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説明員(下牧武君) この百九十三条の
規定でございますが、これは今までいろいろ
参考人の
意見その他で出ました
意見を伺
つておりますと、どうもこの
規定が検察官と司法
警察職員との間の権限分配の一種の権限
規定の
ようにできている
ようなお
考えの下になされる議論が相当あるのじやないかという感じを受けたのであります。勿論これは検察官と司法
警察職員との間の
関係を定めた
規定でございますから、そういう面がないとは申せませんけれども、どうしてこういう
規定が実質的に必要であるかという点を少しく御
説明いたしてみたいと思います。御存じの
ように、旧法時代におきましては、検察官が捜査の主体であり、旧法の捜査の項に、
検事は
犯罪ありと思料するときは犯人及び証拠を捜査すべしという
規定がございまして、そうして司法
警察官吏、これは
検事の補佐又は補助をするという
規定があ
つて、
検事が捜査の主体であるということが明らかにされてお
つたわけであります。ところが新刑訴におきましては御存じの
ような権限分配の思想から、先ず第一に百八十九条におきまして、「司法
警察職員は
犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。」こういたしまして、百九十一条において、「検察官は必要と認めるときは、自から
犯罪を捜査することができる。」こういう
規定を置き、又百九十二条におきましては、検察官と
警察関係とは相互に捜査に関し互いに協力しなければならないという
規定を置いているわけでございます。この
規定によりまして捜査の第一次責任者は
警察であり、
検事は本来は公訴の提起、及び公訴の維持、公訴官としての立場を主とするのである。但しこの
警察官の捜査の補充捜査をする場合、又特別の
事件でみずから捜査するという
ような権限を同時に検察官に与えておるという建前にな
つております。この建前の後に百九十三条という
規定があるのであります。これはどういうことかと申しますと、
只今までの出ました
反対の御議論を伺
つておりますと、
警察は捜査の第一次責任者であり、検察官は本来公訴官としての仕事をなすべきもので、捜査は第二次的でとにかく遠慮すべきもの、こういう建前に反するというので議論が立てられておるのでありまするが、その議論を徹底いたしますれば、
警察官に捜査の着手から何からを独立にやらしておいて、そうして強制捜査の必要がある場合には、
警察官に
勾留の権限も認めて、
警察が
勾留をして自分で捜査を仕上げたその結果を
検察庁に持
つて来る。そういうふうにして
事件を送致して来て検察官がこの捜査が適正であるかどうか、公訴を提起するに足りるだけの捜査が整
つておるかどうか、或いはそれだけの価値のある
事件であるかどうかということを
判断して
裁判所に持
つて来る。そうして自分の
判断に基いて
裁判所で以て公判の維持を行う。これが最もその建前を貫く
意味において理想的な姿だと思います。それで我々としてできるだけ理想の方向に進まなければならないとは存じておるのでありますが、然らば現状はどういうことにな
つているかと申しますと、
警察官の捜査して来た記録或いはその
事件を検察官が受けまして、そのまま公判に持出せるという
事件は非常に少うございます。調書を
一つ見ましても、そこにいろいろな欠陥がありまして、それを補充しなければいけない。又新たに検察官が証拠を集めてそれを補充しなければ、公判に出されないというのが現状でございます。そういう本来の建前を貫いて理想的に参りまするならば、
警察官にも強制捜査権を与えて、それを
検事が受けて立つというところまで徹底しなければならんのでありますが、そういう現実の問題と、それから
警察官に強制捜査権まで与える。これが果してそこまでやれるかどうか、国民的な不安もありまして、現状としてはとにかく逮捕はさせるけれども、
勾留のほうは一応検察官のほうで握
つているという形にな
つております。これはやはり
人権保障の面と、それから
法律が狙
つている建前とのギヤツプを埋めている
一つの調和の
規定と見るべきじやないか。これを検察官の立場からそれでは逆に言いますと、どういうことになるかと申しますと、
警察は
検事と独立にやるのだから、自分のほうで勝手に捜査して自分の思う
通りして
事件を送る。それで検察官がそれを受けて適当に処理なさればよろしいのだ、こういうことになりますと、検察官自体は若し何ら
警察に注文が発せられないことになりますと、いわゆる
