○岡田宗司君
私的独占の禁止及び
公正取引の確保に関する
法律の一部を改正する
法律案は、
我が国経済の特質と
実態に即応するために提案されたものであるとの説明でありますが、この改正は、
日本経済のあり方にと
つて、又将来の
発展にと
つて、重大な意義を持つ改正であると言わなければならないのであります。戦前
我が国には、カルテルやトラ
ストを禁止する
法律もなければ、持株会社を禁止し、三井、三菱、住友その他のいわゆる財閥の
形式を阻止する
法律もなか
つたのであります。そうして、カルテル、トラ
スト、持株会社、コンツエルン等が、なに憚るところなく組織され、大手を振
つて自由に活動し、その強大な
経済力を用いて競争者を抑え、これを倒し、或いは吸収し、又消費者に対しても意のままに振舞い、その利益を蹂躙して自己の手に莫大な独占利潤を収め、
経済界を支配してお
つたのであります。この独占資本財閥は、当時、軍閥と結んで、満州、中国等への
経済的侵略のお先棒を担ぎ、ファシズム、帝国主義戦争の推進に甚だ大きな
役割を演じたのであります。それ故、戦後、占領当局は、再び
日本が軍国主義化して侵略を行うことのないようにするために、又、
日本の民主化を実現するために、軍閥と結んで大東亜戦争の推進力でありました財閥、独占資本を解体せしめたのであります。そうして、再びこれらが発生することを阻止するために、
昭和二十二年にいわゆる
私的独占禁止法が制定されるに
至つたのであります。この
法律はかような理由によ
つて制定されたのでありますが、それと共に、その制定にはもう一つの理由があ
つたのであります。即ち、
資本主義経済組織の下におきましては、企業の競争の結果、弱肉強食が行われ、強大な
経済力を持つ大企業の
経済支配が打ち立てられて行
つたのでありますが、これらの大企業は、その支配を一層強化し恒久化するために、カルテル、トラ
ストを形成し、又、持株会社による支配形態、即ちコンツニルンや財閥を生んだのであります。これらは、独占の威力を発揮し、不正競争を行いまして、これに屈服しない企業、
協力しない企業を痛めりけ、なぎ倒し、又生産
制限や価格吊り上げを行いまして、消費者や中小企業を苦しめ、暴威を揮
つたのであります。かかる独占企業の激しい私利追求は、社会全体の利益に著しく反するがために、カルテル、トラ
スト、コンツエルン、財閥の存在とその活動に対しまして、社会に強い
反対運動が起り、社会的糾弾が行われ、重大な社会問題と化したのであります。そこで各国
政府は、止むを得ず、カルテル、トラ
スト等の禁止、その活動
制限等を行わなければならぬことになり、そのために
法律が制定されるに
至つたのであります。即ち、これは独占資本の横暴を抑制し、公正なる取引を確保し、以て中小企業、一般消費者の
経済的利益を擁護せんとするものでありまして、
経済民主化のための方策の一つと言うことができるのであります。戦後、
日本におきましても
私的独占禁止法が制定されたのも、一つにはこれによ
つて経済民主化を図るという
意味があ
つたのであります。勿論この
法律だけで独占資本の形成とその反社会的活動を完全に封鎖することもできないし、又
吉田内閣のごとき独占資本の擁護者は、この
法律の適用を厳重に行うことをしないので、威力は発揮されないのでありますが、この
私的独占禁止法は、独占資本の反社会的行為をチェックするものとして、
経済民主化のための一本の柱として、たとえ占領軍当局の指示で制定されたものでありましても、やはり存置しておくべきものなのであります。然るに、占領が解除されてからのち、占領前と同じように勝手に振舞い、強大な
権力を掌握して、
国民を
政治的
経済的に支配しようと欲する者たちは、占領時代の行き過ぎの是正であるとか、
日本の実情に副わない占領時代の
法律、
政策を、
日本の実情に即するように改めるとか、こういうような口実の下に、占領時代に制定された自分たちに都合の悪い
法律を全面的に改廃せんと欲しているのであります。而して
吉田内閣並びに自由党は、忽ちにこの
資本家側の要求を容れまして、かかる
法律の改廃に着手し、
民主主義の
発展に逆行し、これを
阻害する
政策を行いつつあるのであります。ここに改正案として提出されている
私的独占禁止法の緩和も、又そういう逆コースの一環でありまして、
政府は、この
法律によりまして、独占利潤の確保と自己の
経済支配の野望を阻まれている大企業の
経営者たちの要求、又その結合体である経団連等の
資本家団体の要求に副うために、
法律改正を企てようとしていると言
つても過言ではないのであります。(
拍手)自由なるカルテル行為を欲している、又ひそかにそれを行な
