○
栗山良夫君 只今、議長より、
電気事業及び
石炭鉱業における
争議行為の方法の規制に関する
法律案につき
中間報告を求められましたので、
労働委員会における今日までの審査の経過について御報告申上げます。
本
法律案は、諸君が御承知の通り、第十五国会に前
吉田内閣より提出され、
衆議院におきまして、改進
党提案により
期限付立法とする旨の一部修正がなされた上、可決され、本院に送付されたのでありますが、本院におきまして審議中、
衆議院の解散によ
つて審議未了となつたものであります。今国会に至り、改めて、
前回衆議院におきまして修正可決された
法律案と同一の内容の
法律案が、去る六月十四日内閣より提出、即日
衆議院労働委員会に付託され、
衆議院におきましては七月十一日可決をみて、同日、本
院労働委員会に付託されたものであります。
先ず本
法案の内容を簡単に御説明申上げますると、本
法案は三カ条から成
つておりまして、第一条におきましては、「
電気事業及び
石炭鉱業の
特殊性並びに
国民経済及び国民の
日常生活に対する
重要性にかんがみ、
公共の福祉を擁護するため、これらの事業について、
争議行為の方法に関して必要な措置を定めるものとする。」として、本
法案の趣旨を述べております。次に第二条におきましては、「
電気事業の
事業主又は
電気事業に従事する者は、
争議行為として、
電気の正常な供給を停止する
行為その他
電気の正常な供給に有接に障害を生ぜしめる
行為をしてはならない。」として、いわゆる
停電スト、
電源スト等を正当ならざる
争議行為として禁止する旨を明らかにし、次いで第三条におきまして、「
石炭鉱業の
事業主又は
石炭鉱業に従事する者は、
争議行為として、
鉱山保安法に規定する保安の業務の正常な運営を停廃する
行為であ
つて、鉱山における人に対する危害、
鉱物資源の滅失若しくは重大な損壊、鉱山の重要な施設の荒廃又は鉱害を生ずるものをしてはならない。」として、いわゆる
保安要員の
引揚げ等の
行為を違法なりとして規定しているのであります。
更に、本
法案の
提案理由として
政府の説明するところによりますると、要するに、「昨冬行われました電産、炭労の両
ストライキは、非常に大規模なもので、
国民経済と国民の
日常生活に与えた脅威と損害とは実に甚大なものであつた。
労使関係の事項については、法を以てこれを抑制規律することはでき得る限り
最少限とし、労使の良識と健全な慣行の成熟に委ねることが望ましいことは言うまでもないが、
政府としては、かかる
基本原則のみを固執し、徒らに手を拱いて当面の緊急問題に対して必要な措置を怠ることは許されないと考えるので、種々検討の結果、この際は、いわゆる
基礎産業中、最も基幹的な
重要産業であり、而も昨年現実に問題となつた
電気事業及び
石炭鉱業につき、
争議権と公益の調和を図り、以て
公共の福祉を擁護するため、両産業における
争議行為の方法につき必要な限度の規定を設けることとした。これが本
法案を立案し提案するに
至つた理由である」と、かように申しておるのであります。
本
委員会といたしましては、七月十三日、
小坂労働大臣より
提案理由の説明を聴取し、同十五日、本
法案審査のため
議員派遣要求書及び
公聴会開会承認要求書提出を決定し、翌十六日以降連日に亘り
委員会を開いて質疑を行い、なお、その間、十八日から二十一日の四日間は、各
委員が九州、福島、
北海道の三班に分れて、現地の
実情調査を行うと共に、本
法案に対する労使及び
学識経験者、
消費者代表の意見を聞く
懇談会を催し、その報告を二十二日に行いました。二十三日及び二十四日の両日は、本院において
公聴会を開いて、
労使双方並びに
学識経験者、
一般消費者代表の意見を聞き、更にその後は、日曜といえども休むことなく、連日
委員会を開いて、熱心な審査を行な
つて来たのでございます。このことは、本
法案が
基本的人権と
公共の福祉に開通する
憲法上の重大問題を含んでいる
重要法案でありまする以上、当然なことでありますが、
委員会といたしましては、更に、本
法案の成行きが
国民一般から多大の注視を寄せられている実情にも鑑み、本
法案の審査に当
つては、特に参議院独自の立場において当初から
慎重審議を尽すことを
全会一致を以て決定して臨んだ次第であります。
従つて、
委員会におきまする
質疑応答も多岐に
亘つた次第でありますが、詳しくは
速記録によ
つて御了承願うことにいたしまして、ここではその主なる点を御報告するにとどめたいと存じます。
先ず本
法案を
政府が提案した経緯並びに意図に関し、
田畑委員より、「本
法案立法の由来は、去る一月三十日、第十五
国会休会明け本会議における
吉田総理の
施政方針演説の中で、昨秋の電産、炭労の
争議の影響に鑑みて、かかる
争議の
制限立法をなすべき旨を述べたことに端を発していることは明らかである。
自由党としては、首相が本会議において発言した以上、大幅の
制限立法を提案すべきだと主張したのに対し、
労働省事務当局としては、前年の
労闘ストの苦い経験に鑑み、小幅の
制限を主張し、
政府と真正面から衝突したが、遂に鶴の一声で決したと聞いている」。
この間の事情に関しては、去る七月二十三日の
公聴会において、
公述人として出席した電産労組の
神山委員長は次のごとく述べている。
(前略)今年の二月上旬
スト規制法案が閣議で決定をする前に、私ほか二名の幹部が
労働省に招致せられた際、面接したのは、当時の
労働事務次官、現
参議院議員の
寺本広作氏であつたが、同氏からは次のような発言がなされた。即ち、「
政府筋から電産の
スト制限法の作成を催促されて、
労働省は弱
つている。
