○中田吉雄君 私は
日本社会党を代表いたしましてMSAの援助に関しまして若干の
質問をいたしたいと存じます。
先ず第一に、講和発効後の
日本外交の基調につきまして
吉田総理の御
所見をお伺いいたしたい。
吉田内閣は、去る六月二十六日、日米交換公文を発表いたしましてMSA援助の受諾の
意思のあることを表明いたしまして、いま一つの新たなる対米外交協定を結ぼうとされています。元来このMSA援助は、アイゼンハワー大統領の、「アジアの戦いはアジア人の手で」という、中ソ両国を仮想敵国といたしました巻き返し
政策の一環としての対日傭兵再軍備であり、新たなる対米追随外交以外の何ものでもないわけであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり、
拍手)昨年四月二十八日講和条約が発効いたしましたが、一体
我が国は何を得たでございましよう。全国数百カ所に亘りますところの厖大な軍事基地をアメリカに貸与し、而もその半数は永久基地である。更に行政協定等によ
つて広汎なる主権の
制限を受けているわけであります。
従つて独立とは単に名のみでありまして、今や
我が国はアメリカの軍事的植民地であり、
政治的な従属国と言われても仕方がないわけであります。実に講和条約の発効は、占領からの解放ではなくして、新たなる占領の発足と言わなくてはなりません。併し、かかる状態は、光栄ある
日本民族の到底長く受諾することのできないものであります。
従つて、現在とるべき
我が国外交の基本方針は、ヨーロツパ並びに東南アジア等において試験済みの悪評度々たるところのMSA援助の受諾ではなくして、講和、安保両条約並びに行政協定等の改廃によるところの主権の回復であり、(
拍手)それが一切の外交交渉の
前提条件であると存ずる次第であります。然るに
吉田内閣は、そのような主権回復の措置をとらずして対米従属の度合を一層強くするところのMSA援助を受諾せんとするごときは、独立外交の本末を転倒するものであ
つて我が党の深く遺憾とするところであります。(
拍手)この点に関しまして
吉田内閣の講和後の外交基調について御
所見をお伺いしたい。
第二に、MSA援助の生みの親とも言うべきアメリカの外交
政策そのものに対する
吉田総理の御
所見をお伺いしたい。即ち、MSA援助は、アメリカ外交の基調たる対ソ封じ込み
政策或いは巻き返し
政策の生みの子であります。
従つて我々がMSA援助を受くべきか受けてはならないかとにうことを決定いたします前に、先ずこの外交
政策が正しいかどうかということを判定いたさなくてはなりません。我が党は、共産主義の諸国に対して無数の軍事基地を持つところのいわゆる基地外交、或いは力の外交は、適切なる共産主義対策ではなくして、かかる
政策の強行は結局第三次
世界大戦へ導くものであるという観点からいたしまして強く巻き返し
政策に
反対するものであります。特に、ソ連に対しましてはめられておる包囲
政策は、日米戦争を起しましたところのABCD同盟によりますところの対日包囲
政策と全く同様であることを思いますならば、この間の事情がわかるわけであります。最近アメリカにおきまして日米大戦に関する数多くの研究がなされ、そしてアメリカの対日包囲
政策が日米大戦を勃発せしめたのであるという意見が極めて多いわけであります。特にピアード博士のごときは、「アメリカが
日本に対して経済的制裁を加えたことが
日本をして必要原料を獲得するために武力を用いざるを得なくしたのである。ルーズヴエルトは
日本と協定を結ぶべきであり、経済的制裁を放棄してアジアから手を引くべきであつた。然るにルーズヴエルトは、
日本に最後通告を発し、
日本をABCD諸国の同盟を以て包囲したのであるから、パール・ハーバー攻撃の責任はルーズヴエルト
政府が負うべきものである」と言
つて、包囲
政策の危険を指摘しているわけであります。
吉田内閣は対ソ包囲
政策に協力していますが、私たちは、今、日米戦争が何によ
つて起きたかということについて十分反省することが必要であると思うわけでございますが、
吉田総理は