つている企業や
経営者団体から、自由党に莫大な
政治献金がなされているという事実は、(「その
通り」と呼ぶ者あり)かような関係を暴露したものにほかならないのであります。(
拍手)
そこで私は
吉田首相にお尋ねしたいのであります。
政府が独禁法改正を提案した根本精神は、この
法律を緩和することによりまして、カルテル、トラ
ストの公然たる復活の道を開き、独占資本による
経済支配、即ち独占資本主義の確立と強化を促進することにあるかどうかという点であります。カルテル、トラ
ストの形成と、その活動の復活は、消費者や中小企業者等の利益を害し、一般
国民に迷惑をかけることになるのではないかどうか。
首相の
見解をお尋ねいたしたいのであります。
次にお尋ねしたいことは、提案理由に語われておる「
我が国経済の特質と
実態に即応するように」という点であります。これは先日の本会議における提案理由の説明の際にも何ら具体的に明らかにされておりませんし、前
国会における説明、
質問に対する答弁におきましても説明されておらないのであります。本改正案の
審議に当りましては、この点が明らかにされなければ、なぜ緩和がどうしても必要であるかということが納得できないのであります。「
我が国経済の特質と
実態に即応するように」ということが理由であります以上、現行法がその特質と
実態に即応していないということになるのであります。然らばどういう点が
我が国経済の特質であるのか、又、現行法はどういう点でこの特質に即応していないのか、この点を詳細に具体的に御説明を願いたいのであります。次に、
実態に即応しないから現行法を改めるというのだが、
実態とは具体的に何を指すのか、現行法がそれに即応しないというのはどういう点か。これ又通産大臣から具体的に御説明願いたい。社会においては、
法律に規定されていない新らしい事柄が生じたり、又、
法律の枠を超えて生じた変化のために、往々あとから
法律を作
つたり
法律を改正することが生ずるのであります。ここに「
実態に即応するように」と言われているのは、
日本経済の面におきまして、この
法律ではどうにもならない変化がすでに起
つているので、これを既成事実と認めて、これに即応するように
法律を改正しようというのか。その
意味であるのかどうか。もつと具体的に言えば、現行法による禁止にもかかわらず、現在すでにいろいろな名目におきましてカルテルができて、半ば公然とカルテル行為を行な
つており、又、株式の保有、役員の兼任、合併等が行われまして、
私的独占が形成されておるが、もはや現行法では取締りたくても取締ることができないようにな
つてしま
つたので、「
実態に即応するように」
法律を改正する必要があると
考えられて提案されたのかどうか。それとも、カルテルの組織と活動を
法律で認めたほうが、積極的に
日本経済のために利益であると
考えられて改正を加えられたのかどうか。これらの点に対しまして岡野通産大臣並びに横田公取委員長にその
見解をお伺いしたいのであります。
第三にお伺いいたしたい点は、この
法律改正によ
つて、いわゆる不況カルテル、合理化カルテルが公認されることになるのであります。不況カルテルにおきましては、設備、生産数量の
制限、価格協定が、たとえ
制限付きではあれ、認められることになります。又、合理化カルテルの場合には、技術若しくは生産品種の
制限、屑若しくは廃物の購入、即ち鉄鋼業の場合には、その重要原料である屑鉄の購入等につきましても、共同行為、カルテル行為を行うことを容認しておるのであります。かようにいたしまして、たとえ
法律に
制限が付いておりましようとも、あらゆる種類のカルテル活動の道を開いておるのであります。一旦これらが
法律で容認されるや、やがてはこれを突破口として、強力な企業者団体が、この改正
法律案に規定されている
制限を無視いたしまして或いはごまかしまして、一般的なカルテル活動を行うであろうということは、現行法でカルテル活動が禁止されておるにもかかわりませず、これをくぐ
つてや
つておる者の多いという
やり方から見まして、必至であろうと思われるのであります、不況の際に、生産過剰が生じ、又価格が下落いたしまして企業が損失をこうむることは、
資本主義経済機構の下におきましては必然的に起る事柄であります。これに対処する
方法といたしましては、各企業が普段からかかる場合に備えて技術の進歩を図り、又経営を合理化して行かなければならんのであります。好況の際には、価格をぐんぐんと吊り上げて、巨利を博し、高率の配当を行い、浪費をしてしまいながら、不況になると、あわてて通産大臣の認可を得てカルテルを作