警察の捜査の尻拭いばかりいたします。それで以
つて然らば検察官が
裁判所のごとくこの記録は不十分だ、こんな
事件はできないというので、ぽんとはねられる立場にあればよろしうございます。併し検察官といえどもやはり
一つの公訴官としてのいわゆる国家刑罰権の実現を目的とすることを
中心としての公訴という立場がございます。そうして捜査を
事件の筋といたしましてこういう
犯罪を犯したことは間違いないだろう、こういう重大な
犯罪を放
つておいていけないという場合に、捜査が不十分な場合においてそれに注文を付けられずにそのままを受けて、足らんところは勝手によそから持
つて来て公判を持ちなさいということでは、公訴官としての任務は到底尽されるものじやございません。その
意味でここで検察官は捜査に関し百九十三条の第一項は、司法
警察員の行う捜査に関し必要な
一般的な指示をすることができる、そういう公訴の任務にな
つている。検察官としては、送
つて来る捜査がうまくできる
ように注文を付けられなければ、本当の公訴官としての任務は尽せないんじやないかというところで、捜査に関し必要な指示が、言い換えれば、いわゆる注文を付けることができるというのが前段に入
つておるわけであります。ところがそれで以て何でもかんでも検察官が一々細かい注文を付けるということにいたしますれば、最初に申しげた訴訟法の根本建前を崩すことになりますから、そこで絞りをかけまして、これが後段であります。「この場合における
一般的指示は公訴を実行するため必要な
犯罪捜査の重要な事項、」公訴官としての立場から
考えるということ、それから細かいことを一々言わずに、大きな重要な事項について注文をするならしなさい。而もやり方というのはいわゆる準則というものを定める方式で以てやるべしというふうに注文が後段において定められているわけであります。ところが今度の
改正の問題になりましたのは、例の破防法でございます。そのときに破防法の
事件につきましては、
警察官が個々の
事件に着手する前に、
検事正の承認を得るということ、それからその他押収、差押、そういう強制処分をする場合には、
検事正に連絡協議して十分その承認を得てやる
ようにするという
ような
趣旨の
一般的指示をいたしたわけであります。そのときに
警察側の言い分といたしましては、ここにいう公訴の実行とあるのは公判において公訴を維持するための
意味しか持たない。そこでこの
一般的指示をなし得る範囲というものは、本来公判に出す書類の様式くらいを定める権限しかないのだ、こういう国警本部の
意見であります。それでは本来の百九十三条の狙いとしているところとは全然違うじやないか。
条文を見ましても、その「捜査に関し必要な
一般的指示」というのが前段にございます。その
理由は先ほど申上げました
ように、検察官がただ据え膳を食わされて、まずい飯ならまずい飯で全部自分でそれを跡始末をして一々全部黙
つてやらなければ
いかんということじや公訴官としての任務は尽せないから、この料理を作る場合には、こういうふうにしなさいという注文が付けられるところから出ている
規定でございますから、捜査に関してと書いてある以上は、捜査そのものは何らの注文も付けられない、ただ書類の様式はこういうふうにしなさいという準則、そんなものではとても検察官として、公訴官としての任務は尽せない。それこそ
法律の読み方を不当に狭めているもんじやないかということで問題にいたしたわけであります。そこで公訴を実行するためというのを公訴の維待、公判における公訴の維待のみに限られるという狭い解釈があ
つたものですから、いやそういう
意味じやありません。少くとも公訴官としての立場から捜査が適正に行く
ように注文が付けられなければ、検察官としてどうして公訴の実行ができるかというところから、その
趣旨を明らかにする
意味におきまして、「この場合における指示は、捜査を適正にし、その他公訴の遂行を全うするために必要な云々、」こういう文句に今度改めたわけであります。そこで出て参ります疑問は、そういうことをすると、それでは個々の
事件についても……、その前にもう
一つ申上げておきますが、然らば破防法の場合に本当に公訴官としての立場から個々の
事件の着手を
検事正の承認にかからしめる必要があ
つたかどうか。これが実質的に問題とされるべき点だろうと思うのであります。その点は御存じの
ように破防法違反の
ような種類の
事件、言い換えますれば、例えば
内乱を煽動する
ような文書が
一つ或る自治体に現われたといたします。山梨県なら山梨県の或る自治体にそういう文書が現われた。それから又別に