日本民族の一人たるの良心に問うて敗戦の原因はいずこにあつたか、そして又、ABCDラインの包囲
政策が日米戦争に如何なる
影響を及ぼしたものであるか、そうして又、対ソ包囲
政策というものがABCDラインの包囲
政策と同じ運命を辿らないものであるかどうかということについて、はつきりした御所信をお伺いいたしたいのであります。
更に又、アメリカの封じ込み
政策の一環たるところの北大西洋同盟条約、或いは欧洲防衛共同体条約等は、ダレス長官の言を以てしても、死んではいないが、眠
つているというような状態でありましてアメリカの
世界政策は今や破綻の危機に瀕しておるわけであります。このような情勢に対して
我が国も対米追随外交を強力に是正すべきものであると思うが、MSA援助は
世界の動向に全く反するものであると思いますが、この点についての御
所見をお伺いしたいと思うわけであります。
第三に、MSA援助の審議に対しまする
前提としてアメリカ議会におけるこれに関する速記録の提出と、証人として新木駐米大使の召喚が必要と
考えられまするが、
吉田総理はこれに対して応ぜられる用意があるかどうかお伺いいたしたいと存じます。アメリカの前国防省の軍事援助局長ジヨージ・オムステツド少将は、すでに三月十一日、「これまでMSAが要求する双務協定を作るために日米間に検討及び交渉が進められている」と述べておりまして私たちも秘密裡に重大なる折衝が行われていることは早くから察知したわけであります。然るに国会におきましては、議員のしばしばなる
質問に対しましても強くこれを否定し、あまつさえ六月二十三日には「米国はこれまで
日本との間にMSAに関する双務協定の交渉を行
なつたことはない」というアメリカ国務省のスポークスマンたるホワイト氏の援護射撃を求めている。外国の応援によ
つて国会を切抜けようとするがごときは、まさに
吉田内閣の醜態と言わなくて一はなりません。(
拍手)然るに、その否定があつた翌二十四日、アメリカ
政府に
質問書を発し、翌々二十六日折返し回答があつたというがごときに至りましては、まさに
国民を愚弄するも甚だしいと言わなくてはなりません。(「猿芝居だ」と呼ぶ者あり、
拍手)かかる日米両国
政府の馴れ合いを以ていたしましても、自由党員はごまかすことはできるかも知れませんが、断じて
国民を欺くことはできないわけであります。(
拍手)アメリカ議会では、この大月十九日の下院本会議で四十九億九千万ドルの対外援助案を可決いたしていますが、この三月以来二十七回の聴聞会を開き、十分なる審議を尽し、千三百ページに及ぶところの厖大なる速記録が作成されたと言われています。これを知らぬ存ぜぬの
吉田内閣の外交と比較いたしてみますならば、全く雲泥の差と言わなくてはならないわけである。
併しながら、寛大にして和解と信頼の講和がどのようなものであつたかということをはつきり知る我々といたしましては、MSAの援助協定におきまして、再びかかる過失を絶対犯してはならないと思うわけであります。そのためには、アメリカのなまの速記録によ
つてMSAの全貌を知り、アメリカの意図が何ものであるかを知ることが必要でありますので、かかる要求をいたす次第であります。これに対する御
所見をお伺いいたしたいと思います。
第四に、MSA援助の受諾に伴う軍事義務に関し、数個の点について岡崎外相にお尋ねいたしたい。
質問書の第一に、
日本側は、援助の目的は国内の治安と防衛とを確保することを得れば足りるという御
見解をと
つておられるにもかかわりませず、アメリカ側は更にそれに附加えまして、平和条約第五条(C)項を引用いたしまして、個別的又は集団的自衛権の行使を云々いたしています。個別的又は集団的自衛権の行使を一層有効ならしめるということは、再軍備への道であり、交戦権を求めるものであ
つてこれは明らかに国内治安の維持以上のものであります。自衛権のためでも軍隊を保持することができず、又交戦権を放棄したところの、現行
憲法に対する重大なる違反であると思うが、これに対しまするお
考えをお伺いいたしたい。特に、アメリカの速記録によりますと、ウツドMSA長官代理は、「この協定の成立に際し、若し必要とあれば
日本側の
