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参考人(田中榮一君)
只今御指名にあずかりまして去る六月十八日、
赤羽四丁目番外地、
米軍施設内ブリジストン・タイア会社
工場正門内におきまして起りました
事件につきまして御
報告申上げたいと思います。
なお、
事件の概要つきましては、十九日付の書面で
皆さんのお手許に印刷して差上げたと存じまするが、これも今
組合課長から
お話があつたと同様に十九日付で調べておりまするので、若干これと違つた点が後ほど起るかも存じませんが、これは又いずれいま少し
事件の顛末が明瞭になりましてから適当なる
当局から御
報告申上げるのが適当であろうと、こう思
つております。従いまして私はこの印刷物につきまして、これに関連して若干敷衍して申上げたいと存じます。
この印刷物を御覧になるとわかるのでございますが、
昭和二十八年の六月十六日午前八時からストに入
つたのでありまするが、
事件の起りましたのは六月十八日の午前一時四十八分頃でございます。当時この
赤羽の
日鋼製作所は、今
課長から御
説明がありました
通りに、十幾つかの門がございまして、この門を通じまして
米軍施設内の
日鋼製作所或いはブリジストン・タイア、或いは又
米軍の兵器本廠と申しまするか、T・O・D、ここに通勤する工員がこの十幾つかの門を通じて現在出勤をいたしております。この門はいずれから入りましても差支えないのでありまして、ブリジストン・タイアの門から或いは
日鋼の工員が入
つてもこれは差支えないように
なつておるようでございます。
そこで当日ブリジストン・タイアの正門前におきまして、図面を御覧になるとわかると思うのでありますが、この正門は大体両開きの扉に
なつております。幅が三間ぐらいあると思うのですが、その門外に大体三十人ぐらいが一列で五列に
なつてスクラムを組んで、体をゆすりながらインターを歌
つてピケ・ラインを張
つてお
つたのであります。丁度午前七時四十分過ぎにこの
米軍のトーキヨー・オーヂナンス・デポート、T・O・Dの製品検査係長のセベノ・ドミニツク軍属がポンチヤツク四十一年型黒塗り自動車を操縦しながらここに入
つて来たのであります。同乗しておりましたのが、今女子二人、男子一人という
お話でございますが、私
どもの調べでは、女子二人男子三人が同乗しておつたと聞いておるのであります。これは又いずれ
あとで調べた上で正確になると思うのですが、これは丁度軍属セベノ・ドミニツクが通勤の途上に、いずれもT・O・Dの従業員でありまして、徒歩で通勤をいたしておりますので、空車だから乗せてやろうというのでそれに同乗を許して、そうして正門前に来たらしいのであります。そのときに警笛を鳴らしてどいてもらいたいというと、若干口をあけまして、この印刷物にあります
通り、図面にあります
通り門前の約三フイートか四フイートのところへ車をとめたらしいのであります。そうしておるうちに外部の労組員が或いはガラスを叩き、或いはボデーを叩いて出ろと言つたか何と言つたか知りませんが、とにかく相当叩いたり何かした。操縦者の軍属が出て来たところを相当体をこずき廻したり暴行をしたというように聞いております。そうしてそれを門内におきまして見ておつたメンデローという
米軍の軍曹が、このままにしてお
つてはどういう
事態になるかわからないということを心配いたしまして、上空に向けて一発威嚇的な発砲をしたようであります。その際に労組側としましてはこれによ
つて漸く道を開けまして、更に門内の
米軍の係官が来まして門を開きまして、そうしてその車を内に入れたそうであります。そのときに同乗しておりました従業員はいずれももうすでにどこかへか退散していなかつたそうであります。その軍属はその空車を運転してまあ無事中に入つたわけであります。その際に軍属の体に若干二、三カ所軽傷を負い、又車も若干損傷をこうむつたようであります。そこで労組側並びに両方の被害事実につきまして警察側といたしましても直ちに捜査いたしておるのであります。警察といたしましてはこの賃金値上げに伴う今回の
赤羽日鋼製作所の
労働争議につきましては相当重要視いたしまして、それから附近の約三百メートルほどに法善寺の駐在所がありまして、そこに私服等を配置しまして、何か異変でもあればというのでそこに待機はしてお
つたのであります。
警察官は何か鈍い音がいたしましたので、何かこれは起
つたのではないかというので現場に飛んで参りまして、双方にいろいろ会
つて事情を聴取したのでありますが、米兵が発砲したという事実だけで、どういう方法で発砲したのか、その場においては十分わかりませんでした。ただ米兵が発砲したということ、一発発砲したのか二発発砲したのかわからないのであります。そこで更に
米軍当局のほうに
申入れをいたしまして、事実の
調査、捜査を
申入れいたしたのであります。そこでこの今回の
事件につきまして警察
当局といたしましては、飽くまで
労働争議そのものには絶対に
関係はいたしておりません。又
労働争議の中に何か不穏な
事件、違法
事件が起つた場合には警察は
関係いたしますが、すべてさような方針で、警察といたしましては
労働争議そのものについては何ら干渉せず、又遠廻しに何か違法
事件でも起ればというので一応注意はしてお
つたのであります。たまたまかような
事件が起りましたので直ちに捜査を開始いたしたのであります。現在この
事件は捜査中でございまして、又発砲した米兵につきましても現在
駐留軍の協力の下に検察官が
事情を取調べております。従
つていずれ追
つて真相が明らかになるであろうと考てております。ただ現在までの捜査を通じて見ますると、発砲した米兵について犯罪が成立するものと推測する根拠は乏しいと考えられます。なお、この自動車のボデー並びに軍属の体に若干傷も受けておりまするので、こうした暴行した者に対しての取調べにつきましても現在捜査を進めておるような
状況でありまして、なお労組側に被害があつたかどうかということにつきましても、これも警察側としまして中立の立場において今捜査をいたしております。現在何分にも捜査
過程中のものでございますので、その内容その他について本席において詳しく私から御
報告申上げることのできないのは誠に残念でございますが、いずれ本
事件の一切を厳重に十分
調査いたしまして、又適当な機会に
事件の一切の
真相を
警視庁か或いは法務省か、いずれかの
当局から具体的に
一つお知らせ申上げる機会があろうかと考えておりますが、現在では
只今捜査中でございますので、この点何とぞ
一つ御
了解願います。
私からはこの程度でお許し願いたいと思います。