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政府委員(岡原昌男君) 今回、御審議を仰ぎます
逃亡犯罪人引渡法案につきましては、提案理由において、大体の大筋並びにその趣旨を御説明いたしたのでございます。で、先般の
平和条約第七条によりまして、各連合国は、
日本との間に締結されてあつた古い条約について、一方的に通告をして参りますと、それが通告の日から三カ月で引続いて有効とされるという
規定がございます。これに基いて
アメリカ合衆国が本年四月二十二日付の書簡を以て、右
平和条約の七条による日米犯罪人引渡条約、これを有効の取扱いにしてくれという申入れをして参つたわけであります。この引渡条約は、明治十九年に批准されたものでございまして、大分古い形をと
つておりますが、この条約に基いて、その翌年、明治二十年に逃亡犯罪人の引渡しに関する国内手続が条例という形で出ております。現在の我が憲法並びに刑事訴訟法の全体の建前から申しますと、この明治二十年の条例というものは、かなり古い形のものでございまして、条約を引続いて効力を持たせて、この条例をそのままに生しておくということは、到底ちぐはぐにな
つてかなわんというのがこの
法案を提出するゆえんでございます。この逃亡犯罪人の引渡しにつきましては、現在条約が生きておりますのは、日米間だけでございます。日英間には、数回問題に
なつたことがございますが、未だ正式の条約はございません。なお併し、今後は国際交通の頻繁になるにつれまして、ほかの各国との間にもこの種の条約がいずれ締結されるに至るであろうということを予期しつつ、この
法案を作
つてある次第でございます。
さて、この手続でございますが、これは大変技術的に細かくな
つておりますので、御理解願うのが大変困難な面も出て来るかと思いますが、大体大筋だけを
お話いたしますと、先ず引渡条約に基いて、締約国から、
日本の外務大臣に対して引渡しの請求書が参ります。その請求書が参りますると、外務大臣が一応審査した上で
法務大臣にその書面を廻して参ります。
法務大臣が更にこれを検討した上東京高等検察庁検事長に命じて、その引渡をなすべきか否かの決定を東京高等裁判所でしてもらう
ように審査の請求するわけでございます。高等裁判所において、これを引渡すべききものという決定をした場合に、それが
法務大臣のほうに戻
つて参りまして、そこで初めて引渡しの命令が出る、か
ような手続にな
つているわけでございます。その間身柄の拘束等の問題等がございますので、それらを詳しく
規定したのがこの条文でございます。
この
法案の今までの逃亡犯罪人引渡条例と違つた主なる点を申上げますと、以下御説明の便宜に、先般お配りいたしましたこの逐条説明の頁数を逐
つて参りますが、第九頁以下に今度の
法案の特徴が出ております。
一つは身柄を拘束する場合に、原則として裁判官の発する令状によつたこと、これが特徴の
一つ、もう
一つは、その引渡すべきかどうかの判断を行政機関の判断のみに委せることなしに、司法機関の判断を受けさせることにしたこと、この二点が主なる違つた点でございます。
なお解説書の十頁にございますが、然らば
日本国側から
アメリカ側に引渡しを要求する場合にはどうなるのかということが
考えられるわけでございまするが、これにつきましては、やはり引渡し条約に基きまして、それに対応する
アメリカの国内法規が出ているわけでございます。その法規に基いて
アメリカ側はこちらから要求する逃亡犯罪人をつかまえて、そうしてこちらに渡してよこす、か
ような手続がすでに連邦の法典の第二百九章の中に詳しく
規定してございます。丁度今回の
法案と、それと裏はらになるというわけでございます。
なお、
アメリカでつかまえた人間をこちらで引取る、その手続につきましてはそれ以後
日本の刑事訴訟法が全くそのまま乗
つて来る、か
ようなことになるわけでございます。
従いまして、今回提案するのは、従来の明治二十年にありました条例の古い点を
改正して、これを国際並の法典の型に直すというのが根本の方針でございます。この重要な条文を数ケ条読上げまして、後はこの解説をお読み願いますとおわかり願えると思いますが、第一条から「この
法律において「締約国」とは、
日本国との間に犯罪人の引渡に関する条約を締結した外国をいう。」、締約国の定義をここに書いてあるわけでございます。先ほ
ども申しました
通り、日米間の条約のほかに、形の上では日露間の逃亡犯罪人引渡条約が明治四十四年に結ばれておりますが、現在の国際情勢その他に鑑みまして実際は失効している、か
ようなことになるわけでございます。なお、今後の問題になりますと、今後同じ
ような条約がほかの国と結ばれた場合にはやはりこの
法案に則
つて引渡しが行なわれる、か
ようになるわけでございます。
