○田中一君
委員会の
決定によりまして去る六月九日より十二日に至る四日間に亙
つて利根川水系建設事業を実地
調査いたしました結果を簡単に御
報告いたします。
これは
小沢久太郎君と小笠原二三男君と私でございます。
調査の日程及び視察個所についてはお手許に配付いたしました印刷物にある
通りであります。
現在利根川
治水並びに砂防事業は、いわゆる改訂改修
計画に基いて行われておるものでありますが、一応現在に至る道程を顧みますと、明治初年より利根川においては他の大
河川におけると同様、主として航路維持の
ための低水
工事並びに
災害復旧工事が行われて参りました。併しその後明治十八年、同二十二年、同二十七年と連続的に大出水を見、
災害をこうむるに及び、ここに政府は
根本的
治水計画を樹立して事業を行う必要を感じ、明治三十三年上り着工したのであります。その後明治四十三年に再び未曾有の出水があり、一部
計画を改正して、
昭和五年に至り事業の完成を見ました。更に
昭和十年に又もや
災害をこうかりましたので、
計画洪水量を修正し、これを増補
計画と名付け、
昭和十四
年度より十五カ年
計画を以て着工したのでありましたが、戦争の
ため遅々として進捗しないまま戦後の大
災害を迎えたわけでありまして、その結果三たび
計画を修正し、
昭和二十四年、今日のいわゆる改訂改修
計画が樹立されたものであります。これは利根川、烏川合流点の
計画伏水量を毎秒一万七千立方メートルと想定するものでありまして、
計画の概要についてはここに一々
説明することを省略し、お手許に印刷物として配付いたしました。以下各視察個所についてその
状況及び所見を簡単に申述べることといたします。
一、江戸川改修
工事、現在江戸川に行われていますのは、行徳における可動堰の建設、野田より
上流区間の引堤及び野田より下流区間の掘鑿並びに堤防蒿上げ
工事等であります。即ち全体
計画を三期に分ち、先ずその第一期として、毎秒三千五百立方メートルの
洪水流下を目標として
工事を行な
つているのでありまして、これは
昭和三十
年度には完了の見込であります。行徳可動堰は現在橋脚
工事を行な
つておりますが、これについて地元上り可動堰の個所を閘門として
上流へ舟航し得るよう考慮されたい旨の陳情がありました。引堤区間は大体河幅二百四十メートルより四百メートル
程度に拡げるものでありますが、この
ため三百八十六万平方メートルのつぶれ地を生ずるものであります。特に宝珠花村における土地買収は、村の希望に上り部市
計画事業を併せ行い、土
地区画整理をした結果極めて円滑に完了したものでありまして、今後同様のケースが各地に起る場合の参考に供すべきものとして注目に値するものと思われます。関宿における分派
計画については、
地方建設局において現在なお
技術的見地上り水理実験を行な
つて検討中でありますが、地元五霞村では成るべく速かにその
結論を
出して
計画を提示すると共に、事業施行に伴う土地買収については、替地その他補償に万全の
措置をとるよう要請されております。引堤に伴う行政
地区の分合についても相当考慮せねばばらんものと考えられます。
二、利根川下流改修
工事、下流部においては主として銚子の導流堤建設及び本川の浚渫、堤防蒿上げ並びに附随的土地造成
工事が行われております。導流堤は
昭和二十四年着工、すでに延長九百三十メートルを完成して河口に堆積する漂砂の排除に相当効果を挙げております。今後引続き三百五十メートルを延長し、これに要する工費は約二億五千万円と算定されておりますが、現在の進捗
状況ではなお六—七年を要する見込であります。地元においては導流堤
工事の促進と銚子港の整備による市の発展を企図しておりますが、これは更に
上流、佐原、土浦港の港湾整備並びに霞ヶ浦
地区の開発に関連する航路整備等の問題と相待
