○早川愼一君 只今議題となりました
私的独占の禁止及び
公正取引の
確保に関する
法律の一部を
改正する
法律案につきまして、委員会における審議の経過並びに結果について御報告申上げます。
先ず本
法律案につき、政府の提案理由によりますと、「
昭和二十二年七月にいわゆる独占禁止法が施行せられてから、その経験に徴して一本法の諸規定を我が国の特質と実態によりよく即応するものとする必要が感ぜられたこと、もとより独占禁止法の根本精神は飽くまで尊重すべきものでありますが、この際、内外諸情勢の推移に鑑みまして、独占禁止法の内容を適当に緩和する必要があると考え、前国会にこれが
改正を提案いたしましたが、成立を見るに至りませんでしたので、今回改めて本
法律案を提出するに至つた次第である」というのであります。
以下その
改正案の主なる点を申上げますと、第一点は、現行法によりますと、
事業者間における特定の共同行為は画一的に禁止されているのでありますが、本
改正法案におきましては、一定の取引分野における競争を実質的に制限する場合に限つて禁止することといたしまして、又、現下要請されている
事業の合理化のため、
事業者が共同して規格の統一等のためにカルテルを結成することを認容し、更に、不況時に際しまして
事業の全般的存立が危殆に瀕する場合には、生産制限、価格協定等のカルテル結成を認容せんとするものであります。
改正案の第二点は、現行法によりますと、競争関係にある会社相互の株式の保有、役員の兼任等は、画一的に禁止されておるのでありますが、これ又、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるか又は不公正な取引方法を用いる場合に限つて禁止することにしようとするのであります。
その第三点は、現行法によれば、競争手段として不当に低い対価を以て経済上の利益を供給する等の行為は、いわゆる不公正なる競争方法として禁止されているのでありますが、自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引する場合、不公正な取引方法という概念に改めまして、これらの行為が公正な競争を阻害する虞れがあるものに限つて指定して初めて禁止することとしようとするものであります。
改正の第四点は、現行の
事業者団体法を廃止して、その必要な規定はこれを本法中に収容したことであります。我が国の
事業者団体法は、御承知の通り昨年の八月の
改正によりまして、本法の法益は独占禁止法の法益とほぼ同一になつておりまして、これを単行法として存続せしめる積極的な理由は存しなくなつたからであるというのであります。
又、第五点といたしましては、従来、不当廉売、おとり販売等の不当な競争が主として小売面で行われている実情に鑑みまして、一定の日用商品、書籍等に限り、再版売価格維持契約を独占禁止法上適法なものとしてこれを認めたのであります。
以上申述べましたことは、今次
改正法律案の主な点でございますが、このほかに、私的統制団体の禁止に関する規定、
事業能力の較差に関する規定を削除いたしておりますが。これは他の規定によりまして取締の実を挙げることができると認めたためであります。
その他、以上の
改正点に伴いまして、手続規定、罰則規定に所要の
改正を加えると共に、附則として、独禁法の
改正又は
事業者団体法の廃止に伴う経過措置、適用除外規定の整理をしているのであるというのであります。
以上が
改正法案の概要であります。
本法案は、七月八日、本委員会に予備審査として付託せられました。通産委員会との四回に亘る連合委員会を開き、又去る十七日には公聴会を開き、経済団体連合会常任理事福島正雄君外九名の公述人の意見を徴したのであります。二十五日に衆議院において修正がなされ、カルテルについての主務大臣の認可とあるを、
公正取引委員会の認可とし、認可権が
公正取引委員会にあることに改め、主務大臣には協議のみで足ることにして、これらに関連して手続その他に所要の修正がなされました。
その後、委員会といたしましては、単独に開きまして、慎重なる審議がなされたのでありますが、その質疑応答の主なるものを申上げますと、
先ず、「各国の反トラスト法と比較して日本の独占禁止法の
改正後の地位はどういうところにあるか。西ドイツ及び英国のそれとはどう違うかとの質問に対しましては、「今回の
改正法は西ドイツの競争制限防止法と大体同じである。米国では条文は頗る簡単であつて、その実施の上におきましてケース・バイ・ケースに判例が積み重ねられており、これは実質上