それでは現在条約を結んでいない国から逃亡犯罪人の引渡しの要求があつたらどうなるのか、これは国際礼譲というものがおのずから成立
つておりまして、明治以来我が国におきましても条約に基かずして引渡した例がかなりたくさんある、これも統計が別の
資料に載
つておりますが、さ
ような趣旨で締約国という定義を一番先に掲げたのでございます。
次は、第二項「この
法律において「引渡犯罪」とは、引渡条約において締約国が
日本国に対し犯罪人の引渡を請求することができるものとして掲げる犯罪をいう。」、これはこの
通りで、その
内容は又条約に譲
つてございます。
次は、第三項でございますが、逃亡犯罪人の定義を掲げまして、「この
法律において「逃亡犯罪人」とは、引渡犯罪を犯し、その犯罪について締約国の刑事に関する手続が行われた者であ
つて、引渡条約により締約国が
日本国に対し引渡を請求することができるものをいう。」、従いまして、その詳しいことは更に条約において
規定される、か
ようなことに相成
つております。なおここに「刑事に関する手続が行われた者」という、これは新らしい用語でございますが、これは従来の条例が「有罪ノ宣告若クハ告訴告発ヲ受ケタル者」というふうに書いてございますが、そのほうがむしろはつきりいたしませんので、刑事に関する諸般の手続が行われたらそれでよろしいというふうな表現をとつたわけでございます。
重要な条文の第二は、引渡し拒絶のできる
規定が第二条にございます。第二条には「左の各号の一に該当する場合には、逃亡犯罪人を引き渡してはならない。但し、第六号又は第七号に該当する場合において、引渡条約に別段の定があるときは、この限りでない。」これは一から七号までございまして「逃亡犯罪人の犯した引渡犯罪が政治犯罪であるとき。」、いわゆる政治犯につきましては引渡しをしないというのが国際間の大体の原則でございまして、政治犯とは何ぞやということについてはいろいろ問題がありますけれ
ども、これは引渡しの請求を受けた国において判断してよろしい、か
ような解釈にな
つておりまして、これらの詳しい点につきましては十九頁、二十頁の辺に詳しく書いてございます。それから第二号は「引渡の請求が、逃亡犯罪人の犯した政治犯罪について審判し、又は刑罰を執行する目的でなされたものと認められるとき。」、ほかの犯罪の名前を掲げてあるけれ
ども、終局の目的は政治犯をやつつけるために引渡しの要求をするという場合があり得るわけです。そういうほかの犯罪にかくれてやるということはいけないというのが第二号でございます。第三号の「逃亡犯罪人の犯した引渡犯罪に係る行為が
日本国内において行われ、又はその引渡犯罪に係る裁判が
日本国の裁判所において行われたとした場合において、
日本国の法令により逃亡犯罪人に刑罰を科し、又はこれを執行することができないと認められるとき。」、つまりこちらの刑罰法規に照して処罰できない
ような場合、これは
向うにもそれは困るという拒絶理由をつける、か
ようなことでございます。それから第四号は「逃亡犯罪人の犯した引渡犯罪について締約国の有罪の裁判がある場合を除き、逃亡犯罪人がその引渡犯罪に係る行為を行つたことを疑うに足りる相当な理由がないとき。」、つまりさ
ような犯罪を犯したという証明と申しますか、嫌疑と申しますかが薄弱な場合、これは拒絶し得る。それから第五番目は「逃亡犯罪人の犯した引渡犯罪に係る事件が
日本国の裁判所に係属するとき、又はその事件について
日本国の裁判所において確定判決を経たとき。」、これはすでに
日本国の裁判所に係属しているのでございますからして、すでに確定判決をこちらでや
つているのでありますから、それはこちらのやつたのに委してくれ、こういう趣旨でございます。六号、七号は条約に別途に定めあるときは許される場合でありますが、六号は「逃亡犯罪人の犯した引渡犯罪以外の罪に係る事件が
日本国の裁判所に係属するとき、又はその事件について逃亡犯罪人が
日本国の裁判所において刑に処せられ、その執行を終らず、若しくは執行を受けないこととな
つていないとき。」、これは要するにほかの罪について、今言つた
ような
事情がある場合別の犯罪を犯して
日本国で今問題にな
つているこの逃亡犯罪の引渡については、まだ事件にな
つていない、さ
ような場合には
日本の手続の終り次第
向うにやる。こういう
ようなことでございます。それから最後に「逃亡犯罪人が
日本国民であるとき」こういう場合にも条約に別段の定めがない限り断れる。か
ような趣旨にな
つております。
次に、三条以下は、先ほど申した
通り手続
規定のかなり細かいところでございますので、これは第三条は、外務大臣が引渡の要求を外国から受けた場合の手続
規定でございます。大体お読み願うとわかると思います。
第四条は、