つて、生産
制限を行い、価格を人為的に吊り上げておいて、安易に自己の独占的利益を維持して行こうとするのであります。このために価格が当然落ちつくところに落ちつかず、かかろカルテル行為のために、関連
産業や中小企業、消費者等は、非常な不利益をこうむらざるを得ないのでありますが、かかる場合でも通産大臣は、大企業が不況カルテルを形成して他を犠牲にすることを認可するつもりであるかどうか。この点をお伺いしたい。
朝鮮休戦が成立いたしまして、世界の緊張が緩和されて参りますならば、各国の軍拡のスロー・ダウンによりまして世界的に不況が襲来するであろうことは予想されるのであります。その際に
日本も又これに巻き込まれる見込が大でありますが、かかる場合に、改正されました
法律の下におきまして、不況に名を借り、合理化に名を借り、続々とカルテルが生れるものと予想されるのでありますが、
一体、
政府はこの場合を予想して、この現行法を改正しておこうとするのであるかどうか。そして、その場合に、折々カルテル形成の申請がありました場合、これを通産大臣はどんどん認可するつもりであるかどうか。その心がまえをお伺いしたいのであります。
一旦カルテルが形成されると、たとえ不況が去
つて経済が上向きになり出しましても、このカルテルを作
つた事業者たちは、みずから進んでカルテルを解体いたしまして再び競争に戻るということをしないことは、火を見るより明らかであります。主務大臣、公取委員会は、かかる場合に、如何にこれに対処するつもりか。速やかにこれを解体させ、共同
行動を禁ずる処置をとることができるかどうか。又そういう処置をとる意思を持
つておるのかどうか。できた以上は既成事実として、黙認し、放
つておくのかどうか。そういうような点についてお伺いしたい。
又カルテルが一旦形成されると、それは、自己の活動を有効ならしめるために、参加企業に対しまして強い拘束力を加えるでありましようし、アウトサイダーに対しましては不正競争やその他のあらゆる手段で
圧迫を加えることは明らかであります。
政府はこのアウトサイダー或いは関連
産業に対する
圧迫に対しまして、如何なる
方法によ
つて、アウトサイダー、関連
産業を
保護するつもりであるかどうか。これをお伺いしたいのであります。
次に、今日硫安工業界を見ますのに、
国内の需給の点からすれば、供給過剰の傾向にあり、当然硫安価格は低落せざるを得ないのであります。然るに硫安業者は
国内の農民に売るよりも遙かに安い価格で海外にこれを販売し、いずれの会社も欠損をしないどころか、相当高い利益を推持しておるのであります。これは明らかに農民の利益を犠牲にしてその利潤を確保せんとする不当なカルテル行為でありますが、
政府はこれを公正な取引であり消費者の利益を犠牲にしないものと
考えておるかどうか。若しこの
法律改正が行われれば、いわゆる不況カルテルが続々と認可され、これに類似した現象が起るであろうということが推定されるのでありますが、
政府は硫安の問題につきまして如何なる措置を講ずるつもりであるか。通産大臣にお伺いしたいし、又、保利農林大臣には、この硫安会社の行為によりまして農民の利益が不当に害されていないかどうか、これは又是認されるべきものとお
考えにな
つているのかどうか、農林大臣としてこの問題につきましてどういう方針をとられるのか、お伺いしたいのであります。
又、今度の改正
法律案によりますれば、合理化カルテルが認められることになり、そのうち鉄鋼業につきましては、屑鉄の購入につき鉄鋼会社が公然と恒久的にカルテル行為を行うことができる。現在すでに鉄鋼会社は法を無視いたしまして、海外からの屑鉄の輸入価格に比しまして遥かに安い価格を以て
国内の屑鉄の購入をすることを取極め、実際に集荷する末端の集荷業者を泣かせておるのであります。而も公取はこれに対しまして何らの調査もや
つておらないで、放
つたらかしておるのであります。合理化カルテルの名の下に今後かかることが続々と起り、合理化カルテルも又、真の合理化の促進とはならずに、その名に隠れまして、独占利潤の増大と、その維持を図る手段とな
つてしまうでありましよう。公取はこの点をどう
考えておるか、お伺いしたいのであります。
次に、株式の保有、役員の兼任等の規定の緩和についてお伺いしたい。今日のように株式所有者が分散いたしまして少額の株式所有者の多い場合には、何も五一%の株式を所有しないで、二〇%だ
つて、時には一五%の株主だ
つて、他の会社を支配することができるのであります。こういうときに、株式の保有、役員の兼任等の緩和をすることは、非常に他企業の支配力を強めることになるのであります。現在の
