○永井勝次郎君 私は、
日本社会党を代表しまして、ただいま
議題とな
つております
武器等製造法案に対し
反対をいたすものであります。
朝鮮休戦の調印がまとまり、世界の各地における紛争も局地的な動きに集約せられ、緊迫した世界情勢は漸次緩和の方向に動き出しておるように思われます。主要各国は軍備拡張の競争から輸出貿易の経済競争に転換、市場争奪の闘いようやく高まろうとしておるとき、
わが国のみは、世界の動向に逆行して軍備を強化し、武器生産に狂奔しようとしておるのであります。この道ば、
わが国の独立を強化し、民族の自立を期待し得るコースではありません。軍備はアメリカの傭兵であり、武器生産は労働者の奴隷的低賃金による犠牲の強制であります。そのために、
わが国の産業構造は平和的性格から軍事的性格に変質せられ、貿易市場からは後退し、ドルの
わが国経済支配は強化せられ、アメリカ隷属化を強める方向に転落する道であります。わが民族の独立、国民
生活の安定、平和擁護の立場から、われわれの断じて許し得ないところであります。
本
法案に対する
反対理由の第一は、
憲法違反の点についてであります。御
承知の通り、新
憲法の前文には戦争放棄が宣言されており、第九条第二項には「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。」とあります。法学協会等の解釈によりましても、軍用機、海軍艦艇、兵器弾薬等の製造工業は戦力の
範囲に含まれるとされておるのであります。さらに、顕在的なものだけではなく、一たび戦争が起つた場合、ただちに戦争に用いることができるような潜在的なものも、すべて戦力に含まれると解されておるのであります。もし自衛のための軍備は戦力でないというならば、
憲法前文の宣言も、第九条の
規定も必要としないでありましよう。そのかわり、自衛軍における少くも統帥に関する
規定、兵制、宣戦、講和、徴兵制等に関する
規定は、当然加えられなければならないはずでありますが、何らの
規定がないのであります。保安隊武器生産、MSAの受諾は明らかに
憲法違反でありまして、
政府の
憲法違反に対する責任はきわめて重大であると言わなければならぬのであります。
反対の
理由の第二は、本
法案の欺瞞性についてであります。条文中の重要な諸点は、ほとんど政令で定める、省令によると逃げておりまして、ことさらに具体的な表現を避けております。たとえば、第二条の武器の定義は、一から六までを
規定しておるのでありますが、具体的なものは、銃砲、銃砲弾、爆発物の三つだけで、他は政令で定めることとな
つておるのであります。その五には、「前各号に掲げる物に類する機械器具であ
つて、政令で定めるもの」とありまして、政令によ
つて戦車を指定しようといたしておるのであります。しかるに、第二条第一項は武器を定義し、第二項にはこれに並べて「猟銃等」として、猟銃、捕鯨砲、もり銃、屠殺銃を仰々しく書き上げておるのであります。表看板には猟銃や銃砲や原始的武器を帯しておいて、裏口の政令で戦車や航空機や艦艇や近代兵器を逐次追加指定して行こうとするごまかしが、はつきりうかがわれるのであります。
また、第三条以下には、武器製造
事業の
許可制を定めてありますが、
許可の基準は省令に譲られてお
つて、はつきりといたしておりません。二軍投資、過剰投資を抑制するための企業
許可であるということでありますが、遊休の施設と技術を活用するという建前をとる限り、必然的に旧財閥系資本家中心の工場復元となることは言をまたないのであります。あるいは旧軍工廠跡の払下げないしは貸下げを合理化しようとする口実となる以外の何ものでもないのであります。財閥産業の独占が確立され、中小企業ばその傘下の系列の中で手きびしく支配されるに至るべきは想像にかたくないところであり、企業
許可制は独占資本の安定をはかるためのみの効用であると断じても過言ではないと信ずるのであります。
さらにまた、
政府は、武器生産を輸出産業として安定させたいと言
つているのでありますが、計画の立たない外国発注にすが
つて安定できる