憲法改正という事前の処置なしには、一九五四年MSA計画に含まれている対日援助費が支出され、兵器が
日本に渡されることはない」という重大な発言をいたしているわけであります。これらにつきまして、MSA援助の受諾と現行
憲法との
関係をお伺いいたしたいわけであります。
第二に、六月十九日可決されました対外援助法には、「米国は北大西洋条約機構に当る太平洋防衛機構設置を指示することを約束する」という重大な附属規定があるわけであります。そこでお伺いいたしたいことは、若しこの援助を受諾いたしますならば、将来アメリカが意図しているとろの太平洋の防衛機構に対して
日本が参加することの義務を負うものであるか。これに対するはつきりしたお
考えを外務
大臣にお伺いいたしたいと思います。
岡崎外相に対する第三の
質問は、MSA援助受諾と基地貸与の
関係であります。
我が国は、
昭和二十八年四月二十八日現在、七百五十六カ所、三億一千二百万坪という厖大な軍事基地をアメリカに貸与いたしています。これは
曾つて日本が極東全域を侵略いたしました際の陸海空軍の二百余カ所に亘つたいわゆる軍事基地の数倍に当るところの基地でありまして、共産主義の侵略を防衛するというごとき消極的なものではなく、もつと積極的な、動的な、政撃的な性格を有するもので、危険極まりないことと言わなくてはなりません。冷戦緩和の国際情勢下、当然
減少いたしまして然るべきであると思うが、MSA援助の受諾と基地の増減との
関係は如何でございますか、お伺いする次第であります。
次に、MSA援助と保安隊の海外派遣についてお伺いいたしたい。アメリカの援助の目的は、同法第五百十一条A項の三のごとく、基地の貸与などのすでに条約上発生しているところの軍事義務の引受だけではないわけであります。MSA援助の根幹は、何とい
つても同法第五百十一条A項の四と五によるところの新たなる軍事的義務の引受であると言わなくてはならないわけであります。そのためには保安隊や警備隊の海外派遣が要請される可能性があると思うが、この点はどうでありますか。特に、回答文のどこを探しましても、
日本の保安隊を海外に派遣しないという規定はないから、なお更そのような疑念があるわけであります。
政府は回答文の「自衛のため以外に
日本の治安維持の部隊を使用することを要請するものでない」という点を指摘されるかも知れない。併し保安隊が治安維持の部隊であるという規定は、この回答文にはないわけであります。
国民に再軍備
反対の意向が極めて強く、又再軍備すれば
憲法違反となるので、
国民を欺き且つ違憲性を阻却する
手段といたしまして、再軍備を仮に保安隊と言
つているに過ぎないわけであります。このことは吉田・ダレスの合作であり、而もアメリカは保安隊は明らかに軍隊であると言
つているわけでありますから、海外派遣の要請が起ることが多いと思うわけであります。はつきりした御答弁をお願いいたします。
次に、防衛計画についてお伺いいた、したい。MSA援助を受けるには防衛計画が必要となります。これは、去る五月三十一日、MSA援助に関しアメリカ議会を代表いたしまして来日したマグナンソン議員が、はつきりと「防衛計画の提示が受諾の
前提条件である」ということを言明いたしています。この点について先ず外務
大臣の御
所見をお伺いいたしたいと思うわけであります。次に、木村保安庁長官は、去る六月九日
九州で発表された防衛五カ年計画なるものを、本議場を通じまして全
国民に発表されたい。これに対する御
所見をお伺いいたしたいと思います。木村保安庁長官も
日本人であるからには、外国人であるアメリカ人に見せるものを、
国民の代表である国会に発表できないという法は、よもやないはずでありますから、是非その提出を求めるものであります。(
拍手)又、木村保安庁長官は、衆議院の内閣委員会の理事会におきまして、正式にきめたものでなく、試案であるから、発表することができないということを言
つておられます。併し、この七月一日から始まる一九五四年会計年度のMSA援助を受けるためには、絶対この計画が必要なわけでありまして、それが未だ最終案が決定しないというようなことは断じてあり得ないと思うわけであります。自衛力漸増方式をとります現内閣としても、若しそれができていないといたしますならば、担任の
