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国務大臣(
保利茂君) 当面の主要な
水産施策につきまして方針の概要を申述べたいと存じます。
我が国水産業は今次大戦によりまして甚だしい打撃を受けたのでございますが、
漁場の
制約等、悪条件にもかかわりませず、戦後日覚しい
復興振りを示し、今や
漁獲高におきましては年十億貫を超えて、ほぼ
戦前の水準に達しており、
漁船の勢力におきましても
戦前を凌ぐ
状況にあるのであります。併しながら
漁業従事者一人当りの
漁獲高は
戦前に比べまして若干の減少とな
つておりまして、これは
漁業者の
経営の苦しさと、
国内漁場での過剰な
操業努力を示す
一つの証左であると
考えるのであります。
従つて我が国の
水産業の振興のためには、生産の増強と
経営の改善、合理化を促進いたしまするための
施策を重点的に進めなければならないと信ずるのでございます。
次に中小
漁業の
経営の改善について申上げたいと存じます。戦後の我が
水産業の再建は、新
漁業法による
漁業制度の
改革及び
水産業協同組合法による新
漁業団体の育成を支柱として推進せられて参
つたのでございますが、新旧
漁業権の切替えも一段落をいたし、
漁場秩序の再建も進行しておりまして、本年の重点は沖合
漁業の調整並びにこの
制度改革の
効果を保持いたしまするための
経営の改善指導にあると信ずるのであります。ところで
漁業経営の大部分が中小企業又はそれ以下の規模しか持たない薄弱な
経営で占められている関係上、その
経営の合理化を進めて参りまするにつけましても、先ずその資金の調達難に当面して苦しんでいる
実情であります。これと共に狭い限られた
漁場をめぐ
つて、
沿岸漁業者や沖合
漁業者がその利害の調整に悩んでいるのでありますが、一方我が国の近海における
漁場の
調査、開発はまだまだ不十分でありまして、そこに資源の開発の余地が十分存すると
考えている次第であります。
従つてこれに対します
施策の第一といたしましては
水産金融対策でございます。製氷、冷凍、組合自営
漁船等の共同施設につきましては、農林
漁業資金の特融措置を講じますと共に、捕鯨、「かつお」、「まぐろ」
漁業等につきましては、
漁船建造その他について開発銀行資金の融資措置をと
つております。その他の一般的な資金需要に対しましては、農林中金或いはその他の市中金融機関からの融資の円滑化を図りまするため、前国会において成立いたしました中小
漁業融資保証法に基きまして、各県に設立せられる
漁業信用基金協会の保証を行わせることとしまして、目下着々その機能の発揚に
努力中であります。
次に、
水産増殖並びに資源の維持と
漁業調整の問題に対する対策でありまして、増殖対策としましては、内湾、浅海面における海藻、貝類の増殖、内水面における稚魚の放流施設等を奨励して参
つておるのであります。又資源維持及び
漁業調整の重要な
施策としては、底曳
漁業の
整理転換対策でありまして、御承知のように小型底曳につきましては、昭和二十六年度から五ヵ年の
計画を以ちまして減船
整理を実施中でございますが、本年度からは中型底曳についても操業力過剰な海区においては自発的な
転換を奨励する方途を講じて参りたいと
考えております。
次に、近海の資源の開発
調査並びに
沿岸漁業者に対する科学技術の導入でありまして、対馬暖流流域の資源の総合開発
調査を関係都道府県及び大学等の協力を得まして、本年度より本格的に実施する予定でありますが、更に本年度より
水産技術改良普及の
制度を設け、伝承的な勘に頼る沿岸小
漁業者に対する科学技術の導入を図
つて参りたいと
考えております。
なお漁港の整備
事業の推進でありますが、漁港の整備につきましては、第一次
計画として四百五十港の整備
計画を決定し、その
事業の推進を図るため、公共
事業費による財政資金の投入及び農林
漁業資金の特融措置に
努力中でありますが、国家財政の許しまする範囲内で極力所要経費の計上に努めたい所存であります。
第三に、海洋
漁業の振興と国際問題に関連する事項について申上げたいと存じます。昨年四月平和条約の発効に伴いまして、それまで我が
水産業に課せられていた制限は
撤廃せられ、これによ
つて我が国が再び国際
漁場に復帰する途が開かれたのでありますが、これを契機といたしまして、
水産資源の保存と開発に留意いたしつつ、国際信義を旨として規律ある行動をとり、積極的に海洋
漁業の振興を図り、これに
伴つて沿岸から沖合へ、而うして沖合から遠洋へというように、時を逐うて発展する方針をとりまして、これまでの狭い
漁場における資源に対する圧迫をできるだけ緩和いたし、合理的な
漁場秩序の確立を図るべく
努力しつつあるのであります。右の基本方向に沿
つて、昨年北洋の「さけ」、「ます」
漁業を試験操業の形で再開いたしましたが、その結果に基き、本年も引続きその規模を拡大してこれを実施すると共に、「さけ」、「ます」資源の開発のため
政府においてできるだけの
調査を行うことといたしましたが、このほか新たに母船式「かに」
漁業の操業を
許可いたしました。又アラフラ海における真珠貝
漁業についても日濠間の
漁業交渉との関連を十分留意し、統制ある体制の下で行うこととし、本年五月中旬船団の出航を見るに至
つたのであります。又マツカーサー・ラインの
撤廃及び南支那海トロール
漁業の再開に伴いまして、占領中やむを得ず
整理されましたいわゆる中間漁区船に対しまして、東支那海、黄海への復帰を
許可する方針をとり、一方遠洋「かつお」、「まぐろ」
漁業につきましても、逐次
段階的に船型の大型化を認めて行く方針をとることといたしまして、これに伴う
漁業法の特別措置の
法律が本国会の御審議を経て
改正をせられましたので、これが運営と
目的達成に万全を期して参る所存でおります。
ところで、御承知のごとく海洋
漁業の発展には関係国との間に国際的な問題或いは交渉を伴うものが多いのでありまして、北洋
漁業について、すでに日米加三国
漁業条約の成立を見ましたのを初め、日濠の間、日韓の間等については目下交渉中であります。
政府といたしましては、人類共通の資源である
水産資源の保存と開発のため、平等の立場に立
つて関係国と協力することについては、率先これを実行する用意を持
つている次第であります。なお我が国との間に国交の未だ回復していない諸国につきましては、遺憾ながらお互いの交渉を持つすべがなく、現実の
漁業操業に関連して我が
漁船の不法拿捕、抑留事件が跡を絶たない
実情であります。これらにつきましては、外交的に適当な措置がとられつつあるのでございますけれ
ども、平和なる
漁船の保護指導をするため、
政府としましては海上保安庁の巡視船と協力いたしまして、農林省の
漁業監視船を極力
配置いたし、で事故の防止に努めている次第でございます。
以上概略を申上げまして御理解を得たいと存じます。