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政府委員(中村豊君) 免許
制度を撤廃した場合に予想されます弊害は、自由競争のいい点を越えてしまい、不当競争になることが予想されるのであります。自由営業になりますと、自動車事業は、御承知のように興業費が僅かなもので済みます。自動車一台持
つておれば、車庫がなくてもまあやろうとすれば仕事はできます。その自動車も、中古自動車を買えば、タクシー、ハイヤーならば二、三十万円、トラツクでもその
程度で済むと思います。バスなら中古を持
つて来れば五、六十万円。一そういうことで一台で事業をやれます。それからお客さんは安ければ安いほど乗手が多い。ですから運賃もうんと勉強して安くする。そうすると、成るほど利用者は如何にも便利に
なつたように
見えるわけでございますが、その結果はまじめに立派な設備を持
つて、
従つてそれだけを賄えるだけの適正運賃を頂いてやろうとするものが、運賃ダンピングの結果荒されて
経営ができなくなる。撹乱されるということが起ると思うのであります。そうしてや
つているうちは、まじめな業者は、擬乱されまするけれ
ども、結局倒れなくて恐らく持ち堪えるでありましよう。ところが小さい不当競争をやる業者は、一年もたたないうちに倒れてしまう。ところがそれから次から次に同じようなものが出て来て、現われてはなくなり現われてはなくなり、泡沫のように消えてしまうだろうと思います。そういうようなことがたびたび重なりますと、結局まじめなしつかりしたような業者までその根底を揺がされて、しまいには倒れてしまう。こういう状況が、今までも、
日本でもしばしば起
つたのでございます。そこでこれではいけないというので、免許
制度にしまして、まあまじめな業者が安心して事業をや
つて行けるようにする。そのためには自由営業にせずに、特権を付与する。言葉は過ぎますけれ
ども、事業をやれる権利を付与する。そして安心して事業をやれる、不当な競争にさらされなくて済むというふうに企業の安定を図らしめる。そうすると事業者は安心して、車両、設備、車庫その他のサービスをよくし、又運賃もできるだけ勉強をするということでや
つて行けるわけでございます。ところがその権利だけを擁護されますと、これは権利の上に眠るという弊害が起りますので、その半面、運賃は運輸
大臣の認可を受けなければならない。又事業計画は、認可を得てその
通りを実行しなければいけないし、その
通り事業計画を実行しましたときには、事業計画
通り営業することを命令される。又事業が悪いときには事業改善の命令を課せられる、又公共の福祉を確保するために、いろいろ運送命令その他を課せられるというような、義務をいろいろと課され、厳重な監督に服している。その代りに事業が勝手に廃止されては利用者が困りますから、事業廃止は勝手にできずに、許可を受けなければできないということにするとかいうふうに、一面権利を与えると同時に、他面厳重な義務に服するという建前をと
つているのがこの免許
制度の根本精神であります。これはひとり我が国だけではなしに、世界各国ともこのような傾向にむしろ進みつつある。統制は強化される
方向に進んでおるわけでございまして、まあそのような小業乱立、不当競争、業界潰乱、健全な事業者の壊滅というようなことを救済するために、是非免許
制度をとらなければいけない、かなうに思うわけでございます。
第二に、結局同じことになるわけですが、そのような問題は、ひとり自動車界だけの問題と限定して
考えるべきではなしに、自動車界がそのように混乱しますと、結局同じような交通事業である
鉄道軌道がその被害を受ける。又広く他の海運業にしましても、航空業にしましても、交通事業でありますから、目的を同じくする範囲においては同じように被害を受けまして、多額の資本を投下した
鉄道その他の事業がこれ又混乱させられる。交通の全体の秩序が保たれなくなるというような広い見地から
考えましても、小業乱立は避けなければいけない、こういうふうに
考えるわけでございます。
第三の
理由としましては、少し具体的な話になりますが、自由営業にして勝手にあれしますと、その資力、信用のない者が営業をやり、お客さんを運び荷物を運ぶと、仮に事故が起
つた場合に、その損害賠償ができるだけの資力を持たないために、測り知れない損害を利用者に与えることになりますし、車両の整備にしても、運転者の教養にしても、一応法規で定められた形だけのことはバスしましても、それ以上の力を入れませんし、いつ何時事故を起すかわからんということで、利用者の保護に欠けるところがあるということも
考えますと、このような貴重な他人の生命財産を預かるような事業は、その事業開始のときに、厳重にその申請者の資力、信用及び適格性と申しますか、或いは又責任能力というものを十分審査する必要があるわけでございます。これを自由にすると、そのような審査ができないという弊害があるわけでございます。まあいろいろございますが、かいつまんで申上げれば、そのようなことであると思います。