○佐々木盛雄君 ただいま上程されました
岡崎外務大臣不信任決議案に対しまして、私は自由党を代表いたしまして反対の討論を行わんとするものであります。
まず、本不信任案
提出の
理由といたしまして、
提出者は
岡崎外交の
秘密独善性をあげております。もとより、われわれは、
国民の権利
義務に連なる条約や協定を
国会に諮ることなく、
秘密のうちに締結をいたしますようなことは断じて許し得ないのであります。たとえば、
アメリカにおきましても、いわゆるヤルタ
秘密協定に対して、共和党が猛烈なる反対を示しましたごときは、ともに国政担当の任に当るわれわれ国
会議員といたしまして、大いに共鳴、同感を覚えるものであります。しかしながら、
外交交渉におきましては、その交渉の過程において、その内容を一々残さず詳細に報告し公開するが、ごときことは、国際信義の上からも、またその交渉の円満なる妥結をはかる上からも、最も慎まなければならないところであります。(
拍手)ゆえに、この意味におきまする限りにおきましては、
外交の
秘密ばその性質上絶対に厳守すべきことは国際
外交の常識でございます。もちろん、相手国におきまして異存のなき場合におきましては、随時交渉の内容、経過等につきまして公表することは最も望ましいことでありまして、最近のMSAに関する対米交渉につきましても、政府は、まだ交渉の始まらない前から、問題の所在及びこれに対する政府の考え方をしばじば
国会特に外務
委員会において
説明し来り、また
国会で表明されました疑念につきましては、
アメリカ側との間に特に文書を交換いたしまして彼我の見解を明確にし、これをただちに公表いたしておりますることは、御
承知の通りでございます。(
拍手)かくのごとき政府の態度は、決して
秘密独善どころか、いな、ガラス張りの公開
外交と言うべきであります。(
拍手)民主
政治のもとにおける
外交の新しき方式といたしまして、まことに好ましき先例をつくつたものと言うべきであります。(
拍手)
次に、提案者は、
岡崎外相が
国会解散中のいわゆる
選挙管理
内閣におきまして日米
通商航海条約に調印を与えたことを非難いたしております。元来、この条約は、すでに一昨年末以来、日米両国間におきまして交渉が継続せられておつたのでありまして、本年二月下旬に
至り、わが方の主張を十分に取入れ、かつ両国間に完全に意見の一致を見ましたので、三月下旬に署名調印を行う予定とな
つておりましたところ、時たまたま野党
提出の
内閣不信任案の通過によりまして、
衆議院解散という予想せざる新事態が発生いたしましたので、やむを得ず予定通り調印を行い、本
国会においてこれが批准に対する承認が求められ、先日の本
会議におきまして承認されましたことは、御
承知の通りであります。(
拍手)もちろん、本条約の効力発生の前提
条件となるべき批准の交換は
国会の承認をま
つて行われるものでありまするから、決して
国会無視というごとき議論は成り立ち得ないのであります。特に本条約は、
アメリカ上院の慣習によりまして、すでに調印を了しておりまする
アメリカと他の各国との通商条約を一括審議せられまする関係上、もし上院の会期中に間に合わないときは、一年間以上も批准ができないことになり、日米間の通商経済関係は依然として無条約のままに取残されることになり、これによる損害がまことに甚大なるものがありますことは、先日の本議場において私が指摘した通りであります。(
拍手)すなわち、政府は、かくのごとき関係等を十分考慮いたしまして、急速調印を行うの必要に迫られたのでありまして、少しくこの間の事情に通ずる者にとりましては、政府の措置はまことに時宜に適したものと言わなければなりません。(
拍手)
次に、提案者は、
岡崎外交をも
つて向
米一辺倒なりと攻撃をいたしておるのであります。そもそも、わが国と
アメリカとの関係は、たとい軍閥指導者によ
つて誤れる