法律の下においてさえ、いろいろな形で、株式の保有、役員の兼任等による他企業の支配が事実上行われておるのであります。これを緩和すれば、必ず他企業の支配、競争の
制限等がより有効に行われることは必至でありますが、そういう点につきまして、
一体どういうふうにお
考えにな
つておるか。これは公取の委員長並びに通産大臣の両者からお伺いしたいのであります。
次にお伺いしたい点は、現行法第三章の不当な事業能力の較差」の全条、第二条第五項の同規定の削除等についてであります。これは、巨大な資本を有する大企業がその独占的な
経済力を利用いたしまして他の企業を
圧迫することを排除し、公正なる取引競争の行われることを目的としたものであります。然るにこれが今ここに全部削除されるということは、法的に大企業がその強大な
経済力を以て他の企業を圧倒することの自由を許すということにほかならぬのであります。現在この条章は事実上適用されていないかも知れません。併し、今なぜ、これを改めて廃止することによりまして、大企業の独占的活動の自由を許すのであるか。これは明らかに経団連等の圧力に屈しまして、
政府がこれを削除することに同意し、大企業の他企業に対する強圧を自由にして、独占資本の支配の促進を図るものと言わなければならないのでありますが、公取委員長並びに通産大臣はこの点をどうお
考えにな
つておるか。又、公取委員長は、これが削除されるに至りましたいきさつについて詳しく御説明願いたいのであります。
次にお伺いしたい点は、カルテル行為の認可が、本改正案におきましては、公取委員会によ
つてではなくて、主務大臣によ
つてなされる、即ち通産大臣によ
つてなされると規定されておる点であります。私
どもはカルテルそのものに
反対なのでありますが、仮に一歩を譲りまして、この改正案に記されている不況カルテル、合理化カルテルの認可の場合でも、当然この
法律の全体の趣旨から
考えまして、公取委員会において行わるべきものであると
考えるのであります。然るにこの認可の点だけ突拍子もないように主務大臣とされたのはどういうわけであるか。たとえ公取の
認定を条件とするとはいえ、通産大臣に認可権を認めることは、法体系をみだり、又、
法律上幾多の疑義を生ずるものであります。この点、立案者側でも知らぬはずはない。然るにこういうふうにいたしましたのは、むしろカルテルを
原則的に認めようとする
態度をとる通産省側が、この問題につきましては、カルテルをむしろ取締るという機能を持
つておる公取側に任せることができないという
考え方から、強引に突張
つて割り込ませたものではないかと思われるのであります。何の必要がありまして通産大臣の認可ということをこの改正案に入れるに
至つたのか、その理由を通産大臣からお伺いしたい。又、公取委員長は、この改正案の草案の作成に当りまして、この認可は公取委員会がなすのが当然という
立場をと
つていたと思うのでありますが、なぜ通産大臣の認可ということを認めたのか。この点につきましていろいろないきさつがあると思うのでありますが、公取委員長はこの際そのいきさつを説明して頂きたいのであります。又、このほうがよいのか、公取委員会一本のほうがよいのか、この点について率直な意見を述べてもらいたいのであります。
まだいろいろとお伺いしたい点がたくさんあるのでありますが、詳細は委員会の
審議に譲ることにいたしまして、私がこの改正
法律委の提委理由の説明を聞きまして率直に感じますことは、この改正案を出す理由がいろいろな点から見て薄弱だということであります。この
法律の緩和によりまして、公然と、カルテル、トラ
ストの組織活動の行われる突破口を開き、これによ
つて独占資本の支配の確立を強力に促進することになると思うのでありますが、逆に、資本力の弱い中小企業、消費者の利益は
圧迫され、蹂躙されることは必至であります。これこそ
経済民主化に逆行すること甚だしいと言わなければなりませんが、この改正案を提出いたしましたことは、この
吉田内閣が独占資本の代弁者であるという性格をはつきりと露呈したものと言わなければなりません。(
拍手)
政府は本改正案の提案に当り、
私的独占禁止法の根本精神を尊重すると言
つておりますが、これは私の
見解では大嘘である。若し本当に尊重するというならば、この改正
法律案の提案を撤回いたしまして、根本精神に副うように再検討すべきであると思うのであります。
以上で私の
質問を終りますが、各大臣並びに
公正取引委員長は具体的に詳しく御答弁を願いたいと存ずる次第であります。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君
登壇、
拍手〕