争議も解決したし、輿論も平静化して来た際、自分はこのような
法案作成にはどうしても積極的になれない。そこで、この機会に、電産は今後一カ年一切の
ストライキをやらないと声明したらどうか。若し組合がそれをや
つてくれたならば、自分は一身を犠牲にしてでも
法案作成を阻止する覚悟である」。更に、
法案作成の経緯について同次官は、「昨年の電産
ストが各方面の反響を呼んでいたために、特に側近からの注文で、首相の
施政演説に
政府の
考え方として入れることになつたと聞いている。
労働省には事前の連絡はなかつた。併しいやしくも首相の
施政演説に言われた以上、放
つて置けないという意見が強くなつた」云々と述べている。
これに関し、
委員会の席上、
田畑委員から、この証言は重要な陳述であるから、
寺本委員に真偽の説明を求めたところ、追
つて速記録を熟読した上でとの
答弁があつたまま、
速記録はすでに数日前でき上
つておりますけれども、未だに何らの
答弁はないのであります。
又、本年二月六日、朝日新聞の「
記者席」欄に掲載されました記事によりますると、「
公共事業に対する
スト制限立法で、五日、
労働省寺本次官らが
自由党と話し合つた。何分、首相が
施政演説で公言した以上、
大幅スト制限をやれというのが与党の意向。
労働省側は
小幅制限論で対立。
事務当局は、昨年の
労闘ストで手を焼いて消極的にな
つている節もあるが、
寺本次官が
ステツプ・バイ・ステツプと
言つているところをみると、次の
国会あたりで、もう一段の
制限を加えたいようである」、この記事の真偽につき、同じく
寺本委員に質しましたところ、氏は、「
ステツプ・バイ・ステツプというのは、さる
政府要人の
言つたということを語
つたので、自分がそう
言つたのではない」と答えられました。が、同記事の他の部分については否定はされなか
つたのであります。続いて田畑氏から、「寺本氏の言う
政府部内の
さる人とは、実は
吉田首相であるということが、当時の情報から明らかにされている。故に、本
委員会に
吉田総理の出席を得て、直接これを質したい」との要求があつたが、その後、数日に亘り出席を要求いたしましたが、遂に首相は一回も出席しなか
つたので、この問題に関しては未だに明らかにされていない状態でございます。
又、同じく
田畑委員から、「本
法案が閣議において議せられたとき、
制限は大幅か小幅か、或いは
ステツプ・バイ・ステツプで拡大するという意向があり、更に、
提案理由説明中にも
——公共的性質を有する産業は
ひとり電気事業及び
石炭鉱業に限るものでないことは申すまでもないところでありますが、今回は
云々——という字句があるところを見ると、この法律を他産業に拡大適用するのではないか」との質問があ
つたのに対しまして、
小坂労働大臣は「自分が
労働大臣として職に在る限り、職を賭してもそのようなことはしない」と言い、或いは又「仮定の問題には答えられないが、自分としては他
産業労働者の良識に期待する」と申しました。これに対して一部の
委員は、このような、あいまい且つ動揺した
答弁では満足できないから、
総理大臣の責任ある
答弁を聞くか、又は改めて閣議に諮
つてからもう一度
答弁せよとの声が強か
つたのであります。この問題の審議と、総理の
答弁、閣議の方針も、未だに残
つている未解決の問題でございます。
次いで
憲法上の問題といたしまして、「本
法案の内容からすれば、
憲法第二十八条が保障する
勤労者の
団体行動権、なかんずく
争議権を不当に侵害するものではないか、
憲法違反ではないか」という質問がありました。これは各
委員によ
つていろいろな角度から同じ内容の質問が幾たびか繰返されたのでありますが、これに対して
政府は、「
憲法第二十八条に規定された
労働者の諸権利といえども、同じく
憲法第十二条にある
——国民は、これを濫用してはならない、常に
公共の福祉のためにこれを利用する責任がある——という規定から来る
制限を免れないものである。本
法案は、
憲法二十八条にいう
労働者の権利と、十二条にいう
公共の福祉との調和を図つたもので、決して
憲法における
労働者の権利を侵害するものではない」という、同じことを繰返し繰返し
答弁されたのであります。各
委員はこの
答弁に満足せず、重ねて
労働者の
基本的権利と
公共の福祉との関係を追究し、「
公共の福祉の名において、
労働者の唯一の権利とも称すべき
争議権を抑圧してよいものかどうか。現に、本
法案の第二条、第三条によ
つて、
電気産業並びに
石炭鉱業に従事する
労働者は、
争議権に重大な
制限措置が加えられ、殊に
電気労働者にと
つては、事実上、完全に
争議権を剥奪されるに等しい結果になるではないか」という質問もありました。これに対して
政府からは、「
基本的人権と
公共の福祉の関係は、両者同格で、どちらが重い軽いというものではないが、
具体的事情に即して、真に止むを得ざる
必要最少限度の
制限は、
公共の福祉という国民全体の立場からみてあり得ることだ。又、本
法案は、
争議権を抑圧するものでなく、
電気、石炭両産業における
争議行為の中で、従来とも違法とされ、或いは違法とまでは明確でないが、
社会通念上、正当な
争議行為とは認めがたいという、そうした
争議行為の方法のみを規制しようというのであ
つて、第二条、第三条によ
つて、
電気、石炭両産業における
争議がすべて禁止されるものではない」という
答弁がございました。
こうした
政府の
答弁に対しましては、「違法であり、不当である
争議は、
公共の福祉のために
制限されても止むを得ないというなら、
法案の名称を、
争議行為の方法の
規制等と言わずに、なぜもつとはつきり表現しなかつたか。又、正当な
