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山下義信君 私は社会党第二控室を代表いたしまして、本案に反対の意を表するものであります。
実は、昨日来
質疑をいたしまして明瞭に相成りましたように、又本日の
質疑に私申上げましたように、こういう案はもう我々が審議する
対象にならない。
質疑をすること自体が馬鹿々々しいようなものだと思う。やや
保険制度の体裁を成しておるならばこれは
質疑をする価値もありまするが、余りにその粗雑さと言いますか、むちやくちやと言いますか私はこういうものを
厚生省が
保険法であるとい
つて出したその気持を疑うということを申上げたいのでありまして、一応大だたいなところは、この
法案の欠陥と言いますか、そういう問題点を指摘しておきましたが、細かいことを申上げたらもう切りがない。それほど不完全なものでありますることは、もう
自他周知であります。私はこういう
日雇労働者の
健康保険制度、即ち、久しく
関係者の各位が望んでおりました
健康保険制度はこういうものでないことはもう言うまでもないのであります。こういう
日雇労働者に対して、果して特別の
保険制度を布くということがいいか悪いかということも問題なんです。本来言うたならば、
健康保険法に入れてしまえばわけはない。現在の
健康保険法の中にはこの種の
対象がわざわざ
法律の中に排除してある。そこだけ削り取
つてしまえば皆
対象者としてカバーができる。これをわざわざ外へ出して別仕立にするということは、元来これは我々が社会保障
制度を確立して行こうという上においては、どつちかと言えば邪道なんです。先般も私立学校の教職員の共済組合
法案という別仕立ができたことについて、我々が異議を唱えたのもやはりそうなんです。我々の目標はどこまでも社会保障
制度への確立、社会保障
制度の整備、拡充という一点に向
つて目標を誤またず進んで行かなければならん。大体こういう別仕立の
健康保険制度を作ること自体が我々は問題であると思う。併しながら、現下現実の
状態においては、いろいろ諸
手続の上においてこれを
健康保険法の中に取入れるということになれば、非常にその条文の取扱いの諸
規定というものが複雑多岐になるという
関係から、むしろ
健康保険法を改正する、
健康保険法の中に取入れるということよりは、外に出して別の
制度、別の
法律を作
つたほうが煩雑でなくてよろしいという以外には別仕立にする
理由がない。強いて必要があるとするならば、この種の人たちの収入に鑑みて、料率を特別扱いにするかどうかという点にあると思うのでありますが、或いは又その他の諸条件につきまして、特別な計らいをするという以外には別仕立にするという
理由がない。やるならばそれはやらなければならん。先ほどから
質疑の中に湯山
委員が述べられたように、その
適用の範囲を拡大するということなんです。これは
日雇労働者保険というものを
政府が考案をしておるというようなことが伝えられたときに、
厚生省の
当局は、当時牛丸君であるか、新聞に出てお
つたと私は記憶するが、将来は、家庭に出入りする手伝いの大工さんのような人も、或いは女中さんのような人にも、一人々々に
適用して行く
考えだと、こういうことなんだ。それが当り前なんだ。そういうものを作るならば如何にも
対象の範囲の拡大の上においても意義がある。今回はそういうこともしてない。そうして料率も安くない。この点は私が指摘いたしましたように、詳しいことは避けまするけれ
ども、こういう料率ならば、現在の
健康保険の標準報酬を大体同じものに比べてみると、
健康保険の料率の七割四分四厘に当る。そうして
給付の
内容程度を比較するというと、
給付の程度というものは
健康保険のもう半分以下の程度なんです。料金は七割五分近くも
健康保険に比較して取
つておいて、そうして
健康保険の
給付内容の半分以下の
利益も与えないというようなことはひどいのでありまして、又運用の
手続等も今日の
状態から推算をすると実に煩雑であるということが予想されるのです。支給資格の
要件等につきましても、本員が指摘いたしましたように、苛酷であるというようなことにつきまして、又この部分が私
どもの
