○穗積七郎君 私は、ただいま
報告のありました、いわゆるMSA協定に関しまして、
日本社会党を代表して簡潔に質問をいたしたいと存ずる次第であります。
質問の要旨は、一つは、MSA協定に関しまして
政府のとらんとする政策上の諸問題についてであります。もう一つは、この協定と関連いたしまして、平和
憲法との関連における
法律上の疑義についてであります。政策上の
根本問題につきましては、内閣を代表いたしまして、まず緒方副総理にお尋ね申し上げたいと存じます。
およそ条約または
法律の利害得失を判断いたしますためには、その背後の政治的、経済的諸
関係をながめなければならないことは言うまでもありません。今回のMSAのそのよ
つて立
つておるとこらの
根本的性格は、まず第一に、共産主義諸国に対抗するものである。しかも、その対抗の政策を、武力によ
つてこれを行わんとするというのが、その
根本的特徴であります。最近アメリカの共産主義陣営に対しまする政策は、資本と武力によりまして、しかも挑戦的にこれにいどみかからんとする政策をと
つておるのでありますが、このような政策は、すでにわれわれ
日本人が過去の
歴史において失敗の経験をいたしたところであります。(
拍手)反面、ソ連の政策は、いわゆる平和政策によりまして、そのねらわんとするところは、資本主義諸国の経済的な行き詰まりと破綻を待ち、その
国民生活の不安定と思想の動揺をも
つて、その浸透政策を遂行せんとするものであります。この米ソ二つの政策の対比の上に、われわれが判断いたしますならば、まさに今再軍備による独占資本を強化し、
国民生活を破綻に導こうとするMSA協定に伴う政策をとらんとすることは、共産主義を防がんとしてみずから共産主義化への最短距離の道を選ぶものであると、われわれは断ぜざるを得ないのでありますが、緒方副総理の忌憚のない御信念を承りたい。(
拍手)
欧州諸国をごらんにな
つて、どうでありますか。
終戦以来アメリカの経済援助を受け、あるいはMSAによります武力援助を受けたこれらの国々が、アメリカから金はと
つておりますが、アメリカの政策に対しまして強い批判と反抗の態度をと
つておるではありませんか。これまさに、アメリカの資本と武力を過信いたしました古い外交政策に対する反抗と言わずして何でありましようか。(
拍手)しかも、われわれが今日立
つておりまするアジアの情勢をながめますならば、大東亜
戦争の落し子として、アジア民族の間に、民族の解放と、独立と平和を愛好する運動がほうはいとして燃え上りつつあるのであります。この運動が、緒方副総理の目にも耳にも入らないのでありましようか。あの前の
戦争当時に、もし
日本の
国内にささやかながら進歩的善意があつたといたしますならば、英、米、仏、オランダの帝国主義支配からアジアを解放し、それらの国々が、搾取、被搾取によらざる、ほんとうの共和社会をつくろうと念願するものでありました。今日ここにおられる緒方副総理並びにこちらにおられる木村長官にいたしましても、みずからそういう善意著たることを信じ、その政策を遂行するためには、
日本の古い資本主義的政策をも
つてしては、とうていこれを行うことができないという革新的な態度を表明されていたはずである。その緒方、木村両
国務大臣が、今日、さきには通商条約を結んでアメリカの経済的な植民地化を許さんとし、今またMSAによりまする武力協定を結んで、
日本をアメリカの軍事的な植民地化せんとするその所存は、われわれの了解することのできないところであります、(
拍手)一体、国士をも
つて誇る緒方、木村両
国務大臣が、今日アメリカと、
国内の軍事産業の家来とな
つて、なぜこのような危険を
日本に導かんとするものであるか、その所見をお尋ねいたしたい。(
拍手)願わくば、自由党を含みまする緒方副総理におかれましても、今からでもおそくありませんから、このMSAの立
つておりまする国際政治の動向をはつきり認識されまして、何とぞ思いを翻していただきたいと思うが、その御意思がありやなきや、その御所信を承りたいと思うのであります。
