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説明員(島重信君) 今、一昨日以来濠洲との
漁業問題について、濠洲側におきまして新らしい
措置をとりましたことが報ぜられておりますので、この機会に、日濠間の
漁業問題についてのこれまでの経緯、現在の
状況について簡単に御
報告いたしたいと思います。で、濠洲との
漁業関係の問題と申しますと、具体的にはアラフラ海及びその近傍の
水域における真珠貝の採取の問題でございます。これは古くから
日本人が
行つております。戦争前には非常に盛んに作業を行な
つてお
つたわけでありますが、戦争のために中絶いたしまして、昨年平和条約の発効と共にいわゆるマツカーサー・
ラインの制限が解けましたので、再び出漁できる
状態にな
つた次第でございます。但し昨年中は準備も不十分であ
つたために、実際に出漁する運びには至らなか
つたのでありますが、本年は是非出漁することにしたい。一方、一昨年のサンフランシスコ会議の当時から、濠洲からこの真珠貝の採取事業について、
日本との間に協定を結びたいという申入れがございましたので、この問題につきまして、濠洲との間に成るべく円満に事を進めて行きたいという見地から、昨年の秋以来、しばしば東京の濠洲大使館を通じまして、又
日本の在濠洲大使館ができましてからは、キヤンベラにおきましていろいろ
意思疏通を図りまして、我がほうの本年度出漁計画を十分
説明いたしまして、そうして今年度の出漁が円満に行くようにいろいろ取計ら
つた次第でございます。で、濠洲のほうから申入れられました
漁業協定締結のための
交渉は、その後一時話が全然中絶しておりまして、実は昨年の五月に戦後最初の在日濠洲大使が参りまして、その時からこの問題を円満に遂行するために早く濠洲との間に協定を結びたいということで、こちらからかなり催促したわけであります。濠洲のほうは、自分のほうの準備がまだ整わないので、整い次第
交渉開始を提案するから、それまで待
つて欲しいということで、延び延びにな
つてお
つた次第であります。で、結局本年の三月に至りまして、丁度本年度の出漁すべき船隊が大体三月に
日本を出まして、四月早々から
操業できるようにというのが当初の計画であ
つたわけでありますが、丁度
日本出発予定の時期に当りまする三月に至りまして、濠洲側から正式に
漁業協定締結のための
交渉を開きたいという提案があ
つたのでありまして、その際真珠貝
漁業についての協定締結のための
交渉をするのであるから、その
交渉をする前に、或いは
交渉中に
日本の
漁船隊がその
水域におるということは、
交渉を円満に継続をする上において非常に害があると考える、そういう
状況では、濠洲政府としては、円満な
交渉が行われるとは思わないという強い要望があり、この結果
水産庁とも御相談いたしまして、出発を一時延期して頂きまして、そうして取りあえず
交渉の開始を促進するわけでございます。
で、
交渉そのものは、四月の十三日に開始されまして、
日本側といたしましては、従来のいろいろな
漁業関係の
交渉におきますると同じように、先ず
公海自由の
原則に立脚いたしまして、但し、この真珠貝
漁業というものは、戦前におきましても、これを
業者の自由に放置しておきますと、自然枯渇の虞れがあるということは一応認められておりましたので、合理的な規制を樹立いたしまして、その規制の下に
関係国の各
業者が平等な
立場において
操業できることを主といたしまする案を
日本側から提案いたしまして、その案に基いて
交渉することを希望してお
つたのでありますが、いろいろや
つてみますと、濠洲側の基本的な考え方と
日本の基本的な考え方との間には非常に相違があることがわかりまして、お互いに自分のほうの本来の
立場からだけ話合
つてお
つたのでは、到底妥結の途がないということがほぼはつきりしたわけであります。それで
日本側も濠洲側も何とかこの
交渉をまとめようということで、お互にできる範囲内において
相手方の
立場を考慮したいろいろな考え方を提案し合いまして、十分に
審議してお
