○羽田
委員 たいだまの
大臣の
お話によりますと、やはりアメリカ側においても郷に入
つては郷に従う
ように将兵に対しては戒めておる、また
日本は
日本側としてのことをや
つておるということでありますが、この問題はほんとうに厳粛に、アメリカ当局に対してやはり
日本の風俗習慣というものを尊重する
ように、特にこの上とも御注意をお願いをいたしたいと思うのであります。この問題が片づきますと、純真な婦女子の方々のこの運動に巻き込まれることもだんだん少くなると
考えるのでありまして、この点については特にお力をいただきたいと
考える次第であります。
それからやはり承
つてだんだんわか
つて来ることでありますが、内灘の問題あるいは浅間山の問題、いろいろな問題で
陳情隊が参り、また
新聞の論調、雑誌の論調、いろいろなものを見ましても、いかにも
日本政府が弱腰であるという
ような印象を持ち、占領下のごとき態勢がそのまま続いておるのだという
ような印象があるのでありまして、この点はただいま
大臣もいろいろと御苦心の点を明らかにされたことはけつこうでありますが、とにかく道理のあるところには従うということで、特にこの際
大臣にもはつきりと強い意思をも
つて道理のあるところを主張する
ように、この上も努力をしてもらいたいということをお願いいたします。
その一つのケ
ースといたしまして、今問題に
なつているのは、学問と演習地の問題でありまして、学問というものに支障があるということで、浅間山の問題があることは御
承知の
通りであります。浅間山は世界有数の活火山でありまして、有史以来大噴火をしばしばいたしております。ことに一番大きかつた天明三年の大噴火のときには、大泥棒のために吾妻川を閉塞して、その決壊によるところの大洪水のために、死者千五十一名、流失家屋千六十一戸にも及んでおるのでありまして、あの山は平常おとなしくしている
ようでありますが、過去の歴史において一千名以上の人が一ぺんに死んでしまうという
ような、うちに貯えた猛烈な力を持つた山であるということを、まず頭に置いていただきたいと思うのであります。この火山活動の人間生活に及ぼす大なる危険と、火山現象の
研究の重要性にかんがみまして、明治四十二年に震災報予
調査会により浅間山の
研究が始められまして、その後
昭和八年現在の浅間山火山の観測所が東大の地震
研究所の支所として創立されたのであります。そうして今では世界に比類なき火山の総合的な
研究の場所として著名なものであることは、私から申すまでもないことであります。火山観測所は世界でこの浅間山とハワイのキラウエヤ火山観測所の二つあるだけでありまして、若い真摯なる科学者たちが、厳寒の深い雪の中にでも交代で不眠の観測と
研究を続け、ことに軍万能の太平洋戦争中でさえも、遂にこの
研究に対しては弾圧もなく、その学者は一日もこの
研究を休むことなくして、今日まで二十年間の尊い貴重な記録を残し、また
研究の業績を持
つておるのでございます。その間火山噴火の予知の上に世界学界に誇る幾つもの輝かしい業績をあげ、その
厖大なる報告書は世界地球物理学界の注目の的に
なつておるのでございます。
従つて今回浅間山の観測所一帯の地が米軍の演習地として指定され
ようとするや、米国の地震学界を初め、世界各国第一流の学者からして、浅間山が演習のために
研究がなされないという場合には、
日本科学者だけの問題ではなく、世界の科学者にと
つても非常な損失になるというて、境を越えて学問
研究のために心痛する二十数通の手紙が、東大の地震
研究所に寄せられておるのでございます。ことに地球上数千の火山のうち、わが国唯一のヴオルカノ型噴火山といたしまして、浅間山の占むる火山学上の地位は地位は非常に高いのであります。噴火の予知を観測するこの
研究所の地位は、ひとり学術上のみでなく、人間の生命あるいは財産の防衛のためにも、この応用面に大いに寄与しておることは、先ほども申した
通りであります。
私は学術尊重の立場に立
つて、浅間火山の全
地域を一つの大きな自然の実験場として、真理探究に一生を捧げる学者の苦心と、その業績につきまして、外務
