○
参考人(
小松純之助君) 私
日本獣医師会の
小松でございます。本案につきましては、
日本獣医師会といたしましては実は従来ともに反対をして参
つたのでございます。で、根本の
一つの理由といたしましては、
人間の人為的に生ずる
家畜疾病に対し、天災であるところの普通の
農業災害と同様に
一つの
法律の中で運営されるところに根本的な
一つの誤まりがあるという見解の下に立
つておるのであります。その次には、今回の
法案の
あり方を見まするというと、又仮に
共済の
あり方というものを
考えて見ますると、とかく我々が
考えて期待しておるような
農民に対する深い
愛情が足りない。もつと公平な、もうと広い、もつと深い
愛情を
農民に持
つて頂きたいということでございます。これは
立憲政治の今日の
民主憲法の治下にありましては、すべての人権の問題から行きましても、或る一部の者が特に
一つの特権を持
つて、他の者がそのために
犠牲になるというようなことが自然の
状態のままである場合にはまだやむを得ない、これを修正して行くのが、
政治の
あり方だと私
どもは
考えておるわけであります。ところがここに
一つの強力な力を持
つて或る一部の者が非常に大きな転廃業をしなければならん、
失業状態に追いやられるというような場合がありましたならば、これは当然
政治の
あり方として十分深甚なる御考慮をお願いしなければならん。こう存ずるのであります。殊に今回の
共済の問題を見まするというと、どうもそういうふうな
行政官庁のいわゆる
共済を管轄しておられるお役所なり、そのほうの
指導監督の
あり方が少し強引なやり方ではないかというふうに実は
考えられておるのであります。で、その
一つの、又
農民に対する
愛情の足りないという例証といたしまして、この
家畜共済ばかりではございませんが、
農業災害に関するすべての
法律なり、或いは命令、規則なり、或いは
指令なりこういう
文書関係のものを拝見いたしまするというと、到底我々のごとき不敏なるものは一遍や二遍
法案を見ましても、
手続、
指令を見ましても了解に苦しむような実に繁文縟礼的な廻りくどい
手続にな
つておるのであります。これが本当に
農民の自主的な
団体であるという
看板の建前からしますならば、もう少し
農民が見てもわかるような
手続なり
法律なりというものの
あり方を示して頂きたい、こう存ずるのであります。
従つて今日の
農民は
共済という問題に対しまして知らないままに引きずられておるという傾向が非常に強い。
従つて他の
農業協同組合或いは
畜産組合というような
組合組織の
組合員とな
つておる場合、恐らく他の
農業団体に対する
農民の親しさ、まあ親和力とでも申しますか、親しさというものと、この
家畜共済或いは
農業災害に対する親しさ或いは理解の
程度というものは格段の相違があることは、これは私があえて申上げるまでもないことでございます。で、こういう点から言いましても、若し本当に
農林御当局がもつと
農民に対する
親切味があれば、ああいうむずかしい
法律や
手続をしないで、もつと簡単明瞭に、どんな
農家のかたでも一読してわかるというふうな
手続なり、或いは
方法をおとり願いたいということでございます。何かこれはちよつと疑いまして邪推するというと、大変こう
からくりでもあ
つて、その
からくりがばれると都合が悪いというようなために、殊更にいろいろな
文書がむずかしくできておるというふうな、これは少し思い過ごしでございますけれ
ども、そういうふうな傾きが
多分にあることは、これは何も私一人の言うことではございません。
それから第二の問題といたしましては、これは
保険金の支払の問題でございます。これは或いは
獣医師会から、このことを申出ることは少し言い過ぎかも知れませんけれ
ども、
普通死亡の場合におきましても、まあ早くても三月、普通六カ月、少し
事故でもありますれば、一年、二年、こういう
つまり保険の
掛金を
農家が受ける場合の時期的のズレというものを、もつと
農家の実態を深く把握し認識されるならば、
農家では農繁期において馬が倒れると、すぐその
あとの
あと馬を入れて農耕に従事しなければ