大臣といたしまして怠慢のそしりを免れないと思いますが、緒方副総理はこれに対しまして如何なる御処置をとられるでありましようか。なお、アリソン大使は、
日本に来ましてから、保安隊を十五万に増強するように強く
日本政府に要請したという記事が出ていますが、果してそのような要請があつたかどうか。それに対しまする
政府の御
見解をお伺いいたしたいと思うものであります。
更に木村長官は、「自衛のための戦力は現行
憲法によ
つても
阻止されないという意見があるが、これは相当傾聴に値する」という重大なる御発言をなされているが、一体その真意はどこにあるかお伺いいたしたいと思うわけであります。
政府は、従来、戦力とは近代戦を有効適切に遂行するに必要なる装備
編成を持つた実力部隊だとしてかかる戦力を保持することは違憲であるといたしていました。併し自衛戦力合憲説によりまするならば、戦力とは、装備
編成の如何にかかわらず、その行使する目的によるということになるわけであります。
従つて、原子兵器を所有いたしましたところの近代的な大部隊であ
つても、国内治安の維持を目的とするものであるというなら戦力にはならず、警察力であるということになるわけであります。
政府はMSA援助を受けまして保安隊を増強いたしますことは、現行
憲法においてはすでに
限界に来たものでありますから、自衛戦力合憲説によ
つて我が国の
憲法を無視いたしまして事実上の再軍備を増強せんとする意図に出たものであると推察されますが、(
拍手)果してどうでありますか。はつきりいたして頂きたいと思うわけであります。更に又一体かかる学説の主唱者は誰であるか、その御明示を願いたいと存じます。私の知ります限りにおきましては、かかる
見解をとるところの最有力なる人はアイゼンハワー大統領その人であります。即ち、アイゼンハワー大統領は、「若し軍事力が
国連の決定或いは
国連の下にあるところの地域的共同防衛機構によ
つて使用されるならば、
日本が軍備を持
つても現行
憲法に違反しない」という、重大な発表をアメリカ国会にいたしておるわけであります。我々はまさにアメリカ
政府と
日本政府とが現行
憲法の
解釈について馴れ合いをしていると言わざるを得ないわけであります。(
拍手)
更に、MSA援助を受けまして自衛カを漸増いたすといたしまするならば、何年後に
日本の自衛力が完全に独立でき、アメリカ軍はいつ
日本から撤退するか、その計画をお示し願いたいと思うわけであります。
最後に外務
大臣にお尋ねいたします。
政府が相互安全保障法に基く援助協定を結ぶ際には、国会の承認を求められる
意思があるかどうかをお伺いいたしたい。更に我が党といたしましては、批准条項を付しまして、調印の事後に承認するという形式には、強く
反対するものであります。(
拍手)それは既成の事実といたしまして強く承認を求めまして、日米間が必要以上に摩擦が起きるからであります。署名と同時に効力を発生せしめるよう、国内手続としては事前に国会の承認が求められることが現行
憲法の
趣旨に副うと思うが如何なる形式をおとりになるか、お伺いいたしたいと思うものであります。隣国に敵を作らない自主中立の外々
政策が、何十万の軍備よりも、MSAよりか、
我が国のために最大の安全保障であります。かかる見地から、我が党は、イデオロギーを超え、中ソ両国と国交を調整することが必要であると存じます。現に、中国とは二十六カ国、ソ連とは五十数カ国が国交を回復しています。中ソとの国交調整を好まないアメリカ自身が、ソ連とは国交
関係を結んで駐ソ大使を置いているわけである。MSA援助こそ、
日本の安全にと
つて最も大切なところの中ソの国交調整を不可能にするものであります。これがどうして安全保障でありましようか。不安全保障の最たるものと言わなくてはなりません。
我が国財政を破綻せしめ、且つ平和の経済の基盤を危うくいたしますところのMSA援助に強く
反対いたしまして、私の
質問を終る次第でございます。(
拍手)
〔
国務大臣緒方竹虎君
登壇、
拍手〕