つたのであります。で、我がほうからの最後の案が提出されましたのが七月の初め、この七月の初めに提案いたしました案の
内容は、
日本側といたしましては、恐らくこれ以上の譲歩をすることはできない、つまり
日本側の
立場といたしましては、最大限の譲歩をした案であるという
内容のものであ
つたのであります。で、その案に対しまして濠洲側は、これを慎重に検討してお
つた模様でありまして、その回答がかなり延びまして、八月の下旬に至りましてもまだ返事がないという
状態であ
つたわけであります。ところが一方本年度の出漁のほうは、先ほど申しましたように、三月出発の予定を延期いたしましたが、五月に至りまして、漸く本年度出漁するという点につきまして、濠洲側との話合いがつきまして、五月の十四日に串本を出港いたしまして、六月に現場に到達いたしまして、六月から
操業を開始したわけでございます。
で、この
操業する区域につきまして、濠洲側としては非常にまあ大きな関心を持
つてお
つたわけでありますが、それで当初始めます区域は、濠洲側も一応
日本側がこの地域で
操業することに異存はないと言
つておりました所から始めたわけであります。その後の船隊の行動につきましては、
交渉の推移に応じて
日本側で適当に調節するということで話合いが一応できてお
つたわけであります。ところが、その最初に
操業いたしました漁場と申しますのは、比較的狭い漁場でありまして、即ち同じ漁場で六月、七月と二ヵ月、八月に入りましてなお
操業を続けてお
つたのでありますが、これ以上その同じ場所で
操業を続けるということは、結局その漁場の資源を枯渇させることになるということがほぼ確実と認められましたので、どうしても
操業区域を移さなければならないということにな
つたわけであります。その結果、一方、先ほど申しました七月二日に我がほうから提案いたしましたその中に、今度移そうという
操業区域が実はそこに入
つておりまして、そうしてその新らしい
操業予定区域は濠洲側との間にまだ話がついておりません。併し
只今申上げましたような事情で、いつまでも現在の
操業区域にとどま
つているということは、結局資源保護の見地からい
つて反対の結果を来たすということが明らかになりましたために、八月の十日の日に、
日本の採取船団はこれこれの地域に移動するからということを濠洲側に通告したわけであります。そういたしましたところ、八月の二十八日に至りまして、濠洲側からの要求で協定
交渉の本会議が開かれましたその席上、濠洲側はその八月の十日に
日本船団が移動するという通告をしたその通告は、濠洲側から見ると、
日本側で
交渉の継続の
意見がないものと認めるということを
理由にいたしまして、
交渉を打切るということを
宣言したわけであります。で、
日本側といたしましては、勿論その船団の移動を通告いたします際には、これは今年度の出漁しておる船団の行動の問題であり、
交渉の
経過そのものとは
関係ない問題であり、つまり協定というものは今後何年かに亙
つての両国の行動を規制する話でありますから、一応これは分けて考えるべきである。今年度の出漁しておる船団としては、どうしてもこの際動くことが必要であるから動くだけであるというふうに、ことわりを分けて通告したわけでありますが、濠洲側といたしましては、不幸にしてその区別を十分に了解し得なか
つたようでありまして、
交渉打切りの大きな
理由として、その八月十日の我がほうの移動通告を挙げておるわけであります。会議をなお継続したいということを我がほうの全権が強く
主張したのでありますが、濠洲側としては、これ以上会議を続けることの効果を認めないということで、その後会議は打切りの
状態のままで開かれておりません。
それでこちらのほうといたしましては、会議のことでありますから、片方がどうしても出なければ成立しないわけでありますから、会議が打切りに至
つたということを
双方からお互いに協定の
内容の発表をしたい、いわゆるコミユニケと申しておりますが、会議のコミユニケを出してその結末をつけたいという話をその後続けさしてお
つた次第でございます。従
つて日本政府といたしましては、この