農業経営ができない。三月も半年も一年もた
つてから漸く
保険金をもらえたというようなことでは、
農業政策として、並びに
社会政策として、
看板は誠に立派でありますけれ
ども、実際
農民の受ける利益というものは実にこれは困
つたものであります。こういうような面につきましても、もう少し
行政官庁におきましても、又
保険の
組合におきましても、
農民に対する
親切味があれば、こういうだらしのない恰好をさせておく必要がないのじやないか。実に情けないことじやないかと私
どもは
考えておるのであります。
それから次には第三の、今回の直接私
どものほうの身に響いて参
つたところの
家畜の
診療についての問題でございます。御
承知のように、
人間におきましてもそれぞれ外科とか、内科とか、或いは産科というようにそれぞれ
専門がございます。
獣医におきましては、更にその上に馬であるとか、牛であるとか、牛でも乳牛であるとか、役牛であるとか、或いは更に豚とか、緬羊とかいうような
家畜がいるのであります。これらのそれぞれ異
なつたところの
家畜を
対象にし、
病気を
対象にいたしまして、一人の
獣医が如何に有能であ
つても、すべての動物、すべての
家畜を完全に見て治療をしてやるということは、これは到底不可能であります。従いまして、現在千六百カ所以上に上るところの
家畜共済の
診療所がございますが、そのほかに現在同じような
開業獣医師が、むしろ
共済の
診療所に勝るとも劣らない
技術なり人員を持
つておるところの
開業獣医師が四千二百余名おるのでございます。これが
分布状態を見まするというと、大抵
開業獣医師のおるところに
家畜の
診療所を
あとから建てておる。このことは当初から私
どもは
開業獣医師の
全面嘱託をや
つて、
お互いに協力して、要するにこういう
施設を完全にやるためには、問題は人の和である。人の和を欠く以上は、こういう本当に
農民に対するサービスということは完全に行かないのだ。だからしてどうかそういう点を
お互いに協力してやれるように、
開業獣医師も
無給で結構だから、全面的な
嘱託にして頂きたいということはかねがね私
どものほうから
農林経済局のほうに申入れしてある。
曾つて現在の
農林次官でありますところの東畑氏が
農政局長でありました
時分に、その
時分の我々の要望を入れられまして、
全面嘱託の
指令を
次官通牒でお
出しに
なつた。ところがそれが
末端においては何ら実行されておらない。そうして次に
開業獣医師というものは高いのだということを吹き込んで、そうして
開業獣医師の排撃を企てておられるのであります。こういう事態が、これはまだ自然の
状態で、現在の
制度のままであればまだ
自由競争の余地が
多分に残されておる。
従つて現在の
状態であるならば我々は多少の
犠牲が出ても、圧迫をこうむ
つても我慢する。ところがこれが
臨時特例というような
体裁のいい名前を借りて、そうして四千二百人の
開業獣医師が今日の
日本の
診療界から追放されなければならん、
追放状態に陥らなければならんというような、国としての
組織、
制度を設けられるということにつきましては、私
どもどうしても
承知ができないのであります。
その次に大きな問題といたしまして私
ども考えられますことは、本来ならばこの
家畜共済問題は私
ども日本獣医師会のほう、それから
共済協会のほうと、これは
農林省の
外郭団体でありますから十分に
話合をして、そうして
お互いに提携をしてこの
事業を円滑に進めて行くというような
方向に出なければならんはずのものであります。ところが私
どもがいつでも
陳情したり、交渉したり、相手にするのは、いつもこれは
農林経済局、まるでこれは卑近な例をとるならば
子供の喧嘩に親が出て来たようなものであ
つて、
子供はいつも親の袖の下に隠れて世間からの風当りをよけておる。そうして最も弱い
団体である
獣医師会が一番強い
農林経済局と矢面に立
つて交渉しなければならん。これは実にみじめなことであります。これでは到底私
ども実は勝目がないのであります、本当を言えば……。こういう厖大なる
組織機構を持ち、
政治力を持ち、金を持
つておるそういう
人たちと、単なるたかがインテリの