大臣、文部
大臣、
大蔵大臣その他の
関係の閣僚並びに同僚の
委員各位に訴えたいと存じますので、はなはだ恐縮でありますが、二、三分の間特にこの問題について述べることのお許しをいただきたいと思います。
たゆまざる二十年間の科学的
研究の結果わかつたことは、浅間山の噴火の前には、山の一部がふくれるのであります。つまり傾斜現象が生ずるのであります。もちろん肉眼で見得るふくれ方ではなくして、敏感精密な傾斜測定機の観測によ
つて測定されるのでありますが、このふくれ方と噴火との間に密接な
関係が存在することが、多年の
研究の結果わか
つて参
つたのであります。また最近に
なつて、爆発に先だちまして、多数の地震及び鳴動が伴うことが明らかになりました。すなわち噴火の前には、五万倍の機械でなければわからないところの非常に小さな微震があることがわかり、かかる小さな地震の観測を四六時中続けておるのであります。かくして火山の爆発前に地殻の中でいかなる変化が起るか、いかなるからくりが地底の中に行われておるか、地殼の祕密はだんだんとわか
つて来つつあるのであります。これはいまだ世界のどこの火山でもわか
つていないところでありまして、わが国の学者たちの血のにじむ勝利の栄冠であります。しかも火山の現象と地震の現象とは非常に似ているのだそうでありまして、地震の原因は学術上にはいまだわか
つておりません。浅間山の
研究はこれを突きとめる上に有力な
資料になるだろうと、世界の学界で浅間の
研究に大いに期待いたしておるのでございます。
こうした観測をやるために、浅間山中には非常にたくさんの施設があるのであります。ふくれ方をはかるためにベンチ・マークという小さな標識が全山に配置され、兵隊さんの足蹴を許さないのであります。数量的に爆発現象をとらえるために、火山の鳴動音及び爆発音を記録する機械、もちろん兵隊さんが、から鉄砲にしろ、ズドンズドンとやつたんでは、本物の鳴動音とまじ
つて、記録は学問的に全然無価値に
なつてしまうのであります。全山に十五箇所の五万倍という
ような倍率の高い敏感な地震計を置いて、これを地べたをはわした電線で一箇所に集めて、微小な火山地震を観測しているのでありますが、算を乱し、地響きを立てて、兵隊さんが演習行動を行う場合には、しろうとが
考えましても、その記録はめちやめちやに
なつてしまい、電線はずたずたに切れてしまうことは想像にかたくないのであります。
それから地磁気、すなわち地球の磁気を観測するためにいろいろな施設があります。鉄分のものは、この地磁気の機械にびりびりと感ずることは当然であります。従いまして、兵隊さんが鉄砲をかついで行く等のことがもちろん大禁物であることは言うまでもありません。全山に張りめぐらされたこれら施設の中で、もろもろの観測にじやまにならぬ
ように、薄氷を踏む思いの
小笠原流の兵隊さんの演習などというものは、およそ想像することもできないのであります。実際を申すと、登山者の登山にも若干支障がありますので、今回文部省の学術局では、要所要所に立入り禁止の標識を立て、また長野県では、登山道の道筋の変更を行うとともに、登山者にも学術
研究のじやまにならぬ
ように自粛してもらう手はずが整
つている
ような次第であります。以上によ
つて明らかなことく、浅間山問題は一般基地問題とは全然別個な、学問と演習とがはたして両立するかどうかという特別なケ
ースであると私は
考えております。すなわち今や浅間山問題は、世界の学界注視のもとに、文化国家たる
日本がはたして学術を重しとするか、アメリカ陸軍が世界に誇る浅間の科学的地位を尊重するか、あるいは軍靴でこれを蹂躙してはばからぬかどうか、世界の良識ある人々に提出すべき答案を書かねばならない現
段階にあると私は
考えるものであります。
政府は現在学術尊重の立場で日米合同
委員会に臨んでおらるることは私も
承知いたしております。さらにこの立場を堅持いたしまして、一歩も譲らぬ覚悟で、優秀なる答案を書いていただきたいと思いますが、岡崎外相の心組みと御
方針とをこの際伺
つておきたいと存ずる次第であります。
〔
西村(直)
委員長代理退席、
委員長着席〕