争議行為なら差支えないというが、それなら
労働組合法第一条第二項にある
正当性の限界をどう考えているか」という質問も出たのでございますが、
政府はこれに対して、「不当にして違法な
争議行為の範囲を明確にし、解釈を明らかにすることが、この
法案の目的である。又、
正当性の限界については時の
社会通念を判断の基準とするが、最終的には
裁判所の認定によ
つて決定される」旨の
答弁がなされたのであります。この
答弁に関連して、これは電産関係の出身の議員で、かかる問題に精しい
藤田委員からの質問でありますが、「
停電ストは
作為的行為だから違法だということは
言つていた。併し、
電源ストや
給電指令所の
職場放棄、即ち労務不提供は、従来合法であるというのが通説であり、
政府並びに最高検もそのように説明していた。少くとも
電源ストは違法なりという解釈はなかつた。
政府の解釈は一体いつから変つたか」と尋ねたのに対しまして
政府からは、「
電源スト等は、従来とも
社会通念として違法ではないかという疑いがあ
つたのであるが、昨年の
ストライキの結果、これが違法であるとの
社会通念が成熟したのである」という説明がございました。又これに関連して、昭和二十七年七月三日の
東京高等裁判所の判決などを引例して、「
作為的行為についてすら
争議行為として合法的であるとの判例が多い。然るに
裁判所の認定を尊重するという
政府が、かかる
判決理由を無視して、只今のような解釈をあえてとるとは一体どういうわけか」という
吉田委員の質問に対し、
政府は「未だ
最高裁判所のこの点に関する判例がないから、
社会通念上、現在において正当でないと考えるものを本
法案に列挙したのである」として、ここでも抽象的な
社会通念云々を以て
答弁に代えられたのであります。(「
主観論だ」と呼ぶ者あり)
そこで、
社会通念の成熟という問題につき、
堀委員と
労働大臣並びに
法務省政府委員との間に、「
社会通念の成熟の根拠はどこにあるか。単に
消費者が
ストに反対しているとか、
自由党が選挙によ
つて圧倒的勝利を得たとかいうだけで、
社会通念が成熟したと言うことができるか」という質問に対して、
労働大臣は、「
社会通念、一般的な
法意識が成熟したものと考える」というのみで、何ら明確な返答を行わず、然るに
法務省政府委員の
答弁では「単に
消費者の一部が賛成したからとか
自由党が選挙で
圧倒的勝利を得たということだけで、
社会通念が成熟したと考えることは早過ぎる」ということで、
政府部内の意見の不一致を見た次第であります。なお、この点に関連して、昨日、
堀委員から、「社会の利害は対立しているのだから、統一的な
社会通念などというものはあるはずがない。
自由党の第一党は金の力によるものではないか」という質問に、
労働大臣は、「私は学問がありませんから素朴な意見しかできません」という
答弁がございました。(笑声)
続いて
吉田委員から、「我々は
法律解釈をめぐ
つて大事な
法案の審議をしている。
社会通念などという漠然としたものを基にして、本
法案のごとく
憲法違反の疑いある
法案を作るとは怪しからん」という発言があ
つて、昭和二十六年、電産
川崎分会の事件で、
横浜地裁が
スイツチ・オフは違法ではないという判決を下した例を引き、「
自由党の
社会通念から見て
スイツチ・オフなどは不法だから本
法案を出したのか」という質問がありましたが、これに対し
政府委員からは、相変らず、「
労組法第一条第二項に照らして正当ならざる
行為と思われるものを明文化したわけで、正当か正当でないかは裁判によ
つてきまる」という
答弁がなされたのであります。
ところが、その前に、
緑風会の
梶原委員から、「仮に本
法案が
成立しなかた場合でも、
電源ストは違法と考えると説明したと思うが、その通りか」という
念押しの質問がありましたのに対しまして、
労働大臣は、「
行政解釈としてはその通りだ」と
答弁されたのであります。
そこで、これは
委員長からの質問でありましたが、「
政府は
電源ストは違法であつたと説明しておる。併し、最終的な解釈は、行
政府において違法であると考えられる場合であ
つても、
最高裁の認定によるべきである。それはよいが、裁判の結果は大体において違法でないという判決が下りておる。とすると、
政府は裁判の結果を尊重しないということにならないか」と質問いたしましたところ、
政府委員は私の問に対して、「
下級審の判例はいろいろ出ておるが、
最高裁の判決はまだ下りていない」と申されたのであります。私は更に、「それならば
最高裁の決定を待
つて本
法案を提出すべきではないか」と
労働大臣に迫りましたところが、
政府委員から、「
最高裁のこの問題に関する判決はないが、昨年末の石炭、
電気の
スト以来、
社会通念が成熟し、かかる
争議行為は世論も又違法と認めて来たので、本
法案を出した」という
答弁がございました。そこで私は重ねて、「
政府は
電源ストは従来から違法であつたと
言つているが、今まで電産労組に対して、かかる
争議は違法なりと警告を発したことがあるか。子供が過ちをしたという場合でも、一度は頭を撫でてやるのが
社会通念というべきものではないか」と反問したのでありますが、これに対し
政府委員は、「電産の場合、昭和二十一年このかた、しばしば
電源ストが行われて来たのは事実である。併し、
争議中かかる勧告をすることは、
政府が
争議に干渉することになるので、しなかつた。併し、炭労の場合、
保安要員の
引揚げなどは明らかに違法だから、当時警告も発した」という
答弁でございました。そこで私は、「
保安要員の
引揚げでさえ不明確だからこそ
警告声明を発したのではないか。