技術の僅か一万人くらいしかいない
団体が幾らしやつちよこ立ちしても到底太刀打できません。できませんけれ
ども、こういう強引なことで押し切られたのでは、これは延いては
日本の
畜産そのものの基本的な基礎の上に大きな影響があるというところから、私
どもはこのままでは見過ごされないというので、実は先般来いろいろ国会に向
つて陳情をいたして参
つたのであります。
その次、この
法案が
臨時特例の
法案で
試験法案だということでや
つておるのでありますが、実はこの
法案がまだ通過しておらない。おらないにかかわらず、
経済局ではすでにもういろいろな御照会なり、御
指令を
地方にはお
出しにな
つておるようでございます。そうなると
法案が
通つても通らなくても、すでに
法案の可決される前にいろいろな実際行動をや
つておられる。こういうことは大袈裟に言うと、
立法府と行政府との間における双方の
立場とか
あり方の上から言うても、これは少し行き過ぎではないかというふうにも考らえれまするし、又ほかの
法律であれば、出てから更に
施行細則を作
つたり、いろいろな
通牒を
出したり、
法案が施行される間に三月も半年も間がある。ところがこの
法案に関する限りは、もうすでに
法案の出ない前からそういうふうなことをや
つておられるということは、非常に不思議な
考えを我々としては持つのであります。更にこれがすでに養蚕のほうに関する
農地法の一部
改正だ
つたと思いますが、先般やはり
農地法の
法案が成立されたように承わ
つておりますが、その際には
衆議院でいろいろ御
審議の上、更に参議院との
両院の
協議会をお開きにな
つて、いろいろな
附帯決議をお付けにな
つておられる。そしてその中で最も大きな問題は、
昭和二十九年度におきましてはこれを基本的に再検討をして、そうしてよりよき正しき
農業災害の
あり方を研究しようというふうな
お話合にな
つてお
つたというふうに実は承わ
つておるのであります。ところがそういう
お話合があるにもかかわらず、この
家畜共済だけは、而も四千二百名の多数の
開業獣医師の
犠牲を伴
つておる
法案を遮二無二ここでお通しにならなければならんということ、そのことにつきましても、私
ども非常な疑問を実は持
つておる次第でございます。
それから第四番目には、この
法案がすでに六月の末に
衆議院に上程いたされましてから後、
日本獣医師会といたしましては、結局煎じ詰めれば
農民の
獣医師の
自由選択権を尊重してもらいたいということと、そのためにいろいろな
家畜の
特約診療制度、いわゆる
特別賦課金をと
つて特約診療制度を設けるということにつきまして、それをやめて頂きたい。少くとも現在
経済局でお
考えにな
つているところのAとBのイ、ロと、三つの
法案のうちでAは是非やめて頂きたい。そしてBのほうでや
つて頂いて、そしてこれは
農民が自由に
獣医師を選択できるようにし、又
診療所附近の
開業獣医師が
無給でいわゆる
全面嘱託をや
つて頂いて、両々相待
つて農民の
家畜を守
つてやるようにして頂きたいという
意味合の
陳情をいたして参
つたのであります。ところがこれに対して
衆議院の
農林委員会におきましては、六
項目の
附帯決議を付けられまして通過されたのであります。この
附帯決議を表面から
額面通りに見ますというと、如何にも御尤もで
体裁のいいものであります。併し掘下げて見ますというと、やはりAとBの口というものは二本建にな
つております。殊に
全面嘱託というような問題は否定されて、そして或る特定のものだけを
限つてこれに
有給嘱託をするというふうな形にな
つて、いろいろ前後の
文章は非常に飾
つてありますけれ
ども、とにかく問題は
全面嘱託ではなく少数の
有給嘱託で行くのだという
考えは少しも御変更にな
つておりません。
従つて仮にここに
一つの、五人なら五人の
獣医がおる。そこの真ん中に
診療所がある。その中の一人だけを
診療所の
嘱託にされて
あとの四人がはみ出すということになりますというと、これは我々
獣医師会の
立場から言いましても、又
獣医の同業のよしみから言いましても、そこに非常なやはり
人間的な感情的なトラブルが起