次に、MSA協定の交渉の衝に当
つておられる岡崎
国務大臣に具体的な質問を申し上げたいと思います。もとより、MSA協定の問題の焦点は、一つは、これを受けることによ
つて、われわれがいかなる義務を負うかということであります。もう一つは、それを受けることによ
つて、われわれがいかなる経済的利益を受けるかという二点にあると存じます。
まず第一に、軍事的義務の問題につきまして、岡崎外相は、当初今
国会におきまして、安保条約以上の義務を負うものではないということを再々言われたのでありますが、その後MSA交渉の進むに
従つて、協定の条文に書く書かぬは別といたしまして、それ以上の、第一に兵力漸増の義務を負うことになるのであります。続いて、侵略
戦争に対しまして、これを防衛するものはアメリカの軍隊であり、
日本の保安隊その他の実力組織は
国内の治安を守るものに限るということを再々言われたにかかわらず、今日になりますと、これに対しまして、われわれは自衛
戦争を行うことができ、行うことが条約に義務づけられないが、われわれの自主的判断によ
つて、アメリカ側からこれは許されるであろうという考えを明らかにされたのであります。今日の中間
報告を承りましても、この軍事的義務の問題に対して、何ら新しい明確な御
報告がございません。
日本側は、交渉にあた
つて、
国民を欺瞞するために、
日本の自衛力は経済的安定が第一であるということを主張した。それに対するアメリカ側の口上書の返答の焦点はどこにあるかといえば、MSA五百十一条の(a)項に規定する義務はすべて
日本が負わなければならぬという点と、もう一つは、国際連合の憲章を引きまして、「個別的または集団的自衛の固有の権利」を強く主張しておるのであります。このことは、
日本の平和
憲法を顧慮いたしましたアメリカ側といたしましては、軍隊という名を使い、あるいは防衛
戦争という言葉を使わないまでも、常に伏線として主張しておる二点である。そうでありますならば、アメリカの政策として当然考えられますものは、MSAの協定に続いて来るものは、太平洋
地域におきます軍事同盟協定以来の何ものでもないと存ずるのであります。(
拍手)そのための伏線が、この五百十一条の(a)項の義務の強調であり、あるいは集団的自衛の固有の権利の主張であるのであります。岡崎
国務大臣がもし外務省の一属吏であるといたしますならば、向うから具体的交渉のないことに対しまして、これを論ずることはしなくてもよいでありましようが、いやしくも
日本の将来の運命を担当する外務
大臣として考えるならば、こういうアメリカ側の政治的意図を見破らずしてMSA協定を結ぶということは言語道断であり、
日本の将来の
国民に対する無責任はぬぐうことはできないのであります。(
拍手)その点について見解を明らかにしていただ寒い。われわれの疑問と不安に対し、何ら心配がないという確証を、今まで交渉の過程において御
報告がございませんでした。今日もありませんでした。これを明確にしていただきたいと思うのであります。
次に、経済上の利益の問題でございます。これは、外務
委員会におきましても、幾たびか、早くからその経済的利益の計算をわれわれ票誓いうことを言うたのでありますが、今日に至るまで、何ら、これを示していない。これを無視し、この計算なくしてMSAの協定を受けるかどうかという判断をすることは、とうてい考えられないところでありますので、これを受けんとされるならば、まず先の軍事的義務がないという保証を示すとともに、一方においては経済的利益がどれだけあるかということを、数字をも
つて明確に示すべきであると私は信ずるものであります。(
拍手)特に、この休会中にどんどんと進められるであろうところのMSA交渉にあた
つて、われわれは議会の良識と責任をも