労働省の考えは突然変異したと思うがどうか」という言葉で更に質しましたところ、今度は
小坂労働大臣から、「突然変異ではなく、昨年の
争議により一歩一歩成熟したので、進化論的である」という、そういう
答弁があつたような次第でございます。(笑声)
更に電産の場合について、多くの
委員より、「残されている
スト手段に何があるか」という質問に対し、
労働大臣は、「
事務スト、
集金ストその他のものがある」と
答弁されたのであります。更にその点を追及されますると、「直接という字句が使
つてあるので、間接に停電するごとき
ストは許されている」とも
答弁されておるのであります。又、
犬養法相の
答弁の中にも、「電産、炭労の
労働者といえども、自己の持
つている
労働力を提供しないという
ストは許されており、
不作為の
ストは合法だ」という
答弁もあつたわけで、少くとも
電源ストの合法違法の限界と解釈につきましては、労働、法務両大臣の
答弁に、大きな食い違いがあるわけであります。
なお、この
電源ストの
違法性の問題に関連してこういう質問もあ
つたのであります。それは
緑風会の
梶原委員からでありましたが、「電産の場合、単に
争議行為の方法を規制すると言いながら、これは
スト権の
全面的禁止だと申してよい。
集金スト等が残
つているというが、これは附けたりで、相手に痛痒を与えないような
ストは、
ストとしての価値がない。又、
ストは本来
不作為の
行為だと言われている。然るに
停電ストは
作為的行為だから違法だというわけだが、
電源ストのような純粋に
不作為の
行為を
社会通念で以て規制することには疑問がある。即ち、本
法案によれば、
不作為の
行為を違法だと
言つて、働くことが強制されている。働かなければ
公共事業令八十五条によ
つて罰せられるという点、
憲法第十八条の——その意に反する苦役に服させられない——という規定に違反するものではないか。」というのが質問の趣旨でありました。これに対し
政府の
答弁は、「
電気の正常な供給を阻害する
行為だけは遠慮してくれというのであ
つて、
争議の禁止ではない。あとに残された
争議行為はいろいろある。
集金ストは効果がないというが、長期にやれば
経営者に大きな打撃を与える。又、
不作為の
行為であ
つても、
公共の福祉を著しく阻害するような場合、
制限されるのが当然である。
憲法第十八条との関係は、
労働者は、
雇傭契約によ
つて、いわば
経営者との間に
労働力の売買をしているわけで、意に満たぬ取引があ
つても、退職の自由があるのだから、
奴隷労働ではない。
従つて憲法違反と言うのは当らない。」そういう説明をしたのであります。この
政府答弁に対し、同じ
質問者は声を励まして、「では念のためもう一度お尋ねするが、
不作為の
行為であ
つて、而も何ら実害を伴うような影響はなかつた、例えば
電源ストの場合、会社が
代替労働力を以てこれを
補つた、スキヤツプを入れたということでもよろしい、そうした場合でも、なお且つ本法の違反に該当するのかどうか」という質問に対し、
政府は、「たとえそういう場合でも明らかに違反になります。なぜなら、本法は
行為の結果如何を問うものではない。これこれの
行為はいけないというふうに、
行為の方法を規制の対象にしているからだ」と
答弁されたのであります。
本
法案に対するこうした
政府の
考え方に対しましては、更に
梶原委員から、「例えば小さな
発電所で一分間の停電をやつた、それも電圧がちよつと低くなつだ程度のもので、
一般国民の
日常生活に与えられた影響は少かつた、そういう場合でも、なお且つ
公共の福祉に反するという理由で
基本的人権を奪うほどの罰に価いするのか。若しそうだとすれば、
政府はまさに
公共の福祉を濫用しているということにならないか」という質問に対して、
政府は同じ意味の
答弁を繰返されたのみであります。而して、同じ趣旨の質問が炭鉱の場合を例に引いて尋ねられたこともありましたが、そのときの
答弁も又同様でありました。
こうした
政府の
答弁は、昨年の電産、炭労の二大
争議が、
国民経済並びに国民の
日常生活に甚だしき脅威と損害を与えたから、それ故に本
法案のごときものが立案されたという
提案理由の説明に述べられた趣旨と矛盾するわけでありまして、この点につき、各
委員から質問も集中されたのでありますが、これに対し、
政府から何らこの間の矛盾を氷解するに足る
答弁がなされなか
つたのであります。
又、
藤田委員から、「
政府は、何故に、かかる
憲法第二十八条違反の疑いのある
労働者の
基本権を剥奪せんとする、懲罰的な、而も
不備欠陥の多い法律を提案し、且つ性急にこれを通過せしめんとするのか。聞くところによれば、今春の総選挙において
自由党は
電気事業経営者連合会から一千万円の献金を受けたというが、ここにその関連があるのではないか」という質問がありましたが、(「その通り」と呼ぶ者あり)それに対し、「そのようなことはないと思う」との
答弁がございました。
以上、
委員会における質疑の大要を御報告申上げたのでありますが、次に、七月十八日から二十一日にかけての
北海道、福島、福岡の各地の
議員派遣に関し、各
委員から報告が二十二日の
委員会においてなされましたので、簡単にその大要を御報告いたします。
先ず第一班
北海道班は、藻岩、簾舞、江別の三
発電所、
札幌給電指令所、
苗穂変電所を視察し、
石炭関係では、
三菱美唄鉱業所にて坑内の施設を視察し、
東幌内炭鉱において
保安要員等について詳しい説明を受けました。なお現地において聞いた声によりますと、電産
ストの影響は少かつたようでありますし、又、
保安要員の
引揚げはあり得ないとの声、この
法案の必要がないとの声が強か