戦争に巻き込まれ、数年間の不幸なる間隙はあつたとしても、すでに百年有余の長きにわたる親善友好の歴史を持
つておりまして、ことに
アメリカはへ
日本独立の基礎を築くべき平和条約の締結に関しましては、並々ならぬ努力を傾け、また無防備
日本の危険に対しましては、安全保障条約の締結によ
つて、わが国の平和と安全の確保を保障し、さらに敗戦後の経済
回復のためには特質的
援助の数々を与え、も
つて日本経済の自立達成に莫大なる寄与をなしましたことは、何人もこれを留めるに異存のないところであります。(
拍手)従いまして、日米両国間の
政治、経済、文化各般の関係が、その他の諸
外国に比して一段の緊密度を加えていることはもちろんであります。いわんや、いまなお
日本との
講和締結を拒否し、今も
つて国際法上
日本と
戦争状態にあるソ連並びにその衛星陣営とわが国との関係に比べますれば、その国際関係の緊密なことは、まさに天地霄壌の差があることはもとより当然と言わなければなりません。(
拍手)次に、提案者は、
岡崎外交は中共貿易に対して熱意を示していないとのことでございます。もとより、われわれは、たとい今日の中共がいかなる
政治形態の上に立つといたしましても、か
つての善隣であつた大陸との緊密なる経済提携につきましては、かわらざる友好親善の手を差延べんとするものでありまして、本院におきましても、中共貿易促進に関する
決議案が成立した次第であります。政府といたしましても、中共との平和的貿易の拡大に努力して参りましたことは、たとえば今年一月より三月までのわが国の中共貿易が、昨年の同期に比して、輸出入とも二倍以上に増加しております実績に徴しても明らかなところであります。しかも、三月以降、中共貿易は逐次拡大の一途をたど
つておるのであります。
岡崎外相は、本
国会におきましても、朝鮮休戦成立後の情勢の変化に応じて、中共貿易について、決して他の
西欧諸国に立ち遅れることのないように、積極的施策をとるため十分なる準備がある旨を述べておるのであります。しかし、国際連合の一員として、自由
諸国家との提携をわが
外交政策の基調といたしておりまする
日本といたしましては、現に国際連合が、中共を
侵略国と断定し、これとの貿易に関する制限を決議いたしておりまする関係もまた十分に考慮に入れなければなりません。
従つて、この国際連合との協力関係を全然無視して、中共貿易一辺倒に走らんとするがごときことは、とうてい識者の認め得ざるところであります。(
拍手)
さらにまた、提案者は、内灘の問題等に対する
岡崎外相の措置を非難いたしております。最近、内灘問題その他駐留軍に提供すべき施設及び区域につきまして、関係地元民初め各方面の反対の声が高ま
つて参りましたので、われわれも、外務
委員会におきましても、参考人の出席を求め、種々意見を聴取する等の措置をと
つておる次第でありまして、地元民の切実なる反対の
理由につきましては、まことに同情を禁じ得ないのであります。しかしながら、一昨年四月、
日米安全保障条約に伴
つて締結されました
行政協定により、
日本の安全保障のため、
アメリカ軍の駐留を認めまするとともに、これに必要なる施設及び区域は、条約上の
義務としてこれを提供しなければならないことにな
つておるのであります。よ
つて、政府といたしましては、なるべく
国有地の使用をこれに充て、民有地の使用は極力最小限度に食いとめまして、地元民に及ぼす悪影響を少くすることに努めておるわけでありますが、しかし、しよせんは、いずれかの区域はその犠牲となるのほかはないのであります。もとより、やむを得ずその指定を受け、損害をこうむります土地の関係者に対しましては、損失の補償等について、法令の許す範囲において最大限の考慮を払
