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説明員(
竹内春海君)
交渉の
模様につきましては、不調に終りましたことは御存じの
通りでありますが、今度の
会談の再開の経緯から簡単に申上げてみたいと思います。
九月の六日以来、
李承晩ラインの強行がありましたので、我が方としましては
漁業問題というものを切り離して
交渉したいという意向を持
つてお
つたわけであります。と言いますのは、
日韓会談は一昨年の十月、当時の総
司令部の斡旋によりまして
始まつた
予備会談というものを入れますると、昨年の二月並びに今年の四月とすでに三回に亙
つて交渉いたしたのでありますが、いずれも難問題ばかりでありまして、これを一挙に解決するという見通しがなか
つたために、その他の問題と一緒に
漁業問題を討議したのでは早急な解決は得られないという見地からしまして、
漁業問題を切り離して
交渉いたしたいという意向であ
つたわけであります。併しながら韓国側といたしましては、
李承晩ラインの要求いたしました真の意図は奈辺にあるかと申しますと、結局におきまして、これによ
つて日本側に強圧を加え、他の問題につきましても
日本側の大幅な譲歩を求めるという意向のようであ
つたのであります。従いまして我が方から
漁業問題を切り離して
交渉をいたしたいと
申入れましたのに対しまして、やはりすべての、懸案全部で五つでございますが、
漁業問題のほか、財産請求権の問題、国交樹立の問題、船舶贈与の問題、国籍処遇、これは在日
朝鮮人の国籍と待遇の問題でありますが、その五つの問題を全部一緒に討議したらということを
回答いたしまして、御
承知の
通り十月六日から再開に至
つたわけであります。再開後の
日韓会談におきましては、本
会議が全部で四回、
漁業並びに財産権の部会が二回、その他の部会がおのおの一回ずつや
つております。で、今度不調の直接の契機となりました請求権の問題につきましては、韓国側の
主張が、御
承知の
通りに、
日本の韓国に対する請求権というのは、平和条約第四条のb項によ
つて全部すでになくな
つておる。併し韓国の
日本に対する請求権が依然として残
つておる。これは第四条a項の規定する
通りであるという建前を変えませず、強硬にそれを
主張してお
つたわけでります。当方といたしましては、昨年度韓国の主席代表でありました梁大使、現在の駐米大使でありますが、これが松本主席代表との非公式の
会談におきまして、しばしばお互いの請求権を相殺してこの問題を解決しようじやないかということを申しておりましたので、今回は
漁業問題というものも、
漁業問題という緊急性に鑑みましてこの案を真剣に
考えようということで進めて参
つたわけであります。そして昨年度の梁大使の発言を持ち出しまして、それについて
向うはどう
考えるかということを質したのでありますが、先方は、梁大使はそういうことを言
つたことはないということを頭から否定しておるのであります。併しながら、その
会談を通じまして我が方が財産権の相殺という案を
考えておるということがほぼ明らかに
なつたものと思います。他方
漁業問題につきましても、二回の部会を通じまして、我が方といたしましては、現に韓国に抑留されておりまする拿捕抑留の停止ということを強く要望いたしまして、同時に
李承晩ラインの
国際法上の当否ということを追及いたしたのであります。併し先方は依然として、
国際法に関する認識が違うんだと、並びに日韓両国の
漁業について非常に隔差があるからして、実質的な不平等を調整するためには、
漁業管轄権というような、一国の沿岸に沿
つた地域をその国だけの占用の
漁場とすることがこの実質的な不平等を是正する
措置であるという
立場を強硬に
主張して参
つたわけであります。で、
漁業部会におきましては、二回に亙る激論がありまして、次の三回目の機会に具体的なこちらの案を出そうという段階にな
つたのであります。併しながら韓国側の最も重点を置いておりますところは、財産請求権の問題でありまして、これは
日本から大幅な譲歩を得ようというところに狙いがあ
つたようでありまして、そんなことをいたしまして、我が方の
考えてお
つた案では満足できないというように
考えたのではないかと思います。そういうことからいたしまして、このまま
会談を継続しても、
漁業の問題について
日本側が具体案を出すに至れば、その妥当なことが世界にわかる。そうするとそれに対して韓国側は飽くまで反対しておるということになりますると、世界的に非常に
立場が悪くなる。こういう考慮もあ
つたかと思いますが、そういう見地からして見まして、今回の
会談を早めに打切りたいというような意図があ
つたやに思われるのであります。そういうことからいたしまして、たまたま請求権部会の非公式な会合におきまして、久保円代表が先方の質問或いは発言に対して答えました言葉尻を捉えて、その言葉尻を本
会議にまで持ち込み、
会談全般を打切
つた次第であります。
思いまするに韓国側としましては、
李承晩ラインを強行いたしますと
日本がますます弱
つて行くだろう。今手を打つよりはもう少し
状況を見て、
日本側の国内的な弱みが出て来た際に又話をするということにしたほうが、客観的に有利であると判断したと思われるのであります。そういう判断に立ちますと、今回の
漁業問題ということにつきましても、今後これだけを切り離して話をするということは、なかなかむずかしい
状況ではないかと思われる次第であります。簡単でありますが。