条件はどこにもありません。百も
承知の上のごまかし口上にすぎないのであります。さしあた
つてはMSAをつなぎ資金としてかせぎ、保安隊、海上警備隊の漸増につれて国内発注に切りかえ、国の計画と助成にま
つて利潤の安定を予定している二とば明らかであります。MSA資金の域外発注分はどのくらいかわからないようでありますが、現在までの米発注武器は年間五千万ドル内外にすぎません。本度年、国内保安隊、警備隊の発注分は、飛行機、ヘリコプター、戦車、艦艇等を含めますと概算五百億に上り、企業の比重はすでに保安庁に傾きつつあることを実証しているのであります。武器産業は、アメリカのようなところでも、国防生産法によ
つて原材料、生産設備、製品売却、損失補償、融資あつせんなどを初め、税法上においても加速減価償却制による
短期の減価償却が認められるなど、助成政策がとられておるのであります。企業
許可制によ
つて財閥産業の独占を確立した後における国家助成の政策は、今から予見し得らるるところでありまして、
自由党内閣と財閥、旧軍閥の提携による再軍備前進、それによる平和産業と国民
生活の重圧を考えますとき、われわれは断じてこの欺瞞を許してはならぬと思うのであります。
反対理由の第三は、出血受注対策についてであります。本
法案においては、契約の届出制、不当価格受注への戒告によ
つて出血受注の対策としておるのであります。問題はそんな上つらなところにあるのではありません。発注は日米安全保障条約、日米行政協定に基く米陸軍調弁規約の直接調達であり、価格改訂条項、契約再商議法等、米国内法の適用であり、米国式商慣習の一方的強制であり、あるいは職場における
日本の労働者の基本的
人権が守られていないという事実、あるいは入札検査等にあたり米側ば必ずしも公正なる処置をとるとは限らぬという事例等、いろいろ枚挙にいとまなき原因の錯綜しておることを見のがしてはならないのであります。要するに、アメリカ隷属下の
わが国産業の哀れなる姿の
実態であ
つて、これが対策は、アメリカ一辺倒の外交政策の転換以外にはありません。アメリカの
わが国植民地化政策の払拭以外にはないのでありまして、腹をすえてかからねばならぬ問題であると確信いたすのであります。
今日、われわれ国民の切実なる願いは、
日本の完全独立であり、平和であり、
生活安定であります。
政府はこの民族の願望をにな
つて最大の努力を払うべきにもかかわらず、
自由党吉田内閣は、外、アメリカに奉仕して
わが国の植民地化を結果せしめ、内、独占資本に奉仕して大衆を搾取し、国民に耐乏
生活を強制しようとしておるのであります。英国などでさえ、自国経済からドル支配を排除し、完全独立を確保するため、軍備を縮小し、平和産業に転換し、自給体制を整えて、
海外市場の獲得に懸命の努力をしておるのであります。こういう情勢の中で、
わが国だけは逆に、MSAにすが
つて傭兵軍備の増強を請負い、武器生産に力を入れて、日中貿易はもとより、輸出市場から後退を余儀なくされる始末に至
つておるのであります。経団連は、みずから米国と折衝し、防衛生産
委員会をつくり、旧軍人がここにたむろして、戦力増強の一役を買
つておるのであります。米国の
議会においては、本年三月十一日以来、
日本の軍備の問題について検討が続けられております。ダレス国務長官、ナツシユ国防次官補、ウツド米相互安全保障本部副長官、アジア局長ヤング氏、オルムステツド将軍の発言を総合すれば、
日本の再軍備は
日本の義務である、
日本国民に制服を着せ、防空陣地につくよう訓練すれば、米国は
日本から引揚げてよい、
日本と米国は運命は
一つである、中共はやつつけねばならぬというのでありまして、こういう討議を背景として現われて来たMSAであり、再軍備であり、武器生産であります。
われわれは、われわれの独立と平和と
生活を守るために、われわれ民族の血をいけにえにせんとするこの
法案に対し、断固
反対を表明するものであります。(
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