つたのであります。その間、七月十九日には
札幌市民館において、本
法案に対する各界の意見を聞く
懇談会を開いて、労使それぞれ三名、
学識経験者二名、
消費者代表二名、合計十名の出席者から意見を聴取いたしました。その結果、使用者側は賛成、
労働者側は反対、
学識経験者は二名とも反対、
消費者代表は、費成一名、反対一名でありました。
第二班福島班は、七月十九日、福島市労働会館において、本
法案に対する各界の意見を聞く
懇談会を開きまして、労使それぞれ三名、
学識経験者一名の出席者合計七名から意見を聴取いたしました。その結果は、使用者側は賛成、
労働者側は反対、
学識経験者は反対でありました。次いで
電気関係では、猪苗代湖
発電所、日和田給電指令町を視察し、
石炭関係では常磐炭鉱の君崎坑の坑内を視察いたしました。なお湯本において労使と共に懇談いたしました。
第三班福岡班は、
電気関係では、九州電力会社の名嶋、港、両
発電所、九州電力本社内の中央
給電指令所を視察し、
石炭関係では、三井三池鉱業所の四山、三川両坑内の施設をつぶさに視察いたしたのであります。その間、七月十九日、県庁内副議長室において、本
法案に対する各界の意見を聞く
懇談会を開いて、労使それぞれ三名、学識詮験者二名、合計八名の出席者から意見を聴取いたしました。結果は、使用右側は賛成、
労働者側は反対、
学識経験者は二名とも反対でありました。更に、
発電所、炭鉱を視察した際に、労促とそれぞれ別個に懇談をいたしました。
なお、各地における
学識経験者の意見の要旨は次の通りでありました。
先ず
北海道大学教授小林己智次君の意見は、私的独占禁止法の一部改正案は
憲法第二十九条に基く財産権に対する
公共の福祉に基く社会的制約の緩和であるが、本
法案はこれと対蹠的に、
憲法第二十八条に基く労働
基本権に対する制約の強化である。
争議行為は自主的解決が最も望ましいが、自主性尊重の名の下に
労使双方が
ストを長期化し、第三者に迷惑を及ぼすことは、厳に慎しむべきである。併し、今日の段階においては、一片の法律を以て
労使双方の紛争を解決するのは時期尚早である。むしろ調停制度の活用を図るべきであり、若し必要とすれば現行労働法規を修正すべきである。
福島県地方
労働委員会会長片岡政雄君の意見は、本
法案は
労働者の
団体行動権と
公共の福祉との関連性に基いているが、労働
争議は労使の自主的解決が本旨であり、本
法案は
公共の福祉に名をかりて
争議権を制約するものである。本
法案は労働組合に対する弾圧法規となる虞れが十分にある。労働
争議は短期間に而も自主的に解決を図ることが重要であるが、この法律は、官憲の力によ
つて争議を解決せんとする意図が十分見られ、法律万能主義の思想の現われである。而もこの法律では
争議の解決方法をきめていないから、犯罪人を製造する可能性がある。この法律によらなくても現行法規で十分である。緊急調整制度の活用もできるし、将来これによ
つて不可能なる場合には仲裁制度を設けることによ
つて解決できる。労使の自主性によ
つて解決するという慣習を付けるべきである。
又、九州大学教授井上正治君の意見は、本濃案は今日作成すべきものではない。理由は、科学的研究が十分されていない。社会に利害の対立のないときには
公共の福祉を法律の対象にできたが、利害の対立が現われると、
公共の福祉という抽象論を以て法の世界を律し得られない。抽象的観念によ
つては法律の勝手な解釈が行われる。
電気事業の独占、貯蔵できないなどの
特殊性を以て、
スト規制の理由とならない。生活権を守る
スト権が禁止されると、今後労働運動がどのような彩で発展するか不安がある。
鉱山保安法、労調法の解釈がまちまちであると言うが、すべての法律の解釈はまちまちである。一方的に立法しても、それでは解釈の統一にならない。慣行に法律がついて行くことが通常である。十分双方が力を尽した上で作るべきである。あいまいな概念のあることは立法技術としてまずい。
重要性、
特殊性をもつと明白にする必要がある。こういう工合でございました。
次に、本
法案の重大性に鑑み、七月二十三日及び二十四日の両日
公聴会を開き、労働組合、
事業主の各代表者、
学識経験者、
消費者代表等二十四名の諸氏を招き、意見の陳述を聞きました。各
公述人は、皆、本
法案に大きな関心を持ち、それぞれの立場より意見の陳述がございました。そのうち主なるものを一、二御紹介して、御参考に供したいと思います。
先ず
消費者代表として、母を守る会理事長の小笠原嘉子君は、折角、新
憲法によ
つて認められた
労働者の
基本的権利が
制限ざれるのは残念であるが、これは労働運動の行き過ぎの結果で万止むを得ないところである。昨年のあの三カ月に亘る苦しい不快な記憶は脳裏に焼き付けられて忘れられない。最低生活に喘いでいる母子寮の親子たちが、ろうそく代が嵩み、それが内職の金より嵩んで、本当に米が喰べられなくなつた。ガスが出なくて子供が御飯を喰べずに眠らなければならなかつた。労働組合の方々は自己の権利を守るための運動ができるけれども、それのできない大衆のため、この
スト規制法を出されることを切望しますと述べ、
又、同じく
消費者代表である評論家石垣綾子君は、昨年の電産、炭労の
争議において一番大きな役割をしたのは事業家である。あのとき事業家が労働組合をしてどうしてもああいう
争議をやらせるような方向をと
つたのではないか。事業家のほうはあの頃相当に儲か
つていて、それまでの赤字から五十四億の黒字にな
つていたように新聞で見ました。それにもかかわらず、
労働者の交渉にはなかなか応じなかつた。
ストライキは起すほうでも、決して、すき好んで起すものではない。若し事業家が最初から