東京の豊多摩なら豊多摩でそういう文書が現われた場合に、ぱつとすぐ文書が出たからとい
つてすぐその
事件の捜査に着手いたしますならば、そういう
事件は一連の
関係を持
つてお
つて、中央で以て或る
程度統制をと
つてや
つている違反でありますから、具体的に山梨県なら山梨県で出たという
事件をすぐそれで着手されるということになれば、すぐにほかに響いて参ります。然らば検察官は山梨県の
警察が
検挙したもの、或いは豊多摩の
警察が
検挙したその
事件をそのまま
検挙さしておいて、それを
あとから集めて、果して破防法違反
事件としての
中心を突いて本当の公訴というものができるかといいますれば、それでは
事件はできないのであります。そこで検察官がそういう場合にどういう統制をとるかというには、検察官が実際その
事件の端緒に基いて、或いは破防法
事件のこの文書というものは、こういう
関係から来ている。それでこの
関係からこことここに手当しなければいけないという計画の下に
一つの
検挙をいたそうといたしますならば、その場合は成るほど第二項がございます。百九十三条の第二項で、「検察官は、その管轄区域により司法
警察職員に対し、捜査の協力を求めるため必要な
一般的指揮をすることができる。」この場合には、第二項の指揮権によ
つてその調整をとれるのでありまするが、その統一処理の指揮をいたします前に、個々のところでぽんぽんこれが統制なく捜査に着手されることになりますれば、その統一処理を要すべき
事件そのものの本体が
ちよつとした最初のきつかけから崩れてしまうわけであります。そこで検察官といたしましては、その場合は
ちよつと待
つた。その場合は
検事正の承認を求めなければならない。こういうときは
検事正に対してこういう
事件の端緒がある、こういう文書が頒布されておることがあるということになりますれば、それをすぐ中央でまとめることによ
つて、この
事件の統制をとる必要があるわけであります。そこでそういう必要があるからして、その場合にはまだ
事件が出たというだけでありまして、
検察庁が然らばそれで以て統一的な方針に基いて
検挙の肚がまえをきめているというわけじやございませんから、どうしても第二項の
一般的指揮というものをその場合に発動することは
法律を逸脱した行動になる。その場合には全体の
事件としての本当の適正な公訴というものを実行するためには、公訴官の立場といたしましてその
事件を一応待
つたということくらいのことは注文を付けざるを得ないのであります。そうでなければ、本当に山梨で起きた
事件は一応山梨県の
警察でぽんと
検挙されてそれを
検察庁に送られる。それを受けて立
つただけで破防法違反の
事件の捜査というか、それをまとま
つた公判廷に持出して、こういうふうな大きな何をしておるのだという主張は公訴官としてはできません。やはりそこで固ま
つたものにして
事件というものの全貌を出さなければ、本当の公訴というものはできないのであります。その
意味において捜査を着手する前には
ちよつとお待ち下さいという
趣旨のことを
一般的指示で出したわけであります。ところがその際にこれは内輪話になりますけれども、国警のほうでは、いやそういうことは
検察庁のほうでやられなくても自分のほうで統制をとるから、そういう
一般的指示を出すのは待
つてもらいたいということがございました。勿論
一般的指示を出します前には、国警からも来てもらいまして、そうして全部
検察庁とも打合せして、一旦国警の係官は
承知して帰
つたのです。帰
つてから後にこの問題についていろいろ上司のほうかどつちか知りませんが、異論が出ただろうと思いますが、それでも
ちよつと待
つてくれという
理由、あにはからんや我々の予想もしない
一般的準則というのは、送致する上においての様式を定めるくらいしかできないという解釈を持
つております。そうしてこれがいわゆる解釈上の正面衝突を来たしたことになるのであります。そういう
関係でありまして、我々といたしましては当然ここに
規定されている
通りの
趣旨、それから文言から言いましても、或いは
規定の本来の
趣旨から言
つても、それについてそういう解釈が違うから通牒には従わなくてもいいという通牒が中央から流れるという
ようなことになりますと、この
刑事訴訟法の運営というものはできなくなる。それで国警としては話はもとへ戻りますが、そういう破防法の違反の全圏にばらばらと出たのは、自分のところで統制をとるとこうおつしやいましたが、我々
考えてみますというと、国警本部は運営管理の権限は持
