○春日一幸君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま上程されました、世にいう
独占禁止法の
改正につきまして、次の諸点につき
政府並びに
公正取引委員会に対し
質問をいたすものであります。
か
つて、
わが国経済は一部の財閥によ
つて独占せられ、その富は、大衆の貧困を外に、これら財閥と、これにつながる一群の権力者によ
つて壟断せられておつたのであります。
利潤の追求と所有の拡大のため負埜飽くを知らざるこの財閥は、やがて軍の帝国主義と合体し、逐次侵略戦争を巻き起し、
かくて祖国と民族をあの奈落にけ落したのでありますが、このことは、放漫野放図な資本主義経済が当然避け得べからざる歴史的コースであつたのであります。ここにおいて、平和的文化国家の再建を決意せるわが国は、かかる惨禍の根源を排除するために、まず戦犯的財閥を解体し、次いで
企業結合の解体、
企業相互間の経営者の重複の
禁止、その他証券保有関係の絶滅等、
経済民主化のための各般の措置を断行したのでありますが、さらに将来にわた
つてこの信条と決意を貫き、民主的経済の基盤を保障するためにここに
制定されたのが、実に
産業憲法とも称すべきこの
独占禁止法であるのであります。(
拍手)しかるところ、
吉田内閣は、今次ここに、この
経済憲法たる
独禁法に関して、
わが国経済の実態に沿わずとの独断をも
つて、ほとんどその機能を窒息せしめるほどの
改正を行わんとしておるのであります。すなわち、本
改正によ
つて、株式の保有、役員の兼任の
制限は大幅に解除されんとしております。やがて、財閥は、ここを突破口として、再び
日本経済の
独占舞台に復帰することでありましよう。さらに、
不況カルテル、
合理化カルテルの美名のもとに、
市場独占と事業
支配力の集中が復元され、
カルテル価格の一方的宣言と相まち、
かくて
利潤の収奪は資本家グループによりで強行され、しこうしてこの半面、必ずや勤労者は高物価と低賃金に再び呪縛されるに至るでありましよう。(
拍手)
かくのごときは、資本家と吉田
政府との結託による恐るベき陰謀であると断ぜざるを得ません。(
拍手)すなわち、か
つての財閥、資本家たちの復辟運動は、
独禁法の緩和というこの手法を選び、さらに吉田
政府による
占領政策是正という一連の反動逆コースに乗
つて、ここにその野望を急激に達成せんとしておるのであります。
一体、
政府は、この
独禁法が当初
制定された当時のわが
国民の決意を、もはやお忘れに
なつたのでありましようか。財閥の復元と経済の
独占的支配の危険をはらむ一切の経済行為を苛酷なまでに
禁止したこの
独禁法こそは、再びあの惨禍がわれら
国民に至らざらんことを念じて、あの敗戦の廃墟の中に端座した、われら八千万民族の鉄の誓いであつたのであります。(
拍手)従いまして、この
独禁法は、ただ単に経済行為の基準を規制するものたるにとどまらず、財閥の復元を阻止し、
企業の
独占支配を排するための民主経済不動の憲章とも称すべきものであると思うのであります。私どもは、思いを
本法制定の当時にめぐらし、誓
つて平和を守り、民主主義を保持せんとするならば、この経済憲章の
根本精神に背反するがごときいかなる
改正も、かたくこれを慎むべきであると確信するものでありますが、
政府は、この
独禁法の権威をそもそもどのようにお考えであられるか、まず
政府の根本的見解についてお伺いをいたしたいのであります。
第二の点は、
政府は、
企業が
不況に対処する自衛
手段として、現在
禁止されている
企業者の
共同行為を、いわゆる
不況カルテル、
合理化カルテルの名によ
つて、ほとんど自在に解放せんと、しているのでありますが、本
改正による
政府の真のねらいは一体何でありましよう。たとえば、
生産数量の共同
制限を許し、販売数量に
企業本位の統制を加えしめ、さらに
協定価格によ
つて企業の
利潤を
確保せんとする。かぐのごときは、明らかに
企業の営利性をあらゆるものに優先せしめ、一方、
消費者を常に不利な
立場にくぎづけするものでありまして、これによ
つて企業の公益性、社会性ははなはだしく喪失されんとしておるのでありますが、
政府は一体、
企業は
国民の福祉のために存在すべきものであると考えているのか、それともまた、
国民は
企業の
利潤のために奉仕すべきものであると考えているのか、一体どちらでありましよう。
もとより、本
改正案には、
不況カルテル容認のためのしかじかの
制限規定がありまするけれども、その
制限条項ば語るに落ちるほどの抽象文字の羅列にすぎず、それは概念的叙述にとどまるものであ
つて、たとえば、何人といえども、微妙な構成に立つ
生産費を的確に摘出したり、あるいは複雑多岐にわたる
企業の前途について正確な見通しを立てることができるでありましようか。従いまして、これら
不況カルテル、
合理化カルテルは、このもつともらしい
制限条項にはほとんど拘束されることなく、本
改正を契機として続々出現し、
企業は営利一辺倒の方角へと狂奔するに至るでありましよう。
不況カルテルは、その業種の