労働者の言うことに耳を傾ける態度をと
つていたら、あんな大きな
ストライキにはな
つていなかつたろうと思われる。又、中労委がもつと早く中に入
つて話をまとめるようにしなかつたことは遺憾である。今回の
ストライキ制限法が通過すると、他の産業も次々に同じような枠にはめられることになり、延いて全部の
産業労働者の
スト権が奪われることになるだろうから、私はこれに反対するものである。
憲法による
労働者の
団体行動権は基本的な人権の一つであります。私たち主婦として、
電気が切れていろいろ不便はしましたが、そういう一時的な不便より、
労働者の権利や生活の安定が破れるという害のほうが大きいと思う。
ストライキ権のある国は文化的に高い国であると言える。それを一部でも抑えることにより、逆の方向に日本が進むことになるのではないか。(拍手)そうすると、又、必ず暴力とか又戦争というような恐ろしいことが起るのが予想されるので、反対であると述べました。
次に学者として、国学院大学教授北岡寿逸氏は、
停電ストが如何に国民生活を脅威し、日本産業を麻痺させるかを、我々は、つぶさに経験した。炭鉱の
保安要員引揚げは、石炭という国民の最も大切な資源を半永久的に破壊しようとするもので、まさに自殺的
行為である。これは、いわば相撲の封じ手のようなもので、その許されないことは国民の常識であるから、一体こんな法律を作ることがおかしいくらいだが、今後言やると
言つておるのであるから、そんな常識のない組合幹部に任せておけないので、遺憾ながら法律で禁止するに至つたものである。今日こういう破壊的な
争議権を労働組合若しくはその少数の幹部に与えることを、国会が若しこれが合法的であるというならば、それは、暴力革命、共産革命の途を開くようなものである。又、
スト権の
制限が
憲法第二十八条の違反であると、或る種の労働法学者は言うのであるが、そんな馬鹿なことはない。警察や消防、船員にその例がある。
憲法というものは国家の利益のためにあるのだから、
公共の福祉のためにどんな権利でも
制限されるのは当り前である。この法律は
スト権を奪うのみで、代るべき生活保障の途が講ぜられていないから片手落ちではないかという議論もあるが、元来、
電気をとめたり炭鉱を水浸しにする権利はないのだから、禁じても決して片手落ちではないとの趣旨で、賛成論が述べられました。
次に東京大学助教授磯田進君は、
電源ストをやる、
電気がとまると社会が迷惑する、だから
ストライキを禁止してもよろしいと簡単に考えられることは、新
憲法以前的な
考え方である。つまり、お前が
ストライキすると自分が迷惑する、だから
ストライキを禁止するというようなことが若しできるとしたら、結局それは
奴隷労働である。
電気労働者は社会に便益を供給するための奴隷に等しいものだという
考え方に通じるのである。これをいささか法律的に申せば、
公共的福祉を理由として法律上どんなことができるかということになる。奴隷社会と異なり、
憲法十三条によ
つて、すべて国民は個人として尊重せらるべきのもので、
労働者も同じく尊重さるべきである。この際、量り比べられるものは、一方は社会的便益、つまり便益であり、一方では
労働者の生存であり、又その意に反する労働を強制されることがないという要請である。これは絶対的な要請であり、これが前提となるべきものであ
つて、その逆であるべきではない。人命の安全、健康等のための必要な限度に
電気の供給を命ぜらるべきことは、労調法の第三十六条に明記されており、その限りにおいてこの
法案の必要はない。又、この
法案が成立すると
電源ストもできないと言うのだが、私は、本法第二条で
発電所の労務不提供を禁止したものと読めるかどうか疑問があると考える。仮にこれらすべての
争議方法が禁止されるとなると、実質上、電産
労働者は
ストができないに等しいことになる。
争議権を事実上剥奪しておいて、それに代るべき何らの代償も与えていないことは、驚くべきことである。更に、常識的には
労働者の賃上げ要求の
ストライキと社会の便益がぶつかるのだと考えられているのであるが、この断定は一方的である。というのは、電力会社は相当儲けている。
労働力をもう少し高く買うことは可能であるにかかわらず、あえてしないことによ
つてストライキになるのであるから、むしろ社会の便益は電力資本家の便益とぶつか
つているのではないか。要するに、今日の労働法の見地から言えば、
ストは
労働者のみの責任であるという
考え方は到底成り立たない一方的独断である。(拍手)そうして、社会の迷惑を理由として
ストを禁止するのは、法律を以て資本のために利潤を確保してやることを意味するのである。故に、
法案第二条は
憲法二十八条及び同二十五条に違反する。これは生存権を規定した条項でありますが、この二十五条に違反し、更に何ら代償を設けないで
争議権を剥奪する点で、
憲法第十八条にも違反する。これは何人も不任意の労働に服させられないという条文である。本
法案は
憲法のこの三つの条項に違反する途方もない悪法であると私は考えます。次に炭鉱の問題ついては、人命のことは労調法第三十六条にすでに規定されてあるので、又、鉱害は付けたりであるから、結局、第三条は石炭産業において資本を守るということに帰着する。故に、社会に迷惑を与えるという
電気の関係よりも更にひどい規定であると申さねばならない。
憲法第十八条違反の強制労働の優たるものであろう。七月二十二日の朝日新聞を見ますと、常磐炭鉱の視察記が出ている。この中で次長というかたが、この法律ができると、
保安要員として、排水、通風は勿論、地盤崩れを防ぐためカツペ採炭の要員も、又自然発火を防ぐためには運搬要員も、すべて必要であるという意見が述べられた由である。この法律が恐ろしく広汎に解釈される危険性はすでに顕著であると申さなければなりません。最後に蛇足ながら申し添えたい。