考えでは粗雑であるということのほかはないのであります。殊にこの
給付内容のことを言うと、きりがありませんが、今
質疑の中で湯山君は傷病手当金のことを言われましたが、これもまあ当然のことでありますが、私
どもが一番気のつくことは、いわゆる分娩
給付というもののないことなんです。これは著しい欠点なんです。
日雇労働者の少からん数が女子なんです。女子に必要なるところの
給付というものが
考えられていないということも、一々言
つてれば、きりがないのでありまして、私
どもといたしましては非常に本案の不完全なることに驚くのであります。殊に
日雇労働者の
療養、治療を受けました者の、
政府の資料によ
つてその支払い状況を見るというと、その三割九分二厘というものが
生活保護法によるところの
医療扶助なんです。結局
政府の
日雇労働者健康保険というものは、全額
負担するところの
医療扶助を、八割が
国庫で二割が地方とい
つてみたところで、結局
政府若しくは公共団体で
負担しているところの
医療扶助の最近の統計で言うと、四億を擁しておるというが、その
医療扶助を結局
労働者の自前に切替えるそれだけのことでこの
日雇労働者健康保険法というものを出したと言
つても、弁解の余地がない。そうして
医療扶助とこの
保険の被
保険者に
なつたものとの
関係というようなものについても極めてあいまいなんです。
国保に対しては先般私
質疑の間に述べまして、湯山君が重ねて
質疑されましたが、或る
意味においては全く
国保扶助の
関係も不明確なんです。衆議院でもこの点が論議されてあるようでありまするが、わざと
国保から程度を下げ、むしろ
国保のほうに入
つたらどうだと言わんばかりの勢いが見えるということも言い得られる。殊に本案について一大欠点といたしまするところは、言うまでもなく
国庫の
補助がないということなんです。他の労働
関係の
保険におきましては
国庫の
補助をいたしておる。然るに同じく
労働者の
対象とするこの案に対しては
国庫の
補助がない。それならいつそ金を出さんのかと言えば、何とか失業
関係事務管理というような名前でその三分の二を国が
補助を出す。使用者のほうにはこういう半額の
保険料の
負担は気の毒だからと言
つて出して、使用者のほうというのは皆公共団体、そういう
市町村に
補助を出さなくても、この
保険全体に
補助を出せばいいのに、
保険制度には国の
費用を一文も出さない。そんな心配をしなくてもいいような
市町村には、この
保険料を引受けた三分の二は出そうという、力瘤の入れどころが大変私は間違
つておると思う。弱い者のほうへ応援をして行かなければならんのに、弱いところの被
保険者はそのままにしておきまして、そういうことをやるというようなことを一々指摘いたしますると、私は殆んどこの
法案は審議の
対象にならないと思う。併し、これは
厚生省当局でもこの案を以てこれがいいとは
考えていないということは、もう昨日来からよくわかるのでありまして、
厚生省が当初
考えた案は、我々両社会党が衆議院に提出いたして、未だ審議を受けておりませんが、それに近いものが
厚生省は
考えたということ、その
予算は二十九億近くを擁する案が
考えられたということなんだ、これが当り前なんです。私は本当を言
つたならば、こういう
法案は出さんほうがいい。こういう案は初めから出さんほうがいい。日本国中風が悪いばかりじやない、外国に聞こえても風が悪い。日本の社会保障
関係の
政府はこういう案を出したと、今頃世界中にこれを見せたらとんでもない物笑いになると思う。恐らくこれはまあ大蔵省が聞かなか
つたとか聞いたとかは別問題として、こういうものを出したのはないよりもましだろう、むしろこういうことから始めて、そのうちにだんだんだんだん、一歩々々ということを先ほどからも漏らして言
つておるのでありますが、そうや
つてみて、悪いところを大蔵
当局にも見せ、だんだんとこれは直して行かなければならんという実績を白日の下に曝して、それから悪いところを見てもら
つて、だんだん手直しをして行くという
考え方が、今日の社会保障
制度の漸進のこの段階において、もろもろの
保険制度が未熟な非常な不完全から出発をして、漸次それが補強せられた、ああいうコースを今頃辿