商品価格がその
生産費を下まわる場合というのが
認否の限界にな
つておるのでありますが、この点に関し、たとえば
公正取引委員会の横田委員長は、前
国会の三月五日の経済安定
委員会において、硫安等については、原価計算なるものは非常にあいまい、かつ、どこがほんとうのものか、なかなか把握いたしがたいものであると、現に答弁いたしておるほどのものであります。
かくのごとくあいまい模糊として捕捉しがたい
生産原価を基準とし、これによ
つて不況トラスト認容の限界を決定せんとするがごときは、これはあたかもゴムひもによ
つてものさしをつくらんとする愚策か、しからずんば、この伸縮自在なカンニングの尺度によ
つて、一部
企業者たちの現に犯しつつある
独占禁止法違反事犯を故意に合法化せんとするの政治的陰謀以外の何ものでもないと信ずるのであります。(
拍手)
現に、昨年三月来、綿紡、化繊の
企業者たちは、
通産省と結託して、
操業短縮の共同
手段を講じてその価格のつり上げをはかり、この不公正なる
手段によ
つて厖大な
利潤を獲得したことは、天下周知の事実であります。この綿紡の不公正ともおぼしき操短については、
公正取引委員会は、これを非常に遺憾として
通産省に申入れを行い、また化繊の操短については、
独禁法第四条の違反と認めたので審判を開始したことが、本年三月五日の経済安定
委員会において、これまた横田
公取委員長から明らかにされているのであります。さらに、硫安協会が本年二月発表せる硫安の一本建建値による
共同行為については、これは
独禁法第四条の対価の決定、あるいは第三条の取引
制限ということに当るわけで、この点については、硫安メーカ側からいろいろ弁解の言葉を
言つているが、いずれも
公正取引委員会は納得するに至
つていない旨、これまた横田委員長によ
つて述べられているのであります。
すなわち、これらの経緯によ
つて、われわれがおのずから判断できることは、察するところ、資本家たちは、
現行独禁法下にあ
つては、その欲するところの
利潤を
確保するのに、何かと小うるさくてしようがないので、いつそ、この際、保守政権の命のあるうちに、この
法律をすつかり骨抜きにしようとし、財閥の傀儡たる保守政権またその本領を発揮して、ここに
本法骨抜き案の
提出と
なつたものと考えるが、実際には、彼ら関係
企業者たちの本
法律案に対する要請はどのようなものであつたか、この際その状況についてお示し願いたいと思うのであります。
しこうして、この
不況カルテル、
合理化カルテルの容認は、その表面上の
理由をいかにしさいありげに表現してみたところで、しよせんは、
企業者集団による価格の安易なるつり上げの道具となるものであ
つて、その結果は、おのずから
企業の創意を鈍化させ、かつ
消費者にはその分量だけ負担を重くする結果になると思う。このことは、
独禁法第一条にいう、自由な
競争によ
つて事業者の創意を発揮させ、事業
活動を盛んにして、雇用と
国民所得の水準を高め、も
つて一般消費者の
利益を
確保するという
本法の根本義に全然背反すると思うが、
政府は、これに対し、いかなる見解を持
つているか、この機会にお示し願いたいと思うのであります。(
拍手)
さらに、この機会に横田
公取委員長に伺
つておきたいことは、綿紡の操短は遺憾として、さきに
通産省に申し入れられたとのことであるが、遺憾に感じられたのは、その
共同行為がしよせんは
独禁法に違反するからであ
つていやしくも
本法運営の信託を負う公取の委員長が、ただ何となく遺憾に感じたりするはずはない。また、違法でないならば、いかに
公取委員長といえども、その合法行為に対し、か
つてに遺憾に感ずるなど、そのようつな感傷に浸ることを
本法は許してはいないのであります。
従つて、この綿紡の
共同操短を
独占法違反の嫌疑ありとするならば、なぜに審判審決して適法の処断を行わなかつたのであるか。また化繊の操短は違反嫌疑の事犯として審判したはずであるが、本事犯は結局いかに処断したか、その経過とてんまつについて、つまびらかにいたされたいのであります。さらに、硫安協会の一本建建値は、
独禁法に違反するのか、しないのか。
公取委員会がこんな明瞭な問題に長々と思案にふけ
つていることによ
つて、この
産業憲章の権威は日増しに冒涜されているのであるが、横田
公取委員長は、これら事案の
処理を通じ、
本法第一条が指向する
一般消費者の
利益なるものは一体どのように
確保したのであるか。これらの諸点について明確なる御答弁を願いたいのであります。(
拍手)
第三の
質問は、
本法改正による
不況カルテル、
合理化カルテルの
制度化は、これによ
つて、大
企業の言うその
不況は、おそらくは完全に、かつ過分に救済されるであろうが、一方このことは、
中小企業にそれだけ圧力を増大する結果になると思うが、
政府はこれに対しいかなる
対策をお持ちでありましようか。申し上げるまでもなく、大
企業はすでにその
企業自体にみずから多分の
企業独占の要素を抱懐するものでありまして、かつその
競争相手は比較的少数であります。従いまして、大
企業が強大なる