交渉打切りの事実を一方的に発表するのは避けたほうがよろしい、濠洲側と話がついたときに共同の声明ということで発表する予定でお
つたのであります。ところが、一昨日突然濠洲の議会に濠洲の真珠貝
漁業法の改正案というものが提案されまして、その席上で濠洲側の所管
大臣であります農商
大臣が、この日濠
漁業交渉が決裂に至
つた事実を明らかにいたしまして、そうして濠洲としては、これに対処するために濠洲近海に対して濠洲の主権を及ぼすという
宣言を発し、又国内法である真珠貝
漁業法の規定を、国籍の如何を問わずその濠洲の主権を及ぼすと
宣言した
水域内において
操業する場合においては、濠洲政府の許可を受けなければならないという
内容の法案を提案したのであります。その際の農商
大臣の演説の
内容の詳細及び法案
内容の詳細は、まだ一昨日のことでありますから、こちらに入手しておりません。ただ
只今までに到達いたしました
日本の在濠大使館からの
報告によりますと、その法案の主な点といたしましては、普通
国際法上大陸棚と言われております水深約二百メートルの範囲内の濠洲周辺の
水域に対して濠洲の主権を及ぼす、その目的のために
宣言をする、一方真珠貝
漁業法の適用区域といたしまして、それと同じ
水域を濠洲
水域として定める、その濠洲
水域において真珠貝
漁業を営もうとする者は、濠洲政府の許可を得て濠洲法令の下においてやらなければならない、これに違反した者は濠洲法廷において裁判の上罰則の適用をするということにな
つておるようであります。なおその際の農商
大臣の演説中の主な点といたしまして西大使から
報告して来ておるところによりますと、大陸棚に対する主権の
主張は、米国と同様に
宣言によ
つて公表する。それから
日本側の、先ほど申しました八月十日付の通告は、濠洲が
日本の提案を考慮しておる最中に余儀なく行われたものである。又その通告による
日本側の予定採取トン数というものは、濠洲から見ると、資源保護の見地から見て、これまではよろしいという制限を越える夥多なものである。又ダーウインを根拠とする濠洲側の
業者の採取量がそれに応じて少くなる。一方その濠洲の、
只今申しました
主張を根拠といたしまして、
国際法の最近の趨勢、特に本年に至りまして
国際連合の国法法
委員会の答申案によ
つて、この大陸棚に対する沿岸国の
権利の
主張というものは非常に認められるようにな
つて来たということで、その
国際法委員会の
報告に一応根拠を置いておるようであります。そのようにいたしまして、一昨日濠洲の真珠貝
漁業法改正法律案が濠洲の下院に提案されておりますが、本日の電報によりますと、昨日下院を通過したそうでございます。それでキヤンベラの
新聞報道によりますと、恐らく一週間くらいでこの法案が両院を通過いたしまして成立することになるだろうと報じておるのであります。
以上がこれまでの
経過でございます。
只今までのところ
日本側の船団は平穏無事に行動しておりまして、又濠洲側との間に何らの摩擦も起しておらないわけでありまして、それは
水産庁のほうから
監視船が附添
つて行つておりますし、又漁獲トン数におきましても、取りまする貝の大きさの制限におきましても、非常に厳重な制限を励行してや
つておりますから、その点につきましては、濠洲側から文句を言われる筋合いは全然ないという点は確信をいたします。併し今後大体十一月一ぱいは
操業を続ける予定にな
つておるらしいのでありますが、果してその時期まで
只今と同じように円満に
操業が継続できるかどうかという点につきましては、多少の危惧を抱かざるを得ないわけでありまして、一応
只今のところ濠洲側のこの改正法律案もまだ議会で
審議中でありますから、どういうことになりますか、ここで確定的に申上げるわけには行かないのでありますが、一応
外務省といたしましては、この濠洲国内におきまする
事態の推移を十分
注意しておりまして、そのときどきに応じて必要な
措置をと
つて日本側の
立場というものを明らかにすると共に、
日本側から
国際法上当然
日本に認められた
権利というものを擁護するために万全の
措置をとりたいと
思つておる次第であります。以上御
報告を申上げます。