つて行くという
考え方それ自体が果して私はどうかと思う。むしろこの際にはこれは出さずに、そうして改めてしつかりした
制度を
考え、
内容を備えて出直すべきが私は至当ではないかと思う。殊に指摘しておきたいことは、
関係の社会保障
制度審議会、
社会保険審議会等が、この案の私が申上げたような諸点或いはその他についても十分不満の意を表しておる、それをも押切
つてこの不完全なものを出すということは、真意が奈辺にあるかと私は了解に苦しむ。それで、
当局は
質疑応答の中に十分将来は
一つ考えて、直すところは直すのだということでありますから、一日も早くそういう方向へ持
つて行
つてもらいたいと思うのですが、私はこういう不完全なものを出す
考え方の裏には、
労働省とどこまで相談して、
労働省がどこまでこの案を出すことに賛成したかどうか、内面のことは知らんが、
労働省にも
関係がある。
厚生省当局がこの程度のものでも出そうという
考え方の裏には、一体
日雇労働者健康保険というこの
制度は、どういう性格のものと
考えて出しておるのかということなんです。恐らく
日雇労働者というものは憐れむべきものである。
生活困難な低額所得の階級で、保護を要する気の毒な
階層なんです。幾らか何とかして上げないよりはましだ、少しでもこうしておいたらという憐憫の情を以て、同情を以てこういう
制度を
考えたというようなことが若しあるとするならば、私はそういう
考え方があることを言
つたのではないから、はつきりとは申しかねるが、そういう
考え方が潜んでおるなら、私は非常な誤りだと思う。私はこの
法案が不完全だいいうよりは、こういうものを出すその背後に潜む思想が、この種の
日雇労働者は気の毒なんだから、こういう
制度を布いて少しでもあの人たちのためになるというような
考え方、同情的な、恩恵的な
考え方、私はこれは寸毫もあ
つてはならないと思う。社会保障は慈善
事業じやない、
社会保険は社会
事業じやない。我々はこの種の
保険制度を社会政策的に
考えられたその時代を一日も早く通過して、私
どもは本当の社会保障
制度の理念に立
つた保険制度を
考えて行きたいと念願をいたしておる。これは
政府が金を投ずるのじやない。これは少額所得者の
労働者のその乏しき中から
保険料を出させ、その人たちの自前によ
つて、その人たちのものとして
政府が
法律によ
つてそれを保障して行こう、それを確認して行こう、この運営には、その
給付内容すべてのものは
保険料を出したものがみずから運営し、みずから
考えて行く権利がある。
政府のお陰で
療養給付してもらうのではない、これは自主的なものなんです。
日雇労働者が自主的に持つことができる
保険制度なんです。社会
事業でもなければ、恩恵でもなければ、恩典でも何でもない。ただこれらの
制度の運用上
保険者は
政府みずからが当ることが適当だから、今日は
保険者が
政府という案が立てられてある。これはいつそのこと
法律がこの種の
日雇労働者保険者は
日雇労働者組合みずから当る、そうして諸君の
保険料を徴収して、諸君がみずからこの
保険の
内容を
考え、その運営も諸君みずからやれと言
つて、これはあの人たちに与えてもよろしい。そうしてその必要なる
費用を国が
補助して行くということが本筋なんです。最近著しく我々の耳目を餐動ずるのは、
国保に対する
補助費の増額である。然るにこの種の
健康保険の創設に対しては
政府が未だに一顧だにその
給付に対して
補助をいたそうといたしておりません。私
どもはこの本案の
考え方の上におきまして一抹割切れないものがある。その
法案の
内容その他に至りましては、先ほど申上げましたように、殆んど審議の
対象にならん。社会保障
制度においては諸外国に比してさほど遜色のないと言われておる日本において今頃こういう程度のものが
考えられ、
理由は何であろうと、これが白日の下に国会に姿を出したということは、私
どもは非常に悲しまざるを得ない。その
意味におきまして我が党は別に両社会党が共同提案しておりまするしつかりした案も持
つておる
関係もございまして、
政府提出案は非常に不完全なるものでありまして、百害あ
つて一利なしと
考えますが故に、私は本案に反対の意を表するものでございます。