つて、この際この席上において、明らかに経済的利益の計算を示していただきたいというのである。もとより、今後の見通しでありますから、概算でけつこうであります。ところが、今まで明らかになりましたところは、アメリカ側の経済的援助があるということを盛んに言いながら、実は防衛資材の援助、これはもとより多く完成武器であろうと思いますが、もう一つは、訓練による軍事的援助以外の何ものも、具体的にはわれわれに約束されることができないではないか。このようなことでMSA協定を受けることはできない。
さらに域外買付の問題に対しましても、域外買付という言葉はあるが、一体具体的にどれだけを見込んでおられるか、はつきり伺
つていないのでありす。ここでわれわれが、はなはだずさんでありますが、概算してみますならば、もしMSA援助を受けない場合の想定に立
つて見ましても、朝鮮の駐兵によるもの、これは当面継続されるものと考えられますから、おそらくは、それによりまして、前年度の半分としまして一億五千万ドルの
日本に対する買付が考えられる。朝鮮復興のためのものは、五千万ドルは計算として見ることができると思います。それから、安全
保障条約分担金一億五千万ドル、駐留軍の個人的消費二億ドル見当を計算してみますと、合計して約五億五千万ドルになります。さらに域外買付の分でありますが、これは
日本がMSAを受けない場合におきましても、アメリカが今日のアジアにおける
立場といたしまして、
日本を放棄し得ない
立場に立ちますならば、おそらくは一億五千万ドルから二億ドルの買付はございましよう。そういたしますと、七億五千万ドルの国際収支における受取り勘定は、MSA援助を受けずとも推測することができる。ところが、一方、これを受けましたといたしましても、おそらくは、さきに述べました軍事的援助を――消極的なる利益でありますが、これが一億ドルないしば山高見積
つて一億二千万ドル、これくらいであります。ところが、二十九年度にはおそらく二億数千万ドル、三十年度には五億ドル近くになると岡崎
国務大臣は答えられるかもしれません。その当時になりますれば、駐留軍の消費は一方において減少いたします。かくのごとくして、われわれが概算してみますならば、巨大な軍事的義務を負い、あるいは経済的な植民地化の危険を冒しながら、受けんとする経済的利益というものは、国際収支の上におきまして、ひいき目に見ましても一億ドル前後しか見積りができないのであります。このような
状態に対しまして、岡崎
国務大臣の正確なる見積りをお示しいただきたいと思うのであります。
さらに、この経済的利益につきましては先ほど来お話がありましたが、中共並びに東南アジア
地域との貿易問題であります。ペルーが先般結びましたMSA協定によりますと、両国の
政府は西半球の安全を脅かす諸国との貿易制限
措置を相協力して講ずるという意味の条文がございます。これは、ペルーに限らず、その他の国との条約の中にも散見することができますが、幾たびかこの問題に対して今まで岡崎
国務大臣に御質問したが、なおかつ今日といえどもこれに明確なる答えをしていただいておらぬ。これに対しまして、はたして言方ごとく、中共貿易がアメリカとの協議なくして自由にすることができるという明確なる答弁をしていただきたいのであります。しかも、先般この本
会議におきまして中共貿易促進
決議をいたし、岡崎
国務大臣は、少くとも西欧並にこれを推進することを約束された。この間に立
つて、いかにこれを
処理されるつもりであるか、岡崎外相の所信と将来への見通しについて、責任ある答弁をお願いいたしたいのであります。
先般も再々論ぜられましたところでありますが、すでに
日本の吉田
政府が台湾政権を承認いたしまして、共産主義諸国を相手にせずという声明を出しましたときに、か
つての近衛の蒋介石を相手にせずの声明と並び称せられて、そして英国においてすら、
日本の外交は
日本の経済をみずから破滅の道に導きつつあるという批評をいたしております。この批評は、言うまでもなく共産主義諸国からの批評ではございません。この反省に立
つて明確なる答弁をしていただきたい。(
拍手)
その次に、
国内問題に関連いたしまして、先ほどお話のありました顧問団の設置に伴いまする内政干渉の危惧でございます。これは受けました援助によりまする生産