つて参ることは、もうこれはいろいろな事例から見てすでに明らかなことでございまして、而もその
有給の給料の
程度というものはどの
程度のものであるか。又これが
予算案において果して通るものかというような、
予算がすでに可決された後において、こういうものについての
予算措置がどうな
つておるかというようなはつきりした見通しがない今日におきましては、こういう点につきましても、私
ども非常に実は疑いの目を以て見ておる次第でございます。
従つて、できればこういう点も十分諸
先生の御
審議によ
つて、ただ名目だけでなく、実際にこの法がうまく運営ができるような条文にその点をお改めを願いたいと
考えておるのでございます。
それから第五に、従来私
どもは
家畜保険の
始まつたときから
日本獣医師会と
家畜保険の
組合、これはその当時はまだ
畜産局に
所管があ
つたのでございますが、その
時分からやれ
無料診療であるとか、いろいろな問題からいたしまして、当時からいろいろ交渉、折衝をいたして参
つたのであります。併しながらそのたびに、実は私
ども無力でもあ
つた関係もありますけれ
ども、常になだめられたり、騙されたり、すかされたりというようなことで、殆んど我我とのいろいろな約束というものは、これは実際において守られたためしがない。殊にこれが
農業災害と一緒にな
つて、局の
所管が
違つてからこの方というものは、一向に
獣医師会のほうでいろいろな点をお願いいたしましても、そのときだけは時には調子のいい御返事を頂くことがあるけれ
ども、
末端に参りますというと、一向に要領を得ていない。こういうような点からし、まして、この法が若しも成立しますとするならば、これは元来
試験法でございますから、これはもう
試験の場合には、
試験の立会の
試験官もいるわけでありますし、又それを採点する教官もいるわけでありますから、そういう
意味合においてこの法が果して適正に、又公平に行われるかどうかということについての
監察委員会というようなものを設置して頂きたい。それには
立法府の
参衆両院の
議員の諸
先生、それから又
農林省の
経済局長、それから
畜産局長、更に
共済協会長と
日本獣医師会長、これらの六つのそれぞれのポストから
代表者を
出して、そしてこの
試験が果して
末端まで文字
通り適正に行われておるかどうか、それを十分に御
審議を
願つて、そうして今後の
農業災害補償法なり、或いは
家畜共済なりの
制度は十分に
農民のためにもなり、又
共済の
診療所も
災害当時に
開業獣医師の存在を確立して行くことができるというような
方向に、非常に困難なこととは存じますけれ
ども、そういうような
方向に
一つこれを御活用を
願つてや
つて頂きたい、こう存ずるのであります。
それからもう
一つお願いいたしたいことは、この
衆議院の
附帯決議の二の
項目の点でありますが、これは先ほど
横地さんからも
お話がありましたように、「必要に応じ、」というふうな
文句は要らないものだ、そうして「自主的な判断に基いて両者を自由に選択しうるよう
開業獣医師の
有給嘱託制度を広く採用せしめ、且つ専任
獣医師偏重となるような特別な指導方針を執らしめざること。」というこの
あとの二行は殆んど要らないものであります。でありますから「両者を自由に選択しうること」ということだけで私はいいと思います。この場合において
診療所から発行するところの
診療券、この
診療券には、少くともその
診療所を中心にして、直径で三里以内ぐらいの所に住んでおる
獣医師の名前は、ことごとくこの
診療券の中へ書込んで、どの
獣医師のところへ行
つても料金は同じだ、どこへ行
つて見てもいいんだというふうな措置を講じて頂くことを、この
機会に特にお願いを申上げたい、こう念願する次第でございます。いろいろございますけれ
ども、大体率直な
考えは以上申上げた
通りで、甚だ失礼なことも、お耳ざわりのことも申上げたと思いますか、実はこの問題につきましては、この
法案が上程されて以来、殆んど寧日なく苦労しておりまして、而も少し興奮しておるような点もありましたが、その点はどうぞ御了承願いたいと思います。有難うございました。