法律と同じ効果を持つておるのでありますから、厳格とかということについては比較になりがたい。英国はカルテルについては単なる届出制をとつて、行き過ぎはこれを是正することになつておるが、併し英国の基礎産業は国有又は公営下にあり、その意味ではこれ又彼此比較して本
改正を以て厳格だとは言えないと思う」との答弁がありました。
次に、独禁法はカルテルを悪と見た立法と思われるがどうか。その運用は固定的でなく積極的に弾力的に行うべきものであると思うがどうか」との質疑に対しましては、「本
改正はカルテルを悪と見る立場にあるというのは言い過ぎである。現行第四条は削除されており、第三条該当のカルテルのみを違反として取締るに過ぎないもので、不況カルテル、合理化カルテル、貿易カルテル等の点で、更にその上の緩和をしている」ということの答弁がありました。
次に、「本法
改正によりまして輸出にどういう影響を及ぼすか。現内閣の経済政策の基本方針たる貿易の拡大を阻害することはないか」との質疑に対しまして、「成るほど不況カルテルにおいてはコストを吊上げる虞れが全然ないとは言えないが、厳格な条件の下に例外的に認めるのであつて、認可の際は十分慎重に審査を行い、そういうことが起らないようにして行く考えである」との答弁がありました。
次に、「輸出取引法が画期的に充実
強化されさえすれば、独禁法を緩和する必要はないと思うがどうか。殊に不況カルテル等まで認めるというのはどうか。三歩を譲つても価格カルテルまでの必要はどうかと思う」との質疑に対しましては、「今回の輸出取引法の
改正は対外関係を主としており、従つて国内関係におきましては輸出産業をも含めた全体の産業の安定のためにも本
改正は是非とも必要であると考える。又不況カルテルの場合の価格協定については、極めて特殊の場合に限定してこれを認めることにしている」との答弁があつたのであります。
次に、「競争会社が競争力を失い自然消滅して他の会社が独占企業となる場合、再び過度経済力集中排除法のごとき
法律が制定される虞れはないか」との質問に対しましては、「残つた企業が不当な独占をなす場合には第三条で十分取締れるから、再び過度経済力集中排除法のごとき
法律はこれを制定する考えはない」との答弁がありました。
次に、「通産省の勧告で綿紡績等の操短が行われたが、これは独禁法違反でないか。外貨予算の割当にとつてやはり操短が行われているではないか。
改正後も同様行政措置による操短が行われるのではないか」との質疑に対しまして、
公正取引委員会より、「行政機関の措置の結果できた事態に対しましては独禁法違反を問うわけには行かない。独禁法上面白くないと考える場合は、
公正取引委員会は行政官庁に意見を申入れ、又国会に意見を提出することもあり得る」、この問題に関しまして通産省からは、「本
改正後は行政措置による勧告操短は行わない」との答弁がありました。
次に又、「本
改正の結果、
公正取引委員会の仕事は殖えることが予想されるが、公取を通産省に吸収したり定員を減少するようなことはないか」との質疑に対しましては、「そのようなことは考えていない。定員の増加については必要に応じ研究する」との答弁がありました。
以上のほかにも重要な質疑が相当あつたのでありますが、詳細は会議録に掲載されておりますから御覧を願いたいと思います。
かくて質疑が終つて討論に入つたのでありますが、八木委員よりは、「本
改正案は独禁法緩和という意味で賛成はするが、なお幾多の不備欠陥を包蔵すると考える。即ち、根本においてカルテル等の共同行為の取締は広く国民経済の利益に反するかどうかの実質に着眼すべきでありて、従つてカルテルの認可に代えて届出制を採用すべきである。又、不況対策としての本案は生産業者に偏し、販売業者にもカルテルの結成を認容すべきである。これらの諸点は、会期切迫せる今日、他日を期することとして、本法運用上考慮せらるべきである」との賛成意見が述べられました。奥委員よりは、「本
改正案は少数の大企業を利する結果となり、現存するカルテルの既定事実を合法化するに過ぎないのであつて、価格カルテル、再販売価格維持契約も価格の引下げには役立たないで、社会の消費者大衆の利益に反する結果となるから反対する」との意見が述べられたのであります。
かくして討論を終結いたしまして、採決の結果、多数を以て
衆議院送付の原案通り可決すべきものと決定した次第であります。
この段御報告を申上げます。(拍手、「議長、定足数がない」と呼ぶ者あり)