カルテルを結成することは、きわめて容易でありまして、かつその
カルテルの効率はおのずから絶対的と申しても過言ではないのでありましよう。しかしながら、群集する
中小企業者などが結成する安定法による調整組合などは、この大
企業トラストが出現した場合、当然その重圧を受けて、その効力は喪失することは当然であります。か
つて、小笠原
国務大臣は、過ぐる第十五
国会において、
経済審議庁長官として、本
法律案の本
会議討議において、本問題に関しては次のごとく答弁をいたされております。すなわち、今度の
改正では、アウトサイダーの抑制はこれをいたしておりません、けれども、私どもは、実際上大
企業ではこれで安定をはかり得る、かように信じておる、述べられておるのであります。すなわち、本
改正案の
目的とするものは、ただ大
企業の保護であり、大
企業の安定であ
つて、
中小企業のこうむるその影響については、何ら適切なる措置が講ぜられてはいないと思うのでありますが、
政府の
中小企業救済のための施策は、
本法改正に並行して何か考えられておるのかどうか、この点についてお伺いいたしたいのであります。
第四の
質問は、
本法改正案による
再版売価格維持契約に関するものであります。
改正案によれば、
不況カルテルといい、
合理化カルテルといい、これはもつぱら
生産大
企業者のための保護
規定であります。すなわち、
生産大
企業者の経営は、これによ
つてすでにその万全が期せられておるのであります。しかるに、ここに加えて各販売段階にまで及んでその
販売価格を拘束せんとするがごときは、まことに望蜀の負欲行為そのものと断ぜざるを得ません。(
拍手)
政府にして、かりそめにも
国民生活の安定を口にしながら、いやしくもかかる
消費者の犠牲をしいる貧欲立法に組するがごときは、口頭の禅、表裏変々、まことに天下の政道は厳に
かくのごときものを排撃しておるのであります。しかのみならず、
政府は、
消費生活協同組合や各種の職員共済会、その他八幡製鉄、富士製鉄広畑工場等の購買会のごとき各種
団体の厚生
機関が、かかる規制によ
つてその機能に重大なる悪影響をこうむることについて、何ら顧慮しないのでありましようか。まことに
吉田内閣は、資本家の要請には胸を開いて一議に及ばず応諾し、勤労大衆の熱誠なる輿論には常にか
なつんぼを堅持して譲らないのであります。スト規制法といい、
本法といい、まことに
吉田内閣の
政策は、国家民族のためいよいよ深憂にたえないことばかりであります。(
拍手)小坂
労働大臣は、先日の細迫君の表現をも
つてすれば、真珠が水に沈んで行くような、ほのかな知性がほの見える御人であられるそうでありますが、ならば、
労働者の持つ厚生
機関の機能が、今や本立法によ
つて貧欲という泥濘の中に没し去られようとするのとき、これに対しいかなる救済策を講ぜられたのであるか、この際小坂
労働大臣よりその
対策について伺
つておきたいのであります。
第五の
質問は、自由党の資本主義
経済政策は今もなお
日本の実態に沿うものであるかどうか、この問題について
政府の御見解をお伺いいたしたいのであります。すなわち、本
改正案の提案
説明によれば、この
改正案は、
日本経済の
特質と実態に照し、これに適合せしめるための措置であると述べられておるのであります。そこでお伺いしたいことは、自由党の
経済政策は
自由競争を基本原理とする資本主義であり、しこうしてこの
独禁法を貫く基本精神は、またそれと軌を一つにするものであります。しかりとすれば、今ここに
独禁法の
改正案が
提出されたゆえんのものは、自由党の標擁する資本主義は、もはや
日本経済の
特質とその実態に沿わなく
なつたことを
意味するものであるかどうか。すなわち、
吉田内閣が、わが国の貧弱なる経済立地
条件のもとに、豊富なアメリカ経済の方式を実施したことは、今日
日本の経済が広汎なる
不況におおわれるに
至つた原因であ
つて、すなわちこれは、うのまねをしたからすの愚劣なる誤謬とでも解釈すべきものでありましようか。(
拍手)
もとより、社会主義計画経済を標榜するわが
日本社会党が、その
根本理念を異にするこの
独禁法を支持するゆえは、この
法律の
目的、すなわち
私的独占の
禁止と集中的経済力の排除という、この一点においてその
目的が合致するからであります。野放図で無計画な資本主義
生産は、底の浅い
日本経済においては、たちまち過剰を来し、その価格を暴落せしめ、やがてその
企業を破綻に導くは当然の帰趨であります。基礎
産業の公益的経営、
中小企業の育成発展、需要と供給との科学的基礎に基く計画
生産、今こそ、わが党の社会主義計画経済の救国
政策によらずんば、
独禁法の
改正などという、かかる末梢的反動立法をも
つてしては、
わが国経済の再建はとうてい不可能と考えるが、この点に対し、
政府は、みずからの自由放漫な資本主義経済に対し何か反省するところありやいなや、
緒方副
総理の御見解を承りたいと思うのであります。
以上数点に対し、
政府の明確なる御答弁を要求するものであります。(
拍手)
〔
国務大臣緒方竹虎君
登壇〕