つておりません。同じ国家地方
警察の中でも運営管理の権限は持
つてないし、まして自治体の
警察に対して運営管理の権限は持
つていない。それを国警本部がやるとおつしやるから私はびつくりした。そんな権限はどこにあるか。そういう違法なことをやろうということは法務省としては到底
承知するわけにはいかない。而も破防法という
事件は、単に検察官が
警察のあれを受けて立
つただけじや、どうしても本来の公訴をやる面においては、普通のやり方ではできない
事件であります。これはどうしても統一的に処理しなければならない特別の
事情がある
事件であります。そこでこの
法律を文字
通り読みまして、その範囲において
一般的な準則という形で破防法
事件の指示をした。それが今日まで根を引いているわけであります。そこでそういう指示をするのは、その後ここにいう準則というのは捜査書類の様式くらいだけに限られる、捜査には検察官は一言もタッチすべからずという議論はいつのまにか国警のほうから消えまして、最近においては今この点について言われておりまするところは、破防法の違反の
事件について個々的に捜査の着手に承認を求めるということでできるというのであれば、それは涜職事犯
一般とか、或いは殺人
事件一般とか、窃盗
事件一般とか、そういうものについても同じ
ような理窟が立つんじやなかろうか。そういう理窟が立つとすれば、司法
警察官が自主的な捜査権を持
つているということの
刑事訴訟法の本来の建前に反するじやないか、こういう議論にな
つて来ているわけであります。その点は私どももう少し
法律的にお
考えを願いたい、こう言
つているわけなんです。と申しますのは、いやしくも旧
刑事訴訟法から新
刑事訴訟法に変りまして、捜査の第一次責任者は
警察である。検察官は本来公訴官としての立場を主としてやるという建前ができてお
つて、その後にあるこの
規定を動かす場合に、その建前を変更する
ような、建前にもとる
ような指示ができるかどうか。明らかに私は窃盗
事件について、破防法のときの
ような特別の
事情がないにかかわらず、いわゆる公訴官として本当の公訴をやる上に特別の
事情がないにもかかわらず、そういう指示をいたしますことは、明らかに違法な指示だと思います。ですから詐欺罪についてこれができる、窃盗罪についてこれができるというのは勿論違法なことであります。その違法なことを前提にやるという仮定の下の議論だと思います。ところが
警察のかたにこう申しちや何だと思いますが、やはり
警察官と検察官が違うところは、これは
法律家であるかどうかというのが根本的な差でございます。いやしくも
法律家である検察官というのが
刑事訴訟法の根本建前をこわす
ような指示がこの
法律に基いてできるかと申しますと、それは今までどんな指示をいたしておりますかというと、
一つは捜査書類の様式であります。これは最高
検察庁から出しております。それからもう
一つは微罪処分をいたします場合、言い換えれば
警察限りで処置のできる軽微の
事件の基準、枠をきめるのにこの
程度のものなら
警察で処理してよろしいという微罪処分の枠をきめているのが
一つ、それから先ほど申上げた破防法に関する指示、この三つしかいたしておりません。本来
警察で国警でも自治警でも作
つておられます
犯罪捜査軌範という
ようなものも
一般的指示によ
つてできるとは存じますが、それは
警察で折角お作りにな
つているもの、それを権限争いの
ような顔をして、それは俺のほうから出すべきものであるというので、その上にかぶせて同じ
ようなものを出すというやぼなことは
検察庁としてはしたくない。ただ我々としては公訴を実行するために必要な
限度においてのみ
一般的指示の
規定を動かすという
意味において、従来の
実績の
運用から申しましても、今申上げた
程度のことしかいたしておらない。而も破防法の
運用というものは、何としても破防法をまとめて、そうして破防法の
事件というものの実体を突いて完全な公訴ができるかとい
つたら、
検察庁が
中心とな
つてまとめる以外に
法律的には調査の途がないのであります。それを国警本部が自分のところでまとめてやるからというその主張自体は事実上の問題としては
考えられんことはないと思いますが、これは明らかに
法律違反の運営管理の面には入ることだと思いますが、そういう違法なことは我々としては認められない。でありますから、一応この形においてや
つて、その代り国警本部の
意見を無視するのじやない、実際の場合にはよく連絡してやろう、こういうことで我々は主張して
参つておる、こういう
事情でございます。