つておるわけであります。土地、海面等の提供は、多くの場合地元で歓迎されないのは当然でありますが、少くとも現在まで、内灘等のごとく特殊な例を除きましては、いずれも地元民と話合いの上、円満に実施されておる実情であります。われわれは、これが犠牲となりました地元民に対しましては心から同情をささげるものでありますが、一面彼らの純真なる叫びの背後にありまして、これをことさらに反米運動の政争の具に供しつつあるものの存在することもまた万人の認めるところでありまして、まことに遺憾千万に思うのであります。(
拍手)
さらにまた、提案者は、
岡崎外相は、
MSA交渉に関連して、
憲法を無視して保安隊を
自衛軍に切りかえる意向を表明したと非難いたしております。言うまでもなく、
憲法第九条は、その前段において、
国際紛争解決の手段としての
戦争を放棄したものであり、その後段において戦力の
保持を放棄いたしたものであります。およそ
国際紛争が発生いたしました場合におきましては、第三国の調停あるいは国際裁判または
外交交渉によりまして、平和的手段によ
つて解決をはかるのが常道でありますから、これを
武力に訴えるというのは、おおむね国力伸張のための
侵略戦争の場合であります。
憲法はそのような
侵略戦争や戦力を放棄したものでありまして、戦力に至らざる限りにおいて一わが国の
自衛態勢を漸次強化せんとするのが、
岡崎外相のみならず、わが自由党のかわらざる政策であります。(
拍手)もとより、
自衛力の増強は、すでに
日米安全保障条約によ
つてアメリカ側から期待されておりましたものが、MSAを受けることによ
つて日本に
義務づけられて行くべき方向にあることは当然でございます。しかし、戦力の
保持は
日本憲法の禁ずるところでございますから、MSAも決して
憲法の禁ずる戦力の
保持を
日本に
義務づけんとするものではありません。しかしながら、MSAの協定のいかんにかかわらず、今日
日本の周辺が有史未曽有の脅威の前にさらされておりますとき、光栄ある祖国を外敵の
侵略から守り抜かんとするわれわれが、
憲法の許す限り、戦力に至らざる範囲の防衛態勢の確立を念願いたしまするは、けだし
日本民族の切実なる悲願であろうと信ずるのであります。
岡崎外相はしばしばこの旨の反復
説明したものでありまして、これは自由党の一貫せる態度の上に立つものでありまして、
憲法違反の言動はその片鱗とても発見することができないのであります。
岡崎君は、昨年四月外務大臣に就任以来一年数箇月、サンフランシスコの平和条約効力発生後の
独立日本の困難なる
外交を担当し、この間におきまして実に五十七箇国との国交を
回復したのでありまして、今や
国民待望の
行政協定の改訂を初め、国運民命を決定すべき
外交問題が山積いたしておりますときに際し、われわれが
国会におきまして外務大臣に不信任の焼印を押しつけますことは、単に
岡崎君個人の
政治的
責任の問題ではなく、
日本と諸
外国との国際関係にきわめて悪影響のあることは申すまでもございません。今日いうところの
岡崎外交なるものは、決して
岡崎君個人の
外交方針ではなく、わが自由党
吉田内閣の基本政策の上に展開されるものでありますることは、
国民のひとしく認めておるところであります。
従つて、
岡崎外相に対する不信任は、そのまま
吉田内閣に対する不信任に通ずるものであります。(「その通り」
拍手、笑声)よ
つて、提案者にもしも
政治的良識と一片の勇気がありまするならば、
国会解散覚悟の上で、
吉田内閣そのものに対する不信任案を
提出すべきものと考えるのであります。(
拍手)
外交問題は絶対に政争の具に供すべきでないとの
国家的見地に立ちまして、
世界の各国はいわゆる超党派
外交を強力に展開をいたしております。われわれは、祖国再建の大業を進んで分担するとともに、八千万
国民の終奮起を期待いたしておりまするとき、かくのごとき卑怯にして理不尽きわまる、あげ足とり的旧態依然たる
政治的謀略が、必ずや良識ある
国民の審判の前に強く糾弾されるであろうことを確信いたしまして、私は
岡崎外相の不信任案に対しまして断固反対の意を表明して、私の討論を終る次第であります。(
拍手)