法務大臣がそれでは外務大臣からその書類を受けたときどうするかという場合でございまして、その場合においては一号、二号の「明らかに逃亡犯罪人を引き渡すことができない場合に該当する」という先ほどの二条の各号に該当する
ような場合或いは二条六号、七号の場合には引き渡さないほうがいいというふうな場合、さ
ような場合はこれはそこで拒絶することができるわけでございますが、その他の場合については東京高等裁判所に判断を仰がせるために、検事長にこれを下命する、か
ような手続でございます。
第五条は、さ
ような手続をした場合に身柄を拘束する問題が出て参りまして、折角要求を受けまして引渡の決定を受けましても、そのときに人がいないでは結局できませんので、身柄の拘束の
規定がここにございます。この際特に御留意願いたいのは、「東京高等裁判所の裁判官のあらかじめ発する拘禁許可状」という新らしい形式の拘禁許可状、この令状をと
つて始めて身柄の拘禁ができる、か
ようにしてあるのでございます。なお拘禁許可状の手続或いは記載事項等が二項、三項等に
規定してございます。
それからその執行手続が六条にございます、それからそれを執行した場合の東京高等検察庁の検察官の手続が第七条に
規定してございます。つまり受取つた場合に人違いであるかどうかを調べて、それから人違いでないときはこれを指定の監獄に入れるという手続でございます。
そうしてその後の手続といたしましては、改めて正式に審査請求というものがあるわけでございますが、これは第八条に書いてございます。正式にここで審査請求をする、二十四時間内にやるということを
規定してあるのでございます。
第九条は東京高等裁判所における審査手続でございます。これは余り長くな
つても困るというので、二箇月以内に決定をするという期限がついてございます。なお、あとこの審査についての
関係証人の尋問とか或いは鑑定、通訳、翻訳等の手続などは、これが刑事訴訟法第一編第十一章から第十三章までの
規定がそのまま準用されるというふうに
規定してございます。
最後に東京高等裁判所で二カ月の間に調べをして決定をするのでございますが、その決定の種類、
内容等は第十条に
規定がございます。で「請求が不適法であるときは、これを却下する決定」それから「引き渡すことができない場合」実質的、
内容的にできない場合には駄目だという決定、それから引き渡すべき場合にはその旨の決定という三種類があるわけでございます。この決定につきましては不服の申立てはできないという
法律解釈になるのでございますが、ただその決定に基いて
法務大臣が行政処分をした場合には、これは一般の行政手続に従
つて不服申立の途がある、か
ようなことがあるわけでございます。
次に第十一条には、審査請求命令の取消の、これは特殊な場合だろうと思いますが、後ほどにな
つて締約国からそういう
ような犯罪人の引渡の請求を撤回するという場合があり得るわけでございます。さ
ような場合の手続を第十一条に
規定したわけでございます。
第十二条は、逃亡犯罪人を
釈放する場合でございまして、これは先ほど申しました東京高等裁判所が第十条一項の一号、二号のつまり却下する決定或いは引き渡すことができない旨の決定をした場合には、当然でありますし又は前条の
規定によ
つて審査請求命令が結局取消しに
なつた場合、これは拘禁が不必要になりますので、逃亡犯罪人を
釈放するということになるわけでございます。
それから十三条は、裁判された場合の裁判書の謄本を
法務大臣に提出する場合の
規定でございます。これに基いて第四条に
法務大臣がいよいよ引渡に関する命令をする場合が
規定してございます。「
法務大臣は、第十条第一項三号の決定があつた場合」、つまり引き渡してよろしいという決定があつた場合には、「逃亡犯罪人を引き渡すことができ、且つ、引き渡すことが相当であると認めるときは、東京高等検察庁検事長に対し逃亡犯罪人の引渡を命ずるとともに、逃亡犯罪人にその旨を通知し、逃亡犯罪人を引き渡すことができず、又は引き渡すことが相当でないと認めるときは、直ちに、東京高等検察庁検事長及び逃亡犯罪人にその旨を通知するとともに、東京高等検察庁検事長に対し拘禁許可状により拘禁されている逃亡犯罪人の
釈放を命じなければならない。」ここで初めて
法務大臣が東京高等裁判所の決定に基いて行政処分をいたすわけでございます。
そこでこの引渡命令がありますと、第十五条に基きまして、いよいよ引渡命令の日から起算して三十日目までの間に、相手方に引き渡すことになるのでございます。その間締約国に対し、こういう者に対して引渡の命令が出たから受取りに来いというふうなことにな
つて参るわけでございます。
その措置が十六条に
規定してございます。「引渡の命令は、引渡状を発して行う。」それからこれは検事長に交付するのでありますが、これと同時に締約国のほうに、受取りに来るときの書面が必要でありますから、受領許可状というものを外務大臣を通して
向うにやるわけでございます。これが十六条の三項、四項の
