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説明員(下牧武君) その点はまあ私
どもといたしましてはそういう
議論もお聞きしているのですが、どうも解しかねるのであります。それで
刑事訴訟法の構成を御覧頂きますと、先ず
捜査の項でありまするが、第百八十九条、この第二項に「司法警察職員は、
犯罪があると思料するときに、犯人及び證據を
捜査するものとする。」この
規定にま
つて捜査の第一次責任者が司法警察職員であるということが現われているわけであります。と申しますのは、旧
刑事訴訟法におきましては
捜査の冒頭のところに「検事
犯罪アリト思料スルトキハ犯人及證據ヲ
捜査スヘシ」とこうあ
つて、司法警察官吏はその検事の補佐又補助をする、こうありましたので、検事が
中心だ
つた。その
規定を今度司法警察職員に置き替えたのがこの百八十九条第二項の
規定であります。そういう
関係からいたしましてもこの
規定が先ず
捜査の第一次責任者は警察であるという根拠になる
規定であります。それから百九十一条、これの第一項に「検察官は、必要と認めるときは、自ら
犯罪を
捜査することができる。」それから百九十二条に。警察と検察官は
お互いに協力しろ、この三つの
規定、これがいわゆる本来の
建前を現わしているのだと思います。ところが百九十三条に行きまして第一項「検察官は、その管轄区域により、司法警察職員に對し、その
捜査に閲し、必要な一般的指示をすることができる。」こうな
つております。これは具体的にざつくばらんに、俗な言葉で申上げますれば、司法警察の行う
捜査に必要なときに注文をつけることができるということで、それで後段で「この場合における一般的指示は、
公訴を実行するため必要な
犯罪捜査の重要な
事項に閲する準則を定めるものに限られる。」、この
趣旨はこの
通りすなおに読んで参りますと
捜査に対して注文をつける。併しその注文はこれは
公訴を実行するため
公訴官としての
立場でおやりなさい。又細かいことを一々
言つてはいけませんぞ、又その形式はいわゆる準則という方法でおやりなさいと、三つの絞りがかか
つておる。そこでこの検察官の
捜査の一般的指示は
現行法の
解釈といたしましても、その前段にはつきり書いてありますように、その
捜査に関し……、その
捜査というのは司法警察職員の行う
捜査においてで、これは文理上明白だと思う。その
捜査に関し必要な一般的な指示、言い換えれば
公訴と
捜査というものはこれは截然と区別されるべき、いわゆる
裁判と
捜査とい
つたようにはつきり区別されるべきものではございませんので、やはり一連の
一つの
手続でございます。それで
犯罪がありますと、そこに具体的な
公訴権が発生する、それでその
公訴権の行使の面として
一つの
捜査ということがあり得る。又その
捜査が発展して今度は起訴不起訴を
決定し、そしてそれが
裁判所にかか
つて公訴維持になるということで
一つの発展する
手続でございます。従いまして
捜査というものはあくまで
公訴を目標としたものであり、
公訴に関連のない
捜査というものはあり得ない。これは当然のことであると思う。そこで検事が
公訴官で
公訴権を持
つている。その
公訴官としての
立場から
捜査に注文がつけられんじやおかしいじやございませんかと、これが第一点、それとそういう理論的な面と、それからもう一点は、現在のその警察の
捜査というものはこれが完璧であ
つて、ただそれを受けて検事が立
つて、検事がそれを受けてそしてそのまままずいものは捨てて、いいものはそれを取り上げて
裁判所へ送り込むというだけのことで、果して現実のこの
捜査から
公訴に至る警察権の行使ということが適正に
運用されるかというと、そこまでのことは参らない。何としても或る
程度、検事、司法警察職員の
捜査というものに対してのいろいろな問題がある。その面を検察官の一般的指示、
公訴官としての
立場からの指示によ
つて賄な
つて行こう、調整して行こうというので、これは
一つの権限
規定のように御覧にな
つておられますけれ
ども、そういうものじやございませんので、飽くまでこの
捜査から
公訴、或いは
裁判に至るまでの一連の
手続を如何に適正に行うかということの
趣旨の下にできた
一つの
規定でおります。でありまするから、
現行法の
解釈といたしましても、今度の
改正案と何ら内容は変
つておりません。それを一部にはこの
捜査とは、ここにいう
捜査、
公訴を実行するというのは、
公判に出てから
公判廷でやることだけだ、それで
捜査自体に対しては検察官は喙を容れるべからず、こういう
議論があ
つたわけであります。併しこれは
条文をすなおに読みますと、百九十三条というのはそういうわけでできておる調和の
規定でありますから、「その
捜査に関し、必要な一般的指示」というので、
捜査に注文がつけられるということははつきり書いてあるわけです。ただそれを警察と検察官との間の根本
原則を壊すようなやり方でや
つてはいかんというので、これを
公訴官としての
立場から
公訴を実行するため
公訴官の
立場としてやる。それから重要な
事項、細かいことにまで一々干渉し
ちやいかん。それから準則という形で、個々のことを個々の警察官をつかまえて、個々の
事件をつかまえてぎつぎつということではいけない、一般的な準則ということでおやりなさい、こういうことが
規定されておるわけであります。でありますから、そういうふうに一部にこの
規定を誤解される向きもあり、それが相当大きく取上げられておりますので、そういう
趣旨じやなくて
現行法をすなおに読んだ、その読み方に誤解があるとすれば、これは改め、いわゆる
解釈上の疑義というものが
法律にあるとすれば、その疑義のないように改めるのが正しい行き方じやないか、これが百九十三条第一項の
趣旨であります。だからこの
規定によ
つて検察官がすべての
捜査の実権を握るということはあり得ません。それから
逮捕状の経由にいたしましても、これは専ら
逮捕状の濫用を防止するという
立場から出ているのでありまして、それでこういう
事件をやるからお前
逮捕しろということは検察官としては
規定の上ではできないわけであります。検察官として若しそれをやらんと欲すれば、みずからその
事件を、こういう
事件をやるからどの警察はこういうふうに動け、この警察はこういうふうに動けというのは現在でも百九十三条の第一項であります。それから又自分で
事件をやり出した場合に、こういうふうにしろ、こういうふうにしろという積極的な指示はできますけれ
ども、こういう
逮捕状を取
つてこういう方式でやれという指示は、これはできないわけであります。ただそこの中に頼まれ
事件とか、民事崩れの
事件とか、或いは告訴
事件、その他重要な
事件でも
逮捕状を出す必要がないようなものまでそういうような
逮捕状が参
つた場合に、それはちよつと行き過ぎじやないかということでチエツクするというだけの
規定でありまして、これらの
改正によ
つて検察官が
捜査の主宰者となるということはどこから出て来るのか、まあ私
どもは理解にむしろ苦しんでいるという
気持でございます。