憲法違反ということについての感覚の問題であるが、私は、
憲法は革命に対する防波堤である、(拍手)安全弁であると考える。
憲法の規定に違反して
ストライキ権をだんだん締め上げて行
つて、それで収まるものではない。
労働者階級をして、人権も生活も踏みにじられ、どうにも仕方がない、法律の枠を踏み破らなければ、生きる途がないという気持にならないという保障があるであろうか。かような意味において、
憲法は十分に尊重されなければ、事態は危険であると私は申上げる。
衆議院の
公聴会では、五人の労働法学者、東大の石井教授、有泉教授、一橋大学の吾妻教授、早大の野村教授、和歌山大学の後藤教授、日本労働法学界のオールスター・キヤ
ストであるこの五人が、ことごとく本
法案に反対の意見を述べておるのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)私の知る限りの労働法学者で本
法案に反対の意見を持たない人は一人もございません。そのような
法案が、それにもかかわらず成立するということは、容易ならざることであります。これは、今日の政治或いは今日の立法の状態に対する危険信号ではないだろうか。立法における良識を代表する参議院として、申すまでもないことであるが、
憲法を尊重するということについて、厳粛にお考えを頂きたいものでありますとの趣旨を述べられたのであります。(「よく聞け」と呼ぶ者あり、拍手)
以上が七月十一日に
電気事業及び
石炭鉱業における
争議行為の方法の規制に関する
法律案が
労働委員会に付託されましてから八月三日に至るまでの
委員会における審議の経過であります。
かくいたしまして、昨三日午前十一時より
委員長及び理事打合会を開催し、今後の審議日程につき隔意なき意見を交わすために協議したのでありますが、各派の意見がまとまらないままに、十二時、一旦、
委員長及び理事打合会を打切り、午後一時から
委員会を開いて質疑を続行し、
委員会散会後、改めて
委員長及び理事打台会を開催して、更に審議日程を協議することに意見の一致を見たのであります。その結果、かねて
委員より出席要求のありました
総理大臣並びに通産大臣、法務大臣の御出席が、病気その他の理由で得られなか
つたのでありますが、これ以上審議の遷延は許されないとして、午後二時五十分、
委員会の開会を宣して、
労働大臣に対する質疑を開始したのであります。
たまたまその折、丁度四時五十五分頃でございましたが、相馬
委員より、議事進行に関する質問として、先ほど来、議院運営
委員会において、本
法案に関する
委員長の
中間報告を求める動議が
自由党より提出されている事実を述べられ、「この状態は
労働委員会にと
つて事頗る重大であると思うが、
委員長はこの事実を承知かどうか。又、
委員長はこのまま
委員会の質疑を続行する気かどうか」という意味の発言があ
つたのであります。これに対し
委員長は、
自由党からさような動議が出ていることは「うわさ」程度に聞いておつたが、議長からも、又、他の誰からも正式に聞いてはいなか
つたので、その旨を答えました。更に、又、
委員会の質疑をこのまま続行するかどうかについては、「続行すべし」ということに決定をみて、引続き
労働大臣に対する質疑が行われていたのであります。
ところが、その矢先に本院の議長より
委員長に対し、議運の小
委員会に出席して見解を述べよとの要請がありましたので、その旨を
委員会に諮りましたところ、「単に
委員長の見解を述べるということならよろしかろう」という決定がありましたので、そこで
委員会を暫時休憩し、直ちに議運小
委員会に出席して、当日まで
委員会がと
つて参りました本
法案に対する審議方針並びに審議経過の概略を述べ、併せて
委員長としての見解を説明したのであります。その結果は、議長におかれまして、更に動議の発議者と御相談の上、改めて議運に諮り、
中間報告を求める動議の取扱を決定するとのことであ
つたのでありますが、結局、本日ここに本会議の席上、
中間報告をいたすこととなつた次第であります。
もともと本
法案は、去る七月十一日、
衆議院において可決せられ、即日、当
委員会に付託となり、同十三日、
労働大臣より
提案理由の説明を聴取して以来、殆んど連日に亘
つて委員会を開催し、その間、二、三調査案件の審査はいたしましたが、圧倒的大部分の時間が本
法案の審査に当てられたものでありますることは、すでに御報告申上げた通りでございます。私は、
委員長として、当初から、本
法案の
重要性に鑑み、且つは
衆議院における本案審議の内容に不十分の点のあつたことを思い、当
委員会におきましては、参議院の権威のためにも
慎重審議を尽すべきものであるとの
考え方から、(拍手)その旨を
委員会に諮り、同時に、
委員長として、会期末の七月三十一日までには本案に対する何らかの結論を議院に報告する義務のあることを申述べ、この点も併せ
全会一致の賛成を得まして、七月末日までこの大原則に基いて
慎重審議を続けて参
つたのであります。
然るに、その先月二十七日頃より、
自由党委員においては質疑打切りの気配が見え、その結果、二十九日でありましたが、
自由党の
委員から
委員長に対し、「会期も余すところあと二日に迫
つたので、質疑を打切られたい」との申入れがあ
つたのであります。又、その頃には、会期の切迫と共に、
委員の間に若干意見の食い違いが生じておつたことも事実でありますが、これとても、
委員会として先に決定を見ております審議の大原則を覆えすほどのものではなか
つたのであります。否、むしろ