規定でございます。十七条はいよいよ引き渡す際の手続でございますが、「東京高等検察庁の検事長は、
法務大臣から引渡状の交付を受けた場合において、逃亡犯罪人が拘禁許可状により拘禁され、又はその拘禁が停止されているときは、逃亡犯罪人が拘禁され、又は停止されるまで拘禁されていた監獄の長に対し、引渡状を交付して逃亡犯罪人の引渡を指揮しなければならない。」つまり監獄の長に対し、引渡の命令を出し、指揮をする、さ
ようなことになるわけでございます。次に十八条は、いよいよその手続きが全部揃いましたので、外務大臣に対しいつ何日どういう場所で引渡したい、或いはいつまでにこれを取りに来いというふうな通知をするわけでございます。そこで第十九条に外務大臣はこれを
向う側に正式に通知をやりまして、二十条によ
つて始めて引渡が行われる。か
ような順序にな
つて参るわけでございます。なお引受けた上はとつとと持
つて行けという
規定が二十一条にあるわけでございます。
なお二十二条は拘禁の停止の、これも特殊の場合だと思いますが、特に必要があると認めるときは拘禁許可状ですでに拘禁されている者を、親族その他適当な者に委託して、或いは住居を制限して、拘禁の停止をすることができる。か
ような場合を、特別の場合を予想して手当てをしてございます。その際の今度は取消して又収容する場合の手続等が三項以下等にずつと
規定してあるのでございます。
第二十三条以下はいわゆる仮拘禁という手続でございまして、これは引渡条約にもはつきりございますが、事件が極めて明白であるというふうに思料される場合には、一応仮拘禁するという手続を
規定したものでございます。「外務大臣は、引渡条約に基き、締約国から逃亡犯罪人が犯した引渡犯罪についてその者を逮捕すべき旨の令状が発せられたことの通知があり、」つまり
向うで正式の令状が発せられておるという通知があり、「且つ、当該締約国の外交官が締約国において引渡条約に従
つて逃亡犯罪人の引渡の請求をすべき旨を保証したときは、」外交官からこれは確かに
ちよつと遅れるが
自分のほうで引渡の請求をするという保証をした場合には、「その通知及び保証があつたことを証明する書面を作成し、これを
法務大臣に送付しなければならない。」ということに始まりまして二十四条以下いわゆる仮拘禁の手続をしてあるわけでございます。この仮拘禁の性質、それからその期限、それの執行の問題等が三十条までの間に
規定してございまして、大体拘禁許可状の手続に準ずる、さ
ようなことに相成
つておる次第でございます。
なお、これらの
法律の運用に関しまして最高裁判所のルールによ
つて細目が定められることにな
つておるのが三十一条でございます。
それから三十二条は、東京高等裁判所が
全国のそういう逃亡犯罪事件を処理するについて管轄問題があるのではないかというので手当てをしたのが三十二条でございます。
それから三十三条は、この引渡条約が新たに別に締結された場合に、その条約発効前にあつた犯罪についての手続がこの
法律にすぐ乗るかどうかという疑問が生じますので、その場合もやはりこれに乗るのだということが三十三条の立法の趣旨でございます。
附則は第一項が「七月二十二日から施行する。」というのは先ほど
お話いたしました
通り、四月二十二日から丁度三ヵ月目の七月二十二日で条約が効力をも
つて参りますので、丁度その日からこの
法律も働かしたい、か
ような趣旨でございます。従
つて第二項で逃亡犯罪人引渡条約は廃止にな
つて参ります。第三項は、この
法律施行前に犯された引渡犯罪に関する引渡の請求についてもこの手続は動いて行くということを念のために
規定したものでございます。なおこれに伴いまして、第四項で監獄法の拘禁の場所についての疑問が生じますので、さ
ような場合には監獄内に入れてよろしいという
ような
規定を監獄法の
改正でいたしたわけでございます。
それから第五項は、これは
ちよつと注目すべき点でございますが、逆の場合、つまり逃亡犯罪人引渡条約によ
つて日本が締約国側に対して引渡を請求した場合、この
法律と丁度逆の場合、その場合において「締約国が当該逃亡犯罪人の引渡のためにした抑留又は拘禁は、刑事訴訟法による抑留又は拘禁とみなす。」つまり
アメリカなら
アメリカで、取りあえず
アメリカですが、こちらに引渡すその間
向うで抑留されたというものは、こちらの刑事訴訟法の適用についてはその
期間が加算される、か
ようなことでございます。
以上が今回の
逃亡犯罪人引渡法案の要旨でございますが、
ちよつと技術的に細かい面はございますが、趣旨は単に従来の引渡条例が極めて旧式のものであ
つて、現在の
法律常識に合わないというところから、大体欧米各国の毛だつた文化国家の立法を参酌しまして国際的な水準においてことを
考えたというふうなことでございます。
以上大体、簡略でございますが……。