということをあとで御
要望申上げたいと思いますが、そういう点。それからもう
一つ、やはりこの
水害に関しまして重要な点であると考えますものは、冒頭に申上げました社宅だけではなくて、この筑豊炭田或いは
九州における炭田地帯は佐賀の一部或いは田川郡の一部を除きましては一体に土地が低いわけです。而も遠賀川の流域にありまして、この河床のほうが
一般に耕作地その他の土地よりも高い
実情にあります。
従つて河水が増加するに
従つてこの堤防の決壊ということは、すでに私
ども炭鉱に参りましてからでも四回経験をいたしております。それによ
つて流域一体が水没する、こういうような
実情なのでございます。そこで今度の遠賀川の堤防決壊につきましていろいろ専門家も研究されておるようでありますし、又県の土木出張所あたりも専門的な見地から検討されておるようでありますが、こういう事柄は申上げるまでもなく、決壊いたしました箇所は鞍手郡の植木よりも向うなんですが、丁度植木町の近辺にな
つている。この堤防の決壊の状況の目撃者によりますというと、普通堤防が、水がいわゆる増水をいたしまして、山を越え始めた、そうしてじりじりと洗い流して、そうして上流にそれが拡大して行くというのが通常の状況でありまして、そういう場合には土嚢を担いで行
つてでも応急
対策というものが講じ得るのでありますが、このたびのいわゆる堤防決壊は、堤防の中ほどから、つまり四メーター五十でございますが、その中間から水が吹き出して、そうして瞬く間に八十メーターに余る長い堤防の決壊を見て、怒濤のような濁水の浸入を見たわけであります。この状態は、この
炭鉱における鉱害との
関係が大きく出ておる。このことは三菱鉱業所の新入
炭鉱の鉱害区域内にあるわけなんであります。
従つてこの鉱害と
水害とが非常に重要な関連性を持
つておるという点は実に見逃せない事柄だと考えております。
炭鉱地帯にある、特に今申上げました遠賀川の流域は筑豊炭田の中心をなすものでありますが、その辺一体がいわゆるこの鉱害地帯に属する。そうして今回の
水害のごときはその鉱害が
一つの主要な原因にな
つておるということが言われております。これは無論この
労働委員会で直ちにどうこうということにはならんかとも思いますが、併しながら
先ほど申上げました坑口に理立てをしてそこに社宅を建てて住
つておる
労働者の
現実の
生活との関連は極めて重要なものがあるかと思います。そういう意味におきまして、御参考に申上げまして、十分御検討を願いたい、こういうふうに考えるわけであります。
それで最後に私御
要望として申上げておきたいことは、
先ほど江口理事長からも申しましたように、いわゆる
災害による保障が
基準法二十六条のいわゆる規定に基く保障としてなされることは非常に困難かと考えますけれ
ども、この面から申しますと、只今申上げました
事情から申上げますれば、これは二十六条の適用も又不可能ではないのであります。殊にその中にいわゆる
事業上の都合によ
つていろいろな他の
理由、つまり企業整備を本来の目的とするけれ
ども、幸いに
水害をきつかけにやられたようなものについては当然問題があろう、例えば貯炭ができないと申しますけれ
ども、それは貯炭が平生できないのではなくて、何どきでも石炭を広い構内に柵を設けて今までも貯炭をいたして参りましたし、炭価を調整するためにもそういうことをしばしば業者はや
つておる。ただ今度の
水害のときにだけ貯炭場がない、こういうことは
理由にならないかと考えます。そこら辺も十分勘案願
つて、この臨時
休業を計画的にやつたものについては当然この
賃金の保障は二十六条の適用によ
つてや
つて頂かなければならん、このことを切にお願いを申上げておきたいと思います。
それから第二の点は、当然何らかの
融資もなされると聞いておりますし、又そのことを期待しておるわけでございますが、その際に単に
つなぎ融資として流して頂いたものは、これは全く業者の人たちだけに入るのであ
つて、
労働者の潤う余地は全くないかと思います。これは今日までしばしばなされた特殊な
炭鉱の
融資につきまして一から十までがそうであつたと申上げても過言でないと考えております。そういう点から
融資は是非とも
労働者の
生活保障に振向ける
紐付きの
融資を明確にして頂かなければ、実際上困窮した
労働者は浮かばれないということを十分御認識願いたいと考えます。
それからその次の点は、今申上げました根本
対策として、やはり治水の問題が鉱害と重大な
関係がある、これは
炭鉱地域と限定いたしますが、鉱害と重大な関連があるという点についても十分御考慮を払
つて頂きたい。それから最後にお願い申上げたいのは、この
労働委員会から是非とも
実情を、
水害による経営の内部における労使間の状況或いは給与その他保障の方法等について十分御視察、御検討を願いたいという点、これは本日参りまして、早速
委員長のほうに
要望書も提出いたしております。その中には文書で
被害の状況についても述べておりますが、是非ともこの点、この
委員会から視察団を派遣して頂きたい、そうして十分
現地について労使間の状況或いは
被害状況等についても併せて御視察願
つて十分な
対策をお願いしたい。
以上四点を御
要望申上げまして私の公述を終りたいと思います。どうぞ
一つよろしくお願いを申上げます。