計画の
実施に対する干渉、予算編成上の干渉、軍事技術上の指導に名をかる干渉、あるいはまたその他の軍事義務を負わさしめる、これを施行するための干渉、これらのものに対して心配はないと言われましたが、はたして心配のないような確たる向うからの約束や、あるいは文書をお受取わにな
つておるかどうか、その点を明らかにしていただきたいのであります。
かくのごとくして、一括して政策上の問題をながめますならば、まさに
日本の経済的利益と防衛力の漸増の利益のために受けんとすると
政府の言
つておるMSA協定は、実はそうではなくて、
日本を隷属と
戦争への危機に導くものである、
日本経済の自立を危うくするものであります。
次に、明確にしていただきたいと思います点は、
憲法との
関係でございます。今や国際的承認のもとに、しかもその礼讃のうちにでき上りました
日本の平和
憲法が、安保条約以来、特にMSA協定を受けることによりまして、まさに破られんとする累卵の危うきに陥
つて来ているのであります。外交政策上のことにつきましては、政党幸たは個人の間におきまして意見の相違がございましようが、
法律の問題につきましては、客観的に厳粛にこれを解釈すべきでありまして、特に基本法であります
憲法においてしかりであります。特に、私はこの問題について木村長官にお尋ねいたします。木村長官は、
憲法制定当時、司法
大臣であられた。今日はこの平和
憲法を破る危険の
立場に立つ、ている保安庁長官である。一閣僚の
立場にとらわれることなしに、真摯なる
法律家として、真に
法律の尊厳を愛し、
国民の将来における遵法の精神を確立せんとされるならば、あなたの言う国士の
立場に立
つて、明確なる責任ある御答弁をお願いいたします。
およそ
憲法の解釈は、九条の字句の問題だけではございません。前文並びに法体系全体との関連において、正確に解釈をしなければならないことは言うまでもないのであります。そうしてみますならば、九条におきまして自衛軍を放棄し、あるいは自衛
戦争も完全に放棄する、いわゆる絶対平和主義の思想によ
つてこれが貫かれていることは言うまでもありません。そのことはこの
憲法の国際的な法源でありましたポツダム宣言を初めとする
日本管理方針の中にも明確にうたわれております。当時の内閣は今日の吉田内閣そのものでありますが、その吉田首相が、昭和二十一年の六月二十六日、続いて後にもまた二十四年十一月八日この本
会議におきまして、そのことを明確にいたしております。さらに、当時の
文部大臣であり、今日
法律の権威を守るべき
立場に立
つている最高裁判所の田中耕太郎氏は、当時、昭和二十一年七月十五日の
憲法審議委員会におきまして、「不正義により侵略
戦争に対してもわれわれは実力をも
つては抵抗しないことがこの
憲法の精神として」と明確に言われているのであります。ところが、二十五年に朝鮮
戦争が起きまして、あくる年のマツカーサーの声明以来これをバツク、ボーンといたしまして、
日本の吉田内閣は、次々に自衛権あるいは自衛軍、あるいは自衛的な戦闘行為を認める拡大解釈を、か
つてに、不当にいたして今日に至
つております。かくのごときとは、われわれは断じて許すことができない。
日本の
憲法の尊厳がこれを許しません。
そこで、私は木村
大臣にお尋ねいたしますが、先ほどのような軍事的援助を中心とするMSAの
法律そのものの性格が、すでに
憲法の精神と相反するものである、まつたく対立するものであると私は理解いたしますが、木村
国務大臣の
法律家としての御所見を承りたい。ところが、あるいは自衛
戦争を認め、または自衛軍を存置することができる、それは
憲法を歌正せずしてできるというようなことを、木村司法
大臣にして、なおかつ談話をも
つて言
つておられるが、われわれは、当時の司法
大臣のために惜しみ、心外とするものでございます。もし自衛
戦争の権限があるといたしまするならば、
憲法のどこかに宣戦の布告と統帥権の問題が規定されていなければならないはずであります。