つて総合開発の見地より考究さるべきものと考えます。佐原、小見川その他の地先においては、現在合計一千馬力、四隻の浚渫船を駆使して浚渫を行な
つておりますが、それでもなお年間この
地区に流下堆積する約三百万立方メートルに匹敵する土量を浚渫し得るに過ぎない状態であります。今後
上流砂防堰堤
工事の進捗と浚渫船の増強が必要と考えられます。更に利根放水路の開鑿が改訂改修
計画中の重大なる一課題として
残つておりまして、当
地区においては現在農林省の印旛沼、手賀沼干拓
工事が行われておりますので、これと関連して地元に放水路開鑿反対の意向があり、又千葉県としても種々希望条件を付けているようであります。これに対しては
技術的且つ経済的に十分検討を加え、
関係者の
意見の調整を図
つて、速かに実施
計画の策定を図るべきものと考えます。なお小見川附替
工事は地建において曾
つてその
計画は発表され、地元の反対に行き悩みの状態でありますが、これについても早急に解決せねばならぬと考えます。
三、利根川
上流部改修
工事、本区間としては本
川筋、川俣、関宿間の一部引堤
工事及びその他浚渫、堤防蒿上げ
工事並びに渡良瀬游水池の低水路浚渫と堤防増強等が行われております。従来最も危険であ
つた栗橋附近はすでに引堤
工事を完了しておりますが、その他の地点においてはなお多く応急的ないわゆるかみそり堤防と称せられる個所が
残つており、
昭和二十二年
災害によ
つて破壊を生じた個所は
復旧されましたが、
災害を受けなか
つた個所はなお延長七十キロメートルにわたり頗る危険な状態に放置されております。維持費の増大を図
つて早急にこれらの護岸水制
工事を施行しなければならんものと考えられます。
四、渡良瀬川
上流改修
工事、渡良瀬川は足尾銅山より流れ出す土砂量は年間百万立方メートルに達すると考えられ、このうち粒度の大きいものは
上流足利市以北に、土砂は渡良瀬游水池に沈澱し、著しく河床の上昇を招き、二十二年或いは二十四年
災害の因をなしたものであります。従
つて現在の改修
工事は、足利市における
計画供水流量を毎秒四千立方メートルと定め、堤防を拡築し、或いは掘鑿によ
つて河積の増大を図
つております。岩井山における狭窄部の除去については、下流部の改修
工事進捗の
状況を勘案して現在検討されております。矢場川の改修は、渡良瀬川改修に附随して是非行わねばならんものでありますが、群馬、栃木両県の県境とな
つている
ため、両県において改修
計画の調整を図る必要があります。
昭和橋と錦桜橋の間は二十四年
災害で破堤した個所の
災害復旧工事はすでに完了しておりますが、堤防の拡築は現在これを施行中であり、暫定
予算の影響を受けてやや手待ち状態でありますが、本
年度中には完成されねばなりません。
次に、五、砂防
工事、渡良瀬川水源地帯足尾鉱山附近は煙害の
ため周辺約二十四平方キロに亙
つて全裸荒廃地とな
つて、農林省及び
現地鉱山所によ
つて施行された若干の山腹
工事も効果なく、流出土砂量は年間五十万立方メートルを繋る有様であります。内務省時代、
昭和十二年より堰堤
工事が行われて来ましたが、現在
建設省に上り直轄施行されておりますものは足尾堰堤外二カ所であります。なかんずく足尾堰堤は高さ三十二メートル、長さ二百五メートル、総立積九千二百立方メートル、推定堆砂量五百万立方メートルの大堰堤であります。
昭和二十五年見返
資金の導入を得て着工、すでに七〇%を完成し、総工費四億円を以て
昭和二十九
年度完成の見込であります。併しながらこの大堰堤を以てしても漸く十カ年余の寿命を保つに過ぎないのでありまして、速かに煙害処理の実を挙げ、直ちに山腹砂防を実施する以外に途はないと考えます。利根川支川、沼尾川
上流敷島村附近は、
昭和二十二年出水の際赤城山系の崩壊土砂が多量に流
出し、
ために大
災害をこうむ