委員会としましては、三十一日に討論採決を行い、即日、本会議に報告、議決を求めることに決定しておりました折も折、突如、会期延長説が流され、そのために質疑の進行が阻まれ、やがて会期延長が事実とな
つて現われ、今日に至つたというのが真相であります。
従いまして、
委員会といたしましては、只今申上げましたような若干のいきさつはありましたが、大勢として、終始円満なる話合いのうちに、当初の申合せ通り
慎重審議を進めて参つたわけでありますが、昨日に至り、突然、
委員長に
中間報告を求めるの動議が提出されまして、本会議において決定されましたが、そのことは私として了解に苦しむところであります。(拍手)と申しますのは、審議の大原則が確認されており、而も所定の手続を経てなされておりまする
委員の質問のうち、時間がないままに未だ全然質問がなされずに残
つておる向きがあり、なお、一応の質問は終つたものの、関係大臣の御出席がないままに留保されておる部分が多々あり、更には、
政府の
答弁に食い違いのある点乃至は不明確なままに他日改めて
答弁されることを約束されていた事項など、多々問題点が残
つているのであります。而も会期は昨日今日終りになるというのではありません。(「その通り」と呼ぶ者あり)
委員長といたしましては、以上のごとき
委員会の審議経過に鑑み、極力、出席要求のある大臣の御出席を督促すると共に、各
委員の意見の調整を図
つて、会期末までに何とか結論を得るよう最善の努力を払
つて参つた次第であります。(拍手)
特に
委員長といたしまして、この際、重視いたしましたのは、左の三点であ
つたのであります。
即ち、その一は、本
法案が、昨年の電産、炭労の
争議の結果提案されたと
政府答弁にありまする以上、徹底的に、両
争議の内容、性格を調査する必要があり、そのために三十種に及ぶ資料の要求があり、その結果、資料は
委員会に提出されていたのでありますが、未だそれについて殆んど質疑がなされていなか
つたのであります。
第二点としましては、本
法案の内容が極めて抽象的あいまいな表現を以てなされておるため、拡大解釈の行われる余地が十分あると思われる点。
更に第三点としましては、本法において
労働者の権利を制約しながら、その半面、何ら救済の措置が講じられていないという点。
少くとも以上の三点につきましては、これを残る五日間の会期中において、できる限りの審議を尽して、六日討論採決、七日本会議に結果を御報告する方針を以て臨んでいたのであります。然るに昨日、突如、
委員長に対し
中間報告を求める動議が可決されたのであります。
国会法第五十六条の三にいう
中間報告に関する事項は、大体次の事態ある場合に限り議院において
委員会に要求されるものと
委員長は考えております。
即ち、第一の場合は、
委員会の審議が著しく混乱をして収拾が付きがたい状態に陥つたとき。
その二は、
委員長の審議の取扱が公平を欠き、一方的に偏するか、又は
委員長に
委員会を整理する能力がないという場合。
その第三は、日切れの
法案であるため、特に緊急止むを得ないという場合。
この三つの場合が想定されるのでありますが、果して、当
委員会の今日までの審議状況において、又、
委員長たる私の取扱において、はた又、
法案の性質において、以上三つの場合に該当するものがあつたでありましようか。この点、
委員会の責任者の立場において、到底、私は承服しがたいものであるということを、特にここで明らかにしておきたいと思うのであります。(拍手)
而も、この
委員長に対し
中間報告を求めるという事例は、曾
つてその前例がないのであります。繰返して申上げます。この
委員長に対し
中間報告を求めるという事例は、曾
つてその前例がないのであります。第一回国会以来、成立した
法律案件は恐らく千数百件にも上るでありましようが、そのうち国会法第五十六条の三の規定に基き
中間報告のありましたのは、調査事件で僅か数件、いわゆる吉村大尉事件、徳田球一要請事件及び大橋武夫君が関係したと言われる二重煙突事件を数えるのみでありまして、
法案の審査に関しては一件だにその例がないのであります。(拍手)而も、前述の調査事件の
中間報告の場合も、
委員長においてみずから自主的立場においてなされたものであ
つたのであります。
これを要しまするに、本
法案に対する
委員会の審議には、以上申上げました
慎重審議の大原則が一貫、堅持され、毫もその間に違背があつたとは思わないのであります。
かくして七月二十五日に至り、爾後の質問時間の要求を求めましたところ、各
委員よりなお合計八十四時間の要求がありましたので、
委員長理事打合会で、第一回として一応一廻りの質問を行う予定を以て十八時間に短縮したのでありますが、その十八時間のうち去る一日までに終了した分は僅かに十時間という状態であります。
会期があと残
つていないというならば止むを得ません。又、
中間報告を求められるに該当する事故があつたというなら、それも又止むを得ないと思うのであります。併しながら会期はあと五日間残
つておるのであります。審議の状態、
委員長の取扱に何ら不当と認められる点はなかつたと私は信ずるのであります。(拍手)然るに、なお且つ
中間報告を求めるの動議が可決せられて、ここに急速御報告申上げる次第となりましたことは、返す返すも遺憾に存ずるものであります。(拍手)私は、
衆議院の行き過ぎを矯め、参議院の権威を保ちつつ、
慎重審議を以て国民に奉仕しなければならぬ参議院の権威を根底から覆すものであると申さなければならぬと思うのであります。
以上を以て
委員長の
中間報告を終ります。(拍手)
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