つた個所でありまして、現在なお山腹崩壊の跡が歴然と
残つております。この地点においては土砂貯溜並びに河床安定の
ため堰堤
工事を行な
つておりますが、赤城山系については
昭和二十二年出水の際、各
河川に新たに九百八十四カ所、合計二百四十八町歩の山地崩壊を生じていると推定されておりまして、
災害を防除する
ためにも、砂防
工事を一層促進すべきものと感じられました。利根川
上流藤原堰堤は、
洪水調節を主目的、発電を副目的として、昨
年度より
建設省直轄
工事として施行されております。現在は迂回県道、材料運搬道路、仮設木橋等、準備
工事を行い、諸器材を購入、設置しておりますが、本
年度を以てほぼ完了し、来
年度より本
工事に着工し得る
予定とな
つております。堰堤は高さ九十四・五メートル、長さ二百三十メートル、堤体積三十九万一千立方メートル、貯水池の有効貯水量三千六百七十万立方メートルであり、堰堤
工事費は三十四億七千万円、発電の最大出力八千キロワツト、年間増加電力量一億四千六百万キロワツト時であります。又貯水池として水没するものは、家屋九十戸、田畑四十一町歩、山林百五十町歩等であります。これらの
移転並びに買収補償についてはまだ具体的交渉の段階に入
つておりません。一時感情的問題の
ため、一部地元側より反対の声がありましたが、現在すでに解決を見ておりま5ので、今後具体的交渉を行うに当つLは慎重に取扱い、先に
決定された電岨開発用
ダム建設に伴う補償要項に則リ、十分の
措置を講ずる必要があると並われます。ただ
地方の希望として、でき得る限り
現地附近に代替地を求めて
移転したい向きがありますが、水没地附近は国有林が多く、この払下げと受けることについては将来相当の困難が予想されまして、特別の
措置を要するものと考えられます。因みに発電事業に関しては東京電力株式会社が行うことにな
つております。赤谷川相俣堰堤は、群馬県営として、本
年度予算の配賦を待ち着工の
予定とな
つております。堰堤は高さ六十五メートル、長さ八十メートル、建設費六億七千四百万円中、公共事業支出分四億三百万円であります。これにより
洪水調節を行うと共に、灌漑及び発電を行う
計画とな
つております。県の
調査結果によれば、本地点は交通の便よく、且つ有効貯水量に比し堤体積が比較的小さく、
工事は安価且つ短期に完了し得る利点を有すると称せられております。以上のほか、現在
調査中のものに堰堤がありますが、毎秒三千立方メートルの
洪水調節を行う
ためには、なお数カ地点の堰堤を必要とするもので、速かに
調査を行な
つて、堰堤
計画を確定すると共に、多目的
ダム建設に附随するアロケーシヨン、建設後の
ダム管理等の諸問題について適切な
方針を確立することが望まれます。
以上各視察個所について簡単に申し述べましたが、改訂改修
計画の工費は、本
年度物価に換算して約一千億と推定され、現在
予算配賦
状況より見ますと、これが完成には実に数十年を要することになります。従
つて今後更に
河川費の増額を図り、事業の促進を図る必要のあることは当然でありますが、
制約された
予算の範囲内で一層
技術的
研究を行い、
予算を重点的に使用する等、事業効果を更に増進するよう検討を加えることが望まれる次第であります。
最後に利根特定地域総合開発について一言附加えますと、
計画の基礎をなす各都県の
計画はすでに
中央に提出され、近く審議会の
調査審議を始める段階にあります。ただ本地域については各都県の利害が非常に錯綜しておりまして
治水並びに利水の両面において
計画策定の前提条件として解決すべきものが多々ありまして、これら諸問題については、少なくとも
根本的
方針だけは速かに確立する必要があると思われますが、これが
ためにも総合開発
調査費は更に拡充すべきものと考えます。
以上を以
つて報告を終ります。